BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2020.12.14

祇園 おかだ「鯨の尾の身のカルパッチョ」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『祇園 おかだ』岡田孝二さんの「鯨の尾の身のカルパッチョ」をご紹介します。

奇想の一皿「鯨の尾の身のカルパッチョ」

一流店ばかりが軒を連ねる祇園町南側。コースのみのお店も少なくない中、開店当初から一貫して数多くの一品料理を用意する『祇園 おかだ』。店主の岡田さんは「分かりやすいメニューばかりのお店です」と破顔しますが、品書きを見ればその途方もない労力は明らか。料理ひとつひとつから真摯な仕事ぶりが伝わってくる、京都でも指折りの名割烹です。

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発想秘話

実は今回のお話をいただいたあと、仲良くしている隣(リストランテ t.v.b)のシェフに相談してみたんです。僕が普段使っている食材を持って行って「これで何か作ってみてよ」って。すると、ものすごくいろんな料理を作ってくれたんですが、それを見た時に「イタリア料理と和食では考え方がまったく違うな」とつくづく思い知ったんです。

逆に僕らがブイヨンやらを作っても、やっぱり「和」の味になってしまう。パスタを作ったとしても、味わいは「和」になるんです。それを無理矢理「洋」に近づけようとしても、モノマネというか「なんちゃって」にしかならない。そう思い至ったときに「できないことはやらんとこ」と、逆に肩の力が抜けました。

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品書きを見てもらえば分かるように、うちでは食材をダイレクトに味わってもらうことが多いです。創作っぽい料理とか、アレンジしてどうこうっていうのはほとんどないですね。なので今回のお題に関しても、素直にうちのカラーを出せばいいんじゃないかと思って、普段出しているお造りから発想を膨らませました。

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僕は今でも毎朝市場に行くんですが、ちょうど尾の身のええのがあったので、今回はミンク鯨の尾の身をカルパッチョ風に仕立てようと思います。鯨はよく使う食材ですし、ベーコンも普段から自家製を仕込んでいます。

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尾の身の造りといえば生姜醤油で食べるのが一般的ですが、今日は田楽味噌や銀杏のソースで変化をつけたいと思います。銀杏は香りもいいですし、味もやわらかくなっていいかなと。色もきれいですしね。

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生の銀杏を裏ごしして、吸物地に加えます。これを加熱すると、自然なとろみがでてきます。毎年7~8月頃には「鱧と銀杏のすり流し」を作りますが、その「銀杏のすり流し」を応用したものですね。味付けは塩と醤油を少々。

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この型ですか? これはお遊びでお寿司のケーキを作るときなんかに使っています。今日は見た目が重要なので(笑)、型を使って立体的に盛り付けていきましょう。

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ショートパスタのように見えるのは揚げた湯葉スティックです。盛り付けに高さを出したくて添えてみました。あしらいは他に百合根、水菜、あさつき...あとは生姜とすり下ろした大徳寺納豆を全体にまんべんなく散らして完成です。

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尾の身に田楽味噌ベースのたれをかけましたが、当初は味噌でなく、生姜醤油のジュレを使う予定だったんです。ところが昨日の夜中に「味噌でやったらどうかな?」と思いついて、急遽味付けを変えてみました。脂の乗った尾の身と田楽味噌の相性はどうでしょうか? いけますか? 大徳寺納豆もいいアクセントになるでしょう? 

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今回は本当に、改めていろいろと考えさせられました。やはり「餅は餅屋」というか、単なるモノマネでは到底本職に及ばないものを、どうやって「自分の料理」に仕立てるか。そういうことを深く考えるいいきっかけになったと思います。

コースもご用意していますが、うちはアラカルトが100種類くらいあるので、カウンターで好きなようにあれこれ注文して......という使い方をされる方が多いですね。こんな狭いとこですけど、調理は7人でやっています。あまりごたごたいじらずに、素材のおいしさを素直に味わってもらうのがうちのやり方。時季ならではのおいしいもんを揃えているので、造りでも焼き物でも、揚げ物でも椀ものでも、その時食べたいものを自由にリクエストしてください。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■祇園 おかだ

京都市東山区祇園町南側570‐6
075-551-3200
17:00~23:30(L.O.)
日曜・祝日休

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