BLOGうつわ知新2021.03.01

魯山人と志野3

季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。

今回は「志野」のなかでも魯山人の器に特化して梶さんにレクチャーいただき、
京都和食界の雄「祇園さゝ木」の佐々木浩さんに料理をおつくりいただきました。

「魯山人の志野」の解説については、魯山人と志野1「魯山人と志野について」魯山人と志野2「作品解説」の2回に分けて配信いたします。また3回目には、佐々木浩さんによる魯山人のうつわとのコラボレーション料理をご紹介します。

魯山人がつくる「志野焼」の魅力をお楽しみください。

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梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

魯山人の志野3

 「古典に学ぶが、古典に媚びず、新しいを盛り込んで、新しさに溺れない」、「個性を前面に出した作品にせず、道具(うつわ)であることを忘れない」、「職人の眼で作らず、料理人の発想も備えつつ、数寄者の喜ぶうつわを目指す」。
 魯山人の作品からはこんな思いが聞こえてくるようです。

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志野四方鉢  29cm角

 魯山人の志野としては大作と言っても良い、堂々とした仕上がりと大きさのうつわです。魯山人は赤味のよく出た仕上がりを好んだために、彼は信楽産の土を採用したと伝わっていますが、さらに強い赤を出すために、鬼板と呼ばれる、鉄分を多く含む化粧泥で表面を覆いました。そして、その化粧土を掻き落として絵や模様を描き、白い長石釉を掛けて焼き上げ、赤と白が激しく交じり合う表情を生み出しています。
 まるで焦げたかのようにカリカリに焼きあがった鬼板の化粧土の上に、こびりついたかの如くに見える白い長石釉が荒々しい表情を見せています。作品としては大作だと誇れるものだと私は思うのですが、うつわとしては主張が強すぎるとも考えます。

魯山人の志野2より

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ひな祭りを寿ぐ八寸

「威風堂々としたこの四方鉢は、作品としての圧倒的な力強さがあります。
 3月の料理ということで、その力強さに包まれる様子をイメージした「桃の節句のお料理」を調えました。

 菜の花や鯛の子といった春が旬の食材の他、焼き蛤、お寿司など節句を寿ぐお料理を、彩りよく盛り付けています。
 鯛の子の旨煮、菜の花のおひたし、スモークサーモンと胡瓜の手綱寿し、焼き蛤、車エビ、ふわふわ玉子、スナップエンドウとわけぎのてっぱいという品々です。
 百合根の花びらを散らして華やかな春を表現しました。

 召し上がる方が、見て味わって心をうきたててくださればという想いを込めた料理。

 魯山人のうつわに料理を盛れることは、料理人としての喜びでもあります。」

佐々木浩さん

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秋草彫の手平鉢(あきぐさ ほりのて ひらばち) 直径23.5cm

 5客組の数物でありますが、「皿」と箱書きに書かれていないのは、魯山人が呼び名にこだわったからで、呼び名で作品の品格が変わると思っていたようなのです。
 ぽってりと肉厚に作られ、帽子の鍔(土星の環のようでもありますが)のように縁を平らにして、中央の見込み部分を緩やかに凹ませた「鍔型(つばがた)」という、魯山人の十八番の形をしています。裏面に高台や足は付けずに、削りで整えたきれいな平面を出すような仕上げもしていませんから、形的に几帳面な印象ではなく、やわらかな印象を受けます。裏面中央部分は窯に入れる前に、釉薬を拭き取って、胎土に含まれる鉄分が赤く発色する景色を意図的に見せています。
 また、釉薬を完全に削り取ってしまうのではなく、拭き取ることにこだわって、わずかに残った釉薬成分や胎土に含まれる鉄分が酸化した時、より強い赤に発色することを狙っていたようです。白い長石釉のかかった釉下は、胎土の白い色が透けて見えています。また「鬼板(おにいた)」と呼ばれる鉄分を多く含む泥で草を描いています。

魯山人の志野2より

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「先ほどの四方鉢に華やかな料理を盛っておだしする。と、同時に銘々皿(取り皿)として平鉢をお出しする。
 目のまえに出されたこの平鉢を、しばし眺めていただきたいからです。
 
 四方鉢もそうですが、この平鉢もうつわ自体が完成されている。作風はもちろんのこと、色合いやかたちなど、それだけで美しい。
 ほんとうなら、料理を盛らず、南天の実をふた粒だけそっと置きたい。そんな想いがわくうつわです。 
 魯山人の作家としての技量だけでなく、人としての懐の深さを感じさせられる作品です。」

佐々木浩さん

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祇園 さゝ木

味はもちろんこと空間や劇場型のもてなしまですべてが「ほかにはない」と評され人気を博す京都を代表する料理店。店主の佐々木浩さんは、客を驚かせ喜ばせる達人で常に新しい料理を模索して作り上げる。その日仕入れた筍や鮑をピッツアの石窯で焼き上げ、洋テイストの味わいに仕上げるなど、従来の和食の範疇を超える料理も多い。客前で生きた蟹をさばく、鮨を握って手渡すなど躍動感ある演出もこの店の魅力。
グループ店に割烹形式で一品料理を味わえる『祇園 楽味』、さゝ木の料理と鮨の両方を味わえる『鮨 楽味』、洋食など酒に合う料理で飲める『食ばあー楽味』がある。

■祇園 さゝ木

京都市東山区八坂通り小松町566-27
電話:075-551-5000
営業時間:12:00~14:00、18:30~いずれも一斉スタート
土曜 17:00~、19:30~一斉スタート
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■祇園 楽味

京都市東山区祇園町南側570-206
電話:075-531-3773
営業時間:終日2部制
第1部17:30~20:20(最終入店18:30)、第2部20:30~23:00(最終入店21:30)
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■鮨 楽味

電話:050-5597-8015
営業時間:第1部17:00~、第2部19:30~ 一斉スタート
定休日:日曜、第2・4月曜