京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は「御幸町 田がわ」田川喜章さんの「伊勢海老と白子の春巻、海老味噌ソースと新海苔佃煮添え」をご紹介します。
奇想の一皿「伊勢海老と白子の春巻、海老味噌ソースと新海苔佃煮添え」
25歳のとき「同じ"ものづくり"なら、人の顔の見える仕事がしたい」と一念発起し、エンジニアから料理人へと転身。それまで包丁を握ったことすらなかったという田川さんでしたが、畑違いの厳しい世界で研鑽を積み、2017年「御幸町 田がわ」をオープン。そのわずか数か月後にミシュランで星を獲得し、周囲をあっと驚かせました。名実ともに京都を代表する料理人の一人となった田川さん。はたして、どんな奇想の一皿を見せてくれるのでしょうか。
うちでは僕の出身地、三重県の魚介類を積極的に使うようにしています。鳥羽に海女さんをしている友人がいて、質のいい伊勢海老や鮑を送ってくれるんです。今日はその伊勢海老を使い、「三重の伊勢海老をいかにおいしく召し上がってもらうか」をテーマに、レシピを考えてみました。
これまで伊勢海老をいろんな料理に仕立ててきましたが、今回は和食の枠を超えた一皿というお題を受けて、春巻に挑戦します。メインの具は正統派和食食材の伊勢海老と白子。そこにベシャメルソースで洋食の要素を加えます。和の食材を洋風にアレンジし、中華の調理法で仕上げる......どんな感じになるか、早速作っていきましょう。
バターに薄力粉と牛乳を加え、なめらかなベシャメルソースを作ります。香ばしさとコクが際立つよう、バターをしっかり溶かしてから粉を加えるのがポイント。のちほどこれと白子のペーストを合わせ、春巻の具をまとめあげるソースにします。
次に伊勢海老から海老味噌ソースに使うミソを外し、残った身と殻で伊勢海老出汁をとります。今回、この身は春巻には使いません。
ミソを外した伊勢海老を殻ごと香ばしく焼き付け、昆布だし、酒を加えて20分ほど火にかけます。冷めたら濾して、伊勢海老出汁の完成。これはのちほど、海老味噌ソースを作るときに使います。
伊勢海老のミソを火にかけ、溶けてきたところに先ほどの伊勢海老出汁を加え、さらにのばしていきます。ここではしっかりと海老の味を「乗せる」ことを意識して、丁寧に。
赤味噌にいろんな調味料を加えた「炊き味噌」(田楽味噌)で調味し、海老味噌ソースの完成です。伊勢海老の身を高温の油でサッと「生揚げ」にし、このソースを付けて食べてもおいしいですよ。
蒸した後に裏ごしし、ペースト状にしたフグの白子に、先ほどのベシャメルソースを加えます。今日は白子ペースト3に対してベシャメルソース1くらいの割合で。白子だけでも十分おいしいのですが、今回は洋風のソースと合わせ、クリームコロッケっぽく仕上げます。
春巻に欠かせない筍と椎茸を太白胡麻油で炒め、さらに九条ネギ、伊勢海老を加えて炒めます。伊勢海老は事前に塩を振り、食感が分かる程度の大きさにカットしたもの。
具材に火が通ったら、先ほどの白子入りベシャメルソースと合わせ、春巻の皮で巻いていきます。水分が多いので、糊付けはしっかりと。
きつね色に揚がったら完成です。今日は2種類のソースを用意しました。ひとつは先ほど作った海老味噌ソース。ミソを伊勢海老出汁で伸ばした、海老のうまみたっぷりの濃厚なソースです。黒いほうは新海苔の佃煮で、酒肴としてはもちろん、ごはんのアテにも最高の一品。揚げ物との相性もいいのではないかと思い、春巻に添えてみました。
普段からコースを組み立てる際には「ストーリー」を大切にしています。その時々の食材を鑑み、「何を軸にするのか」「軸をどこに持ってくるのか」を考え、先付けから水物までを一つの流れとして提案できるよう、工夫しています。例えば12月でしたら、やはり蟹を召し上がっていただきたいのですが、うちの価格帯で高価な食材をドーンとお出しするのは難しい。そこで、蟹身をたっぷり使った蟹しんじょのお椀をコースの肝に据えました。お客様の目の前でタネを擦り、おだしに落としてふわふわの出来立てを味わっていただく。いつもとは提供する順序も変え、あえて華やかで存在感のある八寸のあとにお出しする。緩急の付け方やクライマックスへの持って行き方、そういった演出も含め、さらに突き詰めていきたいと思っています。


写真 ハリー中西 取材・文 鈴木敦子
■ 御幸町 田がわ
京都府京都市中京区夷川通御幸町西入松本町575-1
075-708-5936(完全予約制)
18:00~20:30最終入店
不定休