「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく企画。京都の和食文化が脈々と継がれ愛されてきた理由は、「料理人の柔軟性にあり」と実感できるでしょう。
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2020.11.23
祇園もりわき「伝助穴子炙り ラズベリーソース添え」
奇想の一皿 「伝助穴子炙りラズベリーソース添え」滋賀の名店「招福楼」で長年活躍し、多くの弟子を育てた料理人・堀江隆雄さん。堀江さんの下で腕を磨いた森脇 努さんは、人気割烹「祇園おかだ」などを経て2014年に独立。祇園の一等地にありながら、旬味満載の割烹料理を手頃な価格で提供し、名だたる食通を唸らせています。発想秘話まずは素材を何にするか―これは穴子にすぐ決まりました。穴子そのものは一年中手に入る食材ですが、11月から正月ぐらいが最も脂の乗りが良く、最高の状態になります。見てください、全体的に身が白っぽいでしょう? シンプルに炭火で焼いたり、つけ焼きにしたり、松茸と合わせて鍋にしたり......。穴子料理はお客様の評判も良く、僕自身も大好きな食材のひとつです。穴子に添えるソースといえば梅肉が定番です。和食の世界で古くから受け継がれてきた伝統的な組み合わせですね。これに代わるものを提案したところで「梅肉のほうがええやん」と言われてしまっては元も子もない。昔からある梅肉ソースの代用品として、どこまで通用するものになるか。そこが一番苦心した点ですね。梅肉とは違った良さが出せたらと思います。今日用意したのは宮城産の伝助穴子です。先ほど説明したように、身にしっかりと脂が乗っているので、酸っぱいソースとの相性が抜群です。うちでは通常、梅肉醤油を添えるのですが、今回はラズベリーを使ったソースに挑戦したいと思います。まずは穴子を骨切りします。塩を振り、網にくっつかないようオリーブオイルを軽く塗ったら、炭火で焼き霜に。皮目だけをパリッと焼き上げ、中はほんのり温かい程度に仕上げます。脂がたっぷり乗っているので、煙の勢いがすごいでしょう?穴子の焼き霜を一口大に切り、ラズベリーソースと共に盛り付けます。このソースが今回の料理の肝になります。最も気を使ったのは「甘みと酸味のバランス」ですね。甘みが強いといわゆる「いやらしい味」になってしまうので、急遽甘みの少ないフレッシュのラズベリーを足して甘さを調節したり......甘味と酸味の調整が、今回もっとも苦労したところです。作り方ですか? まずはつぶしたラズベリーに煮切った酒や少量のみりん、造り醤油などを加え、たくさんの昆布と一緒に一晩ボウルで寝かせます。一日経つと昆布のうま味がソースに溶け出し、全体的にねとーっとした感じになります。鰹節を加えたものも試作しましたが、昆布だけのほうがバランスが良かったですね。ラズベリーは種が多いので裏ごしをして、最後に味を調えます。和食の「五味、五色、五法」を意識して、2色のソースで彩りました。グリーンのソースは春菊に松の実やブルーチーズを加えた和風ジェノベーゼです。添え野菜(かぶらの間引き菜)に付けてもおいしいかと思います。仕上げに土佐酢のジュレを垂らして完成です。茶色いのは岩手の友人が送ってくれた天然の香茸(こうたけ)です。「幻のきのこ」と言われる希少な茸で、名前の通り香りがすごくいいんですよ。今日はシンプルに塩とお酒でソテーしました。口に入れると香りが後からふわっと広がるのを感じます。ソースのバランスはどうですか? 偉大な先人が考案した梅肉に「勝とう」とは思っていませんが、梅肉と勝負できるソースを目指しました。僕の師であり、京都ホテルオークラ「入舟」の初代料理長を務めた堀江さんは、黄身酢にパッションフルーツを使ったり、タコをトマト煮風にしてみたりと、自由な発想をされる方でした。堀江さんからは本当に多くのことを学びましたね。とはいえ先ほども申しましたが、新しい試みが「なんちゃって料理」で終わるようでは意味がないと思うんです。以前、ある店に勤めていた時、それこそ洋風のものをいろいろ試してみたことがあるのですが、常連さんから「(洋食を意識して作るのなら)洋食を超えるものにならなきゃ無意味だぞ」と、お叱りを受けたことがあるんです。その言葉がずっと心に残っていて、今でも自分への戒めになっているように思います。実は最近、鰹節削り器を新調したんです。いろんな方に助けていただいて、ようやく理想のタイミングで椀物の鰹節を削る環境が整ってきました。「日本料理の華は椀物である」という師匠の教えを胸に、さらに椀を深めていきたいですね。毎日同じ作業を繰り返すのは大変ですが、その中で少しでも創意工夫を重ね、作業の精度を高めていくことが自分のモチベーションになっています。料理だけでなく、僕という人間も毎日少しずつ良くなりたいと思って、日々精進しています。撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■祇園もりわき京都市東山区祇園町南側570‐177075-525-103012:00~13:30(L.O)、18:00~20:30(L.O)木曜休
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2020.10.31
京料理 藤本「伊勢海老のフリット グリーンカレー風味、無花果のセサミソース添え」
奇想の一皿「伊勢海老のフリット グリーンカレー風味、無花果のセサミソース添え」2008年、30歳を目前に風情ある「ろーじ」の町家に店を構える。独立10年目に烏丸御池エリアへ移転。デザートの充実ぶりでも知られ、昼夜ともにお値打ちなコース料理が人気を博す。押小路寺町の姉妹店『悠貴』ではよりカジュアルに京料理が楽しめ、シーンによって使い分けたい。発想秘話ちょうど今が旬の無花果は甲殻類との相性がいいことで知られています。「エクルビス(アメリカザリガニ)と無花果のサラダ仕立て」はフランス料理の定番ですが、今回は無花果に伊勢海老を合わせてみようと思います。とはいえ伊勢海老のフリットに無花果のソースを合わせるだけじゃいかにも普通で面白くない。そこで、伊勢海老にグリーンカレーの風味を足して、日本、イタリア、タイのエッセンスが感じられるハイブリッドな一品に仕立てました。実は以前、外国人のお客様が「この料理にホットソースやチリソースを絡めたらおいしそう」と話すのを聞いて、スパイシーな味付けをいろいろ試してみたんです。繊細な味わいが日本料理の持ち味ですが、コースの中にひとつかふたつパンチの効いた料理があってもいいのかなと思って......。そういうわけで最近は自家製のグリーンカレーペーストを使ったりもするのですが、今回もそのペーストを使って「和食の枠」を飛び越えたいと思います。まずは無花果の酒煮を作ります。無花果は添え物ではなくソースのように使いたいので、香りを損なわないよう調味します。甘みは足さず、味付けには白味噌のたまりを使います。うちではこの無花果を冷やしたものに胡麻酢を添え、前菜にお出しすることもありますね。伊勢海老の身と味噌を殻から外します。身には軽く塩を振り、のちほどフリットに。味噌はグリーンカレーペーストの隠し味として使います。伊勢海老の味噌を塩漬けにして、自家製のカレーペーストに足してやるんです。僕は大蒜、生姜、玉ねぎ、唐辛子、パクチー、市販のスパイスなどを合わせて一から手作りしていますが、市販のグリーンカレーペーストに海老味噌の塩漬けを小さじ1杯くらい加えてもいいかと思います。我が家の冷凍庫にストックしてある自家製ペーストをココナッツオイルで炒め、カレーソースの素を作ります。まずは鍋に呼び油として少量のオリーブオイルを入れ、ココナッツミルクを加えます。ココナッツミルクを加熱して水分を飛ばし、オイルとミルクが分離したところにペーストを加えて伸ばし、香りを出します。ここに具材を入れ、ココナッツミルクで伸ばしたものがいわゆる「グリーンカレー」ですね。加熱した際に反り返らないよう伊勢海老の筋を切り、包丁を入れた箇所に先ほど作ったカレーソースを塗り込みます。フリットの衣は卵白の効果でふわふわとした食感になりますが、今日はミルクの代わりにココナッツミルクドリンクを使い、衣自体にかすかな甘みを加えました。芯まで完全に火を通さず半生ぐらいに仕上げたいので、ある程度色が変わったら出来上がりです。レアに揚がったフリットを適当な大きさにカットし、スライスした無花果と交互に重ねるよう盛り付けます。セサミソースをかけ、仕上げに振り柚子をして完成です。伊勢海老と無花果を一緒に食べると、無花果が口の中でソースのようになって、伊勢海老だけで食べるよりも味に奥行きが感じられます。無花果、ココナッツ、胡麻の香りと、ほのかに甘いフリット生地に包まれたスパイシーな伊勢海老。無花果の自然な甘みが、それらをうまくまとめあげてくれます。30年前に「これが和食? これも京料理?」と思われていた料理が、今では普通に受け入れられています。今の感覚では少々奇抜過ぎると感じる料理も、30年後には和食と呼ばれているかもしれません。時代と共に料理そのものはもちろん、料理の構成やコースのあり方も変わっていくのでしょう。少しずつ変化する世の中のニーズを受け止め、柔軟に対応していく力が、我々料理人にも必要だと感じています。「あの店のあの(名物)料理が食べたい」と楽しみに来てくださるお客様は多いですが、同時に「少し冒険をしたい」「食べたことのない料理を味わってみたい」とも思っておられる。若い人だけではなく、口の肥えた年配の方々も、新しい料理を面白がる度量をお持ちです。そういった期待に応えられるよう、伝統的な味と新しい試み―それぞれのバランスに配慮しながら、これからも10年、20年と続くお店でありたいですね。撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■京料理 藤本京都市中京区新町通御池下神明町72 エリタージュ新町1F075-211-910512:00~13:30(L.O.)、18:00~20:00(L.O.)水曜休
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2020.09.12
佳肴 岡もと「焼き茄子の冷製スープ」
奇想の一皿「焼き茄子の冷製スープ」名店の誉れ高いカウンター割烹での修業経験から、自身もカウンタースタイルにこだわりたかったと話す岡本さん。L字に配した客席すべてに目を配り、食事を楽しんでもらうための雰囲気づくりに心を砕きます。ストーリーを感じさせる料理とお酒、そして細やかな接客が楽しめる注目の一軒です。発想秘話誰でも手に入れやすい旬の野菜ということで、メイン食材は茄子にしました。これからの時期は秋茄子も美味しいですしね。茄子自体は平凡な食材ですが、やりようによっておもしろいものが作れるんじゃないかと思います。夏野菜って油との相性がすごくいいんですよ。茄子の揚げびたしとか最高でしょう? でも今回は単に油で揚げたり焼いたりするんじゃなく、油を茄子に「閉じ込めて」みたいと思います。では作っていきましょう。京都中央市場が近いので、ほぼ毎朝買い出しに出掛けます。産地にこだわらず、僕の料理の表現方法にハマりそうな食材は積極的に取り入れるほうですね。たとえば石垣島のアセロラを焼き物のソースに使ってみたり...。といっても、あくまで日本料理としての一線を越えず、奇抜になり過ぎないよう気をつけています。途中までは焼き茄子を作る手順と同じです。まずは茄子を強火で焼いていきます。長く焼き過ぎると水分が抜けて身がかすかすになり、繊維質もぼろぼろになってしまうので、短時間で一気に中まで火を通します。茄子の香りが十分出て、尚且つみずみずしさが失われない程度に焼き上げたら、氷水の中で皮を手早く取り除きます。皮をむいた茄子を適当な大きさに切り、裏ごしします。繊維や種が残らないよう、しっかりと力を込めてなめらかなピュレ状に。焼き茄子の香ばしい香りが立ち上がってきます。ここからいよいよ茄子に油を閉じ込めていきます。イタリアンではパスタソースに茹で汁を加えて乳化させますが、和食で「乳化」の手法を使うことはほぼありません。僕らが「たまごのもと」と呼んでいる、酢の入らないマヨネーズ状のソースを作る時ぐらいでしょうか。今回はブレンダーを使い、太白の胡麻油で茄子のピュレを乳化させ、油のコクを茄子の中に閉じ込めてしまいます。この胡麻油は胡麻の香りが少ないので、焼き茄子の香りを打ち消さず、深みだけがプラスされます。油のほかには白味噌、豆乳、醤油を少々。乳化すると全体的に白っぽい色に変化していきます。最後に出汁を少し加えます。出汁醤油とオイルはとても相性がいいので、少し出汁を加えるだけで風味がガラッと変わるんです。焼き茄子特有の焦げたような香りとも相性抜群です。冷やしたほうがおいしいので、氷水で冷やしてから盛り付けましょう。絹サヤと花穂紫蘇、胡麻油で作った人工キャビアを乗せて完成です。この胡麻油のキャビアは口の中で弾けるまで香りがしないので、胡麻油を直接垂らすよりいいかなと。質感も加わりますし、温冷どちらの料理にも使えて便利なアイテムですね。どうですか? まさに「飲む焼き茄子」って感じでしょう? このままソースとして使ってもおいしいんじゃないかな。肉や魚にも良く合うと思います。僕は瀬戸内海の小さな島の出身なんですが、やはり独立するならレベルの高いところで勝負したいと思って京都に店を構えました。料理学校を卒業後、『京都吉兆』や大阪の天ぷら専門店、京都の料亭などで修業をし、『上賀茂 秋山』(https://www.mbs.jp/kyoto-chishin/shoku/shokuchishinblog/kappo/73702.shtml)を最後に独立しました。最も影響された料理人は、間違いなく秋山さんですね。秋山さんからカウンター割烹のおもしろさや醍醐味を教わりました。あの経験があったからこそ、今ここでカウンターの店をやっているんだと思います。料理を出して「あとはお好きにどうぞ」というのではなく、料理の詳細やストーリーを直接お伝えしたいし、それらを知った上で食べていただきたい。お客様の反応を見ながら、より楽しんでもらえるようなお手伝いもしたい。僕の接客する姿を見た妻が「こんなにしゃべる人じゃなかったのに...」って驚くんですが、そのような接客術も含めて、秋山さんから教わったものは本当に大きいですね。「今日は岡本のところへ行こうかな」と、ちょっとだけ足を伸ばして来ていただきたい。そんな思いもあって、街の中心部から少し離れたこの場所を選びました。料理は13,500円(税込)のおまかせ一本のみ。僕自身が好きということもあるのですが、日本酒は常時60種類ほど揃えています。小さめのグラスを用意しているので、料理に合わせていろんなお酒を味わってもらえるとうれしいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■佳肴 岡もと京都市東山区馬町東入ル南側常盤町470-4075-551-105517:30~22:00(L.O.)月曜、毎月最終日曜休
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2020.08.06
和ごころ泉「岩牡蠣のコンフィ」
奇想の一皿「岩牡蠣のコンフィ」今もその名が語り継がれる伝説の京料理店『桜田』に23歳で入店。通算10年以上に及ぶ同店での修業の後、2006年に独立。のちに、閉店した『桜田』跡に移転し、名だたる食通が認める名店として一目置かれる存在に。料理に対する真摯な思いを込めた「出汁」、自ら生産者を訪ね吟味した食材の数々、料理を引き立てる器やしつらいなど、日本料理の奥深さを改めて教えてくれる一軒。発想秘話最初は「乾物や金華ハムで出汁をとって中華風? それともバターや生クリームでフレンチっぽく?」などと考えを巡らせたのですが、そもそもバターは得意じゃないし、普段使う油といえば胡麻油と米油くらい。でも待てよ、オリーブオイルなら和食とも馴染みやすいかも...と思ったのが始まりです。そこからしばらく発想が膨らまなかったのですが、うちで毎年4月から祇園祭の時期までお出ししている三重県・あだこの岩牡蠣を使えば「絶対おいしいものになる」と思い至って、それらを合わせることにしました。自然に近い環境で育つあだこの岩牡蠣は、高い品質を保持するために生産量が限られており、地元でも滅多に食べられない貴重な牡蠣です。京都で扱っているのはおそらくうちくらいじゃないでしょうか。フレンチの料理人さんに「牡蠣に火を通してお出ししたいんやけど」と相談したところ、「牡蠣は加熱せんほうがうまい」と返されまして(笑)、さてどうやって牡蠣のクリーミーさを引き出したもんかと悩んだ結果、低温調理を試してみることにしたんです。しかし、僕が理想とするクリーミーさや食感を出すのがなかなか大変で、最適な温度や加熱時間にたどりつくまで何度も試作を繰り返しました。苦労の甲斐あって、かなり満足のいく仕上がりになったと思います。底がお椀型になったあだこ湾で豊富なプランクトンを食べて育つあだこの牡蠣は、濃厚な味わいが特徴です。店では生でお出ししていますが、今回はオイル漬けにしたあと、コンベクションオーブンを使って半生っぽく仕上げます。まずは牡蠣を殻から外し、縦方向に包丁を入れます。なぜ縦に切るかというと、細長い身の上部と下部では味わいが異なるからです。縦にカットすることで、部位による味の偏りをなくし、牡蠣のおいしさを余すことなく楽しんでもらいます。余談ですが、うちではたけのこも同じ理由で、味の偏りが出ない形にカットしています。先端と下のほうでは味が全然違いますからね。縦方向に三分割した牡蠣をオリーブオイル、ブラックペッパーとともに密封し、真空状態のまま約10~12時間オイル漬けにします。牡蠣自身の塩味だけで充分なので、ほかに調味料は加えません。味が入ったら60℃に設定したコンベクションオーブンで12分加熱し、コンフィが完成です。70℃で30分、60℃で30分、60℃で20分......とあれこれ試した結果、この設定に落ち着きました。身はほとんど縮まず、かといって生でもなく、濃厚なあだこ岩牡蠣の個性と風味をうまく引き出せたのではないでしょうか。付け合わせは湯むきしたトマト、生の玉ねぎ、大葉、鰹節を二層に重ね、オリーブオイルと少量の醤油でマリネしたものです。トマトって玉ねぎや醤油とすごく相性がいいんですよ。うちの料理に欠かせない鹿児島・枕崎の鰹節は、いつも削りたてを使います。普段から特別なことはしていませんが、出汁にはこだわりがありますね。僕が欲しい状態の鰹節を厳しく選別してもらい、尚且つ理想の枯れ具合まで調整してもらうので、注文してから入荷までにかなり時間がかかります。また、あらかじめかいておくと使うまでに酸化してしまうため、出汁をひく際にベストのタイミングで鰹節を加えられるよう、時間を逆算して用意しています。お出汁っていわば僕にとっての万能調味料なんだと思います。そこさえしっかり押さえておけば、あとはもう大変なことってほとんどありません。そもそも僕は「いかに余計なものをそぎ落とすか」に関心があって、普段から引き算で料理を考えています。たとえばうちには調味料を一切使わず、かつおと昆布のお出汁だけで炊く大根料理があります。煮詰まったらその都度お出汁を足しながら、三日間ぐらい炊き続ける。もう見た目は真っ黒ですよ。ところが味はすごく上品で、口の中に大根そのもののおいしさと出汁のうまみがフワーッと広がり、飲み込んだ途端スーッと消えていく......人間の身体は、本来そういう料理を求めてるんじゃないでしょうか。盛り付けたのは、天目専門の作家・木村盛和さんのお皿です。お造りや焼き物、デザートを盛ることもありますね。クラッカーと、熟成の進んだまろやかなバルサミコ酢をオリーブオイルで割ったものを添えています。香りがとてもフルーティーで、まあるい酸味が牡蠣によく合うんじゃないかな。献立を考える際、最新の料理誌にもひと通り目を通しますが、どちらかというと古い文献を参考にすることが多いですね。数十年前のものを引っ張り出してきて、それを自分なりにアレンジしてみたり......とはいえ、僕は料理を難しく考えることはしません。この世界に入って間もない頃、かの『吉兆』のご主人が修業先にみえて「料理は日進月歩していくが、無理に付いて行こうとしなくていい。意識を常に料理に向けていれば、自然と自分も進化していくものだ」と仰ったんです。実際、無理に料理を考えようとするとしんどくなる。アイデアなんて外を歩けばなんぼでも落ちているもの。「〇〇しなくてはいけない」と難しく考えるのではなく、何気ない会話や日々の生活の中で感じたものを、自然と料理に生かしていきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■和ごころ泉京都市下京区烏丸仏光寺東入ル一筋目南入ル匂天神町634‐3075-351-391712:00~13:00入店、18:00~19:30入店月曜定休
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2020.07.23
祇園 又吉「鱧と和風サバイヨンソース」
奇想の一皿「鱧と和風サバイヨンソース」「ホルモンの赤だし」プロのダイバーに憧れ、将来は海の近くでペンション経営でも...と考えていた沖縄時代の若き又吉青年。ところが17歳の時、ふとテレビで目にした『祇園 丸山』のドキュメンタリーに衝撃を受け、同店への入店を決意。残念ながら希望は叶わなかったものの、名門『炭屋旅館』で頭角を現し、2008年独立。名店がしのぎを削る祇園町の中心で、確かな存在感を放つミシュラン星付きの実力店。発想秘話まずは「夏の食材で何か一品」と考え、鱧か鰻を使ってみようと思いました。夏の食材をいかにも夏っぽい冷たい料理に仕上げるのはつまらないので、今回はあえて温かいソースと合わせてみます。そしてもう一品、京都の酷暑に負けない精のつく料理をと思い、ホルモンの赤だしを添えることに。ホルモンが好きなお客様のために、白味噌仕立ての汁物をお出しすることはありますが、赤だしで作るのは今回が初めて。「夏には重たすぎるのでは?」と感じるかもしれませんが、これが意外とそうでもないんですよ。では早速作っていきましょう。メインの食材に選んだのは明石の鱧。鱧と一緒に盛り込むのはトマト、きゅうり、国産の岩茸(いわたけ)です。岩茸というのは岩にくっついて生える天然の茸。最近は採れる人がどんどん減っていると聞きます。掃除がすごく手間なのですが、わさびとの相性が良く、うちでは炊いたものをお造りのあしらいに使っています。左上のお皿は鱧の骨。一度塩漬けしてから油で揚げて骨せんべいにします。鱧を骨切りし、鱧落としにします。鱧を「落とす」のは、鱧の骨からとったお出汁。この出汁はこれから作るサバイヨンソースを伸ばすのにも使います。いきなり身をすべて落とすのではなく、まずは皮目の部分だけにしっかりと火を入れます。皮目がやわらかくなったら全体を沈め、軽く火が通ったら引き上げます。固い皮目は長めに火を通し、やわらかい身の部分は余熱で火を入れるイメージですね。鱧落としと同時進行でソースの用意も進めていきます。サバイヨンは卵黄を使ったイタリア発祥のソースで、野菜や果物にそのままかけたり、ほかのソースを作る際のベースに使ったりするものです。今回は卵黄に先ほどの鱧の骨からとった出汁を加え、軽めの和風サバイヨンソースに仕上げます。固まらないよう休まず手を動かしながら、80℃のお湯で5分くらい湯せんします。今日は熱伝導がゆっくりな陶器の壺を使っていますが、金属のボウルだともっと短い時間で出来上がります。温かいソースなので、味付けはさっぱりと軽い感じに。鱧落とし、トマト、きゅうり、岩茸を皿に盛り付け、温かいソースをかけて完成です。トマトは油を塗り、塩を振って焼いたもの。きゅうりは塩で揉んであります。とろっとした岩茸や、部位によって脂のノリ具合が違う骨せんべいの食感も楽しいと思います。では引き続き、滋養のつくホルモンの赤だしに取りかかります。今日使うのは飛騨で料理人をしている後輩が送ってくれた飛騨牛のホルモンです。きれいに掃除したあと、だしで炊いて一晩寝かせます。一日置くとこのように脂(ラード)が分離します。ホルモンだけでなく、副産物として出た「ラード」を調味料として使うのがポイントになります。出汁に赤味噌を溶かし、ホルモンとラードを加えます。ラードを適量加えることで、スープにコクや深みが出ます。ここで大切なのは、あまり火を入れすぎないこと。ホルモンが温まる程度で十分です。あまり炊きすぎると出汁が「焼け」て味が変わってしまうので、炊き過ぎとラードの量に気をつけて......沸々してきたら完成です。仕上げに生の針ごぼうを乗せ、唐辛子を振って出来上がりです。どて煮なんかもそうですけど、ホルモンと赤味噌って相性が抜群なんですよね。後から加えたラードもいい感じでしょう? 決してしつこくなく、コースの終盤でもおなかにスッと収まるんじゃないかと思います。僕は「やりたがり」のタチなので、やりたいと思ったことは一通りやってきたと思っています。その結果、今は基本に立ちかえって一からやり直している感があります。例えばいい昆布を使ったり、かつおをちゃんと削ったり、「仕込んでおく」ことをやめて、丁寧な作業を心掛けたり。大変ではありますが、要は「手間をかける」ことが一番じゃないのかなって改めて感じています。お客さんのリクエストで目先の変わった料理を作ることもありますが、中身は正統派というか、純和風な料理に回帰していっています。お客様が料理を召し上がる様子を見ていると「食べたものがどんどん消化されているな」というのが分かるんですよ。僕は食材の力だと思っているのですが、ちゃんとした野菜や調味料を使っていると、食べながらどんどん消化が進むんですね。お年を召した方でも、しっかり最後まで食べ切ってくださる。今日の赤だしにしてもそうですが、ただおいしいだけじゃなく、食べた人を元気にするような「身体にいい」料理を提案していきたいと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■祇園 又吉京都市東山区祇園町南側570‐123075-551-011712:00~13:00 18:00~20:00不定休
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2020.06.19
のぐち 継「五島のカルボナーラ」
奇想の一皿「五島のカルボナーラ」長崎県は五島列島出身。当代きっての料理人が登場し、一世を風靡した人気番組「料理の鉄人」に夢中になり、やがて料理の道を志すようになった少年時代の吉田さん。高校を卒業後、福岡の寿司割烹を皮切りに、京都のホテルや東京銀座の名店などで研鑽を積み、縁あって再び京都へ。2019年秋よりミシュラン星付きの人気割烹「京天神 野口」の姉妹店「のぐち 継」にて腕を振るう。発想秘話僕が育った五島列島は、すばらしい食材の宝庫なんです。対馬海流に乗ってさまざまな魚が回遊し、東シナ海に広がる世界有数の大陸棚では身の締まったうま味の強い天然魚がたくさん獲れます。そんな五島の食材を使って何か作れないかと思い、地元名物の「地獄炊き(※)」をヒントに考案したのが、これから作る冷たいカルボナーラです。※地獄炊き:鉄鍋で茹でたあつあつの五島うどんを生醤油と生卵、薬味で食べる五島の郷土料理使用する麺は、地元で僕の友人が作っている「浜崎製麺所」製の五島手延べうどん。茹でた後、冷たい水で締めると生パスタのような食感になります。ソースになる鯛の白子、パンチェッタ代わりの鯛、そして五島うどんと、今回使う材料はすべて五島の食材です。チーズや肉の代わりに白子や鯛の昆布締めを用いて、どれだけカルボナーラに近づけるか。それでは早速作っていきましょう。カルボナーラでは一般的にパルミジャーノなどのチーズを使いますが、今回はチーズの代わりに鯛の白子の味噌漬を用意しました。西京味噌に砂糖と酒を加えた漬け地に、白子を二日間ぐらい漬け込んだものです。しっかり味が入っているので、軽く焼いてそのまま食べてもおいしいですよ。まずは白子の味噌漬を裏ごしします。そのままでは少し固いので、鯛のアラからとったスープで伸ばします。アラを煮出す場合、臭みを消すためネギや生姜を使うことが多いのですが、このスープは鯛のアラをかつおだしだけで煮出したもの。鯛のうまみがしっかり感じられると思います。うどんの茹で時間は7~8分くらい。冷水で締めたあと、先ほど作った白子のソースで合えます。五島のうどんは麺同士がくっつかないよう、生地を伸ばす前に島産の椿油でコーティングし、熟成させるのが特徴です。その後、潮風に当てて乾燥させることで、伸びにくくコシの強い麺が出来上がります。一般的なカルボナーラに使われるパンチェッタやベーコンの代わりに、今回は鯛の昆布締めを使います。普段作っている昆布締めに比べ、かなり塩味(えんみ)は強めですが、昆布のうまみが塩味を丸くほぐしてくれるので、塩辛いというほどではありません。ベーコンを意識して角型にカットした鯛を先ほど合えた麺にトッピングし、最後に卵黄の醤油漬を乗せて......あー、真ん中にうまく乗せるのって難しいな(笑)。ブラックペッパーの代わりに、バリバリに揚げて砕いた鯛皮を散らして完成です。濃厚なソースをまとったつるつるのうどん、ねっとりとした昆布締めの鯛、そしてそれぞれの素材をまとめあげる卵黄。三位一体のおいしさを味わってください。隠れ家のような立地と風情ある町家の雰囲気が人気の「京天神 野口」と違い、こちらは祇園のど真ん中にあり、いわゆる「ごはん食べ」のお客様も多くお見えになります。コースの内容や盛り付けなどは僕が提案し、大将の意見を取り入れた上で決定しています。実は当店では、「最近の料理屋さんのコースは量が多くて食べきれない」という女性や年配のお客様の声に応え、あえてコースの品数を絞っています。月替わりのおきまりコースは、料理5品のあとにごはんのお供セット(ごはん、じゃこなどの「お供」、赤だし)とお菓子・コーヒーというシンプルな構成で、おなかに余裕がある場合は追加でアラカルトをご注文いただいています。いわば料亭と割烹、両方の"いいとこどり"をしてもらえるのではないでしょうか。お客様それぞれのコンディションに合わせて、自由に楽しんでいただけたらと思います。写真:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■のぐち 継京都市東山区清本町371-4 巽橋下ル三軒目西側075-561-300317:30~21:30最終入店日曜不定休
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2020.05.27
祇園 にしむら「青椒海鮮」
奇想の一皿「青椒海鮮」大学を卒業後、料理の道へと進んだ西村さん。「東京吉兆」で腕を磨き、1994年に20代で「祇園にしむら」を開店。円熟の域に達した料理はもちろん、店主との丁々発止のやり取りを楽しみに、多くの常連が夜ごと暖簾をくぐります。千枚漬けをまとわせた鯖寿司「八坂の雪」は、京都の定番おもたせとしても人気。発想秘話僕は普段から料理を考えるのにあまり時間を割かないんです。店の献立もいつも一瞬で決まる。だから今回も構想10分。頭の中で完璧にイメージ出来ているので、試作もなし。今からぶっつけ本番で作ります。発想の原点ですか? (これまでの連載で)いい料理屋さんがぎょうさん出てはるので、僕は「超高級」をテーマにしようかと(笑)。インパクトのある高級食材で中華風の炒め物を作ります。能書きはこれぐらいにして、作りながら解説していきましょう。今日のメイン素材は鮑と伊勢海老、それに万願寺唐辛子です。中華風といっても味付けに使うのは普段店で使っている調味料だけ。中華には大量の油や化学調味料が欠かせませんが、今回は「和食の食材だけで調理する」のがポイントになります。鮑の肝はのちほどソースに使うので、別に取り分けておきます。貝殻から外した身は、こんなふうに塩で揉んで下処理します。このまま少し置いておくと水がたくさんしみ出てくるので、鮑のことを「水貝」なんて呼ぶ人もいますね。伊勢海老は身と味噌の両方を使うので、それぞれ別に処理していきます。味噌の詰まった頭の部分は塩をあてて、先ほどの鮑の肝と一緒に蒸し器で蒸します。身のほうは炒め物の具材にするので、お造りにするときのような掃除はせず、食感が残るぐらいの大きさにカットしておきます。鮑は薄造りに。こうして置いている間にも、どんどん水が出てきます。この時期の貝はめちゃくちゃおいしいんですよ。今回はこれを贅沢に炒め物にするという......こんなのおいしいに決まってますよ(笑)。ピーマン代わりの万願寺唐辛子は、種を取って細切りに。万願寺をこんな風に切るのってちょっと見たことないでしょう? これで具材の下ごしらえは終了です。次は炒め用のソースを作ります。すり鉢でまずは木の芽をすります。次に生の山椒の実を加えてすり、先ほど蒸した鮑の肝と伊勢海老の味噌、少量の海老の身を加えてさらにすります。どうですこのええ香り、たまらんでしょう? よくすり潰したら白味噌とごく少量の赤味噌、二番だしを足して伸ばしてやります。これで味がまろやかになり、和テイストにまとまっていくんですよ。中華で言うところの「なんとか醤(ジャン)」的な、スペシャルソースの完成です。フライパンに油をひかずに伊勢海老をまず炒め、次にしみ出した水分ごと鮑を加え、火が入ったら先ほどの醤を投入。少量の二番だしで伸ばしながら、全体に醤を絡めていきます。最後に万願寺を加えてサッと火を通し、薄口醤油、砂糖少量、お酢で味を調えたら完成です。万願寺にはあまり火を入れず、軽く食感が残るぐらいがいいんじゃないかな。唐辛子などの辛み調味料は入りませんが、山椒のピリピリとしたいわゆる「シビ辛」な味付けになっています。見た目は中華っぽいですが、油を使っていないのであっさりした味わいです。日本料理の食材だけで、ここまで中華っぽく仕上げられる、という提案ですね。ちなみにこの醤は、肉や焼き野菜に付けてもおいしいですよ。肝の苦みや味噌のコクが混然一体となっていて、日本酒との相性もばっちりです。ぶっつけ本番で作りましたが、思った通りの仕上がりになったんじゃないかな。鮑はもう少し厚めにカットしても良かったかもしれません。この料理はおいしいものを一通り食べ尽くした人、値打ちの分かる人に受ける気がします。去年はちょっと肉を使いすぎたと思っていて、今は逆に原点回帰の傾向にあるんです。素材同士の組み合わせで、よりおいしいものが作れるんじゃないかなって......。僕ら料理人は、食べた人が幸せな気持ちになるようなおいしい料理を作ってナンボ。わざわざ店に足を運んでくれるお客さんの想いに応えていきたいですね。撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■祇園にしむら京都市東山区祇園町南側570-169075-525-272717:00~20:00入店(完全予約制)日曜休
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.04.29
日本料理 とくを「春のグリーンフォンデュ」
奇想の一皿「春のグリーンフォンデュ」カウンター割烹の老舗『たん熊北店』などで修業し、2005年に独立した徳尾真次さん。京都が誇る割烹文化を次世代に伝えるべく、四季折々の割烹料理を用意して客を迎えます。時に包丁をマイクに持ち替え、ステージに立つこともある徳尾さんが、音楽イベントで目にした料理から発想を得た料理とは。見た目も春らしい奇想の一皿をご覧ください。発想秘話以前、僕がやってる音楽と食のイベントで、『京都ネーゼ』の森さんがフォンデュっぽい料理を出したことがあるんです。それが頭の隅に残っていて、今回「和食の枠を飛び越えた料理」というお題をもらったときに、自然とチーズフォンデュが思い浮かびました。もちろん和食の料理人が作るのですから、完全な洋風スタイルにするのではなく、和のエッセンスも取り入れたい。そこで、おだしと豆乳をベースにしたフォンデュソースを考えました。春らしさを感じてもらえるよう、えんどう豆を使ってグリーンのソースに仕上げてみようと思います。一般的なチーズフォンデュは茹でた野菜や魚介類、バケットなどを白ワインで伸ばしたチーズソースで食べますが、今回はフォンデュの具材として串カツをご用意します。串カツの材料はホタルイカ、ホワイトアスパラ、たけのこ、たらの芽、そしてシュガートマトの5種類。それぞれ食べやすい大きさにカットしていきます。たけのこ以外の野菜は生のまま、たけのこはおだしで炊いてあります。シュガートマトは当初予定に入っていませんでしたが、おかみさんの「チーズに合うし、色も映えるのでは?」という鶴の一声で採用しました(笑)。それぞれ串に刺したら、パン粉をつけて揚げていきます。うちは割烹屋なので、普段からフライはよくするんですよ。目の細かいパン粉をさらっとまとわせて、さっぱりと召し上がっていただきます。衣が油を吸いすぎないよう、目の細かいパン粉を使うのがポイントです。うちでは市販のパン粉を手でもんで、極限までさらさらの状態にして使います。細かいパン粉で素材をコーティングするイメージですね。ホタルイカとトマトは破裂するのを防ぐため全体にパン粉を、それ以外の野菜は見映えを考慮して片面だけにパン粉をつけます。これで串カツの下ごしらえは完了。それではいよいよフォンデュソースに取りかかりましょう。鍋に一番だしと豆乳を1対1の割合で入れ、火にかけます。それぞれ100mlくらい。ここに白味噌大さじ1を加えて馴染ませます。ベースが和のおだしだったり、味付けに白味噌を使うことで、和食っぽさを出していけたらと思います。白味噌が溶けたところで、えんどう豆のペーストを加えます。これは茹でたえんどう豆を裏ごししたもの。うちでは「えんどう豆のすり流し」を作るときにも使っています。ざるを使ってペーストをすりつぶすように溶かし入れたら、次にクリームチーズを加えます。チーズが少し溶けにくいので、なめらかな舌触りになるまで何度か濾します。今日使ったクリームチーズは、スーパーやコンビニでも見かける『kiri』のもの。たまたま節約系のテレビ番組で「クリームチーズを使った激安リゾット」を紹介しているのを見て、「おもしろいな」と思って使ってみました。以前、某テレビ局の番組内で"身近な食材を使った5分間クッキング"のコーナーを担当していたので、「誰でも簡単に手に入る材料」を使ってみるのもいいかと思って......。豆乳だしとの相性も良く、イメージ通りの味に仕上がったと思います。火を入れすぎるとえんどう豆のきれいなグリーンが飛んでしまうので、加熱しすぎないよう気を付けながらソースを仕上げます。くずでとろみを足し、さらに濾してなめらかになったところで完成です。先ほど下ごしらえした具材をサラダ油で揚げ、串揚げが完成。最初はソースを鍋で提供するつもりでしたが、だんだん煮詰まってしまいますし、一皿に盛るのもきれいかなと思ってワンプレートに盛り付けました。あつあつをソースにくぐらせてお召し上がりください。クリーミーなソースはえんどう豆の風味が感じられて、これだけでも十分おいしいのですが、揚げたての串カツに合わせるのもおもしろいでしょう? 味の濃いホタルイカも、フォンデュソースがしっかりと受け止めてくれます。生野菜に添えてディップ代わりにしてもいいですし、もちろん単品でもお酒にぴったりの酒肴になります。僕はカウンター割烹の店で修業させてもらったので、自分の食べたいものを好きなように注文できる「割烹文化」に誇りとこだわりを持っています。実は開店から半年はいろんな準備が整わず、コースしかご用意できなかった。だから「割烹」とは名乗らず、あえて『日本料理 とくを』として暖簾を上げました。「割烹」を名乗るには、それだけの覚悟が必要だと思うからです。割烹には持久力に加え、お客さんの要望にすぐに応えられる瞬発力が必要です。オーダーが通ってからしか準備できないものが多く、お客様にずいぶん鍛えられました。お昼しかお越しになれない方のためにランチ営業も続けていきたいですし、「割烹文化を次世代に伝えていく」という使命感を持って、これからも精進していきたいと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■日本料理 とくを京都市下京区木屋町通仏光寺上ル075-351-390612:00~14:00(最終入店12:30)、18:00~22:00(最終入店20:00)定休日 日曜・月曜の昼 ※日曜が祝日の場合は翌日休
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