BLOG料理人がオフに通う店2019.11.15

「貴与次郎」―「点邑」小林紀之さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「点邑」の料理長、小林紀之さんが通う「貴与次郎(きよじろう)」です。

「点邑」小林紀之さん

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《プロフィール》
東京都出身。服部学園で料理を学んだのち、京都で和食の世界へ入り、老舗旅館「俵屋」へ。「俵屋」プロデュースの天ぷら専門店「点邑」のオープンより同店料理長を務め、腕を振るっている。熟練の技による繊細な季節の一品や天ぷらは、全国に多くのファンを獲得している。

締めの土鍋ご飯もお楽しみ。名水と旬の素材で仕立てる京料理をくつろいだ雰囲気で

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二条城から程近い、商家などが立ち並ぶ静かな一角。ここに小林さんおすすめの京料理店「貴与次郎」がある。町家を改装した店舗で、上賀茂の農家から届く京野菜など、季節の食材の味を丁寧に引き出したコース料理を提供し、多くのリピーターを持つ。玄関から畳敷きの渡り廊下、庭のある渡り廊下と続く客室へのアプローチが、京都らしさを感じさせる。

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店主の堀井哲也さんは、俵屋と並ぶ老舗旅館「柊家」で料理長を務め、2011年に独立。小林さんが長年公私ともに信頼を置く料理人だ。

「堀井くんとは、彼が北海道から京都へ来たときからのおつきあい。僕が俵屋にいた頃、仕事終わりに近所の料理屋の若い子らと一緒に銭湯に行くのが習慣だったんです。同じ年月を過ごす中で、家族ぐるみのつきあいをするほどになって。お店には家族や両親を連れて行くこともあるし、俵屋の料理長の集まりにも使わせてもらっています」(小林さん)

対する堀井さんも、「当時、小林さんはあの辺の若い子の面倒をよく見ていて。僕も京都に来て2カ月程した頃に初めて小林さんにお会いしたんですが、それからずっと仲良くさせてもらっています」と振り返る。小林さんには料理の面でも人としても、多くのことを学ばせてもらったという堀井さん。店を始める際もいろいろな助言や協力を得たという。

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店内は、檜の一枚板のカウンターと掘りごたつ席、テーブル、個室を備える。
堀井さんは、お客が食べる姿を見ながら料理が作れる店にしたかったと話す。

「旅館ではお客様が食べる姿を見ることがないですし、出しにくい料理もありました。そうした点からも作り立ての状態で料理を出せる店づくりをしたいなと。お客様の様子を見て、苦手なものだとわかれば別のものに差し替えたりもします」。コースの内容も、お客の要望にできるだけ対応しているそうだ。

「(カウンターにしたのは)僕がお客様とお話しするのが大好きなこともあります。小林さんはお客様にもすごく上手に対応されますし、優しさも丁寧さも伝わってくる。そういうところも勉強させてもらっています」と、堀井さん。

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堀井さんの献立作りは、旬のおいしい食材を使い、食べる人に負担のない味付けをするのが基本だという。

「北海道にいるときから、料理人に一番大事なのはお客様の健康管理だと教えられてきました。うちでは砂糖や料理酒はほぼ使わず、食材の味に味噌、塩、醤油、酢をプラスするだけです。お客様からはたくさん食べたのに翌朝、体が楽だとよく言われます」

また、京料理において重要な水には、千利休ゆかりの名水「柳の水」を使用。柳の水を使い、血合いを抜いた鮪の削り節と日高昆布でとった一番だしは、まろやかで上品な旨味、香りが際立つ。「この水を使うと、すごく香りが立つんです」と、堀井さん。

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こちらの名物といえるのが、「鮑の白みそ仕立て」。

「コースに必ず鮑と白みそを使った椀物があり、最後に土鍋で炊いたご飯が出る。この2つは、店を代表する味だと思います」(小林さん)

堀井さんは、「旅館では白みそを使うのは正月ぐらいで、もったいないと思っていたんです。それで僕が貝好きなこともあり、白みそと相性のいい鮑を合わせました」と説明する。だしを含んだ白みそに、柔らかく煮た鮑と豆腐、水菜、柚子に、松茸などの季節野菜を添える。白みそのやわらかな旨味とコクに鮑の食感が引き立つ。

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ひき肉でごま豆腐を包んで蒸し焼きし、ごま酢をかけた「京都牛ごま豆腐包み」も、おすすめの品。肉の旨味と温かいごま豆腐のとろける食感が楽しめ、子供連れにも好評だ。夜の7千円、9千円のコースで味わえる。

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柳の水で炊く自慢の土鍋ご飯は、「ご飯が甘くてすごくおいしい」と、小林さんも絶賛。米は「八代目儀兵衛」から届く新米から、毎年柳の水に最適なものを選んで使用する。「お米本来の甘味と旨味、艶があるのが理想の炊きあがり。水に合ったお米でないと、それが出てこないんですね。うちのご飯は本当に甘くて、おかずなしで食べてもらえます。お客様から、お腹いっぱいだけど、このご飯は食べられると言っていただくのが、一番うれしい瞬間です」と、堀井さん。炊き立ての艶やかなご飯はバランスのとれたおいしさで、鯛おかかのふりかけなどのご飯のお供と楽しむことができる。

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「京料理のお店って、敷居が高くて緊張するというお客様が多いんですね。柊家に『来者帰如(わが家に帰ってきたようにくつろいでいただく)』という教えがあるのですが、うちも同じように、友達の家に遊びに行く感覚でゆっくり食事ができる雰囲気作りができればと、皆で頑張っています」と、堀井さん。

「彼の料理はもちろんだけど、やっぱり人柄が魅力。人のできないところに気付いてやってくれるので、気持ちがいい」と小林さんが言うように、堀井さんの話からは、お客に対する純粋な思いや細やかな気遣いが窺える。そんな実直な人柄が伝わるような"気持ちがいい"料理やサービスが、多くの人々に「また来たい」と思わせるのだろう。

撮影 エディオオムラ  文 山本真由美

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■貴与次郎

京都市中京区油小路通三条上ル宗林町95-2
075-213-1313
11:30~14:30(入店)、17:30~22:00(入店20:30)※要予約
休 月(祝日の場合は火)
https://kiyojirou.com/