BLOGうつわ知新2021.02.01

信楽焼3

季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。

今回は「信楽焼」の器について梶さんにレクチャーいただき、
京都和食界の雄「祇園さゝ木」の佐々木浩さんに料理をおつくりいただきました。

佐々木さんの出身地滋賀の焼き物「信楽焼」に、どんな料理を盛りつけるか。上品でありつつも躍動感のある佐々木さんの美しい料理をお楽しみください。

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梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

信楽焼と日本料理

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杉本貞光氏作の信楽長方鉢

信楽焼のなかでも、茶席で使いたくなる品格ある作風の人もいます。杉本貞光氏がそうです。自然釉がかかっていない部分は明るいオレンジ色が出ています。これを信楽では火色と呼ぶそうです。このオレンジ色の部分がこげ茶色に発色することもあるようですが、それは粘土に含まれる鉄分の加減と陶芸家の窯の操作によって生み出されるようです。信楽焼の自然釉は、緑色を帯びたガラス状に結晶するため、ガラスを意味するポルトガル語のビードロと呼ばれます。 

信楽焼2より

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風干し鰯の炙りと鯛の奉書巻

「信楽焼は、私の出身地滋賀県の焼き物です。今回、どんな器に料理を盛らせていただくかと考えたとき、まず信楽焼をと思いました。

 この器は梶さんの解説にもあるように上品な作風です。一年の最初を祝う、節分のお料理を盛るのに最適だと感じました。

 節分といえば、鰯と大豆。鬼は鰯の匂いを嫌うことから、鬼を追い払うために、節分の日には鰯を焼き、頭は柊の枝に刺して、戸口にかけておくという風習があります。

 今回は風干しした鰯を炙ったものと鯛の子の奉書巻を用意しました。豆まきに用いる福豆を散らし、この器の美しさを引き立てる柊の実を飾りました。」

佐々木さん

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これは辻清明作氏の信楽窯変盤です。彼の活動拠点は信楽ではなく東京であったため、信楽に住み、信楽の空気を吸っている陶芸家の作品とは異なる趣を持っています。中央に真紅の火色を出すことに成功していますし、そこから横方向に引っ掻いたような激しい線で中央が爆発しているように演出された、エネルギッシュな作品になっています。
側面に刻まれた波模様も現代的なセンス溢れる作品です。風炉の敷板にも使えそうな大きな盤だけに、うつわとして使うと迫力があります。

信楽焼2より

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まながつおの味噌漬け 大根と蕪、胡瓜の酢の物

「この変盤を最初に見た時、中央の深紅の火色がポイントだと思いました。
 ですから、中央には何も盛らず、皿として見た時にも作品の迫力を伝えることができればと思いました。
 器自体がそれだけで絵画のように美しい。赤の部分をできるだけ残して、その赤色に添うような、黄色の料理を盛りつけると決めました。

 手前にはまながつをの味噌漬け。奥には、味噌漬けを食べた後に、口の中をさっぱりとさせてくれる、大根と蕪の酢の物。黄味酢を散らして彩を添えるとともに、躍動感を表現しました。」

佐々木さん

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こちらは北大路魯山人の信楽の茶碗です。茶碗に料理を盛るなどけしからん、と叱られそうですが、桃山時代の古信楽には、複数の人で取り廻す盛り鉢はあっても、ひとりの人が直接口をつける様な茶碗や向付はほとんど存在しません。

信楽焼の特徴を「自然釉を使った焼物」と考えるならば、釉薬の掛かっている方向は正面のみのはずですが、この茶碗は45度斜め方向からも釉薬の痕跡が見受けられます。

その不自然さから、魯山人自らが作為として釉薬を掛けて景色を演出したことがわかります。高台を低く小さく削り出し、高台脇を水平に整えた、手のひらに収まりの良い円筒形の茶碗です。魯山人の茶碗は、食器に比べると気のないような作品も多く見られるのですが、この茶碗は気持ちの入った作品に仕上がっていると思います。  

信楽焼2より

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お碗代わりの温菜(クエの葛うち、胡麻豆腐、金時人参、うぐいす菜、黄柚子)

「贅沢にも魯山人作の茶碗を使わせていただきました。深みがあるので、お碗に見立て、クエや胡麻豆腐とともに冬の京野菜、金時人参やうぐいす菜を盛り込みました。
 覗き込んだときに、上品な色彩が目に入ってくるよう、白、緑、赤、黄色をバランスよく盛り込んでいます。
 寒さ厳しい2月に味わっていただく雪中仕立て。温かさがじんわりと体に染みわたるお料理です。」

佐々木さん

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祇園 さゝ木

味はもちろんこと空間や劇場型のもてなしまですべてが「ほかにはない」と評され人気を博す京都を代表する料理店。店主の佐々木浩さんは、客を驚かせ喜ばせる達人で常に新しい料理を模索して作り上げる。その日仕入れた筍や鮑をピッツアの石窯で焼き上げ、洋テイストの味わいに仕上げるなど、従来の和食の範疇を超える料理も多い。客前で生きた蟹をさばく、鮨を握って手渡すなど躍動感ある演出もこの店の魅力。
グループ店に割烹形式で一品料理を味わえる『祇園 楽味』、さゝ木の料理と鮨の両方を味わえる『鮨 楽味』、洋食など酒に合う料理で飲める『食ばあー楽味』がある。

■祇園 さゝ木

京都市東山区八坂通り小松町566-27
電話:075-551-5000
営業時間:12:00~14:00、18:30~いずれも一斉スタート
土曜 17:00~、19:30~一斉スタート
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■祇園 楽味

京都市東山区祇園町南側570-206
電話:075-531-3773
営業時間:終日2部制
第1部17:30~20:20(最終入店18:30)、第2部20:30~23:00(最終入店21:30)
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■鮨 楽味

電話:050-5597-8015
営業時間:第1部17:00~、第2部19:30~ 一斉スタート
定休日:日曜、第2・4月曜