BLOG料理人がオフに通う店2019.08.16

「旬肴家 秀」―「蛸八」掛谷浩貴さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は割烹「蛸八」の主人、掛谷浩貴さんが通う和食店「旬肴家 秀」です。

「蛸八」掛谷浩貴さん

《プロフィール》
京都生まれ京都育ち。京都の料理屋などで修業を積み、1999年に実家である「蛸八」に入店。当初は先代の父とともにカウンターに立ち、2016年に先代が亡くなり店を継ぐ。誠実な料理や芯のある接客にはファンが多く、若手料理人たちの兄貴的存在でもある。

産地直送の季節の魚や酒がすすむ一品に、心地よく酔える穴場的居酒屋

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阪急烏丸駅から四条通を西へ5分ほど歩くと、四条西洞院交差点の手前に、「膏薬図子(こうやくのずし)」と呼ばれる風情ある石畳の路地が出現する。ここは平安時代中期、空也上人の念仏道場があったと伝わる場所。現在は民家が連なる中に飲食店がいくつもできて、知る人ぞ知るスポットとなっている。その一角、路地を入ってすぐの場所に佇む町家の建物が、今回掛谷さんがお薦めする「旬肴家 秀」だ。

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「旬肴家 秀」は2008年にオープンし、今年で12年目を迎える。町家の空間で、新鮮な魚や一品がリーズナブルに楽しめると、ビジネスマンや観光客に人気の居酒屋だ。

「『秀』の店主とは、彼が友人の店で働いていた頃からの知り合いで、オープン当初から通っています。家がお店から近いということもあり、休みの日に家族で伺います」(掛谷さん)

店主の伊藤秀諭さんが料理の世界に入ったのは、20歳の時。仕出し屋で修業した後、サントリーのグループ会社の飲食部門に勤務。その後、知人が営む鳥料理店を経て、この店を始めたという。「もともと独立して店をやるつもりでいたので、その準備期間に知り合いの店の手伝いに行かせていただいていたんです。掛谷さんはその方と同級生で、お店に食べに来られたり、また僕も蛸八さんに連れていってもらったりして、そこから仲良くしてもらうようになりました。ですから156年のおつきあいになりますね」と、伊藤さん。今もオフに互いの店へ行き合う存在だと話す。

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昭和初期に建てられた町家を利用した店内。時代を感じる壁や柱が味わい深い。「街中の賑やかすぎる場所は嫌だったので、少し離れたゆっくり落ち着けるようなところをあちこち探していた時に、ここの建物を紹介していただいたんです」(伊藤さん)

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店の奥にはテーブル席も。掛谷さんは家族で訪れると、大抵ここが定席だという。「今はもう奥さんとお2人が多いですが、昔は掛谷さんのお母さんや、奥さん、お子さんたちと一緒に自転車でご飯を食べに来られて、家族団らんを楽しんでおられましたね」(伊藤さん)掛谷さんのように家族連れの利用も多いそうだ。

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ここでは舞鶴漁港をはじめ産地から仕入れる魚介を使った本日の魚料理を中心に、人気のポテトサラダや、生麩の揚げ出し、出し巻きといった通年メニューが並ぶ。

「何を食べてもおいしいのですが、『あれが食べたい』と思う家庭料理的なものも多く、気持ちが和みます」(掛谷さん)。「女性をターゲットにスタートして、初めはもっとひねったもんを出してたんですが、来ていただく方の年齢層が比較的高くて、エイヒレとか、だんだんメニューがそっち寄りになっていきました」と、伊藤さんは笑う。

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掛谷さんが気に入ってよく注文するのが、店おすすめの「アツアツお好み焼き風月見つくね」。「鉄板の上にのせて出され、ソースをつけながら熱々をいただきます。ほかの店ではこの料理は見たことがないですね」(掛谷さん)。

軟骨入りのつくねをドーナツ状にして焼いたもので、真ん中に卵を落とし、半熟状態に仕上げて供される。トッピングは特製ソースとマヨネーズ、鰹節、刻み海苔と、見た目はまさにお好み焼きだ。これをミニコンロにのせて温かいまま食べられるのもうれしい。「掛谷さんは『つくねバーグ』って呼んではります(笑)」と伊藤さん。鶏ミンチを手ごねし、にんにくや生姜、ごまを加えたあっさりした味わいのつくねと、濃厚な半熟玉子、甘めのソースやマヨネーズが絡み合い、なんともおいしい。

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また、自慢の季節の魚料理はぜひ味わいたいところ。今の時期なら舞鶴産岩がきやマナカツオ、活け鱧など、その時々の魚を多彩な料理に仕立てる。中でも「天然お造り盛合せ」は、掛谷さんもよく頼むという一品だ。今日の内容はアジ、剣先イカ、本マグロ、信州サーモン、イシガキ鯛などのほか、コバンザメも入る。「コバンザメのように珍しいものがある時は、できるだけ入れるようにしています」と伊藤さん。毎回どんな魚が食べられるかを楽しみにしている常連客も多いそうだ。「うちは高級料理店ではないので出始めのものは無理ですけど、同じものを少しでも安く食べてもらえたらと思っています」

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掛谷さんは、ほかに「ピリ辛四川風麻婆豆腐」や「レタスチャーハン」もおすすめに挙げている。麻婆豆腐は粗挽きの豚ミンチや豆鼓醤を使った濃厚な味わいに、山椒がピリリとアクセントに。程よい辛さにご飯がすすむ。「最初は辛さ控えめだったんですが、少しずつ辛くなってきました。レタスチャーハンは、オイスター風味の肉入りのあっさりとしたチャーハン。麻婆豆腐と一緒に頼まれる方も多いですね」(伊藤さん)

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料理を味わってもらうために、日本酒は純米酒のみを扱う。

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伊藤さんにとって、もてなしでまず重視していることは、一杯目のビールだという。

「最初にビールを頼む方が多いので、そのビールがまずいのは最低ですから。最初の一杯で店の印象が変わると思います。ビールの管理やグラスの保存状態も含め、ビールをおいしい状態で出すこと。特にここにはお酒の好きな方が来られるので、どれだけおいしく飲んでもらえるかは大事やと思っています」

「ここを誰かに教えたくないという常連さんも中にはおられます。それでは困るんですけどね(笑)」(伊藤さん)

どこか懐かしさを覚える気軽な雰囲気の隠れ家で、丁寧に作られたおいしい料理と酒を味わい、会話を楽しむ。

掛谷さんにとってそうであるように、多くの常連にとっても、リラックスした時間を過ごせるオアシス的な場となっているのだ。

撮影 エディオオムラ  文 山本真由美

■旬肴家 秀

京都市下京区四条通西洞院東入る新釜座町719
075-352-2205
18:00~24:00(フードLO23:00、ドリンクLO23:30)
休 不定休