BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.08.27

割烹KIZAHASHI「韓国風冷麺 和の酸味」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回はザ・サウザンド キョウト2F『割烹KIZAHASHI』料理長、宮下司さんの「韓国風冷麺 和の酸味」をご紹介します。

割烹KIZAHASHI「韓国風冷麺 和の酸味」

ザ・サウザンド キョウト『KIZAHASHI』はカジュアルなダイニングエリアと割烹スタイルのカウンターを併せ持つ日本食レストラン。カウンター割烹を取り仕切る宮下司料理長は、RED U35(35歳以下の若手料理人を対象とした日本最大級の料理コンペティション)で優秀な成績を収めるなど、京都でも注目を集める存在。『祇園丸山』『祇園さゝ木』といった名店での豊富な経験を生かし、祇園町で味わうような割烹体験を提供しています。

kizahashi2.jpg

発想秘話

食欲が減退しがちな暑い夏に欠かせない冷たい麺。この時期、家でも外でも冷たい麺類を召し上がる機会が多いんじゃないでしょうか。でも和食でお出しする「冷たい麺」って意外と種類が限られるんですよ。そこで何か目先の変わったものを......と考えた時に、ラーメン用の鶏スープで「韓国冷麺」のような澄んだスープの冷麺を作ったら面白いんじゃないかと思ったんです。

鶏スープは当店のシメの一品として常備しているラーメン用のもの。コース終盤でもするするとお腹に収まるような、とてもすっきりした味わいのスープです。通常はチャーシューなどおなじみの具材を乗せてお出ししていますが、今日はちょっと意外性のある食材を使い、夏にぴったりな一品に仕上げようと思います。

kizahashi3.jpg

今日使う手延べ素麺は奈良で作られている本葛入りの全粒麺で、いわゆる素麺とは食感がだいぶ異なります。鮎魚醬と梅干しはスープに深みを与える隠し味に使います。具には今が盛りの桃と胡瓜を。桃と麺、胡瓜と魚醬......互いを引き立てる相性の良さを感じてもらえるとうれしいですね。では早速作っていきましょう。

kizahashi4.jpg
kizahashi5.jpg

まずは煎り酒を作ります。純米酒に梅干しを入れて火にかけ、アルコールを飛ばします。少し煮詰めて梅の酸味と塩味を酒に移し、冷ましたらすぐに使えます。さっぱりしていて白身魚によく合うので、夏は醤油代わりに造りに添えることもあります。

kizahashi6.jpg

常備している鶏スープに煎り酒と鮎魚醬を加えます。鶏スープは塩でよく練った鶏ミンチからとったもの。ミンチを使うことで、非常にすっきりとした味わいになります。 一般的な韓国冷麺は水キムチの漬け汁などを隠し味に使いますが、今日は鮎魚醬と煎り酒で発酵のうまみと酸味を補ってやります。

kizahashi7.jpg

桃と麺はとても相性がいいのですが、少し食感が物足りない。そこで胡瓜を加えました。瓜の香りは魚醬との相性も抜群です。麺と絡みやすいよう桃は薄くスライスし、胡瓜は千切りにします。

kizahashi8.jpg

弾力ある食感に仕上げるため、茹で時間は短めに。氷水でしっかり洗い流すと、食感がさらによくなります。

kizahashi9.jpg

麺の上に先ほどカットした桃と胡瓜を乗せ、仕上げに葱油を。アクセントに自家製の実山椒ペーストを乗せて完成です。お好みでそら豆の時期に仕込んだ豆板醤を足してみてください。
桃と喉ごしのいい素麺、鶏スープの相性はいかがですか? すっきりしたスープがフルーツともよく合うでしょう? 食欲がない時でも、するするっと召し上がっていただけるんじゃないでしょうか。

kizahashi10.jpg

和食に軸足を置くのはもちろんですが、面白いアイデアはどんどん形にしていきたい。
もっと言えば「みんなと同じことはしたくない」と思ってやっています。今日の麺も、高級食材を使えばいくらでもおいしくできる。でもそれは僕の目指すところじゃありません。それよりも逆に「迷ったら減らす」。なるべくシンプルに、要素を少なく。僕が目指すのはそういう料理なんです。
例えば椀物。緩急あるコースの中で、お椀は出汁を楽しんでもらう料理です。「ならば野菜だけのシンプルな椀があってもいいのでは」と思い、野菜だけの椀をお出ししています。今の椀だねは揚げてから炊いた賀茂茄子ですが、お客様の反応も非常にいいですね。

要素を増やすのは簡単だけど、逆に減らすのはすごく怖い。それだけに、挑戦のし甲斐があると感じます。
自分の主軸さえブレなければ、そして気持ちを入れて作ったものなら、どんな料理も胸を張って「食べてや」って言える......これは『祇園さゝ木』の大将から学んだことでもあります。これからも思考にブレーキをかけず、新しいことにどんどん挑戦していきたいと思います。 

撮影 鈴木誠一/取材・文 鈴木敦子

kizahashi11.jpg
kizahashi12.jpg

■ザ・サウザンド キョウト 日本料理KIZAHASHI内 割烹KIZAHASHI

京都市下京区東塩小路町570
075-351-0700(レストラン総合受付10:00~19:00)
月・火曜休
17:00~20:00(19:00L.O.)
※時短営業中(まん延防止重点措置により、8/31(火)まで酒類の提供を休止しております)
※営業時間・営業内容につきましては、日本政府及び京都府関係機関の示す方針に準じ、変更が生じる場合があります。
※記事内容は取材時(2021年7月末)のものです。最新の情報は直接『ザ・サウザンド キョウト』までお問い合わせください。

京都知新編集部推薦

Editors' Choice

「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

料亭

割烹