BLOG料理人がオフに通う店2022.03.21

「イタリア料理 casa bianca」-「京料理・天ぷら 天㐂」の石川輝宗さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は、「京料理・天ぷら 天㐂」の主人、石川輝宗(てるむね)さんが通う「イタリア料理 casa bianca」をご紹介します。

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推薦者の石川輝宗さん

歴史ある西陣にて昭和8年創業の「京料理・天ぷら 天㐂」。三代目を継ぐ石川輝宗(てるむね)さんの祖父が、当時まだ他にはなかった「天ぷら会席」を日本で初めて発案。その後、石川さんの父(二代目主人、輝夫さん)が、表千家の直門になったことをきっかけに、数多くのお茶人の方との知己を得ることができ、その名を全国に広めた。
 現在では敷地内には茶室を造り、数多くの茶会を催し、お茶人たちに愛される名店ともなっている。お茶の心を、おもてなしの根幹において、しかしながら敷居を低く、片肘張らず、くつろいで料理を楽しんでもらえる店にと言う思いは、この店の根幹であり、一筋に貫かれている。
 「天ぷらは素材ありき」と姿勢のもと、鷹峯の提携農家の野菜、明石や山陰の漁場から直接仕入れる旬魚、米も低農薬栽培で育てたものを厳選。冬場の王様、柴山の蟹はなんと漁船を指定して、直接仕入れている。代々受け継がれる伝統の味、天ぷらを基本に、中華や洋食の要素を和と融合させた創作料理など、緩急を巧みに取り混ぜた味の数々は、遠く海外までファンを持つ。

「とにかく何を頼んでも美味しくて、家族ともよく行かせていただいていますが、一人で仕事帰りにふらりと立ち寄ることも...(笑)。ワインとアラカルトの料理をよく楽しんでいますね。コースもありますが、おすすめはやはりアラカルトです。定番の料理はもちろん、季節ごとのスペシャリテもどんな料理がメニューに登場するのか、いつもワクワクします。洗練されたもてなしも心地よいですし、それでいて気を張ることなく、アットホームな雰囲気でほっと寛げる大切な一軒です」

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ヨーロッパの古い小さな教会を思わせる心地よい店内。

 京都御所のすぐ東。今出川通から少し奥まったところに白壁が明るく映える一軒のレストランがある。オーナーシェフの那須 昇さんが、ピエモンテ州を中心に北イタリアで4年半修行し、1995年、生まれ育った御所近くに開いたリストランテだ。
 京都でも、いや全国的にも、リストランテという言葉がまだ定着していなかった頃のことである。まさしく、この店はイタリア料理文化の草分け的存在といえる。

「ちょうど阪神大震災のあった年にスタートでした。関西はどうなるのか?という不安の中でのスタートでしたが、生まれ育った地元に助けられました。昔の友人、知人がこぞって訪ねてきてくれて、お客さんを連れてきてくれたり、人に紹介したり、口コミでも広げてくれて、本当に感謝しています」
地元の利ということだけでは、もちろんないだろう。やはりそこには、力あるシェフが作る、力ある美味なる味があったからだ。だから評判が評判を呼び、人が人を呼んで、瞬く間に京都にこの店あり!という存在になれたのだろう。

 那須さんはイタリアの本場で学んだ調理法をきちんと守り、いわゆる"日本人向け"の味ではなく、現地の味わいをそのまま伝えたい、という強い思いを持って店を開いたという。以来、その思いを一貫して持ち続けている。
「調理法はイタリアの技法をしっかりと受け継ぎながら、素材は地元で手に入る新鮮なものを使って、この店の味に仕立てていく、それが私のやり方です。その時々の、旬の一番美味しい魚介や野菜を吟味して、大切に丁寧に現地で身に付けたやり方で料理すること。それだけなんですが、とにかくイタリア人のお客様がうちの店に来られて、本当に美味しい!と言ってもらうのが何より嬉しいんです。その味を日本の方にも提供して、イタリアンの味を心ゆくまで楽しんでいただきたいと思っています」

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こんな小部屋もなかなか素敵だ。カップルや家族に人気の席だという。

 そしてもう一つ、那須さんが大切にしているのは、地元の人たちとの関係だ。オープン時に、様々に店を引き立てて協力してくれた地元の人たちに長く愛される店になること。それが感謝をあらわす唯一の方法だったという。

 

 そんなシェフの思いは、ぶ厚いメニューにぎっしりと詰まっている。ランチとディナーのコースをそれぞれ用意しているが、あくまで温・冷の前菜、パスタ、メインなどアラカルトが中心で構成されている。また、その品数も半端ない。 
 なぜこれだけメニューの数を揃えるのだろう?
月に複数回訪れるという常連さんは、"いつもの定番"を頼むことが多いが、時に「今日はちょっと違った料理を楽しみたい」という"その日の気分"がある。そんな気分にもちゃんと応えたいという思いから、料理を考えるうちに「これだけの品数になってしまいました」。
 グランドメニューが50種以上、旬のおすすめ料理は20種近くもあり、食材だけでも常時揃えるのは個人の店では並大抵のことではないだろう。でも那須さんはからりと笑う。
「私自身がほかのお店に行く時は、その日の気分でアラカルトから自由に料理をあれこれ選んで楽しみたいタイプなんです。とくに行きつけの店だとさらにその思いが強くなるので、お客様もおそらく同じ思いで来ていただいているだろうなと思っていて...。リクエストにもあれこれお応えしているうちに、グランドメニューがこんなにぶ厚くなってしまいました(笑)」

 地元のお客のために日々、丹精込めて料理を作り、それが口コミで広がって、遠方からもたくさんのお客が訪れるだけでなく、イタリアの外務大臣をはじめ、国内外から数多くのVIPがこの店の料理を堪能してきた。長年にわたってイタリア料理の文化を広く知らしめた功績が認められ、なんとカヴァリエーレ(イタリア共和国功労勲章)が授与された。名実ともに唯一無二のシェフが率いるリストランテは、まさしく観光都市・京都を代表するリストランテとなったのだ。

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ゆったりとしたソファは、心地良いウエイティングスペースになっている。

 創業当時から変わらぬ情熱を注ぐ那須さんに、おすすめの料理を作っていただいた。最初に登場したのは、温前菜のホワイトアスパラのミラノ風だ。フレッシュな白アスパラをさっとボイルして、バターソテーし、ポーチドエッグをふわりとのせて、パルミジャーノチーズをたっぷりとすり下ろす。まずはそのままでアスパラのさっくりとした食感を楽しんで、その後、玉子をつぶして、とろりと絡めていただく。スパークリングや白ワインにピタリと合いそうだ。

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小雪?花吹雪?美しい景色と物語が一皿の上に展開するホワイトアスパラのミラノ風1800円〜。フランス産を使うので仕入れによって価格が若干変動するという。※価格は全て税込

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目をみはるような鮮やかな色彩のホタルイカと菜の花のキターラ 2100円。

 菜の花の緑、ホタルイカの紫、ドライトマトの赤がなんとも華やかでどこか小粋なパスタは、まさに春の訪れを待つよろこびを表現する一皿。手打ち麺のキターラを春の味わいとともにオイルベースでいただく。菜の花の青味、ホタルイカのほろ苦さが、イタリアンにおけるまさに出会いの妙を実感させてくれる。
パスタは手打ち麺が中心。今でこそ手打ち麺も定着しているが、1995年のオープン当初に、那須さんが手打ち麺をいち早く取り入れたことも記しておきたい。

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説明不要の王道の一皿。「鴨のロース バルサミコソース」3300円。

 ロマネスコや赤万願寺、カリフラワーなどの野菜がバランスよく添えられて、その中心にましますのが、しっとりしたロゼ色の断面...!見るだけで思わず食欲を誘うのは、メイン料理の中でも人気の「鴨のロース バルサミコソース」。鴨ロースをソテーして、バルサミコを煮詰めた甘酸っぱいソースでいただく。シンプルゆえに火入れが肝心。絶妙の火入れで、肉はあくまで柔らかく、口の中にジューシーな鴨肉の旨味が、じんわりと広がる。ついつい、ボディのある赤ワインを欲してしまいそうになる。ここにきたら必ずこの料理を注文するという常連ファンの気持ちが本当によくわかる。

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ワインはイタリア各地のものを常時100種、取り揃えている。グラスワインは700円〜、ボトルワインは4000円から〜。

「これからやりたいことですか?そうだなあ、やはり自分も大好きなアラカルトをもっといろいろ考えて、きわめていきたいですね。お客様が食べたいものを食べたい時に食べたいだけ、きちんと提供できる店でありたいです。外食する時間はやはり普段とはちがう、ちょっと特別な時間でしょう?少しぐらい我がままな気分があっていいんです。それにしっかりと応えるのが僕たちプロなんですから(笑)」

 確かな味はもちろんのこと、素材の組み合わせにも、一皿ひと皿の盛り付けにも、那須さんの瑞々しい感性が息づいて、器と料理の色のコントラストや立体的なフォルムの面白さなど、そこには豊かなストーリーが存在する。
 前菜、パスタ、メイン料理としっかりフルで楽しむもよし、アラカルトをいくつか頼んでゆっくりワインを楽しむもよし。那須さんが彩るストーリーにすっかり浸ってしまう幸福な時間がここにはゆったりと流れている。
 那須さんが料理の話をするとき、本当に楽しそうに笑顔が満ちてきてふわっとこぼれる。ああ、この人は本当に料理を、イタリアを愛しているのだなあと思う。
人を惹きつけてやまないものには、料理、空間、もてなしなど様々な要因があるけれど、やはり人、那須シェフの魅力がこの店の大いなる磁力になっているのだ。

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懐の深さ、イタリア料理への愛、京都への思い。いろいろな思いが込められて、この包み込むような笑顔になるのだろう。

■イタリア料理 casa bianca

京都市上京区今出川寺町西入南側
075-241-3023
営業時間 11:30〜14:00(LO)、17:00〜21:30(LO)
定休日 月曜
※サービス料はなし。アラカルト注文の時のみ、コペルト(席料)一人350円あり。

撮影/ハリー中西 取材・文/ 郡 麻江