BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2019.10.29

おたぎ「アンチョビ香るいわし担々」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は、「おたぎ」馬場一彰さんの「アンチョビ香るいわし担々」をご紹介します。

奇想の一皿「アンチョビ香るいわし担々」

馬場一彰さんは「和久傳」料理長を経て、2012年に独立。確かな技術と創意工夫に富んだおまかせが評判を呼び、瞬く間に予約の取れない人気店に。昨年、北大路から鷹峯に移転し、さらなる進化に注目が集まります。

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発想秘話

独立前から「いつか自家製麺を打ちたい」という思いがあり、京都じゅうの製粉所を訪ねた時期がありました。その頃、川端にある「河村製粉」のご主人と出会い、製麺にまつわるさまざまな手ほどきを受けたんです。それ以降、そば、うどん、そうめん、中華そば......と、自家製麺のレパートリーは年を追うごとに増え、今では当店に欠かせないひと品になっています。

そんなわけで、このお話をいただいた時「自家製麺で」という方向性はすぐに決まりました。今は時季的に青背の魚がおいしいので、いわしのそぼろを使った担々麺はどうかなと思い、そこから個性の強いいわしに負けないスープ、さらにはスープによく絡む麺......と組み立てていきました。

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麺は打ちたてがおいしいので、直前に用意します。今日使うのは、中華麺よりややうどん寄りの麺。力強いスープと合うよう、粉の配合から工夫しました。出汁にパンチを効かせるので、コシも強めに。今から切っていきますが、柳包丁を使うのが今回のポイントのひとつ。柳包丁で切ると麺に自然なしなりが出て、スープに絡みやすくなるんです。

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次にスープの肝となるいわしペーストを作ります。使うのはアンチョビと自家製のオイルサーディン。2種類のいわしをフードプロセッサーにかけ、できあがったものに胡麻ペーストを加えて混ぜ合わせます。これがスープの素になります。

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ここにお出汁を加えていきます。かつお節とあじ節の合わせ出汁。うまみの強い、濃厚な和の出汁を使います。先ほどのペーストに少しずつ出汁を加えてのばしていくと......だんだん担々麺のスープっぽくなってきたでしょう? これでスープのベースが完成。

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次に火を入れていきますが、ここが腕の見せどころ。魚や胡麻の油分がスープと分離するのを防ぐため、沸騰前に吉野葛を加えてつないでやるんです。この量の見極めが重要で、スープの舌触りを損なわないよう、適量を少しずつ加えていく。ざらざらしたり、だまだまになったら絶対あかんとこなので慎重に。理想的な若干のとろみ、艶が出たところで最後に味を調えます。この時点ではほぼアンチョビの塩気だけなので、砂糖と醤油を加えて......ふふ、めっちゃおいしいです(笑)。

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包丁で食感が残るぐらいに叩いたいわしを生姜と一緒にオリーブオイルで炒め、そぼろにしていきます。味付けはお隣の「松野醤油」さんの赤だしみそと少量の砂糖。いわしの香りが立ち上がったら出来上がり。

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熱湯で1分30秒茹がいたら、氷水でしっかり締めて麺が完成。盛り付けをしていきます。"食感"の叩きネギ、"香り"のあさつき、"アクセント"の生姜をトッピングして、黒七味と山椒で辛みをプラス。うん、上手にできたんちゃうかな。つるつると喉ごしのよい自家製麺に、いわしのうまみを凝縮したスープ、そして噛みしめるたびに濃厚なうまみが口いっぱいに広がるそぼろ。残ったスープは「追いメシ」で、きれいにさらえちゃってください。和と中華、さらにはイタリアンのエッセンスが加わって、おもしろい麺になったと思います。

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「和食の垣根を越えて」というお題でしたが、自分らしい料理ができたんじゃないかと満足しています。料理を作る際、和食の枠組みというのは常に意識しますが、オーソドックス過ぎてもうちらしくないし、かといって創作に寄り過ぎてもいけない。そのあたりのさじ加減を考えながら、自分らしい料理を提案していきたいですね。

撮影 鈴木誠一 文 鈴木敦子

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■おたぎ

京都市北区鷹峯土天井町18
075-492-1771
17:30~20:00(L.O.)
休 水曜(不定休あり)

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