BLOG外国人料理人奮闘記2019.09.24

イタリア人料理人 フランチェスコ・ビアンキさんの「駅」と「七転び八起」

和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。

6回目に登場いただくのは、「木乃婦」で板前修業をするイタリア人のフランチェスコ・ビアンキさんです。京都市が日本料理の海外への普及を目的に「就労しながら日本料理を学ぶ」外国人を募集。その審査に合格して20194月に来日、日本料理を学ぶ日々を過ごしています。

日本料理の淡麗で素直な味わいが好き

みなさん、こんにちは。イタリアから来たフランチェスコ・ビアンキです。4月から京都の日本料理店「木乃婦」で修業をしています。もともと日本の文化や歴史が好きで、中学生の頃から日本語を勉強していました。イタリアでも和食をはじめ、天ぷらやラーメンなど日本の料理を食べたことがあって、日本料理にも興味をもっていました。

学校を卒業してからは、料理人を目指してイタリア料理店で働いていましたが、その頃から、いつかは日本料理も学んでみたいと思っていました。イタリア料理と同様に、日本料理は素材の味はもちろん食感や香りなどそれぞれが持つ個性を大切にします。凝ったソースを使うわけではないのに、味わい深い日本料理は、私にとって神秘であり、その流儀や作法を知りたいと思っていました。

京都市の募集に応募して念願の京都修業へ

そんななか、ロンドンで料理人修業をしている友人が、京都で日本料理を学びながら働けるプログラムがあると教えてくれました。2年半ほど前だと思います。ぜひ参加したいと思って申し込み、審査に通ることができました。本当にラッキー! 夢がかないました。

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今は八寸場で仕込みのお手伝い

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9月で京都に来て5カ月になります。木乃婦で働くほかの板前さんたちと一緒に寮で暮らしています。造り場、焼き場、炊き場、八寸場などいろいろな持ち場があるのですが、2ヶ月ごとに違う持ち場で働く仕組みで、今は八寸場で仕込みなどを手伝っています。朝は9時から板場に入って、細かな調理を教えていただきながら働きます。

料理ごとに先輩方が包丁など道具の使い方から、調理法、レシピなどを教えてくださいます。今、直接指導してくださるのは、4年生の勝部さんです。厚焼き玉子の作り方や鯖寿司の巻き方など、何度も質問するわたしに面倒がらず丁寧に教えてくださいます。ほんとうに感謝しています。

日本料理は、レシピがあっても、それだけで作れる料理ではありません。一つひとつの繊細な技術を繰り返して体にたたきこみ、自分のものにしなければいけないからです。すべてを身に付けるには、気の遠くなるような時間を要するでしょう。味覚だけでなく、食材などの感触や匂い、調理の音など五感を駆使して学ぶことを、ここに来て教えられました。

休憩時間に「桂むき」が日課です

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午後には2時間ほどの休憩時間がありますが、その時間も自主的に「桂むき」の練習など、ひとりでできることを繰り返します。桂むきだけでも、上手くできるようになるには1年くらいはかかるのではないでしょうか。けれど少しずつ何かができるようになっていく。その達成感が今はモチベーションです。

休憩後は夜の料理の仕込み。仕事を終わって寮に帰るのは8時頃でしょうか。そういう意味では長時間ですが、今のわたしにとっては、あっという間なんです。

慶応大学の先生に取材を受けました

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ところで、先日、慶応大学で外国人の就労について研究されているグレッグ先生の取材を受けました。今後は外国人労働者が増えてくることから、どのように料理法や技術を伝えるか、どうすれば外国人が日本の料理店に上手くなじんで働けるかなどを研究されているそうです。習慣も言葉も違う国の料理を教え、教えられることはほんとうに大変。私たちの意見が、これから日本に来る人のために少しでも役にたてばうれしいですね。

将来も大切だけれど、今が大事

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休みは週に1,2回。初めてのお給料で買ったピアノの練習をしていることもあれば、ボルダリングをするために外出することもあります。お寺や神社も訪れたいのですが。それは、これから先の楽しみです。

今はまだ、あまり深く将来のことは考えていません。ただ、もっと料理を学びたい。ここでの研修が3年になるか5年になるかはわかりませんが、その後も、できることなら日本にいて天ぷら店や鮨店でも学んでみたい。イタリアに帰ったら以前とは違うイタリア料理も身に付けたい。まだしばらくは、将来のためにさまざまな料理を学ぶ時期だと思っています。

好きな漢字は「駅」、好きな言葉は「七転び八起」

漢字はほんとうに面白い。たとえば「駅」という漢字には「馬」という文字が入っていますが、それは、街道の宿場など人が集まる場所で馬を乗り換えたからだそうです。列車が走るようになっても、その場所は「駅」と呼ばれたんですね。アルファベットとは違って、文字一つひとつにも意味がある。ほんとうに興味深い。

好きな言葉は「七転び八起」。この言葉には力強さを感じます。どんな辛いことがあってもへこたれない心身を養うことが大切だと気づかされます。魚の三枚おろしが上手くできなかったときなど、私はしばらく落ち込みます。けれど、いつまでも落ち込んでいては、前に進めません。気持ちを入れ替えてまた新たに挑みます。そういうことを繰り返し経験していくうちに、自分に力がついていくのだと信じています。

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■木乃婦

京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416
075-352-0001
12:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)
休 水曜