京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は、「高台寺 十牛庵」藤原誠料理長の「出汁ガスパチョ」をご紹介します。
奇想の一皿「出汁ガスパチョ」
トマトとパプリカのガスパチョを和の風味で
国内外でレストランやホテルを手がける「ひらまつ」が、2017年京都に料亭「高台寺 十牛庵」を開業しました。その料理長に抜擢されたのが、今回登場いただく藤原誠さんです。藤原料理長は京都祇園の名料亭で修業を積み、その後、カウンターで懐石料理を味わえる割烹料理店を京都市内に開業。その料理は華やかで美しく印象に残ると人気を博しました。「ひらまつ」に見込まれた実力派が挑む一皿を紹介します。
発想秘話
「高台寺 十牛庵」開業前に、社長である平松とともにフランスのレストラン巡りをさせていただきました。和食とは違う料理法や食材に出合い、目からウロコの旅でした。そんな旅で、平松から言われたのが「同じ食材を使って同じような料理を作っても、作る人によって料理は変わる。型にとらわれない料理を自由につくることも大切だ」という言葉でした。
その後、同じ敷地内にある「レストランひらまつ 高台寺」で食事をしたとき、スペシャリテの「赤ピーマンのムース」の美味しさに心を打たれました。そして思ったのが、「自分が同じように赤ピーマンやトマトを使ったら別の料理になるだろうか」ということでした。とはいうものの、なかなか挑戦する機会はありませんでした。今回、このお話をいただき「そうだ!あの料理を」と思い「出汁ガスパチョ」に取り組みました。
メインの食材は、甘味のあるミディトマトとパプリカ、5対1の割合です。トマトは湯むきして、パプリカは焼いて皮をとってからざっくりと切り分けます。
メインの食材は、甘味のあるミディトマトとパプリカ、5対1の割合です。トマトは湯むきして、パプリカは焼いて皮をとってからざっくりと切り分けます。
味のポイントになるのが、上に盛り付けるキュウリとセロリを土佐酢でさっと洗うこと。昆布と鰹という和の旨味をガスパチョに添えるのです。
ガスパチョを器に少し流して油でサッと揚げた海老を盛ります。さらに流して、先ほどのキュウリとセロリ、シャインマスカットを盛り付け、ベルーガキャビアと穂紫蘇、振り柚子をして完成です。
フレッシュなトマトとパプリカの青々しく爽やかな味。鰹の風味をほんのりとまとったキュウリやセロリのシャキシャキとした食感。キャビアの塩味とシャインマスカットの甘味が絶妙なバランスでなじみます。振り柚子の爽やかな香りもアクセントになっていることでしょう。
ガスパチョ自体はスペインやポルトガルの料理ですが、和の旨味や香りを添えることで、味わいの緩急を求められる懐石料理の一品になる。洋の要素もありますが、食材の持ち味をそのまま活かすということでは、まさしく和食。冷たくしてガラスの器に盛り、清涼感も演出します。
「同じ食材を使っても違う料理をつくる」は、フレンチにもスパニッシュにも、和食にも共通する料理人が心掛けねばならないこと。これを機に、新たな和食にも挑戦したいと改めて思いました。「一味違う和食」「ひと工夫ある和食」を生み出し、次代の和食に少しでも貢献できればと思います。
撮影 竹中稔彦
■ 高台寺 十牛庵
京都市東山区高台寺桝屋町353
075-533-6060
11:30〜12:30(L.O.)、17:30〜19:30(L.O.)
休 月曜