BLOG料理人がオフに通う店2020.10.10

「Bistro Ceriser」-「料理処はな」青山孝さん・美由紀さん夫婦が通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「料理処はな」の店主、青山孝さん・美由紀さん夫婦が通う「Bistro Ceriser」(ビストロ・スリージェ)をご紹介します。

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「料理処はな」の店主、青山孝さん・美由紀さん

 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で勤務しており、のちに妻となるソムリエールの美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。夫婦で茶の湯の稽古に通い、とくに魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて学んでいる。

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重厚な木の温もりに包まれる店内。家族や友人とくつろいで食事ができる。

1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナーの椎葉正子さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。
「料理は昔から変わらず、クラシカルなフランスの郷土料理を提供しています。アルザス、ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理は、たとえば日本食でいえば、肉じゃがだったり、茶碗蒸しだったり、いわゆる身近なお惣菜だと思うんです。どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでいただきたいと思っています」(椎葉さん)。

「僕がここに通い始めたのは23年前のことです。最初に伺った時から価格を超えた料理とサービスに感動しました。きちんとしたフレンチに触れたのはこのお店が初めてだったかもしれません。全ての料理の根底には、肉、魚、野菜などの素材から丁寧に抽出したフォン(だし)の深い味わいがあって、郷土料理の力強さを実感しました。以来、大ファンになり、ずっと通っています」(青山さん)

 青山さんおすすめのパテ・ド・カンパーニュは、豚ミンチ、豚レバー、グリンペッパー、くるみハーブ各種を合わせて、アルマニャックの香りを添える。材料をなめらかになるまで混ぜて、背脂で包んで蒸し焼きにするという実にオーソドックスな作り方を守っている。

「パテ・ド・カンパーニュはフレンチの定番ですし、いろいろな店で食べましたが、ここほど自分の好みにマッチした味は他にはないですね。肉の重量感があって、ねっとりとレバーの風味と血の気を感じさせて、それでいて決して重すぎない。軽くてスパイシーな赤ワインといつも楽しみます」(青山さん)

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くるみの食感が程よいアクセントのパテ・ド・カンパーニュ950円。添えられた季節の新鮮野菜とよく合う。※価格は全て税別。

青山さんがここにきたら必ず注文したくなる料理の一つが、アルザス風シュークルートだ。シュークルートとは、キャベツの酢漬けで、アルザス地方を代表する保存食のひとつである。

 見るからにボリューミーな一皿は、初めて見るひとはきっと驚くに違いない。ハーブやニンニクを利かせたソミュールという塩水に漬け込んだ豚のすね肉の煮込み(アイスバイン)に、自家製トゥールーズ風ソーセージ、フランクフルト、ロースハム、ベーコンなど自家製のシャルキュトリがたっぷりと盛られ、その下にシュークルートがこれまた、どっさりと隠れている。さらに、

じゃがいもとにんじんが添えられて、二人でシェアするとちょうど良いサイズだろう。

「シュークルートも大切な主役。とんかつのキャベツのような添え物と思われがちなのですが、肉と一緒にシュークルートもぜひ楽しんでください」(小森さん)

「この料理には、白ワインを必ず合わせます。とくによく冷えたリースリングとのマリアージュは素晴らしいと思います。ワインの心地よい味わいが、肉と野菜の塩気をまろやかに包み込んでくれて、最後まで食べ飽きしません。フランス郷土料理の熱々のおいしさを実感できる一皿です」(青山さん)

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シンプルでいて、フランスの郷土料理の真髄が味わえる一皿、アルザス風シュークルート2900円。よく冷えたアルザスのリースリングがことのほか合う。

「デザートは迷うことなく、ブラン・マンジェを注文します。一人で通っていた時も、妻と二人で来るようになってからも、子どもができて一緒に食べに来る時も、店のスタッフを連れて来る時も、みんなが美味しいと喜んでくれる締めの一皿ですね。マダムとシェフの思いがこもったデザートだと思います」(青山さん)

シェフおすすめのブラン・マンジェとキャラメルアイスの盛り合わせを頼んでみる。濃厚で香ばしいキャラメルアイスは、焦しキャラメルをつくり、ミルク、卵、生クリームをあわせて冷やしたもの。どこまでも、なめらかで後を引くおいしさにうっとりする。ブラン・マンジェは、ホールのアーモンドを砕いて、ミルク、生クリームとあわせて、香りをよく移してから、濾してゼラチンで固める。つるんとして、アーモンドの深いコクが感じられ、いつまでも甘やかな余韻が残る。

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コクのあるブラン・マンジェとほろ苦さと香味が際立つキャラメルアイス600円。

「郷土料理のレシピはとてもしっかりしていて、美味しい。それを崩す必要はないんです。せっかくそれで美味しいのに、日本人向けの料理にしようとは思っていません(笑)」(小森シェフ)

ソースの濃厚さやバターやクリームの重たさ、時にジビエな内臓のクセなども個性として一皿にしっかり表現していきたいという小森シェフ。この店のジビエを待ち兼ねるファンも少なくないと聞くが、それもうなずける。

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左:昔からマダムが大切にしているフランス郷土料理の本。右:ワインはフランス各地のものが揃う。

「昔、とても寒い時期に開店前に来てしまったことがあって...。店内でお待ちくださいと招き入れてくれて、マダムが温かなカプチーノをご馳走してくれたんです。そのおもてなしが嬉しくて、妻にもよくその思い出話をするんです」(青山さん)

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マダムの椎葉正子さん。とても明るくて笑顔が素敵な女性。

一皿のボリュームが半端ないので、二人でなら前菜二品、メイン1品、デザートとで十分満たされてしまう。分け合って食べる楽しさもまた、この店の魅力だろう。

クラシックな郷土料理と心からくつろげる笑顔とサービス。古き良き時代の人の温もりがここにはある。またすぐに癒されに行きたくなる、ここはそんな場所なのかもしれない。

撮影/津久井珠美  取材・文/ 郡 麻江

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■「Bistro Ceriser」(ビストロ・スリージェ)

京都市左京区田中下柳町1−3
075-723-5564
ランチ12:00~14:00(LO)〔※月曜〜金曜はガレットランチ、土日はビストロランチ〕、ディナー:18:30~21:00(LO)
木曜、第3水曜定休