BLOGうつわ知新2020.12.30

永楽3

季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。

今回は「永楽」の器について梶さんにレクチャーいただきました。

今回は、それらの器に
京都和食界の雄「祇園さゝ木」の佐々木浩さんのほか、グループ店の「祇園 楽味」水野料理長、「鮨 楽味」野村料理長に料理を盛りつけていただきました。

「永楽」の世界観と見事な料理のコラボレーションを堪能ください。

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梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

永楽に新春の料理を盛る

2021年、最初のお料理は、「祇園 さゝ木」佐々木浩さんにお願いしました。
食材の持ち味をとことん引き出す独創的な料理で知られる佐々木さんが、新春の料理を永楽に盛り付けたらどのような表現になるのか。

誰もが見てみたいと願う「さゝ木の料理」を披露します。
うつわの形や色柄などを見極め、盛り付けられた料理はアートのような美しさです。

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16代 永楽即全造 仁清写双鶴向付

 この向付は、向鶴(むかいづる)或いは、菱鶴(ひしづる)向付とも呼ばれていて、表千家7世如心斎(じょしんさい)の「好(このみ)」となっています。大概のうつわは「めでたさ」を表現しているのですが、このうつわは赤を用いることで強くそれを印象付けています。また赤が艶消しの釉薬になっていて、とても洒落た演出になっています。
 16代の永楽即全の作品ですので、絵付けも整っており、ある意味機械で生産したような几帳面さのあるうつわです。それは私たち現代人が、個々の異なる魅力より、均一に整っていることが高い品質だと思い、それを求めた結果だと思っています。私はこの均一であることの「そろいの美」は、15代正全と16代即全のこだわりであり魅力でもあると同時に、面白くない部分でもあると思っています。

永楽2より

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新春の口取り

「祇園さゝ木では、お正月料理はお客様におだししていません。それというのも、みなさんご自宅や他のお店で、十分にお正月のお料理を召し上がっていらっしゃるだろうと思うからです。

"そろそろ正月料理に飽きていたから、こんな料理が食べたかった"と言っていただくのが私の願いです。

今回は由緒正しい永楽のうつわを1月にご紹介するとお聞きし、新春を寿ぐ料理にしたいと思いました。
『祇園 さゝ木』、『祇園 楽味』、『鮨 楽味』3店の合作料理をご覧ください。

私が調えたのは、新春の「口取り肴」です。口取りは、新春のお祝いの席や饗膳などの最初に出す、いわゆる酒の肴。朱色の地に鶴が羽ばたくこの向付皿を拝見した時、上品な肴を盛るのにぴったりだと思いました。

黒豆、サーモンの砧巻、金柑いくら、車エビ塩ゆで、ふくさ玉子、鯛竜皮巻、紅白ちょろぎを彩よく盛り付けています。
料理を盛ることで、うつわの美しさや品格がさらに際立ちます。」

『祇園 さゝ木』佐々木浩さん

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14代 永楽妙全造 赤絵福字中皿

 見慣れた呉須赤絵図柄でもありますから、このうつわだけを見ていてもなんら特別な印象はありませんが、いざ料理を盛ってみると、華やぎを与える素晴らしいうつわです。
 明時代の漳州窯(しょうしゅうよう)の本歌の御須赤絵は、この写真の作品よりもっと筆が走っているために、やや雑な印象を与える絵付けですが、そこがこのうつわの面白さでもあります。
 永楽妙全の作品の多くも、少し筆の暴れや金彩がかすれていく、うつわ個々の風情を楽しませようとする狙いが隠されているようです。このやや乱暴とも言えるような個々の面白さ、言うなれば「不揃いの美」のような感性を、この妙全の頃までは、積極的にうつわの中に盛り込んでいるようです。ここに「揃いの美」が好きか「不揃いの美」が好きかの好みの分岐点がありそうです。

永楽2より

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「赤絵の福字皿ということで、ふく(ふぐ)を盛らせていただきました。
赤、緑、金という文様の色目に合わせ、白身のふく、緑のあさつき、琥珀色のぽん酢のジュレと決めました。繊細な絵柄を邪魔しない料理で、この皿の美しさを引き立てたいと思ったのです。

皿のなかほどにふぐを厚めに切ったふぐぶつを盛り付け、ポン酢のジュレをかけてあさつきを添えました。食べ進むと、白子やてっぴなども身の下に潜んでいます。

 そして、最後のひときれを食べると、その下から福の文字が現れる。食べてふくの美味しさを感じ、観て華やかな気持ちになる。新春を祝う一品です。」 

『祇園楽味』水野隆弘さん

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14代 永楽妙全造 染付飛鶴絵重 塗り蓋宗哲

 私がこの重箱を扱うのはこれで3度目ですが、この重箱が今の時代に残されている数を考えると、極めて異例の多さだと思います。同素材で作られた共蓋の他に、特別に中村宗哲作の塗り蓋が添えられ、その塗り蓋には表千家12世惺斎の花押(かおう)が入れられていることは、この重箱がお家元の好(このみ)に近い形で、極めて限定的に作られたものだったと言うことを示いると思うからです。
 この表千家12世惺斎は14代永楽妙全と15代正全の活動を支えたようで、彼らの作品に度々箱書きを行っています。

永楽2より

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にぎり鮨とちらし寿司

「永楽妙全作ということに加え、表千家12世惺斎のお好みだとお聞きし、緊張感をもって臨みました。

上段には、鮪、蟹、烏賊、こはだ、鯛、車海老、穴子、鯖きずしのにぎり。彩よく盛ることはもちろんですが、空間の美しさも生かしています。

下の段には、普段、店ではおだししていないちらし寿司を盛り込みました。
鮪、烏賊、サーモン、車海老、穴子、玉子、いくらという豪華なネタに加え、お正月らしい、黒豆や甘酢レンコン、赤と黄色のとびこなどを飾っています。

たとえば、ご家族でこのお重を開いていただくとして、蓋をあけると豪華なにぎりが並んでいる、さらにその下には彩豊かなちらし寿司が盛り込まれている。見たとたんに心が華やぐ場面を思い浮かべ、作らせていただきました。」

『鮨 楽味』野村一也さん

祇園 さゝ木

味はもちろんこと空間や劇場型のもてなしまですべてが「ほかにはない」と評され人気を博す京都を代表する料理店。店主の佐々木浩さんは、客を驚かせ喜ばせる達人で、常に新しい料理を模索して作り上げる。その日仕入れた筍や鮑をピッツアの石窯で焼き上げ、洋テイストの味わいに仕上げるなど、従来の和食の範疇を超える料理も多い。客前で生きた蟹をさばく、鮨を握って手渡すなど躍動感ある演出もこの店の魅力。
グループ店に割烹形式で一品料理を味わえる『祇園 楽味』、さゝ木の料理と鮨の両方を味わえる『鮨 楽味』、洋食など酒に合う料理で飲める『食ばあー楽味』がある。

■祇園 さゝ木

京都市東山区八坂通り小松町566-27
電話:075-551-5000
営業時間:12:00~14:00、18:30~いずれも一斉スタート
土曜 17:00~、19:30~一斉スタート
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■祇園 楽味

京都市東山区祇園町南側570-206
電話:075-531-3773
営業時間:終日2部制
第1部17:30~20:20(最終入店18:30)、第2部20:30~23:00(最終入店21:30)
定休日:日曜日、第2・第4月曜日、不定休あり

■鮨 楽味

電話:050-5597-8015
営業時間:第1部17:00~、第2部19:30~ 一斉スタート
定休日:日曜、第2・4月曜