ミックスジュースがマイブームだった大学生の頃、
その時のペンを握る文先輩の姿に憧れて、
今朝、先輩が玉子サンドを食べながら書いた手紙を読んだ。その足でかつての文先輩を見かけたスマート珈琲店に向かった。
店の前でまたあの猫と出会う。先輩から「タマゴ」という名前をつけてもらい上機嫌だ。おばけであることをいいことに、ガラスの扉をすり抜けて私の席までついてきた。
ソファに腰をかけ、迷わず自家製プリンと珈琲を注文する。スマート珈琲店のプリンは童心に帰ることができ、ごほうびをもらう時のような幸福感に包まれる。オーブンで焼いてできるちょっとした焦げ目もおいしい。かわいい器に乗せられたプリンと珈琲を眺め、私はほくほくした気持ちのまま、手紙を書き始めた。
冬野様
梅のつぼみもふくらみはじめましたね。
お返事ありがとうございます。
新入生歓迎会の日、ご心配されているようなことなどありませんでしたので、
安心してください。
それどころか一緒に乗ったタクシーは市内に数台しかない四つ葉のクローバー号で、
乗車記念のシールを先輩は「僕の分も」と渡してくださいました。
最初の手紙の封に使ったのは、その時のものです。
四つ葉のクローバー号から「あんなところに猫がいる」と先輩が指した先にいたのが、
私の知っているおばけの猫だったので、先輩にも私と同じ力があることに気づいたのです。
自分にしかおばけの猫は見えないと思っていましたので、このことについてのお話ができればとずっと思っていました。
急なお誘いにはなりますが、今度一緒に珈琲でもいかがですか?
追伸
スマート珈琲店より、珈琲をのみながら。
西本杏実
書き終えた手紙を猫柄の紙に挟み、封筒に入れたところでふと思った。
会いたいと伝えていいものか...。
元々、先輩と会って話したいという気がなかったと言えば嘘になる。しかし、手紙を出した当初の目的は、私がかつて飼っていた「おいも」についてのお礼にすぎない。
私は書いたばかりの手紙が入った封筒をテーブルの横に置き、新しい便箋を出して、どう書き直すかを考えるために少しの間、目を閉じた。
目を開けると、テーブルに置いていた封筒がなくなっている。あたりを見渡すと店の外へ出ようとガラスの扉をすり抜ける「タマゴ」の姿があった。封筒を口にした猫を追いかけ、私は慌てて店を出た。
そのまま先輩の元へと行ってしまったら、文末の「お誘い」も読まれてしまう。
しかし、「タマゴ」の姿も持ち去られた封筒も見つけることはできなかった。
(つづく)
珈琲をのみながら、手紙を書く人。第4話はこちら
作:渡辺たくみ(nidone.works)
イラスト:やまもとかれん(nidone.works)
写真:マツダ ナオキ
文(ふみ):コニシムツキ
杏実(あんみ):日下七海(安住の地)
■スマート珈琲店
京都市中京区寺町通三条上ル天性寺前町537
075-231-6547
営業時間 8:00 ~ 19:00
2Fランチタイム 11:00 ~ 14:30(L.O)
定休日 喫茶無休 ランチ火曜定休