「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は洋食店「洋食おがた」の料理人、緒方博行さんが通う焼き鳥店「炭焼きむら」です。
「洋食おがた」緒方博行さん
《プロフィール》
熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。
1串でビール3杯はいけてしまう、追い続ける京都のソウルフード
北大路駅から北大路を通りを東へ15分ほどゆくと、まだ新しい建物に、白いのれんがきりりとかかる。ここ『炭焼きむら』に、緒方さんは足しげく通っている。
「うちには月に6日定休日がありますが、イベントなどで地方へ行くことも多く、京都で晩御飯が食べられる機会は本当に少ないんです。そんななか、月に2回は訪れているのが、きむらさんです」
北大路のこちらに移転して4年目、店内はまだ新しさもある。しかし、かつては熊野神社前で64年間、10~11人掛けのカウンターと半屋外のテーブル席という風情ある佇まいの店舗を構え、備長炭で焼きあげた焼き鳥は地元の人から愛されていた。営業時間になると、もくもくと白い煙が空に昇っていたという。
「熊野神社前近くで働いていた時、通りすがりにその煙を見て、いったいどんな店なんだろう?と興味を持ったんです。うちのお客様から、老舗の焼き鳥屋さんだと教えていただき、ひとりで訪ねたのが始まりです」
「当時のカウンターは15センチくらいの奥行で、すぐ目の前に焼き台がありました。大将の鼻が私の顔にくっつきそうなほどの近さ(笑)。焼きあがったらすぐに目の前に置かれ、熱々を頬ばりながらビールで流し込む!たまりませんでしたね。今ではカウンターの奥行も広くなりましたが、その臨場感は健在です」
緒方さんには、きむらでの食べる順番のセオリーがあるという。
「まずメニューの一番最初にあるタンから順番に、一品料理以外の焼き物をひととおり。最後のイカまで食べ終えたら、2段目のトリに戻ってまた順番に。昔は二巡できたんですけど、今では一巡後はプラス3~4串。トリカワかセセリあたりで終了です(笑)」
若大将の木村龍さんも証言する。
「緒方さんとお仲間の4人くらいでいらっしゃると、みなさんは一巡するとお腹いっぱいでダウンされるんですが、緒方さんは必ず二巡目に入られます(笑)」(木村さん)
緒方さんが一番最初に口にするのがタン(税別300円)。数量限定なので予約必須。みなさんに行き渡るようにと、緒方さんも二巡目にはタンは含まないとか。やわらかさのなかにほどよい弾力があり、なんとも噛み心地がいい。
レバー(税抜き300円)。まろやかな味わいで、口の中に旨みがふわりと広がる。「きむらさんの肉は新鮮で質がいいんです。そして大きいんですよね」と緒方さんを笑顔にする肉は、「毎日仕入れて、毎日売り切る」ことを心がけているそう。
「値上げをするたびにお客様に申し訳なくて、肉がだんだん大きくなりました(笑)。でも、今お出ししているサイズが、美味しく焼ける限界ですね」と、大将の木村晴雄さんは言う。
きむらではタレか塩かを選べるが、おまかせも可。緒方さんは基本おまかせ。トリ(1本税別240円)を頼むと、GSで出てくる。GS?それはいったい――?
「カレー粉と、先代から受け継がれている自家製ニンニクタレで味付けたものです。ピリ辛のカレーのスパイスとニンニクの風味が、噛みしめるとジュワッと染みだす肉汁と見事にからみあいます。これがめちゃくちゃビールと合うんです!GSのトリ1本で生ビール3杯はいけますね!」(緒方さん)
GSとは「ゴールデン(GOLDEN)・スペシャル(SPECIAL)」の略。常連客が「ゴールデン・スペシャルで」と呼ぶうちに、いつの間にか定着したそうだ。
自家製のニンニクタレは、焼き鳥のタレに細かく刻んだニンニクを漬けこんでいる。ニンニクのパンチが効いた、キレのある味わいだ。各テーブルに置かれ、おかわり自由のつきだしのキャベツや、焼き鳥に自由にかけることができる。緒方さんはキャベツにこのタレをたっぷりかけながら、焼き鳥の焼きあがりを待つのが至福の時だとか。
大将の木村晴雄さん(写真右)、女将さんの悦子さんが焼き台に立ち、若大将の龍さん(写真左)はフロア担当。
「緒方さんは黙々と召し上がって、あまり話しかけていらっしゃることはありません。こちらの状況を見て、空気を読んでくださってるんです。それは飲食業の方特有の気遣いですね。そしてとてもお酒がお強い!焼酎の伊佐美のお湯割りを5~6杯飲まれた後に、"最後に濃い目で"と頼まれたことも(笑)。それでも顔色ひとつ変わらず、しっかりとした足取りで帰っていかれます」(龍さん)
さすがは九州・熊本県出身の緒方さんらしいエピソードだ。
「きむらさんのお店では、自分が料理人であることを忘れ、シンプルにすごい!美味しい!と思わせられます。京都に来てから通い続けている店って、実は4軒ほどなんです。その1軒がきむらさんです」(緒方さん)
熊野神社前の地元のソウルフードが、移転を経て、今では北大路のソウルフードにもなっている。しかしどこにあろうとも、緒方さんにとって、一途に思い続ける"京都"のソウルフード、それがきむらの味なのだ。
撮影 鈴木誠一 文 竹中式子
■炭焼きむら
京都市左京区下鴨西本町456
075-555-3267
17:30~23:00※串がなくなり次第終了
休 日曜、祝日
https://www.sumiyaki-kimura.com/