季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。
備前焼2回目の今回は「洋食おがた」の緒方博行シェフに料理とのコラボレーションに挑戦していただき、ご紹介します。
梶高明
梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。
備前焼と洋食
今回は、本来食器ではない備前焼の「まな板皿」と「灰器」に料理を盛ったらというテーマで、「洋食おがた」の緒方シェフに料理制作に挑んでいただきました。
それぞれのうつわの存在感やデザインから緒方シェフが受けるインスピレーションとは。うつわ単体の魅力と料理を盛ってさらに映えるうつわの美しさをお楽しみください。
牡丹餅と呼ばれる景色が現れているまな板皿です。牡丹餅というのは、窯の中で焼く際に、板の上に他の作品を乗せて焼成したことで現れる景色ですが、このまな板は本来うつわとして作られたものではなく、作品を乗せるための窯道具だったようです。(備前焼1より)
骨付きサドルバックロースのトンカツ
「お皿自体が力強く、最初に見た瞬間、骨付きサドルバックが頭に浮かびました。このお皿に負けないような力強さで料理を盛りたい。お皿に浮かび上がる丸い景色を活かしながらも、料理気が際立たせるにはどうしたらいいか。そう考えたときに、骨がガンとつきでるような盛り方にしようと決めました。
この「骨付サドルバックロースのトンカツ」は、鹿児島県の「ふくどめ小牧場」で大切に育てられたイギリス原産のサドルバック種の豚を使っています。サドルバック種は古来からある品種ですが、イギリスでは絶滅し、アメリカに6頭だけ残っていたものを牧場主の福留さんが譲り受け、改良しながら育てています。
放し飼いでのんびりと育てられた「サドルバック」は、週に1~2頭しか出荷されない希少な豚肉としても知られています。人肌で溶ける脂身の柔らかさが特徴ですが、ただ柔らかいだけでなく、サシが入って弾力もある昔ながらの豚肉の美味しさを味わえます。
手をかけ過ぎず、シンプルに骨付きのままトンカツにしました。米油で揚げて肉汁をとじこめてしっとり仕上げる。器に負けないインパクトのある料理になっていると思います。」緒方シェフ
茶席の炉の中を整えるために灰を盛っておく灰器、または焙烙(ほうろく)と呼ばれる道具です。灰器に食べ物を盛るなど言語道断とおっしゃる方もお見えになるかもしれませんが、古い時代の灰器は素晴らしい味わいを持っているものが多いのです。(備前焼1より)
特製デミグラスソースで仕上げたハヤシライス
「本来は食器ではないということでしたが、食器にもちょうどよい大きさと深みがあります。この灰器も、最初に見た時から茶色の料理を合わせて、備前の世界観を活かそうと思いました。
でもカレーではなくハヤシライス。肉や具材のゴツゴツしたルーと少しのご飯を盛って、まわりに余白を残す。どちらかというとシックな盛り付けかもしれません。
ハヤシライスはじっくり煮込んだ特製のデミグラスソースを使ったものです。ソースは濃厚だけれども、肉や玉ねぎなど食材の食感や味わいをしっかり残して、ご飯との相性を愉しんでいただくよう作っています。
おがたはカレーというイメージですが、このハヤシライスもおすすめの1品。どこか懐かしさも感じていただける味わいになっていると思います。」 緒方シェフ

緒方博行(おがたひろゆき)
熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。

■洋食おがた
京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺32-1
075-223-2230
11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O,)
休 火曜、月1回不定休