「丹後とり貝」を知っていますか? 丹後とり貝は、初夏に料亭や寿司店などで味わうことができる、全国的に有名な高級食材です。その味わいは料理人たちからも高い評価を得ており、京都の老舗料亭の巨匠たちが集うというある料理の研鑽会でテーマ食材としても選ばれたそうです。今回は、その料理研鑽会に潜入取材して、丹後とり貝の魅力を探っていきます。
丹後とり貝って、どんな貝?
丹後とり貝は、京都府北部発祥のとり貝です。丹後の海は栄養がとても豊富で、日本有数のとり貝の漁場として知られています。しかし、天然のとり貝は年によって漁獲量が大きく変動し、なかなか手に入りにくい希少な存在。そんな中、丹後とり貝は、試行錯誤を重ねて開発した特殊な養殖技術によって、日本で初めてとり貝を安定的に供給することに成功したそうです。
「養殖」というと、人工的に餌を与えて育てるというイメージがありますが、丹後とり貝は、手間をかけて天然とり貝と同じ環境で、天然に存在する植物プランクトンを食べて育つそうです。そのため、この飼育方法を「育成」と呼んでいるとのこと。
一般的なとり貝と比べて、丹後とり貝は「大型・肉厚」であることが特徴。どのくらい大きいのかというと、上の写真の右が普通のとり貝で、左が丹後とり貝。並べてみると一目瞭然で、こんなにも大きさが違うんです! なんと、一般に流通しているとり貝のひと回り以上も大きくて肉厚なんです。
大型・肉厚な丹後とり貝は、シャワシャワとした歯切れの良さと、やわらかい食感、そして噛むと口の中に広がる上品な甘さが印象的。料理人たちからも高い評価を受けており、2008年には水産物として初めて「京のブランド産品」にも認定されています。
透き通った栄養たっぷりの丹後の海で、手間をかけて丁寧に育てられるからこそ、大きくて歯ごたえの良いとり貝に成長するんですね。
「丹後とり貝」が料理人たちの研鑽会のテーマに
そんな丹後とり貝が、京都の一流料理人たちが参加する「柴田日本料理研鑽会」で、調理のテーマ食材に選ばれたのです。
「柴田日本料理研鑽会」とは、一流の料理人たちが知識・技術のさらなるレベルアップを目指して切磋琢磨し、日本料理の発展に寄与することを目的とした会。柴田書店が刊行する月刊『専門料理』誌上で誕生しました。月ごとに食材のテーマが決められ、メンバーたちが趣向を凝らした料理を発表し、その内容について議論をします。
メンバーはというと
「菊乃井」の村田吉弘氏
「たん熊北店」の栗栖正博氏
「魚三楼」の荒木稔雄氏
「相伝京の味なかむら」の中村元計氏
「天㐂」の石川輝宗氏
「木乃婦」の高橋拓児氏
「美山荘」の中東久人氏
「山ばな平八茶屋」の園部晋吾氏
「瓢亭」の髙橋義弘氏
京都を代表する老舗料亭の巨匠たちが勢ぞろい!
京都の食をけん引する、そうそうたる料理人たちが一同に会する柴田日本料理研鑽会で丹後とり貝が扱われるとなると、一体どんな料理が誕生するのでしょうか?
「柴田料理研鑽会」に潜入!
では早速、柴田日本料理研鑽会に実際にお邪魔してきた様子をリポートします。
丹後とり貝をテーマとした研鑽会は、2月末に菊乃井本店のテストキッチンで行われました。丹後とり貝の出荷時期は4月ごろからなので、この日の調理は冷凍処理された丹後とり貝が使われました。
研鑽会では、料理人それぞれが下準備してきた料理を完成させ、順番に披露していきます。メンバー全員で試食をした後に、それぞれの料理に対して意見や議論が交わされます。
では、実際に披露された料理のアイデアと、それに対する議論をみていきましょう。
「丹後とり貝」本来の甘みを引き出した逸品
最初の発表者は「美山荘」の中東さん。丹後とり貝独特の甘みを活かしたという「とり貝のわさび漬け」を考案されました。
とり貝のわさび漬け
「とり貝を2時間ほど天日にあてて、旨味をさらに強めました。わさびは甘酢漬けにすることでマイルドになり、とり貝本来の旨味をさらに引き立てています。そして、白味噌、酒かす、甘酒で甘みを付けました」と、中東さん。
試食した研鑽会のメンバーからは「白味噌、麴の甘さが同調してとり貝の甘みがさらに引き立てられていた」「噛むほどに口の中に甘みが広がった」「噛んでいるうちに変わっていくとり貝の食感と味がおもしろい」など、甘みと食感を絶賛する声があがりました。丹後とり貝自体の甘みと食感がいかに特徴的で、それがわさびや白味噌などでより引き立てられたことが伝わってきますね。
西洋料理にも応用!? 「丹後とり貝」の可能性に注目
次は、「瓢亭」の髙橋さんのアイデアである「とり貝と春キャベツの炊き合わせ」に注目してみましょう。
とり貝と春キャベツの炊き合わせ
「軽く炙ったとり貝に、塩麴と玉ねぎのすりおろしを合わせて、炊き合わせ仕立てに調理しました。とり貝は、食感を損なわないように火を入れすぎないように気を付けました。また、とり貝とキャベツの食感を一緒に楽しんでもらうため、キャベツの芯のペーストを加えました」と、髙橋さんは話します。
研鑽会メンバーからは、とり貝本来の心地いい食感と、キャベツのザクザク食感の相性が抜群だと評価する声が上がりました。
さらに、髙橋さんの料理が西洋料理に近かったことから議論が発展し、「平皿の料理など、西洋料理にも応用できるんじゃないか」「とり貝ってフレンチなどにも使いやすいかもしれない」「大きいプレートに乗せて、下にキャベツとか置いて、ソースをつけたらとても絵になる」などの声があがりました。
日本料理にとどまらず、境界を越えて西洋料理にまで議論が発展するなんて、丹後とり貝ってやっぱりすごい!
あまりの柔らかさに驚き! 料理人の技を感じる麹漬け
「菊乃井」の村田さんが作られたのは、「とり貝と赤蕪の麹漬け」。ピンク色のビジュアルで、見た目にもインパクトがある逸品です。
とり貝と赤蕪の麹漬け
「赤蕪、とり貝を、金柑と一緒に10日ほど麴漬けにしました。とり貝は、麴に漬けることで分解され、さらに柔らかくなり甘みも増すんです。とり貝特有の心地いい食感はそのままに、お年寄りでも食べられるくらいに柔らかくなっていると思います」
「食べた瞬間にとり貝のあまりの柔らかさに驚いた」「金柑の香りがして、麴漬けが苦手な人でもつるっと食べられる」など、驚きの声が。もともと柔らかい食感の丹後とり貝ですが、麴に漬けることで料理人たちも驚くほど柔らかくなるそうです。麹に漬けて柔らかさが増したとり貝は、さらに色んな楽しみ方ができそうで、とり貝の可能性を感じさせられました!
「丹後とり貝」をアレンジしたメニューはまだまだたくさん
干しとり貝と春野菜のおひたし
とり貝の炊き合わせ
料理人たちによる趣向を凝らしたとり貝料理、まだまだあります。「京料理 直心房 さいき」の才木さんが考案された「干しとり貝と春野菜のおひたし」(上)は、約2週間干したとり貝を、昆布出汁と一緒に戻したというもの。
「山ばな平八茶屋」の園部晋吾さんによる「とり貝の炊き合わせ」(下)は、鰹節、昆布、みりん、醤油を合わせた出汁にとり貝をひと晩漬け、とり貝に味を染み込ませたそう。上にかかる餡には、とり貝からとった出汁を使っています。
どちらの料理も、とり貝の出汁を使っているというところがポイント。研鑽会メンバーたちからも、とり貝の出汁の美味しさを評価する声が多数挙がりました。今回はとり貝本体の身の部分から出汁を取っていたのですが、「とり貝のひもから出汁を取るのもいいかもしれない」というアイデアも。料理人たちの手にかかると、いろんなアレンジが楽しめそうですね。
料理人たちが考案したとり貝料理は、一貫して、丹後とり貝本来が持つ魅力をいかに生かすかということがポイントとなっていました。一流の料理人たちが口を揃えて認めるほど、丹後とり貝は素材それ自体の食感や旨みが非常に高い評価を得ているということがわかりました。
その背景には、生産者の丹後とり貝の生産かける手間、育成に適した丹後の海洋環境も大切に守り未来に残していく取組があるからこそ、「丹後とり貝」という素晴らしい食材が提供されてということがわかりました。
今回は、「柴田日本料理研鑽会」に潜入して、丹後とり貝が持つ魅力を探っていきました。料理人たちが揃って絶賛していた「丹後とり貝」は、料亭や高級寿司店などで味わうことができるので、ぜひ足を運んでみてくださいね。また、今後は西洋料理などでも食べることができるようになるかもしれないので、さらに期待が高まりますね。
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