BLOGうつわ知新2021.06.29

祥瑞3

備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん うつわとの相性やデザインなどについてお話しいただきます。

今月のテーマは「祥瑞」です。
染付のなかでも緻密な文様が特徴で、ファンの多い「祥瑞」について梶さんに解説いただきました。
1回目は「祥瑞」が生み出された歴史的背景や特徴について。2回目はそれぞれのうつわの見方や解説です。
そして、3回目は、野菜をメインにしたフレンチレストラン「青いけ」の青池啓行シェフとのコラボレーションです。
青池シェフが祥瑞の個性をひきだす料理を盛り付けてくださいます。
「祥瑞の世界」をお楽しみください。

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梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

祥瑞3

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祥瑞手捻子文七寸皿

染付の色はバイオレットカラーです。見込みには松と鳥が描かれていて、その周辺の捻子(ねじ)模様(螺旋模様)の中に幾何学文を描いています。透明ガラス釉の輝きも、純白の磁胎も美しいので、これだけで「祥瑞」に分類してやってもよいでしょう。高台内は「五良大甫 呉祥瑞造」ではなく「角福(かくふく 角ばった福ノ字)」らしき模様が描かれています。高台の砂、口縁部の虫喰いも見ることができます。

祥瑞2より

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活オマール海老とホワイトアスパラガス ハーブ添え

「あまりにも美しいうつわの紋様に、ドキドキしました。
 まず頭をよぎったのは、少しでも多くこの文様を食べる方に見ていただきたい、ということでした。

 色目を考えて鮮やかな青紫の紋様と互いに引き立て合う朱と緑の料理、それもナチュラルな感じのあるものにしたいと考えました。

 火を入れ過ぎずレア感を残したオマール海老と新鮮なホワイトアスパラガスの一皿。
アスパラソバージュのほか酸味のあるハーブを添えて、オマールやホワイトアスパラのしみじみと美味しい滋味を感じていただきます。

 最初にうつわを見て楽しみ、最後まで食べてまたうつわ全体の紋様を味わう。

そんな幸せを感じてください」

青池シェフ

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右手前:祥瑞手波兎文小皿 左と右奥:祥瑞手五寸向付

これらのうつわは、「祥瑞手(しょんずいで)」と表記したように、「祥瑞」と呼んで良いものかどうなのか、判断に迷ううつわです。
兎文様以外の2種類のうつわは、見込みの図柄が少し異なってはいるものの、実に似通ったうつわです。どちらも染付の色は暗く沈んだ「古染付」の典型的な色をしています。しかし見込みの周辺には幾何学文を配して「祥瑞」らしい風情があります。実はこのうつわは魯山人が残した「古染付百品集」と言う書籍に掲載されていました。そこには「祥瑞風平向(しょんずいふうひらむこう)」と命名されていました。魯山人もこのうつわが「祥瑞」の特徴を示してはいるが、「祥瑞」と呼んでしまうのには、少し不十分と考えていたようです。
「祥瑞」の様式が突発的に成立したのではなく、これは誰が見ても「祥瑞」だ、というものが出現するまでには試行錯誤を繰り返して仕上がって行ったと考える方が自然ではないでしょうか。そのように考えれば、「祥瑞」の条件を完全に満たしていなくても、「祥瑞」への過渡期のうつわと捉えるべきなのかもしれません。

祥瑞2より

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左;活鱧のポシェ 野菜のピュレ 右:毛ガニとアボカドのミルフィーユ

「料理をワンランク上にしてくれるうつわです。
 このふたつのうつわは、同じような文様であるのに、色目も描き方も違う。
 一緒にお出しすることで、その違いも楽しんでいただきたいと思いました。

 左は活鱧にさっと火をいれたポシェ。上賀茂トマトとオリーブのピュレを添え、スナップエンドウやパプリカなど夏の野菜を添えています。

 右は毛ガニの実とアボカドの甘酢漬をビーツのシートで挟んだもの。

 いずれの料理もお皿の色柄を邪魔しないような控えめな色合いで。文様の部分だけでなく柄のない白い空間も残すように盛り付けました。

 うつわの美しさを楽しむのもレストランで料理を味わう楽しさのポイントです。
 
うつわと料理の組み合わせの妙をぜひ実感ください」

青池シェフ

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青池啓行(あおいけ ひろゆき)

1975年、京都府生まれ。京都ホテルで修業を開始。現【レストラン スポンタネ】(※1日4組限定のフレンチレストラン)の谷岡シェフに師事する。その後、26歳でヘッドハンティングされて市内のカウンターフレンチ【パリの朝市】のオープンに参画。これを含め、フランス料理店5軒で立ち上げに関わる。39歳で京町屋を改装し、【Restaurant 青いけ】を開業。現在に至る。

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青いけ

青池啓行さんが、2014年京都・御所南に開いたフランス料理店。中村外二工務店設計の端正な店内で味わえるのは、野菜の持ち味を存分に生かした季節のコースです。コースには30~50種もの野菜が使われるのが特徴で、女性はもちろん健康を気遣うヘルシー志向の食通にも評判。1階では、シェフの調理や盛り付けを間近に見られ、カウンター席の醍醐味を満喫できます。

■青いけ

住所:京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町631
電話:075-204-3970
営業時間:12時~13時30分(L.O) 、18時~19時30分(L.O)
定休日:日曜、不定休あり