京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は「のぐち 継」料理長・吉田大輔さんの「五島のカルボナーラ」をご紹介します。
奇想の一皿「五島のカルボナーラ」
長崎県は五島列島出身。当代きっての料理人が登場し、一世を風靡した人気番組「料理の鉄人」に夢中になり、やがて料理の道を志すようになった少年時代の吉田さん。高校を卒業後、福岡の寿司割烹を皮切りに、京都のホテルや東京銀座の名店などで研鑽を積み、縁あって再び京都へ。2019年秋よりミシュラン星付きの人気割烹「京天神 野口」の姉妹店「のぐち 継」にて腕を振るう。
発想秘話
僕が育った五島列島は、すばらしい食材の宝庫なんです。対馬海流に乗ってさまざまな魚が回遊し、東シナ海に広がる世界有数の大陸棚では身の締まったうま味の強い天然魚がたくさん獲れます。そんな五島の食材を使って何か作れないかと思い、地元名物の「地獄炊き(※)」をヒントに考案したのが、これから作る冷たいカルボナーラです。
※地獄炊き:鉄鍋で茹でたあつあつの五島うどんを生醤油と生卵、薬味で食べる五島の郷土料理
使用する麺は、地元で僕の友人が作っている「浜崎製麺所」製の五島手延べうどん。茹でた後、冷たい水で締めると生パスタのような食感になります。
ソースになる鯛の白子、パンチェッタ代わりの鯛、そして五島うどんと、今回使う材料はすべて五島の食材です。チーズや肉の代わりに白子や鯛の昆布締めを用いて、どれだけカルボナーラに近づけるか。それでは早速作っていきましょう。
カルボナーラでは一般的にパルミジャーノなどのチーズを使いますが、今回はチーズの代わりに鯛の白子の味噌漬を用意しました。西京味噌に砂糖と酒を加えた漬け地に、白子を二日間ぐらい漬け込んだものです。しっかり味が入っているので、軽く焼いてそのまま食べてもおいしいですよ。
まずは白子の味噌漬を裏ごしします。そのままでは少し固いので、鯛のアラからとったスープで伸ばします。アラを煮出す場合、臭みを消すためネギや生姜を使うことが多いのですが、このスープは鯛のアラをかつおだしだけで煮出したもの。鯛のうまみがしっかり感じられると思います。
うどんの茹で時間は7~8分くらい。冷水で締めたあと、先ほど作った白子のソースで合えます。五島のうどんは麺同士がくっつかないよう、生地を伸ばす前に島産の椿油でコーティングし、熟成させるのが特徴です。その後、潮風に当てて乾燥させることで、伸びにくくコシの強い麺が出来上がります。
一般的なカルボナーラに使われるパンチェッタやベーコンの代わりに、今回は鯛の昆布締めを使います。普段作っている昆布締めに比べ、かなり塩味(えんみ)は強めですが、昆布のうまみが塩味を丸くほぐしてくれるので、塩辛いというほどではありません。
ベーコンを意識して角型にカットした鯛を先ほど合えた麺にトッピングし、最後に卵黄の醤油漬を乗せて......あー、真ん中にうまく乗せるのって難しいな(笑)。
ブラックペッパーの代わりに、バリバリに揚げて砕いた鯛皮を散らして完成です。濃厚なソースをまとったつるつるのうどん、ねっとりとした昆布締めの鯛、そしてそれぞれの素材をまとめあげる卵黄。三位一体のおいしさを味わってください。
隠れ家のような立地と風情ある町家の雰囲気が人気の「京天神 野口」と違い、こちらは祇園のど真ん中にあり、いわゆる「ごはん食べ」のお客様も多くお見えになります。コースの内容や盛り付けなどは僕が提案し、大将の意見を取り入れた上で決定しています。
実は当店では、「最近の料理屋さんのコースは量が多くて食べきれない」という女性や年配のお客様の声に応え、あえてコースの品数を絞っています。月替わりのおきまりコースは、料理5品のあとにごはんのお供セット(ごはん、じゃこなどの「お供」、赤だし)とお菓子・コーヒーというシンプルな構成で、おなかに余裕がある場合は追加でアラカルトをご注文いただいています。いわば料亭と割烹、両方の"いいとこどり"をしてもらえるのではないでしょうか。お客様それぞれのコンディションに合わせて、自由に楽しんでいただけたらと思います。
写真:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子
■のぐち 継
京都市東山区清本町371-4 巽橋下ル三軒目西側
075-561-3003
17:30~21:30最終入店
日曜不定休