BLOG京の会長&社長めし2021.03.17

丹山酒造有限会社の社長が通う店「松葉」

京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は丹山酒造有限会社 社長の長谷川渚さんが通う「松葉」です。

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■長谷川 渚(はせがわ なぎさ)さん 

丹山酒造有限会社 取締役社長

1978年京都府亀岡市生まれ。
地元の高校を卒業後、滋賀県余呉発酵機構研究所で発酵学を学び、その後半年間、東京農業大学の小泉武夫先生の研究室で研究生として発酵を学ぶ。
実家の丹山酒造に戻り、製造の職人として15年程。
現在は5代目として会社の経営に携わっている。

最後の晩餐は、母のお手製の玉ねぎソースをかけた肉料理。

伝統の味を守りつつ新たなメニュー開発にも挑む、にしんそば発祥の老舗

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京都の名物、にしんそば。京都人のソウルフードともいえるこの料理を考案したことで知られるのが、四条大橋東詰にある老舗蕎麦店「松葉」だ。
創業は1861(文久元)年。初代が芝居茶屋を営んだのが始まりという。ここ本店では、にしんそばをはじめとする麺類、丼、弁当などが楽しめ、推薦者の長谷川さんも幼い頃からこの店の味に親しんできたという。
「幼稚園か小学校の頃、祖母に南座の帰りに何度か連れて行ってもらった記憶があります。松葉さんとお仕事のお付き合いをさせていただくようになってからは、営業の合間などによく利用しています。私の中では松葉さんといえば、やはりにしんそばのイメージです」(長谷川さん)

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地上5階、地下1階の本店は昭和48年の建造。地元客、観光客、舞台関係者など、さまざまな人が訪れる。「昔からの柱や机など趣があって気に入っています。小さい頃は四条通と川端通が見える席で、市バスなどを眺めるのが好きでした」(長谷川さん)

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名物のにしんそばが誕生したのは明治15年。2代目の松野輿三吉(よさきち)氏が、貴重なたんぱく源だった身欠きにしんを甘辛く炊き、蕎麦と組み合わせて売り出したという。
「京都にはにしん茄子というおばんざいがあったんですが、昔の身欠きにしんは硬くて、小骨が多く臭いもきつい。水でもどして炊くのにすごく手間がかかるから、家庭ではあまり作られていなかった。それを骨まで柔らかく炊いて、お蕎麦に入れるという発想でした」と、輿三吉氏の孫で4代目の松野泰治さんが説明する。

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北海道産の身欠きにしんは、毎日水を替えながら12日水に浸し、次に水炊きしたあと、みりん、酒、砂糖、醤油で半日煮込んでいく。炊き上がったらさらに煮汁に1日漬け込み、ようやく完成となる。今も手間入りだが、昔は水で戻すのに710日要したという。そんな扱いにくいにしんを使った蕎麦は、京都の人々に新鮮に映ったようだ。
「当時マスコミの情報などないなか、にしんそばのことが知れ渡って、にしんが上手に炊けていると評判もよかったようです」(松野さん)

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麵は自家製、だしはイワシ、サバ、カツオをブレンドした削り節と利尻昆布で取っている。
長谷川さんをはじめ、多くの常連が頼む「にしんそば」は1430円。
「最初はあっさりしたおだしが、最後はにしんから出た味でしっかりしたおだしになる。その変化も楽しんでいます」という長谷川さんの言葉に、
「そんなふうに召し上がっていただくのはありがたいですね。うちでは鉢の底ににしんを敷き、その上にお蕎麦、おだしを入れます。まずおだしを飲んでお蕎麦を手繰っていくと、にしんの煮汁とだしが絡み、最後に独特のにしんそばの味になるんです」と松野さん。にしんの甘辛さと旨味になじむ繊細な蕎麦とだし。最後の一口まで考えられたおいしさだ。
(注:写真ではわかりやすいようににしんを見せています)

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「角煮がとろとろですごくおいしい」という長谷川さんのお薦め「角煮うどん」1430円は、約10年前に考案された人気メニュー。八角、ネギを加えて飴色に炊き上げた豚の角煮は、上品なだしと麺にバランスよくなじみ、意外と重さを感じさせない。
「ほかにもいろいろおいしいものはありますが、これは角煮と和の組み合わせが斬新で、衝撃を受けました。松野社長は伝統を守る一方で新しいものにチャレンジされている。発想が明るくて前向きで、自分が仕事をする上でもすごく勉強になります」(長谷川さん)

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「同じものを続けることも大事ですが、ABを足しておいしかったらやるべきやというのが私の考え方です」と、松野さん。角煮うどん以外にもゆりねうどんや連獅子そばなど、オリジナルメニューを作り出している。
それらが生まれる場になっているのが、年3回の落語の会。プロの落語と蕎麦を楽しむこの催しでは毎回趣向を凝らした麵料理を提供し、好評だったものは商品化しているという。

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上の写真のオリジナルの日本酒は、丹山酒造に特注したものだ。
「松野社長とは20年ほど前に府の物産協会でお会いしたんですが、まだ社会人になりたての私に、お蕎麦に合うお酒を提案してほしいと声をかけてくださったんです」(長谷川さん)
当時、東京へ蕎麦打ちを学びに行っていた松野さん。東京では蕎麦屋で昼酒を飲む文化があることを知り、自分の店でも昼酒を楽しめるようにと、酒造りを依頼したという。
「蕎麦が主役で、それを引き立てるお酒。一所懸命研究していただいて、最終的にできたのが『松葉』です。おかげさまで評判が良く、今は吟醸系の『与三吉』を加えた2つを出しています」(松野さん)

下の写真は、先代の時に作ったマッチ箱。長谷川さんは猫のイラストが気に入り、「与三吉」のラベルに使わせてもらったそうだ。

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「一人で行って、ぱっと食べて、さっと出ることが多い」という長谷川さんだが、ここでの食事は短いながらも癒しのひと時になっている。
「何も考えず、外の景色を見ながらリラックスできるあの空間がすごく好きで。自分のペースで時間を楽しみたいので、いい意味でほっといてもらえるのもうれしいですね」

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「一人でも多くのお客さんに喜んでいただけるよう、お仕事させてもらうこと。それをずっと大事にしていきたいですね」と、松野さん。新しい魅力も加えながら、感謝の心で伝統を受け継いでいく。

撮影 エディ・オオムラ  文 山本真由美

■松葉 本店

京都市東山区四条大橋東入ル川端町192
075-561-1451
営業時間 11時~18時(LO17時45分)
定休日 水曜(祝日の場合は営業)※季節により変更あり
※営業時間は状況により変更の場合あり。お店にお問い合わせください。
http://www.sobamatsuba.co.jp/