飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は、夏の声を聞くと食べたくなる「鮎」をご紹介します。
鮎ほど多くの呼び名をもつ魚が、ほかにあるだろうか。
独特の爽やかな香気をもつから「香魚」、一年で一生を終えるから「年魚」、泳いでいる祭に口が銀色に光るから「銀口魚」などなどほかにも。
群馬、岐阜、奈良では鮎を県魚に指定していることをみても、鮎がいかに日本人に愛され食されてきたかがわかる。
京都でも鴨川などで獲れるほか、滋賀県産の鮎が生きたまま届けられ、6月以降夏の間、多くの料理屋で鮎料理を出す。
錦市場の川魚店やスーパーなどで購入できることもあって、家庭でも塩焼きや天ぷらにして食卓に並べる。
我が家の鮎料理は、もっぱら稚鮎の塩焼き。洗って振り塩し、網の上でさっと焼く。料理屋では蓼酢が添えられるが、うちでは何もつけず熱々をそのままパクリといく。
鮎は草食で臭みがなく、スイカやキュウリのような爽やかな青々しい香りがすると一般的には言われている。ただ、私がスーパーで買うものは養殖だからだろうか、それほど青々しい香りを感じたことがない。
美味しいのは、やはり料理屋で食べる天然もの。まるで泳いでいるかのように串打ちし、皮はパリッと、身はふっくらと炭火で焼いてくれる。
以前、料理屋のご主人がおっしゃっていたが、本来魚は造りが最上の料理とされるが、鮎だけは別で、塩焼きが上等なのだという。確かに、独特の香りや内臓の苦味を一番堪能できる。
私も数えきれないくらい?鮎を食べてきた。稚鮎などは一度に10尾ほど食べることもある(笑)。
どこでいただいても、もちろん美味しいのだが...。
嵐山の鵜飼い漁の鮎は特別だった。
日が暮れた頃に屋形船に乗り込んで、川風に吹かれ待っていると、ドオン、ドオンと太鼓の音とともに、鵜飼いの船が近づいてくる。パチパチと音をたてて爆ぜるかがり火に、古式ゆかしい風折烏帽子装束の鵜匠の姿が照らしだされる。
鵜匠が手に握る紐の先には鵜がつながれていて、鵜匠の指図で川にもぐり鮎を獲ってくる。無心に鮎を獲る鵜の姿を見ていると、ほんとうに一所懸命で、思わず「偉いなあ~」という言葉が口をつく。漁の様子は思い描いていた以上にドラマチックで、なんだか江戸時代にタイムスリップした気になった。
その日、鵜飼い鑑賞の後に食べた鮎は、いつも以上に美味しく感じられた。ひょっとしたら鵜が獲ったものではなかったかもしれないが...。
先日、「新しい料理屋が開業した」とお誘いいただき訪ねた。日本料理と日本酒「惠史(さとし)」だ。店主は、和久傳で長年腕を磨いた保科知史さん。2020年6月に独立して小川通御池に自店を開業した。奥様とおふたりで店を切り盛りされている。
おまかせコース1本という割烹が多いなか、この店ではまず3品のおまかせが出て、その後は好みの料理をアラカルトで注文できる和のプリフィクススタイル。
すっぽんの煮凝りや造りなどおまかせ3品をいただき、その後、稚鮎南蛮漬や鰻白焼き、いちじく白和えなどあれこれ一品料理をいただいた。
どのお料理も丁寧につくられていて、ほっとする味。誠実なご主人の人柄と奥様の家庭的なもてなしも気持ちいい。
コースで7品、8品などたくさんは食べれないが、ちゃんとした和食で飲みたいという日にちょうどいい。カウンター7席とテーブル4席というこじんまり加減もほどよく、すっかり腰を据えて飲んでしまった。
稚鮎の南蛮漬けは、やはり丁寧な調理がうかがえる料理だった。しっかり体をうねらせお皿の上で泳いでいるような姿が美しい。サクッと揚がってほどよい酢加減。そえられた素麺南瓜のシャキシャキ感が箸を進ませる。
「また京都にいい店ができた」と、さっそく東京の友人に自慢した。
■日本料理と日本酒 惠史(さとし)
京都市中京区宮木町小川通姉小路下ル471-2
075-708-6321
17時~23時
不定休