京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は、「祇園 大渡」大渡真人さんの「冷製鱧タージュ」をご紹介します。
奇想の一皿「冷製鱧タージュ」
冷製鱧のコンソメゼリーとすりながし、じゅんさいを添えて
大渡真人さんは、大阪の名店「季節料理 津むら」などでの修業を経て、2009年に独立。試行錯誤の末たどり着いた、まぐろ節でとった出汁に定評があり、ひと口目から客の心をつかんで離しません。
発想秘話
今回の料理にたどり着くまでに、実はふたつの前段階がありました。「鱧のすりながし」はもともと古典的な温かなお椀で、大阪の修業先での名物料理でした。独立したばかりのころは私も海苔とわさび、白玉を添えてお出ししていたのですが、なんとなくメニューから外してずいぶん経ちました。
ところが昨年、大きく事態を動かすことが。それは割烹「緒方」の緒方俊郎さんが発された「以前出していた鱧のすりながしを、冷たくしてみては?」というひと言でした。
「鱧のすりながしは温かいもの」という固定概念にとらわれず、一度分解して、再び組み上げる。思ってもみなかったその発想に刺激され、ビシソワーズをヒントに2018年の夏に、冷製として復活したものが前身です。私自身、口にして自分が変わるような衝撃を受けました。その料理が「進化」したものでしたら、今回はそこから「深化」させようとしたんです。
「鱧のすりながし」は、火を通した鱧の身を粉砕し、かつお出汁と合わせ、裏ごししたじゃがいもでトロミをつけます。日本料理ですとトロミには葛を用いますが、それでは面白くないので、じゃがいもを選びました。
「鱧のコンソメゼリー」では、鶏と牛でコンソメを作り、そこへ鱧の骨と皮を入れます。コラーゲンがたっぷりな煮こごりが出来上がります。
復活バージョンでは、すりながしにもゼリーにもカツオ出汁を使っていましたが、今作では鱧をベースにそれぞれ違う素材を用いているので、ひとつの皿の中に2種類の味わいがあり、面白みが出たのではないでしょうか。
すりながしとゼリーはキンキンに「ちべた(冷た)!」くします。そして、じゅんさいで、氷のような涼し気と可愛らしさを演出しました。
コンソメのシャープでしっかりした味わい。すりながしのスッキリとした味わい。それぞれを楽しんだのち、ふたつを一緒に口にすると、たがいの味が重なり合って深みを増します。
うちには、他ジャンルの料理人が研修に来ることがあります。以前の日本料理界ではそんなことはご法度でしたが、最近はお互いにリスペクトして、テクニックを教えあっています。コンソメのつくりかたも、フレンチのシェフに教えてもらったんですよ。
とはいえ、フレンチそのままでは面白くありません。私がつくるからには、着地は日本料理でなければね。
近ごろ、昔の料理本を読むのが楽しくて仕方ないんです。まさに「温故知新」。長く残っている料理は、私が手を加えたところで揺らぐことはありません。基本がしっかりしているからです。変わったことはいくらでもできますが、小手先ではなく「大渡らしい料理」のなかで昔の料理から学び「深化」していきたい。「冷製鱧タージュ」には、私のそういう想いが詰まっています。
撮影 津久井珠美 文 竹中式子
■祇園 大渡
京都市東山区祇園町南側570-265
075-551-5252
18:00~ (L.O.21:30) 21:30まで入店可
不定休