三条のスマート珈琲店でプリンと珈琲を楽しんでいると、猫の「タマゴ」が足元に現れ、口にくわえた封筒を差し出してきた。
杏実さんからの手紙だ。
さらに驚いたことに、偶然にもここスマート珈琲店で書かれていて、「今度一緒に珈琲でもいかがですか?」と最後にある。
休日のモーニングコーヒーの後、私は珍しく観光地らしいところを散歩することにした。
東山の近くを歩いていると、杏実さんに伝えたい出来事に遭遇し、そのことを手紙に書こうと、「%」マークのお店、アラビカ 京都東山 に入った。
杏実さん
花粉が飛び、人によってくしゃみも様々であることに気がつくこの頃、
杏実さんはいかがお過ごしでしょうか。
今朝、スマート珈琲店で「タマゴ」と名付けた猫から手紙を受け取り、大変驚きました。
今度機会があれば、僕も猫に手紙を託してみたいと思います。
ヤサカタクシーの四つ葉のクローバー号に乗った時のこと、
いろいろおしえていただき、なんだか嬉しい気持ちです。
話は変わりますが、ついさっき、杏実さんが以前飼っていた猫の「おいも」と
知恩院近くの一本橋で会いました。
思い返してみると「おいも」と出会う時はいつも橋の近くで、
場所も少しずつ北へ行っているような気がします。
なので、杏実さんも橋の近くで偶然見かけることができるかもしれません。
珈琲のお誘いありがとうございます。私もぜひ杏実さんにお会いしたいです。
出町柳近くのカフェはいかがでしょう?
P.S.
東山のアラビカで、珈琲をのみながら。
冬野文
アラビカを出ると店の前に「タマゴ」がいる。スマート珈琲店からここまで尾行してきたらしい。
私は書いたばかりの手紙を封筒に入れ、宛先も宛名も書かずに「タマゴ」の口元に差し出してみた。「タマゴ」はそれをくわえると、そそくさと細い路地に進み、少しすると見えなくなった。
猫に手紙を託すことなど考えたこともなかったが、杏実さんに届くと信じていた。
その後、杏実さんから手紙が届くことはなかった。
(つづく)
珈琲をのみながら、手紙を書く人。第5話はこちら
作:渡辺たくみ(nidone.works)
イラスト:やまもとかれん(nidone.works)
写真:マツダ ナオキ
文(ふみ):コニシムツキ
杏実(あんみ):日下七海(安住の地)
■アラビカ京都 東山
京都市東山区星野町87-5
075-746-3669
営業時間 9:00~18:00
無休