BLOG京都グルメタクシー2019.09.27

おいしい京都案内 | 記憶に残る京都の素敵な料理人

By岩間孝志

フランス料理の修業経験を持つ「京都グルメタクシー」ドライバーによる、隠れ家京都グルメ案内【京都グルメタクシードライバー日記】。今回は、たくさんのグルメと出会ってきた中から記憶に強く残ったお店をご紹介。

「京都グルメタクシー」を立ち上げてすでに9が経とうとしています。当初は「おいしいお店」を探すのが目的でしたが、次第に「お客様のニーズにあったお店」を探すことに変わっていきました。「美味しい」という部分では同じ目的のように思えるのですが、私にもやはり嗜好があり、それが時としてお客さま好みの店を探す邪魔になることがあります。それを極力少なくして情報を客観的にご紹介するのが、タクシードライバーの枠を超えた「グルメタクシー」だと思っています。

 こんにちは!京都グルメタクシーの岩間です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。さて今回は少し趣向を変えて、「おいしいお店」のリストつくりで出会った料理人の話をしたいと思います。

 私が店選びで重要視しているのはお店そのものではなく料理人やサービススタッフがどんな流れで仕事をしているかということ。有名店や人気店で修業された方を優先するのではなく、修業店でどういった経験をされ、その後どんな経緯でお店を開かれたかを一番知りたいと思っています。だれに影響をうけたか、どの料理に感銘を受けたのか。料理人の人生をたどることこそ、その店の「料理」という作品を理解できると思っています。これまで出会ったなかで、人生の歩みや想いが料理に反映されていると感じる料理人をご紹介いたします。

☆☆☆ ル・ピックアシエット (Le pique-assiette) 田邉正明シェフ

「リヨン風魚のクネル ホタテ・天使の海老のポワレ添え ズワイガニのアメリケーヌ」

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 田邉シェフと出会ったのは20137月。その当時のメニューは「オレガノ風味ツブ貝 トマトコンソメ ババロア 塩豚のテリーヌ」「鯛のポワレ」「バベットステーキ 赤ワインと黒こしょうのソース アッシュパルマンティエ」など、フランス料理の王道という構成でした。さらに私が修業したフランスのエリアの料理と似通った方向性を感じ取ることができました。

とにかく肉料理の印象が強いお店です。付け合わせもメインにぴったりリンクしていて、なかでもジャガイモ料理は賞賛したい味です。その後お客様も多くご紹介させてもらいました。プライベートで8回目の訪問時にでたのが、この「リヨン風魚のクネル」でした。あの味♪そう、私が修業時代訪問したリヨンにある「ピエール・オルシー」のオマール海老の料理ともつながるおいしさ。ここは肉料理だけではないと改めて思わせられました。現地そのものの味にも驚かされました。

料理人は人や街からも影響を受けます。田邉シェフは若い頃に一度リヨンの料理に出会い、その後、再度リヨンを研修先に選んだという熱い想いのある人です。リヨンで出会った料理が自分のつくりたいフレンチに通じたのでしょうね。もしも、自らの料理にまだ満足できていない料理人がいたら、今からでも遅くはありません。お気に入りの街や尊敬できる師匠を探してもいいのかもしれません。田邉シェフの「リヨン愛」が彼のフランス料理の技術をさらに向上させ、それと同時にリヨンという土地が田邊シェフを望んだのかもしれません。

 照れながら「料理はすこし時代遅れかもしれません」と直向きにおっしゃるシェフの笑みを見ていると、分厚いフランス料理の本を片手に学んだ一人として、このお店の計り知れない潜在能力を感じさせられます。前進し続けるリヨン料理を、ぜひこちらで堪能してください。

■ル・ピックアシエット (Le pique-assiette)

京都府京都市東山区下馬町491 アースコート清水 1F
075-531-9850
ランチ 12:00~15:00(13:30L.O
ディナー18:00~22:30 (20:30L.O)
定休月曜日 (祝日の場合は火曜日)
※その他不定休あり
http://le-pique-assiette.com/

☆☆☆ 自家製紛 手打ち十割そばみとしろ 戸田新二さん

「海老天辛味せいろ(天然海老 薩摩芋 ししとう えのき)」

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 蕎麦屋さんですが、天ぷらの画像を掲載しています。地元のファンに「から汁」と親しまれる「十割辛み大根 せいろ蕎麦」が人気の品。産地を問わず日本全国から仕入れる蕎麦粉で打つ、十割蕎麦を食べることができます。戸田さんの蕎麦は十割の良さが前面にでているのですが、最近さらにキレの良さを感じます。蕎麦を打つ際の店主の流儀をお聞きしました。

 「三だて」 挽きたて 打ちたて 茹でたて

ということです。つまりつくっておいた蕎麦を出すことはないということですね。薬味や山葵も切りたてです。つゆは関東風で濃く、蕎麦は北海道産+天然水で「細い。腰がある。すこし甘い香り。蕎麦自体の香り。雑味なし」と初訪問のブログ記事に書きました。ですが、今回は天ぷらに注目しました。戸田さんにこの店の蕎麦の打ち方をお聞きすると「秘密♪」と苦笑い。まったく教えてくれません(笑)。天ぷらは関西風ですが、すこし「ベニエ」(フランスの衣にビールを入れた揚げ物)に似た「外はカリっと、中はまったり」の揚げ具合で、衣と具材が一体化しています。ある程度油が衣に残っているのですが、そこがこの店の持ち味。なんともやみつきになる衣なのです。

 戸田さんはいつも笑顔で楽しんで仕事をされています。食べているお客様の表情を見ると同時に、食材を真剣に見つめます。その繰り返しが、美味しい蕎麦を生み出すのでしょう。料理についていろいろ相談してみると、彼の引き出しの多さに驚かされます。お店は不便な場所にあって比較的空いていますが、もし中心部や駅前にあったら行列ができるだろうと思ったり。蕎麦のあとは、「そばがき善哉」2人前から対応)をぜひお試しください。この甘味にも、店主の想いが込められています。

■みとしろ

京都府京都市北区大宮西総門口町45
075-493-3990
ランチ 月~土・第1・2日曜11:30~15:00
ディナー 月・火・水・木・土18:30~20:30(LO)
金曜日夜休み
定休日第3・4・5日曜、第1・2日曜の夜

☆☆☆ プッチーロ (PUCCIRO) 木村雄一郎シェフ

「定番 マンマ直伝のミートソースの手打ちスパゲッティ(自家製麺)」

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9月中にスパゲッティ→タリアテッレに変更予定

 「大宮通りにおいしいミートソースのお店がある」という噂を聞いたのが2012年。当時はフランス料理店以上にイタリア料理店が乱立する時代でもありましたし、パスタはすでに「手打ち麺」優勢の状況でした。食通の方々の口コミは最良の店選び手段です。イタリア料理ファンのなかには毎日パスタを食べる勢いある食通もいました。そんななかで、この「ミートソース」の噂が聞こえてくるということは、よほどのことだと思いました。

 挽肉たっぷりのミートソースは赤みがかっておらず、熟成したうまみが凝縮されています。後味は意外とすっきり爽快。一口目から「おいしい」と感じるのではなく、半分ぐらい食べてからじわじわと「おいしい」と思えてくる味です。「毎日食べたいミートソース」とは、と考えさせられる味なんです。この、ミートソースができあがるまでには、不思議な出会いがあったことを、後に木村シェフから聞きました。

 木村シェフが勉強のためイタリアのお肉屋さんでホームステイをしていたとき、そこのマダム(マンマ)に教えてもらったのが、このミートソースだったそうです。通常料理人は人気レストランの味を参考にしますが、たまたまご縁のあった家庭の味を参考にしたのです。その後、木村シェフの技法やレシピをソースに加え、現在のプッチーロの味に仕上げたそうです。だからいい意味で「家で食べるような安心感のある味」です。長時間かけて煮込み、仕上がるミートソースを食べ、心温まるマンマの味を感じてくださいね。

■プッチーロ (PUCCIRO)

京都府京都市下京区大宮通高辻下ル高辻大宮町123 モンテベルデ壬生 1F
075-842-1616
ランチ 11:30~14:30(L.O.13:30)
ディナー 18:00~22:30(L.O.21:30)
定休日 木曜日 不定休あり
http://pucciro.com/index.html

☆☆☆ わかば 五十嵐 博文さん

「ジャンボ海老フライ 自家製タルタル添え」

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 私の自宅から歩いて行けるお店で、現役Jリーガーも訪れる人気店です。和洋にこだわらず常時100種類以上ある低価格メニューを惜しみなく提供してくれます。店主の五十嵐さんはお人柄最高の方で、元料理人の私からみても、料理に向き合う姿勢がすばらしい

お店は、昭和なサラリーマンの憩いの場・高架下にあります。この店の大切な存在が博文さんのお母様。フライなどを揚げながら、カウンターの中で息子さんを見守っておられます。おふたりの漫才のようなやり取りや、親子の会話が、終始ゲストを楽しませてくれます。エンターテイメントのように楽しいお二人の素敵な会話にお客さんも加わり、和やかな時間が過ぎていくのです。

 五十嵐さん親子が生み出す料理は広範囲で充実しています。記憶に残っているのは、「刺身盛り合わせ」「磯辺揚げ」「カキフライ」「海老フライ」「しらすの天ぷら」「鯖寿司」「いなり」などきりがないほど。特に印象的だったのが「ジャンボ海老フライ」です。

 30センチはあるでしょうか。ガッツリ衣がついたぷりっぷり!の大海老。このビジュアルのすごさに「満足間違いなし」と思わされます。「自家製タルタル」は、洋食屋さんも含め私がこれまで頂いた中でもなかなか巡り合えない見事なソースでした。玉子の黄身と白身、パセリ、塩、胡椒が上手く混ざり合い、いい塩梅なソースに仕上がっています。これをつけて食べるとさらにエビフライがおいしくなります。「名脇役ここにあり」と言いたげに輝いています♪

 このお店のことをわかりやすく解説するなら「お客様とは親身に、料理には緊張感をもつ」ということでしょう。店主やお母様は客と日々起こったことや、スポーツの話をするけれど、料理に関しては気をぬかず、上質なおいしさを目指していることがわかります。その姿勢があるからこそ、常連さんが足を向けるのでしょう。近鉄高架下の「わかばスタジアム」をお訪ねください。

■わかば

京都府京都市伏見区観音寺町 桃山御陵駅のガード下
075-621-3719
17:00~24:00(23:00LO)
定休日日曜・祝日
http://aquadina.com/kyoto/spot/8330/

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 「おいしい出会い。記憶に残る京都の素敵な料理人」特集はいかがだったでしょうか。「出会い」「街」「時間」「家族」、料理は様々な背景があって生まれます。どこかのレシピを真似た料理より、ストーリーのある店独自の料理は親しまれ、人を幸せにします。自著の2冊(「おいしい京都」「もっと食べたい京都」でも、多くのお店をご紹介していますが、やっぱり私は料理人が好きなのだなあと、あらためて思っています。

かつて私は「京都口コミ食べ歩き情報」(現在終了)という口コミに特化したサイトを運営していました。当時知り合ったグルメな仲間とは今でもオフ会やメールで情報交換をしています。口コミはつねに「黄金の導き」です。おいしさへの近道でもあります。精査した情報の中から「京都グルメタクシー」のコースプランをつくっているので、精度は上がっていると思っております。何気なく食べた「おにぎり」が、ある人にとっては「最高クラスのグルメ」ということもあるでしょう一人一人、心に響く料理は別です。食べたときに感じる様々な感動を、これからも伝えていきたいと思います。

料理人や職人に出会う時間や知識はかけがえのないものです。すばらしい人々や料理に出会うきっかけを増やしてくれるのが「京都知新」でもあります。京都グルメタクシーもお客様により多くの出会いを持ってもらえればと思っています。グルメ情報満載の「食知新」。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます!

岩間孝志いわまたかし

1968年・東京生まれ 70年・京都市伏見区に移住 91年・辻調理フランス校へ留学 現地レストラン研修後帰国、京都ホテルグループで勤務。その後タクシー会社勤務、途中バックデザイナーを経てタクシー業界に復帰、2010年・法人タクシーで「京都グルメタクシー」を旗揚げ、2015年・個人タクシーとして独立。著書に「おいしい京都」「もっとたべたい京都」PHP研究所)があり、現在は京都府文化観光大使としてテレビ、ラジオ、雑誌等で活躍している。

京都グルメタクシーブログhttps://archette.exblog.jp/