BLOG料理人がオフに通う店2020.12.25

「ELTESORO」(エルテソロ)-「Cantina ROSSI」の中川浩さん・美弥子さん夫婦が通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「Cantina ROSSI」の中川浩さん・美弥子さん夫婦が通う「ELTESORO」(エルテソロ)をご紹介します。

Cantina ROSSI」のオーナーシェフの中川浩さんと妻の美弥子さん。

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 オーナーシェフの中川浩さんは、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた人。仕事で訪れたイタリアにすっかり魅了され、39歳のときに思い切って建築士をやめて、妻の美弥子さんと共にイタリアンレストランをオープンさせた。

当時、たまたま親しくしていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフのアドバイスを得て、当時、まだ日本では先駆けともいえる生パスタを食べられる店として、口コミで多くのファンを獲得していった。パスタと並んでこちらもファンが多いドルチェは、美弥子さんが担当。夫婦の息のあったもてなしで、和やかな食のひとときを楽しめる。

 祇園、縄手通に面したモダンなビル一階の奥深くに佇むオーセンティックなバー。ふと見ると艶やかなカウンターの上にいくつも美味しそうな焼き菓子が並んでいる。実はこれ、オーナーバーテンダーの大塚祐也さんの手作りだというから驚いてしまう。
「カクテルもお菓子も大好きなんですが、この二つはよく似ているんですよ」
どちらも素材の組み合わせや配合でさまざまな味のバリエーションが作れることや、クリームをどこまで泡立てるか、どこで止めるかといった呼吸は、カクテルのシェイクやステアに通じるというのだ。
 もともとは静岡県で車の整備士をしていたが、ある時、バーで手伝いをした時にカウンター越しの接客の面白さを発見したという。縁がつながり、京都のバー「K6」に入り、8年間修業をしたのち、2006年に念願の自分の店をオープンした。
昔からお菓子作りは好きで、その時にすでにお菓子教室にも通い続けており、自分が好きなお菓子とカクテルを楽しめるバーにしたいと、店のコンセプトを定めたという。

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鮮やかな手つきでカクテルを作る大塚さん。その手から、未知なる甘やかで美味しいカクテルが生み出される。

「とにかくカクテルがまるでドルチェみたいなんです!カクテルだけでももちろん美味しいのですが、カクテルにマッチングするドルチェを添えて出してくれるのも楽しいですね。いつも大体カクテルの種類はお任せですが、本当に美味しくて、その日の気分にぴったりくる味を作ってくれるんです」と話す中川さんは、妻の美弥子さんと二人でよくここに飲みにくるという。
「僕も中川さんの料理が大好きで、妻と一緒によく伺うんですよ。お気に入りはアマトリチャーナ。あと奥さんのドルチェが、センスがとても良くて美味しくて、いつもすごく勉強になります」と大塚さん。
 現在は、妻の寿弥さんも共に店に立って、夫をサポートしている。夫婦でお客さんとの会話を楽しみながら、息のあったもてなしがとても心地よい。

 さっそく、その"ドルチェのような"カクテルをお願いしたてみた。
最初に出てきたのは、エスプレッソ・マティーニとシナモンのパウンドケーキ。エスプレッソ・マティーニは、ウオッカをベースに、エチオピア・モカの豆を粗挽きにしてラムで漬け込んだ自家製コーヒーリキュールを合わせた、甘・苦のバランスが絶妙のカクテル。どこまでも濃く、深く、コーヒーの香りがずっと余韻となって染み込んでくる。その濃厚な味わいと添えられたシナモンケーキのよく合うこと...!パウンド生地はバターの代わりにオリーブオイルで軽やかに仕上げており、くるみと、なんと粗くおろした生のズッキーニが入っていて、しっとりした感と歯触りを生み出し、一口頬張るとたっぷりのラムレーズンとシナモンの香気ふわりと立つ。

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エスプレッソ・マティーニ ドルチェ付き 1300円。大人向けの濃厚な組み合わせ。ドルチェ単体は全て300円。

 次に出てきたのは薄緑がかった美しいカクテル、サンジェルマンとクリームチーズのテリーヌのペアリング。シャルトリューズをベースに、グレープフルーツとレモン果汁の柑橘系を効かせて、泡立てた卵白を合わせて仕上げる。口に含んだとき、薬草と柑橘の香りが満ちて、高原の風が吹き抜けるような爽快感が広がっていく。そのあとにクリームチーズのテリーヌを食べるとクリームチーズの甘酸っぱさと生地の粒つぶ感がさらにフレッシュさを添えて、美味しさの連鎖が止まらない。

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カクテルとドルチェの爽やかさの相乗効果はクセになる!サンジェルマン ドルチェ付き1300円。クリームチーズにサワークリームを合わせて、ラストにコーンスターチを加えて仕上げるテリーヌは、滑らかでクリーミーな生地の中の粒つぶ感がたまらない。

 ラストに登場したカクテルには、さらに驚かされた。その名も、イチゴのhフローズン。ぱっと見ただけでは完全にパフェ、なのに、口に入れるとちゃんとお酒が入っているのはわかる。
 ゴディバのチョコレートリキュール、ブランデー、クランベリージュース、バニラアイスをブレンドし、大きめのカクテルグラスに入れて、フレッシュなイチゴを添える。
「お酒の入ったドルチェとしても、カクテルとしても楽しんでいただけます」

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カクテルドレスを纏った貴婦人のような雰囲気のイチゴのフローズン、1300円。

 お酒が弱い人には、お菓子だけでもオーダーできるのも嬉しい。ココアシフォンケーキはシフォンケーキの中でも人気の一品。オリーブオイルを使ってしっとりしながらも軽やかな味わいで、和三盆を加えて泡だてた生クリームはどこまでもなめらかで、ケーキにとてもよく合う。

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ホールでリクエストされることもあるというシフォンケーキ。ただ軽いだけでなくしっとり感が素晴らしい。300円。

「ケーキをホールで欲しいというお客様もおられますよ(笑)」
その気持ち、とてもよくわかる...!筆者もバースデイケーキをお願いしたいと思わず、考えてしまったほど。
 材料を吟味し、丁寧に作ったドルチェと、同じように大切に作ったカクテル。二つの極上の味は、まさしく、幸せな出会いに他ならない。
 もちろん、マンハッタンやギムレットなどのクラシックカクテルも、マスターはとても大切にしている。オーセンティックなバーとして楽しむもよし、ちょっと甘いものが食べたいなあと思う時に、ドルチェとカクテルのペアリングを楽しむもよし。

「祇園のバーだからと言って、緊張などされずに、肩の力を抜いて、楽しくお酒を飲んでいただきたいです」(寿弥さん)。

 カウンターの向こうで笑顔の二人が暖かく出迎えてくれるバー。そこには、甘いお菓子とお菓子のような素敵なカクテルが待っている。うっとりするような幸せな組み合わせを、大切な人とゆっくり満喫してほしい。

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仲の良い素敵な夫婦の会話に、こちらもすっかり打ち解けてしまう。寿弥さんは長年、呉服関係の仕事をしていた和風美人。キリリとしたバーテンドレスの服装もとてもよく似合う。

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■ELTESORO

京都市東山区弁財天町19 大和ビル1F
075-541-1770
16:00~翌3:00
水・木曜休
席料 500円、価格は税別、サービス料なし

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江