BLOG料理人がオフに通う店2019.05.17

「ヒダマリーノ」―「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回はイタリアン「リストリア ラディーチェ」の料理人、根本義彦さんが通うフレンチレストラン「ヒダマリーノ」です。

「リストリア ラディーチェ」根本義彦さん

プロフィール
高校の調理科で学ぶかたわら、15歳から滋賀県彦根の割烹で日本料理の修業をはじめる。卒業後は「浜作」に4年弱勤め、北新地の割烹へ。25歳の時に系列店の料理長の打診があったが、「もっと料理を学びたい」と一念発起してイタリアンの世界へ。29歳でイタリアへ渡り2年、現地の味を学んだのち帰国。木屋町のイタリアン「Vineria t.v.b(ヴィネリア ティー・ヴイ・ビー)」でシェフを務めたのち、2013年に独立し、「カジュアルな雰囲気で、本格派のイタリアンを提供する店」をテーマとした造語「リストリア(リストランテ+トラットリア)」スタイルのラディーチェをオープンした。

フレンチの軽やかさを伝える、心強い同世代

青々と茂った緑の奥に、ポッとあたたかな木の扉が浮かびあがる。京都の繁華街にありながら、森のレストランといった風情の「ヒダマリーノ」。

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"陽だまり"だと日本料理っぽいが、"~ノ"をつけることで洋のイメージを出したというヒダマリーノの天井にはぶどうのツルが這い、壁のタイルには幸福の四つ葉のクローバーがあしらわれている。店内もマイナスイオンが溢れる森のようだ。そしてその森のなかで、陽だまりのような笑顔のシェフが出迎えてくれた。

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「オーナーシェフの桝村浩史さんに出会うまでは、フレンチはフランス人に対する一方的なイメージで恐縮ですが、肩ひじ張ったちょっと気難しいものだと思っていました。でも桝村さんのつくるフレンチは、そのあたたかな性格がお皿にも現れていて、重すぎず、軽すぎず、ちょうどいい塩梅で、"こんなフレンチがあるんだ"と教えられました」

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パーティションで個室にもなるテーブル席を抜けると――。

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カウンター席が現れ、華麗な皿を生みだしていく桝村さんの様子が楽しめる。

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「桝村さんの仕事はとても丁寧です。そしてイタリアンにはない美しさがあります」という根本さんの言葉を聞いた桝村さんは、「お客様が料理をご覧になって"きれい!"と言ってくださると、"作っているのはこんな顔なんですけどね"というのが定番の持ちネタです(笑)」と笑う。

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根本さんのその言葉がよくわかる「うすいえんどう豆のムース」。ムースの上には蛤、ホタテ、北寄貝、アサリといった季節の貝のマリネが。そして貝の出汁の泡とジュレがふんわりとかかる。大人の深みと、少女の軽やかさを兼ね備えたかのような一皿。とうもろこしやブロッコリー、じゃがいもなど旬の素材を使ったムースは、毎月の定番で好評の前菜だ。

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日本料理からイタリアンへ転身した経歴を持つ根本さんは、「やっぱり、魚料理は気になるんですよね」と言う。

「イタリアンではバターを使わないのですが、フレンチではバターが大切です。桝村さんも魚料理のソースにバターを使用されますが、やっぱりこれもほどよい軽さがあるんで驚きます。火入れも私好みです。そしてつけあわせにも、とても気が配られています」(根本さん)

「金目鯛のソテー」は40度の低温で火を入れて、テーブルに出す直前にバターとオリーブオイルで表面をソテー。そうすることでバターの風味が香る、春にふさわしい魚料理だ。

「つけあわせは、一つの食材に対してさまざまなアプローチをしてつくり上げています。今回は"キャベツ"です。
① 新キャベツのペースト。自家製ベーコンに魚の出汁をブレゼして
② 葉キャベツのフリット。青々とした葉キャベツは、フリットにすると青のりに似た風味に。あおさ海苔のソースと味わいがマッチし、パリパリとした食感も楽しめる
③ 芽キャベツのロースト。春を代表するキャベツは、ローストすると甘みが増す
3種類のキャベツを用いました」

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「トマトを直接パンに塗るのが面白いんですよ! 初めて見たときは、その食べ方にビックリしました」

根本さんが目を丸くした「ヒダマリのバゲット」はコースの中ほどに挟まれる。

「実はこれ、スペインの家庭料理"パンコントマテ"なんです。パリのレストランで出合い、さわやかにパンを食べることができると、取り入れました」

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バゲットに青森産のニンニクを、次に高知のピュアトマトを直接こすり塗る。分量はそれぞれお好みで。最後に青いトマトのような風味のシチリア産オリーブオイルと、糸島の「またいちの塩」をかけていただく。半信半疑なままこすりつけたが、思った以上にパンにニンニクとトマトの味がしっかりとつき、軽やかな味わいにいくつでも食べたくなる。

「本来、パンコントマテは、すでにニンニクとトマトが塗られた状態でテーブルに運ばれます。でもお客様ご自身で塗ると楽しくありませんか? 美味しいパンを遊び心のある食べ方で召し上がっていただきたくて、このスタイルでお出ししています」(桝村さん)

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ワインや京銘茶とのペアリングにも定評のある桝村さんは、京都で修業を積み、大阪のワインダイニングを経て、生まれ故郷の京都へ戻った。そして、2014年にヒダマリーノをオープン。イタリアンのシェフとともに働いた大阪時代の10年の経験が、今の軽やかなフレンチへつながっているという。

「従来のフレンチには"重い"というイメージがあるかもしれません。それがフレンチのよいところでもあるのですが。でも私は、食べ疲れないことに気をつけています。インパクトが"ある""ない"の紙一重のところで、"ある"になるようにもっていく、その匙加減が難しいところですね」(桝村さん)

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根本さんと桝村さんは同じ1977年生まれ。実は京都には、77年生まれの料理人がとても多いそうだ。鉄板焼き「祇園 一道」関孝明さん、ワインと和食「ツネオ」岸名裕彦さん、イタリアンレストラン「フィオリスカ」渡部孝一さん――40人近い同年代が、年に2回ほど集まって飲み会を開いていた時期があった。

「桝村さんが大阪のお店に勤めていらっしゃった頃に、その77年会で出会って意気投合しました。桝村さんはイタリアンの手法についていろいろ質問されます。それがまた、私にとっても"フレンチだったらどうするんだろう?"と興味を引くいい内容で、刺激になるんです。ヒダマリーノもラディーチェも水曜定休なので、休日には一緒にいろいろなお店を巡っていますが、もっぱら料理の話ばかりしています(笑)」(根本さん)

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そうして語り合ったことが、料理に反映されることも多いと桝村さんは言う。

「ほかのジャンルからも、できるだけ吸収していきたいですね。京都という場所で、味も見た目も楽しく、印象に残る料理をつくっていきたいんです」(桝村さん)

励ましあい、高めあうことのできる桝村さんは、根本さんにとって大切な同世代なのだ。

撮影 鈴木誠一  文 竹中式子

■ヒダマリーノ

京都市下京区高倉通四条下る高材木町218
075-365-5085
12:00-15:00(L.O13:00)、18:00-23:00(L.O20:30) 
定休日 水曜
http://hidamarino.com/index.php