BLOG京のほっこり菜時記2019.08.16

「万願寺とうがらし」

By中井シノブ

飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は京都の夏の京野菜「万願寺とうがらし」をご紹介します。

あまり言われていないが、「とうがらし」が京野菜に占める割合はあんがい多い。京都以外でもでまわるようになった「万願寺とうがらし」は今やだれもが知る夏の野菜。ほかにも、「伏見とうがらし」「山科とうがらし」「鷹峯とうがらし」がある。

それぞれに個性があって、どれも美味しいのだが、「山科とうがらし」や「鷹峯とうがらし」は栽培量がそれほど多くないこともあって、京都では購入できても他府県ではなかなか手に入らない。実際のところ、稀少だからこそ、京都で食べる楽しみもある。

「万願寺とうがらし」は、舞鶴市の万願寺という地区の在来種で「伏見とうがらし」と「カリフォルニア・ワンダー」の交配種だと言われている。大正末期頃からつくられた品種で比較的新しい。肉厚で艶やか。独特の風味があって柔らかく、甘味があるのが特徴だ。

一方、「伏見とうがらし」の歴史は古い。江戸時代の書物にはもうその名が記されているらしい。緑鮮やかで艶やか、皮もやわらかで辛味は少ない。

「山科とうがらし」は、コロンとして小ぶり。左京区田中のあたりで栽培した「田中とうがらし」がルーツだといわれている。このとうがらしも辛味はなくやわらかいのが特徴。

そして「鷹峯とうがらし」。その名のとおり、北区鷹峯で栽培されている。栽培が難しいことからわずかな土地でしかつくられておらず、農家の方の振り売りなどで手に入るくらい。もし、京都の料理屋で出合ったらラッキー。その日はいいことがあるかも!?

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こうして説明していると、京都のとうがらしはどれも辛くない。インドや韓国、メキシコのとうがらしはどれも辛い!というか食べると痛いのに。京都産はなぜか甘い。だが、ごく稀に、ひとつだけ辛いものがあったりして。出合ったらラッキーなのか、アンラッキーなのか。

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「万願寺とおじゃこの炊いたん」や「焼きとうがらし」などは、和食店でだされることが多いメニューだが、「万願寺とうがらし」は、イタリアンなど洋食店でも見ることが多くなった。赤と緑の美しい色合いは、まさにイタリアンカラーで、料理が映える。

とはいえ、私は炊いたり焼いたりして食べてしまう。手軽なのに風味をダイレクトに楽しめるというのもその理由で、レンジでチンとあたため、鰹節をパラパラかけるだけ。それでも十分美味しいからありがたい。

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西木屋町に「レボリューションブックス」という立ち飲み店がある。この店が面白いのは、立ち飲み店ではあるが、書店でもあるということ。店内には、食関係の本が並ぶブックコーナーがあるのだ。カウンターで立って飲んでいると、その後ろをすり抜けるようにして奥の書棚に行き、熱心に本を探す人がいたりする。

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店主の西谷将嗣さんは、元ミュージシャン。「自分が行きたい店をつくった」そうだ。
壁に貼られた約100種もあるアテから2,3品選び、それを肴に麦酒やサワーを昼から楽しむ。思い立ったように途中で本を見に行く。本と酒が好きな私にとっては、まさにパラダイス的な酒場なのだ。

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料理はどれもレベルが高く、なかでも人気ラーメン店「夢を語れ」の叉焼を持った「豚皿」や熱々でジューシーな「唐揚げ」は、ぜひ食べてほしい一品。

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とうがらしのメニューももちろんある。焼きとうがらしを注文すると、目の前でさっと炙って鰹節をかけてだしてくれる。豆腐の上に辛い唐辛子の醤油漬けをのせた一品も好きな料理だ。

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ほかにもみょうがの酒盗和えや鯖缶キムチなど、ひと手間工夫を加えた肴があって、ひとりでもじっくり飲める。一品300円前後~という価格帯だから、若い女性から年配の男性まで客層も広く、居心地がいい。

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ちょっと飲んではしごすることもあれば、飲み友達との待ち合わせに立ち寄ることも。いろんなふうに使えて気軽。なのに、名店に行ったのと同じくらい満足感がある。

こんな店がもっと増えてほしいが、そうなってもきっとこの店だけに通ってしまう。

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■ レボリューションブックス

京都市下京区西木屋町通り四条下がる船頭町235番地集まりC号
075-341-7331
営13:00~23:00
休月曜、火曜不定休
立ち飲み 予約不可 

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。