「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく企画。京都の和食文化が脈々と継がれ愛されてきた理由は、「料理人の柔軟性にあり」と実感できるでしょう。
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.07.31
ごだん宮ざわ「鰻のフライ自家製ソース」
奇想の一皿「鰻フライ自家製ソース」鰻のフライに和のウスターソースを添えて「茶懐石」に基づく簡素だが心をくだいた料理で知られる「ごだん宮ざわ」。京都の名料亭などで腕を磨き、2007年「じき宮ざわ」、2014年「ごだん宮ざわ」と、店づくりや料理の幅を広げてきた宮澤さんの料理には定評があります。発想秘話この料理はまさに「ご縁とタイミング」でできあがりました。1年ほど前だったと思いますが、大分の由布院に行く機会があり、そこで知人から紹介されたのが鰻の生産者横山佳一さんでした。横山さんは、15年に亘って鰻をオーガニックで育てておられ、その鰻は天然とも一般の養殖ものとも一線を画す、独特の鰻でした。もっちりとした皮、ふっくらとした身。こんな鰻は初めてでした。 その日の夕食に、たまたま由布院の旅館でいただいたのが「活け鮑のフライ」で、添えられたウスターソースとの相性が抜群だった。そこで、ピンときたのが、「横山さんの鰻をフライにしてはどうだろう」ということでした。鰻は白焼きや蒲焼で食べるか、和食なら煮鰻にするのが一般的ですが、皮がしっかりとして旨味も濃い横山さんの鰻ならフライが合うのではないかと思ったんです。いったん、炭火で白焼きにした鰻に刷毛で小麦粉をつけ、卵、細かく砕いたパン粉の順でつけて、揚げてみることにしました。揚げたての鰻は、思ったようにふっくら感もあり、皮がもちもち。鰻の香りや味は損なわれていません。一口大に切って器に盛ると、姿も美しい。後は、どんなソースで召し上がっていただくかでした。濃厚な鰻フライをさらっと食べられる味。醤油やウスターソースでは味が濃すぎて鰻の味を損ねてしまうかもしれない。もう少し優しく複雑味のあるもの。それも和食の感性が生きたソースをつくれないかと思いました。ウスターソースを自分でつくれないか。そう思って、リンゴ、トマト、玉ねぎ、にんじんなど野菜に、生姜、山椒、丁子といった香味を加えて煮込む。けれど、よくあるウスターソースのような濃い色にならない。そう簡単にはできないかと、あきらめかけました。ところが、味をみてみると、香りはウスターソースに近く味はよりマイルド。濃すぎない和のウスターソースともいえるものになっていたんです。さっそく、鰻フライをつけて食べてみると、爽やかな酸味とほのかな甘みが広がります。独特の香味もあって、それがアクセントになる。ひょっとしたら、これまでにないソースができたのではと、自分で思ったほどです(笑)。「自分がよしと思う料理屋にしか鰻は卸さない」とおっしゃっていた横山さんともお話してオーガニック鰻を仕入れさせていただくことになり、「鰻フライ」を、お客様にお出しできるようになりました。何度も試作を重ねたソースは、お客様から「もって帰りたい」と言っていただくように。大分でのさまざまな出合いから約1年、このウスターソースを「薄垂惣酢」として販売させていただくことになりました。勉強も大切だが「経験こそ宝だ」と私はよく店のスタッフたちに話しています。この鰻料理やソースは、自分が行動し、いろんな方にお会いできたから生まれたものだと思っています。あのとき大分に行っていなかったら。横山さんの鰻や美味しいフライに出会っていなかったら。「美味しいものを食べてほしい」という生産者さんや料理人さんの想いに後押しされ、この料理を発想することができた。「縁は大切」を、改めて身をもって知りました。撮影 竹中稔彦■ ごだん宮ざわ(ごだん みやざわ)京都市下京区東洞院通万寿寺上ル大江町557075-708-636412時~、18時~不定休鰻フライの入るコースは18,000円~「薄垂惣酢」2500円(税別、箱代500円)
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.06.28
祇園 大渡「冷製鱧タージュ」
奇想の一皿「冷製鱧タージュ」冷製鱧のコンソメゼリーとすりながし、じゅんさいを添えて大渡真人さんは、大阪の名店「季節料理 津むら」などでの修業を経て、2009年に独立。試行錯誤の末たどり着いた、まぐろ節でとった出汁に定評があり、ひと口目から客の心をつかんで離しません。発想秘話今回の料理にたどり着くまでに、実はふたつの前段階がありました。「鱧のすりながし」はもともと古典的な温かなお椀で、大阪の修業先での名物料理でした。独立したばかりのころは私も海苔とわさび、白玉を添えてお出ししていたのですが、なんとなくメニューから外してずいぶん経ちました。ところが昨年、大きく事態を動かすことが。それは割烹「緒方」の緒方俊郎さんが発された「以前出していた鱧のすりながしを、冷たくしてみては?」というひと言でした。 「鱧のすりながしは温かいもの」という固定概念にとらわれず、一度分解して、再び組み上げる。思ってもみなかったその発想に刺激され、ビシソワーズをヒントに2018年の夏に、冷製として復活したものが前身です。私自身、口にして自分が変わるような衝撃を受けました。その料理が「進化」したものでしたら、今回はそこから「深化」させようとしたんです。「鱧のすりながし」は、火を通した鱧の身を粉砕し、かつお出汁と合わせ、裏ごししたじゃがいもでトロミをつけます。日本料理ですとトロミには葛を用いますが、それでは面白くないので、じゃがいもを選びました。「鱧のコンソメゼリー」では、鶏と牛でコンソメを作り、そこへ鱧の骨と皮を入れます。コラーゲンがたっぷりな煮こごりが出来上がります。復活バージョンでは、すりながしにもゼリーにもカツオ出汁を使っていましたが、今作では鱧をベースにそれぞれ違う素材を用いているので、ひとつの皿の中に2種類の味わいがあり、面白みが出たのではないでしょうか。すりながしとゼリーはキンキンに「ちべた(冷た)!」くします。そして、じゅんさいで、氷のような涼し気と可愛らしさを演出しました。コンソメのシャープでしっかりした味わい。すりながしのスッキリとした味わい。それぞれを楽しんだのち、ふたつを一緒に口にすると、たがいの味が重なり合って深みを増します。うちには、他ジャンルの料理人が研修に来ることがあります。以前の日本料理界ではそんなことはご法度でしたが、最近はお互いにリスペクトして、テクニックを教えあっています。コンソメのつくりかたも、フレンチのシェフに教えてもらったんですよ。とはいえ、フレンチそのままでは面白くありません。私がつくるからには、着地は日本料理でなければね。近ごろ、昔の料理本を読むのが楽しくて仕方ないんです。まさに「温故知新」。長く残っている料理は、私が手を加えたところで揺らぐことはありません。基本がしっかりしているからです。変わったことはいくらでもできますが、小手先ではなく「大渡らしい料理」のなかで昔の料理から学び「深化」していきたい。「冷製鱧タージュ」には、私のそういう想いが詰まっています。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■祇園 大渡京都市東山区祇園町南側570-265075-551-525218:00~ (L.O.21:30) 21:30まで入店可不定休
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.05.29
木山「らびおり」
奇想の一皿「らびおり」桜鱒、石鯛を編みこみ、鯛の白子を包んだお造り 木山義朗さんは「京都 和久傳」で料理長を務めたのち、2017年に「木山」をオープン。敷地に湧き出す井戸の水と、丁寧にひかれた出汁が生みだすドラマ性のあるコースを日々つくり上げています。発想秘話今回の料理の発想には、モダン・スパニッシュの影響が大きくあります。ですが、そのきっかけをお話しする前に、まずはこの「らびおり」がどのようなものかをご説明いたしましょう。撮影がありました4月下旬は、桜鱒、石鯛がまさに旬。鯛は繁殖期ですので、上質な白子も手に入ります。今回は青森の桜鱒、伊勢湾の石鯛、和歌山の鯛の白子を用意しました。桜鱒と石鯛を薄い短冊に、白子は小さなブロック型のお造りにします。厚みや大きさを試行錯誤して、この形にたどり着きました。桜鱒と石鯛を編みこんでゆきます。モダン・スパニッシュではズッキーニやパプリカなどの野菜を編みこむことが多いようです。白子をその中に包みます。編みあがれば完成です。自家製のとろみ醤油をつかったポン酢おろしで、ひと口で召し上がってください。おろしや醤油の量も微調整を繰り返しました。中から白子がふわっととろけだし、ソースのように桜鱒と石鯛にからみ、一体感のある旨みを感じていただけると思います。旬のものを一緒に口にしたときに、ケンカすることなくそれぞれが引き立てあう、そんな「新しいお造り」です。私とモダン・スパニッシュの関係は、4~5年ほど前に出会ったデヴィッド・ヴィーヴ・プイグさんとのご縁から始まりました。デヴィッドさんは、スペイン・カタルーニャ州のレストラン「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」が、2015年の「世界のベストレストラン50」で1位になった時に、厨房に立っていた人物です。 2016年からは毎年2月に3日間だけ「ごだん 宮ざわ」で日本の食材をメインに、和食器を用いてモダン・スパニッシュを披露。2018年には「木山」でも同じように腕を振るってくれました。デヴィッドさんに出会うまでは、モダン・スパニッシュは泡や液体窒素を用いる科学的な料理法である、分子ガストロノミーのイメージが強かったんです。でも、それだけではないんですよね。肉も魚も野菜も、素材がとてもよくて、そのものの味を大切にしているんです。スペインで食べたヒラメには驚きました! 焼いてオリーブオイルをかけただけなのに、脂ののっている最高のクエに匹敵するほどの旨みが引き立っていたんです。 また出汁の文化もあり、キノコやイベリコ豚、鶏などからじっくりと出汁をとって料理に使っています。和食との共通点を随所に感じ、以来、デヴィッドさんを通じてモダン・スパニッシュから学ぶことがたくさんあります。今回の「らびおり」も、切ってお出しするだけのお造りの一歩先を行きたい、「新しいお造りの形を」という想いからつくりました。お造りに限らず、今後はそういう展開もしていきたいと思っています。素材を編みこむスタイルは、季節によって素材を変えてお出ししていくつもりです。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■木山京都市中京区堺町通竹屋町下ル西側絹屋町136 ヴェルドール御所1F075-256-446012:00~15:00 (最終入店13:30)、18:00~22:00 (最終入店19:30)不定休
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.04.24
祇園 さ々木「たまご3点」
奇想の一皿「たまご3点」白身部分はふぐの白子、黄身はウニ、そして自家製「和のキャビア」を添えて 京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく当企画。見た目も味わいも、その発想力に驚くこと間違いなし。京都の和食文化が脈々と続き、愛されてきた理由は、「料理人の柔軟性にあり」と実感できるでしょう。 第1回目は、カウンターでのサプライズ溢れる魅せる妙技で"さ々木劇場"と呼ばれ、客一人ひとりへの親身な対応に多くのファンを持つ、「祇園 さ々木」佐々木浩さんの登場です。 発想秘話新幹線での移動中にずっと考え続けてきましたが、「見たこともない驚きの料理を」というリクエストに、とても頭を悩ませる企画でした(笑)。 私は2年半かけてオリジナルの「和のキャビア」を開発してきました。2018年の夏に完成したばかりなのですが、せっかくなのでそれをメインに据えて、と発想したのが「たまご3点」です。 「和のキャビア」は普通のキャビアと比べてトロッと糸を引いていますが、これは昆布が入っているからです。宮崎で国産キャビアを製造・販売されている「ジャパンキャビア」の坂元基雄さんに試行錯誤を重ねていただいた労作です。90日間熟成させたこのキャビアは、昆布のおかげでキャビア本来のひねっぽさにミネラルの味わいが加わり、とてもまろやか。そして口の中でいつまでも余韻が残るんです。まるみのある味なので、野菜やお造りなどにもよく合います。 キャビアといえばチョウザメのたまごですが、鶏でも魚でもたまご料理にとても合うんです。そこで今回は、素材も見た目もすべてたまごで統一しました。白身の部分はふぐの白子を裏ごししてゼラチンで固めたものです。成形には鶏卵の殻を使っています。ほどよい弾力に持っていくのが難しかったですね。 そして黄身の部分は、北海道釧路町・昆布森産のウニです。味付けは醤油と塩のみなので、ウニ本来の旨みがしっかりと味わえます。 そしてたっぷりの「和のキャビア」をのせます。さ々木では、ほかの料理でキャビアを使う場合もおひとりに15gはお出しするようにしています。小指の先ほどのほんの少量ではキャビアの味が分かりませんから。15gあれば「キャビアを食べた」という満足感を得ていただけるでしょう。 ウニと一緒にキャビアをすくって食べてみてください。濃厚なウニと、ダシの効いたまろやかな「和のキャビア」との相性のよさを感じていただけると思います。「たまご3点」にはクラッシュアイスにスダチを絞ったウォッカがぴったりです。 もともと自分自身がキャビア好きで、一気に4缶食べたこともあるほどです(笑)。世界三大珍味のトリュフ、フォアグラ、キャビアのなかでも断然キャビア! そこで和食に合うキャビアを作ろうと思ったんです。いずれは「和のキャビア」の販売も考えています。 「たまご3点」の素材は冬のものですので、お店でお出しするとしたら次の冬になるでしょう。ふぐの白子を温めるべきか? 冷たくするべきか? などまだ改良すべき点があります。この冬の到来を、ぜひ楽しみにお待ちください。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■祇園 さ々木京都市東山区八坂通大和大路東入小松町566-27075-551-500012:00〜12:30(L.O.)、18:30~定休日 日曜日・第2・4月曜日・不定休あり(変更の場合あり)http://gionsasaki.com/index.html
- ALL
- - 料亭割烹探偵団
- - 食知新
- - 京都美酒知新
- - 京のとろみ
- - うつわ知新
- - 「木乃婦」髙橋拓児の「精進料理知新」
- - 「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
- - 村田吉弘の和食知新
- - 料亭コンシェルジュ
- - 堀江貴文が惚れた店
- - 小山薫堂が惚れた店
- - 外国人料理人奮闘記
- - フォーリンデブはっしーの京都グルメ知新!
- - 京都知新弁当&コースが食べられる店
- - 京の会長&社長めし
- - 美人スイーツ イケメンでざーと
- - 料理人がオフに通う店
- - 京のほっこり菜時記
- - 京都グルメタクシー ドライバー日記
- - きょうもへべれけ でぶっちょライターの酒のふと道
- - 本Pのクリエイティブ食事術