BLOG京のほっこり菜時記2019.02.08

「くもこ」

By中井シノブ

冬に東京の友人を割烹へ連れて行き、「くもこ食べる?」と聞くと、ほとんどの友人が

「くもこって何?」と聞き返す。

「えっ!東京では食べへんの?」と私はあきれ顔になる。東京では、こんな美味しいものを食べないのだろうか!と当初は驚いていた。

が、実際に料理が登場すると、「タラの白子のことか」と、逆に「なあんだ」という顔をされる。そりゃ「食べないわけはないなあ」と反省。

そう、東京ではタラの白子もフグの白子も白子と呼ぶ。今は、それを知っているから、最初から「くもこ食べる? あっ、タラの白子のこと」と説明を忘れない。

くもこは、冬に水揚げされる寒鱈(マダラ)の白子(精巣)で、一番おいしのは、1月から2月にかけてだといわれている。3月以降もないわけではないが、味が水っぽくなってくるそうだ。

生をさっと湯にくぐらせポン酢で食べる「くもこポン酢」は、トロリとしたクリーミー感を、とことん味わえる一品。もみじおろしやあさつきを添えると、その風味が刺激になって、さらに日本酒(冬は熱燗かなあ)が進む。

味自体はクセがないから、焼いたり、天ぷらにしたり、鍋に入れたりと食べ方もいろいろ。

昨年末、ビストロで「くもこのソテー」を見つけて注文した。ガーリックバターが効いた熱々をバゲットに乗せ口に運ぶと、サクッと香ばしいパンとトロリとしたくもこの食感や味が抜群に合って、その美味しさに「はあ~」とため息をもらしたほどだ。

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最近のヒットは、「麩屋町うね乃」のくもこのおでん。

鍋にも入れるから「だしと合う」ことはわかっていたが、味わってみると、ここのおでんは「合う」どころではない。ちょっとあぶったくもこの香ばしい風味が、カツオと昆布のだしに溶けだして、優しいんだけれど深い。パラリと散らした海苔がまたアクセントになる。だしもゴクゴク飲み干して、「おかわり」と言いたくなった。

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「麩屋町うね乃」は、名前の通り麩屋町通にあるおでん店だ。ビル中にあって、事務所かと思うそっけない扉にネームプレートがかかっているだけだから、最初に訪ねたときは「ここであってるの?」と入るのを戸惑った。勇気をだして扉をあけると、ふんわりとだしの香りが漂う。土壁や木のカウンターが美しい店だった。

店中央の調理台に鍋が据えられ、定番の大根やたまご、きんちゃくなどが清い味わいのだしの中で、湯気をあげながらゆるゆると炊かれている。だが、メニューを見ると、季節のおでんには「カチョカバロ」や「ポテトサラダ」など変わり種もある。

その理由は、料理長の山元さんが、元イタリアンのシェフという経歴の持ち主だから。具材によっては、だしにオリーブオイルやレモンピールを添えるなど新しい味を生み出している。

彼がイタリア料理店で腕を奮っていた頃から知っているから、「おでん店の料理長になる」と聞いたときは「挑戦だなあ」と思った。はたして、料理好きなうえに才能もある人で、試行錯誤をくりかえしながら和のだしを自分のものにした。

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開業前に何度も何度も巻いて練習したという、ふっくら優しい味わいの「だし巻き」もおすすめの一品。注文してから巻いて、だしをかけてだしてくれる。

だしが際立って美味しいからか、ここのおでんは何を食べても素材の味がイキイキしている。「おだしの国」に生まれたことを、心からよかったと思わせてくれる。

寒い日は、おでんに熱燗!

ちなみに、「くもこ」は季節メニューだから、予約の際に確認を忘れずに。

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■ 麩屋町うね乃

京都市中京区麸屋町通押小路上ル尾張町225 第二ふや町ビル103
075-213-8080
営業時間 : 17:30~23:00(LO 22:00)
定休日 : 毎週火曜日

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。