BLOG料理人がオフに通う店2021.05.21

「Osteria S.Puro」-「祇園ゆやま」の湯山猛さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「祇園ゆやま」の湯山猛さんが通う「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)」をご紹介します。

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「祇園ゆやま」 湯山猛さん

熊本県出身。大阪の寿司店を皮切りに、京都の名料亭「伊勢長」や「河富」で修業し、34歳で「先斗町ふじ田」の料理長に就任した。モットーは「料理屋は料理だけでは成り立たない。料理、雰囲気、そして何よりも人」ということ。この3つが揃って初めて、お客様にとって本当に良い店となりうるという湯山さんは、自身の店にもその考えを大切に貫いている。今も仕入れは自分の目利きで行い、季節の彩りを豊かに表現する日本料理38年のベテラン。

 五条通西大路をさらに西へ。巨大ショッピングモールのすぐ近くのビルの2階に店を構えるオーナーシェフ徳江聡さんと友香さん夫妻は、自分たちの店をオープンして4年目を迎えたばかり。
 徳江さんは福島県生まれ。若い頃、故郷のスパゲティ店でアルバイトをしていた頃から、「料理って面白い!」とのめり込んでいったそうだ。24歳の時に縁あって京都へ。イタリアン・リストランテやフレンチの名店で修業を積み、2018年、42歳の時に自宅から程近い、この地に店を開いた。

「イタリアンとフレンチの両方の世界を知っているので、自分らしく融合させた料理をお出ししたいと考えています。あとは場所柄、あまり気取りなく、リラックスしていただきながらも、きちんとしたレストランの雰囲気とおもてなしを提供したいと思っています」と徳江さん。

「最初はうちの近所で洋食でも食べようかとすごく気軽な感じで家族で訪ねたのですが、まず前菜を食べてそのおいしさに驚いて、コース料理を食べるほどに、どんどん徳江シェフの味にハマっていきました。グラスワインでいいかなと思っていたけれど、これはちゃんとボトルの良いのを頼んで、しっかり味わわないともったないぞと...(笑)。今では、記念日とか大切な集まり、といえば、必ず寄せていただいています。いつも期待以上の素晴らしい料理を出してもらっています」と湯山さんは絶賛する。
「湯山さんにそんなことを言っていただくと照れます...」と、はにかむ徳江シェフ。その表情に実直な性格が窺い知れる。

 料理はまず食材ありき、と徳江シェフは考えている。野菜にしても魚介にしても肉にしても自分自身がしっかり素材を見て、信頼できて納得いく食材を揃えることがこの仕事の第一歩だという。
 野菜は亀岡の農家から、肉は亀岡牛や丹波牛のメス肉のみ、さらに京都ポーク、そして、魚介は家からも店からも近い中央市場の馴染みの魚屋から仕入れる。
 特に亀岡の農家、栗山大(ひろし)さんとは、親交も深く、いつ行っても「今が最高に美味しい野菜」をたっぷり譲ってもらうそうだ。
「とにかく、鮮度抜群で、甘い、香りがいい、濃いの三拍子の野菜たちで、大地の力が漲っていて...。しなやかでふくよかで、どんな料理にしようか、いつもワクワクするんです」

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盛り付けの一つひとつ、細やかなところまで心を砕く徳江シェフ。妥協は絶対にしたくないという。

 ランチもディナーもシェフのお任せコースのみ。ディナーはアミューズ、前菜盛り合わせ、季節のパスタ、メイン(コースによって肉、魚からチョイス、または両方)、自家製パン、デザートで構成。料理だけでなく、パン、ソースやドレッシング、デザートまで、全てシェフ自身が手がける。
「何かと思い入れが強くて、頑固で、結構、大変、なんですよ」と妻の友香さんが微笑みながら見守る視線の向こうで、シェフが真剣な眼差しで料理に取り組む。そんな夫婦のあり方もとても好ましい。

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本日のディナーコース(5830円)から料理を抜粋。この前菜盛り合わせだけでも十分ワインが飲めてしまう。

 本日のディナーコースから、おすすめ料理をいくつか作ってもらった。
 ガラスの長皿で出された前菜盛り合わせにまずびっくりする。美しい!そしてそのボリュームも半端ない。
「お料理をチマチマお出しするのが性に合わなくて...。たっぷりと存分に召し上がって欲しいんです」
 富山産のホタルイカにプッタネスカを添えたものには、下にオレンジと新玉葱が隠されていて、重層的な深い味わい。福井県産のサワラのミキュイは梅肉と紫蘇の実を加えたトマトソースを合わせ、その隣の長崎産のキンメダイのムース仕立てに青々としたスナップエンドウを添えて。前菜の4つ目は、京都ポークのテリーヌと同じく京都ポークのリエットをシュー詰めにしたもの。どの一品も、野菜を巧みに使って味を忍ばせて、単一ではなく、複雑な妙味に満ちて、それでいて一つの力ある料理に仕上がっているのは、まさに見事!というほかはない。
 ワイン好きの集まりなら、この前菜だけで、スパークリングのボトルが軽く空いてしまいそうになるはずだ。

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ひと際華やかな魚料理の一皿。どこまでも海の旨味を引き出して、濃厚に、香り芳しく、豊かな味わいに仕立てていく。

 深い黒の丸皿に、花が一輪、ぱっと咲いたような一皿は、本日の魚料理、明石真鯛のタンバル仕立て、桜海老と白魚のガレット、鯛の白子添え。明石真鯛の上品な味わいに香ばしいガレット、魚介の旨味に満ちたブールブランソース、栗山さんの春ほうれん草が素晴らしいコンビネーション、重なり具合を見せて、最初のひと口でうっとりとしてしまう。

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春から初夏にかけて、旬菜たちの弾むような美味しさが溢れるメイン料理。肉本来の持ち味がしっかりと感じられる。

 真っ白な皿をキャンバスに見立てた絵画のように美しい一皿は、本日の肉料理、
丹波牛のステーキだ。カイノミという希少部位に、綿密に計算をして最適な火入れをして、ロゼ色に仕上げたステーキには、西洋ワサビを利かせたレフォールソースをかけて。キレがありながら、濃厚なソースを、肉らしい滋味に満ちたステーキに絡めていただけば、ボリューミーな一皿もぺろりと平らげてしまえる。添えられた赤米と筍の焼きリゾットの軽やかな食感を楽しみつつ、春キャベツとアスパラが秘めた春から初夏にかけての滋養を存分にいただく幸せ。

 どの料理にも本当にたっぷりと、いろいろな種類の野菜が、姿を変え、味を変えて登場し、料理を食べるほどに、からだの中が綺麗になって、元気の「気」が満ちてくるよう...。「素材ありき」というシェフの思いが、素材の持ち味をここまで引き出し、最高のかたちに仕立てていることを実感する。

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常連さんに人気のシェフ手作りのパン(フォカッチャ)。北海道産小麦粉を使って焼いたもっちりとした食感が自慢。予約すればテイクアウトもできる。

 愛情と熱意を込めた料理の数々は、ゆったりとしたテーブル席でいただける。店内は3つの部屋に分かれており、どの席もプライベート感が高く、家族で安心して食事ができる。
 木の優しさと深いブルーを基調にした店内には、「くつろいで、気兼ねなく、レストランの味わいを提供したい」というシェフ夫妻の思いが隅々まで息づいている。

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広々とした店内。密になることなく、家族や大切な友人と落ち着いて食事ができる。

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奥の部屋もテーブルがゆったり配置されている。

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美しい花々が出迎えてくれる。

 「京都は食の文化が古くから発展した土地なので、もともと良い食材が集まる場所。さらに少し足を延ばせば、亀岡のように豊かな農業地帯があって、自分が暮らす近くで、これだけの豊富な食材を手に入れられるというのは、料理人にとって本当に幸せなことだと思います。これからも良い食材をたっぷりと惜しみなく使って、喜んでいただける料理を提供していきたいですね」と徳江シェフ。優しい笑顔と、旬の恵みに満ちた料理にほっと癒されたくて、またすぐに行きたくなる、そんな一軒だ。

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 店名には「初心を忘れるべからず」という思いが込められているという。天性の優れた感覚と、真摯に料理に取り組む姿勢からこの店ならではの美味が生み出される。

■「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)

京都市右京区西院西寿町32−2 2F
075-748-9187
営業時間 11:30~14:30、ディナーに関しては店舗に問い合わせを。
おまかせコース料理は、昼2200円〜、夜4300円〜。
水曜定休
ランチは予約がベター、ディナーは要予約

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江