飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は鎌倉時代に日本にもたらされ、以来、京都の和食に重用されてきた「湯葉」をご紹介します。
精進料理は、鎌倉時代に道元禅師や栄西禅師によって宋(現在の中国)から京にもたらされたと伝えられる。おそらく湯葉も、そのタイミングで持ち帰られたのだろう。
中国で豆腐や湯葉が誕生したのは、およそ2千年も前で、湯葉は豆腐をつくる際の副産物だったともいわれている。豆腐をつくるために温かい豆乳を桶に入れて置いていたところ、表面に膜がはって湯葉ができていたそうだ。はじめて食べた人は本当に勇気がある。私だったら、そんな膜はおもわず引っ剥がして捨ててしまうだろう。
江戸時代になると、精進料理だけでなく一般的な料理にも湯葉は用いられるようになった。なめらかな口当たりと香ばしい大豆の風味、栄養価も高いとあって、今も人気の食材だ。
豆乳の濃度が濃いうちにつまんで汲み上げる「汲み上げ湯葉」のほか、表面に張った膜を引き上げ、乾燥させずにそのまま食べる「生湯葉」、引き上げた後に乾燥させる「乾燥湯葉(干湯葉)」など、多彩な湯葉が専門店の店頭に並ぶ。
「汲み上げ湯葉」は濃い大豆の風味と甘味もあってミルキー、「生湯葉」は淡泊でなめらか。いずれも、醤油と山葵でそのまま味わうほか、和え物にしたり、あんかけにしたりとさまざまな料理で美味しく味わえる。
京都に観光で来られる方は、「汲み上げ湯葉」や「生湯葉」をお土産に買って帰られることが多いが、私のおすすめは常備できる「乾燥湯葉」だ。
お味噌汁や鍋物、煮物に入れると生湯葉とはまた違った、しっかりとした食感や深い大豆の味を楽しめる。
さらに言うなら、実は生よりも乾燥のほうが、栄養価が高い。たんぱく質やカルシウムは生の倍ほどもある。脂質や糖質も乾燥のほうが高いから、その分味にコクがある。
お湯で戻してサラダやオムレツ、うどんの具材などにする。
最近私は、フリーズドライのお味噌汁と一緒に乾燥の小巻湯葉を入れ、お湯を注ぐだけというズボラ味噌汁にはまっている。柔らかくなり過ぎず、味噌の味を含んでとっても美味。
邪道と思いつつもやめられない。
ところで、みなさんは甘湯葉をご存知だろうか?
何度も湯葉を引き上げて、豆乳が少なくなって濃くなったときにできるのが甘湯葉だ。
あまり知られていないが、名前の通りほんとうに甘くて滋味深い。そのまま食べてもいいし、サッと素揚げにしてチップスにしてもいい。
私はビールやハイボールのツマミとして食べることが多い。
先日うかがったホテルの朝ごはんにこの甘湯葉が登場して驚いた。
色とりどりの野菜サラダに甘湯葉が添えられていたのだ。パリッと割って野菜と一緒に食べてもいいし、そのまま齧って食感や風味を楽しんでもいい。
なんとも京都らしい朝ごはんだと思った。
「東山 四季花木」は、2019年11月にオープンしたばかり。全8室のスモールラグジュアリーホテルである。地下鉄「東山駅」のほぼ真上。岡崎や東山への観光に最適なロケーションで、観光にもってこい。1室ごとに間取りや家具・調度が違い、好みの部屋を選べるのもいい。
洗練された雰囲気ながらもホッと落ち着けるのは、自然木や石材をできるかぎり使い、唐紙や障子、格子といった和の要素も取り入れるからだろうか。
ホテルオーナーの川上さん夫妻は、ご主人が一級建築士、奥様がインテリアコーディネータ―という建築のプロ。数々のホテルを手掛け、世界各地へ旅するなかで「いつか自分たちの目線で、好みに合うホテルをつくりたい」と思ったそうだ。
構想10年以上、2年の歳月をかけて、想いを込めたホテルを開業した。
朝ごはんは、京都産を中心にした新鮮野菜のサラダ、湯波半の甘湯葉
美山のプレーンヨーグルト、花かごパン製のパンを数種、大原・山田農園の半熟卵
季節のジュース、walden woods kyotoのコーヒーなど、秀逸な食材を集めたプリミティブなもの。野菜中心だから完食しても体は軽い。
なかなか自分ではここまでの朝ごはんはつくれないから、時間をかけ優雅にじっくり味わった。
ただし、朝ごはんは宿泊者のみいただけるメニュー。京都に暮らしているとそうそう宿泊もできないが、旅の方にはぜひともこの充実の朝食を味わっていただきたい。
■東山 四季花木
京都市東山区三条通白川橋西入今小路町85-1
075-744-6654
https://www.shikikaboku.jp