「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく企画。京都の和食文化が脈々と継がれ愛されてきた理由は、「料理人の柔軟性にあり」と実感できるでしょう。
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2020.03.30
祇園にしかわ「白子のポタージュ」
奇想の一皿「白子のポタージュ」着物の絵付師をしていたおじいさまに導かれるように、料理の道を志した西川さん。料理を含め、さまざまな一流のものに触れる機会を作ってもらったことが、現在の礎になったといいます。そんな西川さんが、祖父の眠る大谷祖廟にほど近い祇園・下河原に店を構えたのは2009年のこと。ほどなくミシュランに掲載され、瞬く間に京都を代表する懐石料理店のひとつとなりました。伝統文化に精通する一方、進取の気性にも富む西川さんの「奇想の一皿」をご覧ください。発想秘話二月頃というのはふぐの白子が一番おいしい時期です。白子って塩と反応すると、ものすごい「とろみ」が出るんですよ。下処理の際に思いっきり塩を使って臭み抜きをするんですが、ボウルに入れてガッガッと揉んでやると、とろみがドワーッと出てくるんです。そのとろみを見て「なにかに利用できるんちゃうかな?」と思ったのが、この料理の原点です。ふぐの白子ってね、塩で揉むと臭みが抜けて、うまみだけがしっかり残るんです。裏ごしをして、再度火にかけて塩を入れても、まだ粘り気が残っている。そういう新しい発見があったときは、使い方をあれこれ試してみますね。鯖寿司のように、ずーっと変わらず作り続けていくものもありますが、同じ料理ばかりではつまらない。店の子たちにとっても、レシピが増えていくほうがいいと思うんです。そんな思いもあって、新しい調理法は積極的に取り入れていきたいと思っています。では、白子のとろみを生かした温かいポタージュを作っていきましょう。まずは生の白子を裏ごしします。今日は時期的にふぐを使いますが、鱈の白子でも構いません。味の違い? 毎日味見をしている料理人でもない限り、まず分からないと思います。それぐらい良く似ていますね。純米酒を煮切ったところに先ほどの白子を加えます。あまりいいお酒を使うと、そっちが勝ってしまうので、普通の清酒で十分です。続いて鍋にかつお出汁を加え、塩水(えんすい)を注(さ)します。塩水というのは塩を卵白とともに水で煮詰め、えぐみだけを取り除いたもの。ものすごく塩辛いんですが、辛さはまろやかで......今日は4滴ぐらいかな。味見をして、最後に白味噌で味を調えます。使うのは<山利>さんの白味噌。味噌を入れたら火を止めます。これね、実はこないだ<山利>のご主人に「僕の作った味噌をあんまりコトコト炊かんといて欲しいんや~」って言われて、それから調理法を変えたんです(笑)。僕ら京都では「白味噌はえぐみを抜くためにコトコト炊く」って教わるんですけど、味噌屋さんは「炊かんといて欲しい」って思ってるんです。というのも、発酵食品の味噌は生きているから。火を入れすぎると香りも変わってしまいますしね。実際火の入れ方を変えてみたら、以前より「パンチの効いた味」になったんですよ。上品な、まろやかな味ではなくなった。でも白子や蟹味噌といった「味に主張のある食材」には、このほうがいいんです。上品な味噌で強い食材を味付けしようとすると、味噌感を出すために使用量が増えてしまう。そうすると、食材そのものの味がぼやけてしまうんです。椀だねは炭火で焼いた白子。焼き目が付くぐらいまでしっかりと焼き上げます。蓋つきの椀の代わりに<象彦>さんの漆器にポタージュを注ぎ、仕上げにオーガニックのオリーブオイル<BISPADO>を垂らしたら完成です。寒い時期は、まず最初にこういった温かい飲み物をお出しして、それから料理を楽しんでいただくことにしています。白子のピューレは独特のとろみがあるため、ベシャメルソースの代用品としていろんな料理に使えます。ここで生クリームを使ってしまうと一気に創作料理っぽくなってしまいますが、そういったものを使わなくても、調理法や合わせ方を変えることで、おもしろいものが作れるんじゃないかな。今回見ていただいた白味噌の使い方にしてもそうですが、僕ら料理人はもっと生産者の思いや意見に耳を傾けなくちゃいけないと思っています。彼らの思いを受けて、それをどのように料理に生かしていくか。僕自身が実践していくのはもちろん、次の世代の料理人たちにもしっかり伝えていきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■祇園にしかわ京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル075-525-177612:00~15:00(退店)、18:00~19:00(L.O.)定休日 日曜・月曜の昼 ※日曜が祝日の場合は翌日休
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2020.02.27
御幸町田がわ「伊勢海老と白子の春巻、海老味噌ソースと新海苔佃煮添え」
奇想の一皿「伊勢海老と白子の春巻、海老味噌ソースと新海苔佃煮添え」25歳のとき「同じ"ものづくり"なら、人の顔の見える仕事がしたい」と一念発起し、エンジニアから料理人へと転身。それまで包丁を握ったことすらなかったという田川さんでしたが、畑違いの厳しい世界で研鑽を積み、2017年「御幸町 田がわ」をオープン。そのわずか数か月後にミシュランで星を獲得し、周囲をあっと驚かせました。名実ともに京都を代表する料理人の一人となった田川さん。はたして、どんな奇想の一皿を見せてくれるのでしょうか。うちでは僕の出身地、三重県の魚介類を積極的に使うようにしています。鳥羽に海女さんをしている友人がいて、質のいい伊勢海老や鮑を送ってくれるんです。今日はその伊勢海老を使い、「三重の伊勢海老をいかにおいしく召し上がってもらうか」をテーマに、レシピを考えてみました。これまで伊勢海老をいろんな料理に仕立ててきましたが、今回は和食の枠を超えた一皿というお題を受けて、春巻に挑戦します。メインの具は正統派和食食材の伊勢海老と白子。そこにベシャメルソースで洋食の要素を加えます。和の食材を洋風にアレンジし、中華の調理法で仕上げる......どんな感じになるか、早速作っていきましょう。バターに薄力粉と牛乳を加え、なめらかなベシャメルソースを作ります。香ばしさとコクが際立つよう、バターをしっかり溶かしてから粉を加えるのがポイント。のちほどこれと白子のペーストを合わせ、春巻の具をまとめあげるソースにします。次に伊勢海老から海老味噌ソースに使うミソを外し、残った身と殻で伊勢海老出汁をとります。今回、この身は春巻には使いません。ミソを外した伊勢海老を殻ごと香ばしく焼き付け、昆布だし、酒を加えて20分ほど火にかけます。冷めたら濾して、伊勢海老出汁の完成。これはのちほど、海老味噌ソースを作るときに使います。伊勢海老のミソを火にかけ、溶けてきたところに先ほどの伊勢海老出汁を加え、さらにのばしていきます。ここではしっかりと海老の味を「乗せる」ことを意識して、丁寧に。赤味噌にいろんな調味料を加えた「炊き味噌」(田楽味噌)で調味し、海老味噌ソースの完成です。伊勢海老の身を高温の油でサッと「生揚げ」にし、このソースを付けて食べてもおいしいですよ。蒸した後に裏ごしし、ペースト状にしたフグの白子に、先ほどのベシャメルソースを加えます。今日は白子ペースト3に対してベシャメルソース1くらいの割合で。白子だけでも十分おいしいのですが、今回は洋風のソースと合わせ、クリームコロッケっぽく仕上げます。春巻に欠かせない筍と椎茸を太白胡麻油で炒め、さらに九条ネギ、伊勢海老を加えて炒めます。伊勢海老は事前に塩を振り、食感が分かる程度の大きさにカットしたもの。具材に火が通ったら、先ほどの白子入りベシャメルソースと合わせ、春巻の皮で巻いていきます。水分が多いので、糊付けはしっかりと。きつね色に揚がったら完成です。今日は2種類のソースを用意しました。ひとつは先ほど作った海老味噌ソース。ミソを伊勢海老出汁で伸ばした、海老のうまみたっぷりの濃厚なソースです。黒いほうは新海苔の佃煮で、酒肴としてはもちろん、ごはんのアテにも最高の一品。揚げ物との相性もいいのではないかと思い、春巻に添えてみました。普段からコースを組み立てる際には「ストーリー」を大切にしています。その時々の食材を鑑み、「何を軸にするのか」「軸をどこに持ってくるのか」を考え、先付けから水物までを一つの流れとして提案できるよう、工夫しています。例えば12月でしたら、やはり蟹を召し上がっていただきたいのですが、うちの価格帯で高価な食材をドーンとお出しするのは難しい。そこで、蟹身をたっぷり使った蟹しんじょのお椀をコースの肝に据えました。お客様の目の前でタネを擦り、おだしに落としてふわふわの出来立てを味わっていただく。いつもとは提供する順序も変え、あえて華やかで存在感のある八寸のあとにお出しする。緩急の付け方やクライマックスへの持って行き方、そういった演出も含め、さらに突き詰めていきたいと思っています。写真 ハリー中西 取材・文 鈴木敦子■ 御幸町 田がわ京都府京都市中京区夷川通御幸町西入松本町575-1075-708-5936(完全予約制)18:00~20:30最終入店不定休
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2020.01.30
割烹 まつおか「平目の肝のバターソテー」
奇想の一皿「平目の肝のバターソテー」兵庫県豊岡市出身の松岡英雄さん。大学卒業後、幼い頃から興味のあった料理の道を志し、調理師学校へ入学。大阪や神戸で修業後、木屋町の名店「割烹やました」にて腕を磨き、2012年に自身の店をオープン。以来、柔和な笑顔と確かな腕前で、着実にファンを増やし続けています。発想秘話今回は一皿に二つの料理を盛り合わせます。一品目は、魚のすり身でいくらマヨネーズを挟んだもの。二品目は平目の肝のバターソテーです。普段、店でマヨネーズは使いませんが、昨年夏に参加した「REBORN ART FESTIVAL2019 」をきっかけに、いくらでマヨネーズを作ってみました。このイベントは東日本大震災復興支援の一環として始まった「アート、音楽、食」の総合芸術祭で、今回僕は石巻のビーチに設けられた特設レストランのゲストシェフとして参加しました。その時、地元のシェフが後輩を指導しながらマヨネーズを作る様子を見て、「卵の代わりに魚卵でマヨネーズを作ったらおもしろいんじゃないか?」と思ったんです。それをヒントに作ってみたのが、このいくらマヨネーズ。マヨネーズをより美味しく味わうために、"何かやわらかいもの=練り物"で巻いてみました。とてもあっさりした一品なので、これだけでは少し物足りない。そこで、濃厚な味わいの肝のバターソテーと組み合わせました。一皿の中で「あっさり」と「こってり」、「冷たいもの」と「温かいもの」、両極端の要素を楽しんでいただきます。では作っていきましょう。裏ごししたいくらの醤油漬けにサラダ油を少しずつ加え、いくらマヨネーズを作ります。マヨネーズからいくらの水分が出てくるのを防ぐために、オブラートで包むのがポイント。これを白身魚のすり身で挟んでいきます。これが魚のすり身です。いわゆる蒲鉾や竹輪になる前のもの。もっとコクを出したい場合は、イカなどを加えてもいいと思います。あるものを使って臨機応変にということで、今回は裏返したお皿を使い、すり身を平たく成形していきます。そこに先ほどのオブラートで包んだマヨネーズを載せ、上にもう一枚、成形したすり身を被せます。するとこんな感じになります。このままではかなりやわらかいため少し固めたいのですが、熱を加えるとマヨネーズがとろけてしまう。そこで「酢」の出番です。「酢で固める」という日本料理の技法を使い、やわらかなすり身を固めていきます。この状態で1時間くらい漬けておくと、すり身がしっかり固まります。日本料理にはこういう化学的な技法が結構あるんですよ。この「酢で固める」という調理法は、おせち料理でも使います。サーモンを芯にしてすり身で巻いたものとか。酢には防腐作用もありますし、とても合理的ですよね。こちらが平目の肝です。冬場はこのように、脂がのって白っぽい色になるんです。おだしで炊いて突き出しにすることもありますが、今日は炊いた肝をカットしてバターで焼き、バルサミコのソースを合わせます。水を取り替えながら丸一日かけて血抜きをし、そのあとだしで炊いていきます。かなりしっかり味が入っているので、このまま食べても十分おいしいですよ。片栗粉をはたき、バターで両面をこんがり焼いたら、次はソースを作っていきます。バルサミコ酢に江戸柿のペーストを加えて煮詰め、最後にバターを落としてコクを出す。ちょうど、洋食のソースにジャムを忍ばせるイメージかな。ちょっと贅沢に、飴色になった完熟の江戸柿を使います。では盛り付けましょう。お皿には、慈姑(くわい)で作ったビスケットとチコリを添えます。どちらも少し苦みがあるので、脂肪分の多い肝とよく合います。ほのかな苦みが脂っぽさを和らげて、さっぱり食べられると思います。フォアグラのようにも見える平目の肝は、お酒が進む濃厚な味わいです。活けの天然ものなので、生臭さもないでしょう? とはいえ魚の肝には独特のクセがあるので、ヒネ香のある丹後あたりのお酒に合うんじゃないかな。マヨネーズを挟んだ練り物は、サラダ的な付け合わせとして召し上がってみてください。昨年9月上旬に店を一週間休んで前述のイベントに参加した際、地元の生産者や漁業関係の皆さんと話をする機会がありました。そこで「津波で全部流されたけど、みんなの『牡蠣が欲しい、〇〇が欲しい』って声があるから頑張れる」という言葉を聞いて、もっと食材を大切に扱わないといけないな、と改めて思いました。もちろん今までも頭では分かっているつもりでしたが、実際に現場の皆さんと交流する中で、ようやく肌感覚というか、身体で理解できた気がします。今日の料理は、決して店で出すことのない完全な創作料理です。お客様の希望によっては、多少冒険したものも作りますが、割烹料理の枠を大きく外れることはありません。これからも生産者の思いを胸に、素材の味を大切にした割烹料理を作っていきたいと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■割烹 まつおか京都市東山区松原通大和大路西入ル弓矢町25075-531-023317:00~22:30(L.O.)水曜休
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2019.12.27
祇園 いわさ起「テールシチューの白味噌仕立て」
奇想の一皿「テールシチューの白味噌仕立て」「祇園 丸山」で料理長を務め、2016年に自身の店「祇園 いわさ起」を開いた岩﨑道一さん。花街・祇園らしい華のあるお料理は、オープン間もなくミシュランで星を獲得するなど、各方面から高い評価を受けています。日本酒はもとより「シャンパーニュに合う」と評されることも多い、いわさ起流。その奇想の一皿をご覧ください。発想秘話今回の料理は、フレンチの定番「牛ほほ肉の赤ワイン煮」からヒントを得ました。食べながら「これを赤味噌で炊いたらどうやろ?」と思い、まずはテールを赤味噌で炊いたものを作ってみました。僕は普段から牛テールやほほ肉をよく使うんですよ。京料理というと魚のイメージが強いと思いますが、実は肉を食べたいというリクエストが意外と多くて...。たくさんはいらないけれど、どこかで"ちょっと"お肉も挟みたい。そんな声に応えるために、いろんな形でお出ししています。ただ、お出汁も一緒に味わうなら、赤味噌より白味噌のほうがいいんですよね。白味噌は味噌そのものにクリーミーさがありますが、赤味噌はさらっとしているので、例えば裏ごししたじゃがいもの餡をかけるとか、そういう工夫がないとおいしくない。白味噌のほうが脂身との相性もいいですしね。そんなわけで、今回はテールを白味噌のスープで煮込んでみました。テールスープといえば焼肉店の定番ですが、それとはまったく風合いの違う、うちらしい一品に仕立てたいと思います。まずは牛テールをほろほろになるまで炊いていきます。2回くらい煮こぼしたあと、水を換えて昆布、酒、ねぎ、生姜と一緒に5時間くらい。アクと脂を取りながら、じっくり炊きます。その後、バランスのいい「山利」さんの白味噌を溶いてさらに1時間。これでテールにしっかり味が入ります。ポイントは、テールスープに和のだしを加えた「ダブルスープ」を使う点。テールスープを一番だしで割ることで、とても上品な味わいになります。やわらかく煮込んだテール肉を骨から外します。長時間じっくり煮込んでいるので、簡単に骨から離れます。今回一緒に合わせるのは海老芋とはくさい菜です。それぞれお出汁で炊いたものを事前に温め、テールと一緒にココット鍋に盛り込んで火にかけます。海老芋の代わりに丸大根、はくさい菜の代わりに水菜、菊菜、モロッコインゲンなど使ってもおいしいですよ。陶器の器ばかりじゃおもしろくないので、今日はココットを使ってみました。これは南部鉄器のココットです。直火でぐらぐら煮立てますが、南部鉄器は熱を保存しないので、火から下ろすとすぐに落ち着きます。仕上げにねぎと辛子を乗せて完成です。柔らかく煮込んだテールは臭みもなく、白味噌のスープとよく合うでしょう? うちの料理はシャンパンとの相性を意識していて、例えばおひたしに柑橘の果汁を搾ったり、お造りに塩レモンやごま油を添えたりということをよくやります。酸味やコクを加えることで、シャンパンやワインとも合いやすくなる。僕自身が好きということもありますが、やはり祇園町の華やかなイメージとシャンパンって相性がいいと思うんです。コースの最初から最後までシャンパンで通しても違和感なく楽しめる、そんな料理が提案できたら素敵かな。京料理とそうでないものの境界線を一言で定義するのは難しいですが、やはり「ライン」というのは存在すると思います。例えば今回の料理でしたら、赤ワイン煮込みを赤味噌煮込みにしたら京料理になるのか? といえば、そう単純なものでもない。新しい要素を取り入れたあと、それを自分なりに解釈して、どう昇華させるか。いかに「京料理」として納得してもらえるものに仕立てるか。そこが腕の見せ所であり、各々の力量が問われるところじゃないでしょうか。洋食、フレンチ、イタリアン、パティスリー......和食以外のお店でヒントをもらうことも多いですし、勉強会や食事会、他ジャンルの料理人さんとの交流を通して、今後も自分の料理をブラッシュアップしていけたらいいなと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■ 祇園 いわさ起京都市東山区祇園町南側570-183075-531-053311:30~14:00入店、17:30~20:00入店不定休
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2019.11.29
上賀茂 秋山「子持ち鮎のリゾット風」
奇想の一皿「子持ち鮎のリゾット風」北山の麓、囲炉裏のある古民家で「この土地ならではの料理」に挑戦し続ける秋山直浩さん。毎朝、鷹峯「樋口農園」まで足を運び、畑と対話しながら料理の構想を練る秋山さんのお料理は、年月とともに幅を広げ、多くの人を魅了し続けています。発想秘話うちでは「だしもん」にもち米をしのばせることがままあります。もともとは「だしがもったいないからパンが欲しい」というお客様の声がきっかけでした。今回の「リゾット風」というアイデアも、そこに由来したものです。鮎については、時期的にそろそろ塩焼きにも飽きてきたので、干物にしたらどうかなと。その場合、子や内臓は塩漬けにして「うるか」にするのが一般的ですが、今回は一度外した「子」を再び鮎に戻し、一緒に食べてもらいます。外した子を再び鮎に戻すためには、なにか別の食材と合わせて練りこむ必要がある。そこで登場するのが、秋の味覚でもあるさつまいもです。秋になって子を持つようになると、鮎の味はどうしても落ちてくる。子に栄養を取られますから。鮎の味を補う意味でも、さつまいもの甘みは効果的ですね。魚の子って、加熱すると食感が「もそもそ」するじゃないですか。僕は「もそもそ」した食感があまり好きじゃないので、裏ごししたさつまいもと合わせることで、食感を滑らかにするという効果も狙いました。では調理していきましょう。鮎を開いて中骨を外し、昆布だしに塩と酒を加えた「たてじお」に漬け込んで味をなじませます。それを一夜干しにしたものがこちらですね。ここに、鮎の子を混ぜたさつまいもを挟みこんでいきます。鮎の子はぷちぷちとした食感が残るぐらいにさっと湯がき、裏ごしたさつまいもと合わせます。味付けには鮎の魚醬を使いました。何か食感を足したかったので、さっと湯がいたレンコンも一緒に挟みます。それでは炭火で焼いていきましょう。強火の遠火でじっくり30~40分くらい。頭にしっかり火を通したいので、焼き時間は長めです。だしは、かつおと昆布でとっただしに、鮎だしを加えたダブルスープです。鮎から外した中骨を利用して、鮎だしを用意しました。炙って香ばしくした中骨から煮出したものです。リゾットには鮎のほかに、合わせだしで炊いたサトイモ、千切りにした生のじゃがいも、ずいき(サトイモの上の部分)が入ります。実はこれ「芋尽くし」なんですよ。僕はこういう「〇〇尽くし」が結構好きなので、今回は芋でまとめてみました。ずいきは葛をまぶしてから葛湯で湯がき、氷水で冷やしたもの。こうするとちょうど「じゅんさい」のような、ヌルシャリっとした食感になる。生のじゃがいもはスープの熱でレアっぽさを残して......ひとつのお皿の中で、いろんな食感を楽しんでいただきます。さあ、鮎が焼きあがりました。もち米と芋尽くしの具、鮎が入った器にスープを張り、刻んだ蓼と茗荷を乗せて完成です。まず鮎を頭からかじってもらいます。スープでやらかくなる前に。身はそのままかじってもいいんですが、ほぐしながら食べすすむと子がスープに溶け出して......リゾットみたいになるでしょう? ちなみにその蓼は僕が鴨川の上流で摘んできたものです(笑)。いろんな食感を楽しみながら、スープに溶け出した鮎のうまみを味わい尽くしてください。もともと「この立地でしかできない料理が作りたい」という思いがあり、上賀茂で店を始めました。今でも毎日、市場の帰りに樋口農園さんに顔を出します。畑の様子を見ながら料理の構想を練るんです。聖護院かぶらはまだちっさいから、くたくたに炊いて鍋にしようか、とか。菊菜がこれくらいに育ってきたから、来月は菊菜のしゃぶしゃぶにしようか、とか。この場所で店を開いて13年。人手も増えて、徐々にできることが増えてきました。今回の干物もそう。ずっとやりたいという思いはあったけど、手が足りなくてできなかったことのひとつです。この素晴らしい環境で、これからもどんどん「やりたいこと」を実現していきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■上賀茂 秋山京都市北区上賀茂岡本町58075-711-513612:00~14:30(入店12:30)、18:30~22:00(入店19:30)休 水曜、月末の木曜
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2019.10.29
おたぎ「アンチョビ香るいわし担々」
奇想の一皿「アンチョビ香るいわし担々」馬場一彰さんは「和久傳」料理長を経て、2012年に独立。確かな技術と創意工夫に富んだおまかせが評判を呼び、瞬く間に予約の取れない人気店に。昨年、北大路から鷹峯に移転し、さらなる進化に注目が集まります。発想秘話独立前から「いつか自家製麺を打ちたい」という思いがあり、京都じゅうの製粉所を訪ねた時期がありました。その頃、川端にある「河村製粉」のご主人と出会い、製麺にまつわるさまざまな手ほどきを受けたんです。それ以降、そば、うどん、そうめん、中華そば......と、自家製麺のレパートリーは年を追うごとに増え、今では当店に欠かせないひと品になっています。そんなわけで、このお話をいただいた時「自家製麺で」という方向性はすぐに決まりました。今は時季的に青背の魚がおいしいので、いわしのそぼろを使った担々麺はどうかなと思い、そこから個性の強いいわしに負けないスープ、さらにはスープによく絡む麺......と組み立てていきました。麺は打ちたてがおいしいので、直前に用意します。今日使うのは、中華麺よりややうどん寄りの麺。力強いスープと合うよう、粉の配合から工夫しました。出汁にパンチを効かせるので、コシも強めに。今から切っていきますが、柳包丁を使うのが今回のポイントのひとつ。柳包丁で切ると麺に自然なしなりが出て、スープに絡みやすくなるんです。次にスープの肝となるいわしペーストを作ります。使うのはアンチョビと自家製のオイルサーディン。2種類のいわしをフードプロセッサーにかけ、できあがったものに胡麻ペーストを加えて混ぜ合わせます。これがスープの素になります。ここにお出汁を加えていきます。かつお節とあじ節の合わせ出汁。うまみの強い、濃厚な和の出汁を使います。先ほどのペーストに少しずつ出汁を加えてのばしていくと......だんだん担々麺のスープっぽくなってきたでしょう? これでスープのベースが完成。次に火を入れていきますが、ここが腕の見せどころ。魚や胡麻の油分がスープと分離するのを防ぐため、沸騰前に吉野葛を加えてつないでやるんです。この量の見極めが重要で、スープの舌触りを損なわないよう、適量を少しずつ加えていく。ざらざらしたり、だまだまになったら絶対あかんとこなので慎重に。理想的な若干のとろみ、艶が出たところで最後に味を調えます。この時点ではほぼアンチョビの塩気だけなので、砂糖と醤油を加えて......ふふ、めっちゃおいしいです(笑)。包丁で食感が残るぐらいに叩いたいわしを生姜と一緒にオリーブオイルで炒め、そぼろにしていきます。味付けはお隣の「松野醤油」さんの赤だしみそと少量の砂糖。いわしの香りが立ち上がったら出来上がり。熱湯で1分30秒茹がいたら、氷水でしっかり締めて麺が完成。盛り付けをしていきます。"食感"の叩きネギ、"香り"のあさつき、"アクセント"の生姜をトッピングして、黒七味と山椒で辛みをプラス。うん、上手にできたんちゃうかな。つるつると喉ごしのよい自家製麺に、いわしのうまみを凝縮したスープ、そして噛みしめるたびに濃厚なうまみが口いっぱいに広がるそぼろ。残ったスープは「追いメシ」で、きれいにさらえちゃってください。和と中華、さらにはイタリアンのエッセンスが加わって、おもしろい麺になったと思います。「和食の垣根を越えて」というお題でしたが、自分らしい料理ができたんじゃないかと満足しています。料理を作る際、和食の枠組みというのは常に意識しますが、オーソドックス過ぎてもうちらしくないし、かといって創作に寄り過ぎてもいけない。そのあたりのさじ加減を考えながら、自分らしい料理を提案していきたいですね。撮影 鈴木誠一 文 鈴木敦子■おたぎ京都市北区鷹峯土天井町18075-492-177117:30~20:00(L.O.)休 水曜(不定休あり)
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2019.09.30
祇園 楽味「鮎のお番茶揚げ」
奇想の一皿「鮎のお番茶揚げ」鮎の唐揚げをお番茶の香りとうるかのソースで 水野隆弘(ミズノタカヒロ)さんは岐阜県出身。名古屋のホテル内和食店で勤めた後、「祇園 さゝ木」に入店。以来15年間、佐々木浩さんの薫陶を受け、右腕といわれるまでになりました。3年前からは姉妹店「祇園 楽味」の料理長として腕を奮っています。「祇園 楽味」は、その時々の旬の食材を客の好みの味に仕立てる割烹形式の店。美味しいものを知りつくした食道楽が通うことでも知られる店です。発想秘話 鮎といえば塩焼きが定番。「祇園 楽味」に来店されるお客様のなかには、鮎の季節に何度も「塩焼き」を召し上がる方もいらして、なんとかほかに名物になるような料理をつくれないかと常々考えていました。頭なのなかには、本店の「祇園 さゝ木」で出す「子持ち鮎の唐揚げ」も浮かんでいましたが、同じものでは芸がない(笑)。そこで思いついたのが、常備菜として作られてきた伝統の味「鮎のお番茶煮」と合体させることでした。 鮎をいったん唐揚げにした後、番茶の香りを燻らせ付ける。鮎の特徴ともいえる肝はいったん取り出してうるか(内臓の塩辛)のソースにし、香りをつけた鮎の腹にもどすという料理。独特の肝の苦味や泳ぐような姿はそのままに、サプライズのある料理に挑戦しました。鮎を開いてはらわたを取り出し、うるかにしておきます。そのうるかにたっぷりの昆布と昆布だし、オイスターソース、実山椒を加えてミキサーにかけます。昆布を加えることで厚みのある旨味とねばりがでる。オイスターソースでコクを、実山椒で爽やかな辛味を添えた、鮎風味のソースになります。だしはもちろん「さゝ木」特製の味です。開いたお腹がつかないよう、クッキングペーパーを挟んで串をさし、表面に米粉を付けて揚げていきます。うちでは、唐揚げは小麦粉ではなく米粉。よその店では何粉を使っているのか知らないんですが(笑)。とにかく、米粉はカラッと揚がって食感がいいんです。中華鍋にアルミホイルを敷いて番茶を置き、網に鮎を並べて蓋をする。いわゆる燻製ですね。燻らせるのは1分くらい。身に熱が入りすぎると締まってしまいます。最後に、串を抜いてペーパーをとりだし、開いたお腹にうるかのソースを入れたらできあがり。見た目は普通の唐揚げだから、一口食べると「何か違う?」と驚きがあります。サクサクの皮にしっとり柔らかな身、噛むとうるかのソースの旨味やコクや辛味が広がる。そして最後にお番茶の香りが鼻に抜けていく。そのまま揚げるのとはまた違う美味しさがあります。この企画を依頼されたとき「和食から離れてもいい」と言われました。けれど考えれば考えるほど、洋食ではなく伝統料理に想いが向いてしまいました。まさに温故知新です。旬の時季の鮎は、シンプルな塩焼きも抜群ですが、香ばしくふくよかな味わいのこの鮎料理もぜひ食べていただきたい。家庭でつくってみるのもいいかもしれません。■ 祇園楽味京都市東山区祇園町南側570-206075-531-3733営17:30~23:00L.O.休 日曜、第2・4月曜
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2019.08.30
高台寺 十牛庵「出汁ガスパチョ」
奇想の一皿「出汁ガスパチョ」トマトとパプリカのガスパチョを和の風味で国内外でレストランやホテルを手がける「ひらまつ」が、2017年京都に料亭「高台寺 十牛庵」を開業しました。その料理長に抜擢されたのが、今回登場いただく藤原誠さんです。藤原料理長は京都祇園の名料亭で修業を積み、その後、カウンターで懐石料理を味わえる割烹料理店を京都市内に開業。その料理は華やかで美しく印象に残ると人気を博しました。「ひらまつ」に見込まれた実力派が挑む一皿を紹介します。発想秘話「高台寺 十牛庵」開業前に、社長である平松とともにフランスのレストラン巡りをさせていただきました。和食とは違う料理法や食材に出合い、目からウロコの旅でした。そんな旅で、平松から言われたのが「同じ食材を使って同じような料理を作っても、作る人によって料理は変わる。型にとらわれない料理を自由につくることも大切だ」という言葉でした。その後、同じ敷地内にある「レストランひらまつ 高台寺」で食事をしたとき、スペシャリテの「赤ピーマンのムース」の美味しさに心を打たれました。そして思ったのが、「自分が同じように赤ピーマンやトマトを使ったら別の料理になるだろうか」ということでした。とはいうものの、なかなか挑戦する機会はありませんでした。今回、このお話をいただき「そうだ!あの料理を」と思い「出汁ガスパチョ」に取り組みました。メインの食材は、甘味のあるミディトマトとパプリカ、5対1の割合です。トマトは湯むきして、パプリカは焼いて皮をとってからざっくりと切り分けます。メインの食材は、甘味のあるミディトマトとパプリカ、5対1の割合です。トマトは湯むきして、パプリカは焼いて皮をとってからざっくりと切り分けます。味のポイントになるのが、上に盛り付けるキュウリとセロリを土佐酢でさっと洗うこと。昆布と鰹という和の旨味をガスパチョに添えるのです。ガスパチョを器に少し流して油でサッと揚げた海老を盛ります。さらに流して、先ほどのキュウリとセロリ、シャインマスカットを盛り付け、ベルーガキャビアと穂紫蘇、振り柚子をして完成です。フレッシュなトマトとパプリカの青々しく爽やかな味。鰹の風味をほんのりとまとったキュウリやセロリのシャキシャキとした食感。キャビアの塩味とシャインマスカットの甘味が絶妙なバランスでなじみます。振り柚子の爽やかな香りもアクセントになっていることでしょう。ガスパチョ自体はスペインやポルトガルの料理ですが、和の旨味や香りを添えることで、味わいの緩急を求められる懐石料理の一品になる。洋の要素もありますが、食材の持ち味をそのまま活かすということでは、まさしく和食。冷たくしてガラスの器に盛り、清涼感も演出します。「同じ食材を使っても違う料理をつくる」は、フレンチにもスパニッシュにも、和食にも共通する料理人が心掛けねばならないこと。これを機に、新たな和食にも挑戦したいと改めて思いました。「一味違う和食」「ひと工夫ある和食」を生み出し、次代の和食に少しでも貢献できればと思います。撮影 竹中稔彦■ 高台寺 十牛庵京都市東山区高台寺桝屋町353075-533-606011:30〜12:30(L.O.)、17:30〜19:30(L.O.)休 月曜
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