BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2020.07.23

祇園 又吉「鱧と和風サバイヨンソース」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は「祇園 又吉」又吉一友さんの「鱧と和風サバイヨンソース」×「ホルモンの赤だし」をご紹介します。

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奇想の一皿「鱧と和風サバイヨンソース」「ホルモンの赤だし」

プロのダイバーに憧れ、将来は海の近くでペンション経営でも...と考えていた沖縄時代の若き又吉青年。ところが17歳の時、ふとテレビで目にした『祇園 丸山』のドキュメンタリーに衝撃を受け、同店への入店を決意。残念ながら希望は叶わなかったものの、名門『炭屋旅館』で頭角を現し、2008年独立。名店がしのぎを削る祇園町の中心で、確かな存在感を放つミシュラン星付きの実力店。

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発想秘話

まずは「夏の食材で何か一品」と考え、鱧か鰻を使ってみようと思いました。夏の食材をいかにも夏っぽい冷たい料理に仕上げるのはつまらないので、今回はあえて温かいソースと合わせてみます。そしてもう一品、京都の酷暑に負けない精のつく料理をと思い、ホルモンの赤だしを添えることに。ホルモンが好きなお客様のために、白味噌仕立ての汁物をお出しすることはありますが、赤だしで作るのは今回が初めて。「夏には重たすぎるのでは?」と感じるかもしれませんが、これが意外とそうでもないんですよ。では早速作っていきましょう。

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メインの食材に選んだのは明石の鱧。鱧と一緒に盛り込むのはトマト、きゅうり、国産の岩茸(いわたけ)です。岩茸というのは岩にくっついて生える天然の茸。最近は採れる人がどんどん減っていると聞きます。掃除がすごく手間なのですが、わさびとの相性が良く、うちでは炊いたものをお造りのあしらいに使っています。左上のお皿は鱧の骨。一度塩漬けしてから油で揚げて骨せんべいにします。

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鱧を骨切りし、鱧落としにします。鱧を「落とす」のは、鱧の骨からとったお出汁。この出汁はこれから作るサバイヨンソースを伸ばすのにも使います。

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いきなり身をすべて落とすのではなく、まずは皮目の部分だけにしっかりと火を入れます。皮目がやわらかくなったら全体を沈め、軽く火が通ったら引き上げます。固い皮目は長めに火を通し、やわらかい身の部分は余熱で火を入れるイメージですね。

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鱧落としと同時進行でソースの用意も進めていきます。サバイヨンは卵黄を使ったイタリア発祥のソースで、野菜や果物にそのままかけたり、ほかのソースを作る際のベースに使ったりするものです。今回は卵黄に先ほどの鱧の骨からとった出汁を加え、軽めの和風サバイヨンソースに仕上げます。

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固まらないよう休まず手を動かしながら、80℃のお湯で5分くらい湯せんします。今日は熱伝導がゆっくりな陶器の壺を使っていますが、金属のボウルだともっと短い時間で出来上がります。温かいソースなので、味付けはさっぱりと軽い感じに。

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鱧落とし、トマト、きゅうり、岩茸を皿に盛り付け、温かいソースをかけて完成です。トマトは油を塗り、塩を振って焼いたもの。きゅうりは塩で揉んであります。とろっとした岩茸や、部位によって脂のノリ具合が違う骨せんべいの食感も楽しいと思います。

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では引き続き、滋養のつくホルモンの赤だしに取りかかります。今日使うのは飛騨で料理人をしている後輩が送ってくれた飛騨牛のホルモンです。きれいに掃除したあと、だしで炊いて一晩寝かせます。

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一日置くとこのように脂(ラード)が分離します。ホルモンだけでなく、副産物として出た「ラード」を調味料として使うのがポイントになります。

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出汁に赤味噌を溶かし、ホルモンとラードを加えます。ラードを適量加えることで、スープにコクや深みが出ます。ここで大切なのは、あまり火を入れすぎないこと。ホルモンが温まる程度で十分です。あまり炊きすぎると出汁が「焼け」て味が変わってしまうので、炊き過ぎとラードの量に気をつけて......沸々してきたら完成です。

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仕上げに生の針ごぼうを乗せ、唐辛子を振って出来上がりです。どて煮なんかもそうですけど、ホルモンと赤味噌って相性が抜群なんですよね。後から加えたラードもいい感じでしょう? 決してしつこくなく、コースの終盤でもおなかにスッと収まるんじゃないかと思います。

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僕は「やりたがり」のタチなので、やりたいと思ったことは一通りやってきたと思っています。その結果、今は基本に立ちかえって一からやり直している感があります。例えばいい昆布を使ったり、かつおをちゃんと削ったり、「仕込んでおく」ことをやめて、丁寧な作業を心掛けたり。大変ではありますが、要は「手間をかける」ことが一番じゃないのかなって改めて感じています。お客さんのリクエストで目先の変わった料理を作ることもありますが、中身は正統派というか、純和風な料理に回帰していっています。

お客様が料理を召し上がる様子を見ていると「食べたものがどんどん消化されているな」というのが分かるんですよ。僕は食材の力だと思っているのですが、ちゃんとした野菜や調味料を使っていると、食べながらどんどん消化が進むんですね。お年を召した方でも、しっかり最後まで食べ切ってくださる。今日の赤だしにしてもそうですが、ただおいしいだけじゃなく、食べた人を元気にするような「身体にいい」料理を提案していきたいと思います。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■祇園 又吉

京都市東山区祇園町南側570‐123
075-551-0117
12:00~13:00 18:00~20:00
不定休

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