BLOGうつわ知新2020.12.12

古染付3

季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。

古染付も、1、2回目同様「洋食おがた」の緒方博行シェフに器と料理のコラボレーションに挑戦していただきました。

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梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

古染付と洋食

今回は、料理人だけでなく茶人にも人気のある「古染付」のなか、型物の菓子鉢と、「祥瑞」の大皿に洋食をもるという挑戦です。

それぞれのうつわが持つ風合いやデザインに「洋食おがた」緒方シェフがどんな料理を盛りつけるのか。料理とのマリアージュでさらに魅力的になるうつわの美しさをお楽しみください。

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 このうつわの木箱には「古染付菊菓子鉢」と墨で記されています。轆轤(ろくろ)で円形に引いたものを、更に型にはめて成形しています。直径17 cm ですから、6寸にも満たない大きさですが、鉢なのです。同時に数物ではなく一品物です。先に紹介した数物の型物向付より希少性が高く、轆轤成形の薄手の皿類よりも、型にはめる手間が掛かっていることから、上級作の鉢と扱われて来たようです。
 表面は染付で菊の花弁が描かれていますが裏面に模様は無く、白磁の状態で、型で立体的に成形したな菊の花弁が大胆に表現されています。足ではなく大変分厚い円形の高台がつけられていて、そこにはやはり砂の付着も見られます。 (古染付2より)

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「菓子鉢とされるこのうつわは、少し高さがあります。それに合わせて料理も厚みというか高さのあるものをと考えました。美しいうつわの色に添うよう、少し赤身のあるアジフライを合わせてみました。葱と茗荷で彩と味のふくらみを添えました。

 このアジは、織部焼回の鰆と同じく、静岡サスエ前田さんから届けていただいている上質で新鮮なものです。生のままでも召し上がっていただけるので、ごくごく薄い衣をつけて、さっとレアに仕上げました。

 サクッとした衣の食感と新鮮なアジの旨味が同時に口に広がります。葱と茗荷の香味がアクセントになってアジの美味しさを引き立てます。うちの鮮魚料理のなかでも、何度でも食べたいと言っていただけるファンの多い料理だと自負しています」 緒方シェフ

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 次は「祥瑞大鉢」です。
 私の店には海外からのお客様も沢山お見えになり、中国の方もおいでになります。彼らの多くは、かつて日本に渡った中国の美術品を探しに来るのですが、「古染付」や「祥瑞」という焼物にまったく興味を示しません。彼らはこれらを日本の「伊万里」だと考えているからです。その理由は歴史の中に隠されています。

 1511年、東福寺の高僧侶の「了庵桂悟(りょうあんけいご14251514)」は遣明使として海をわたり、その際の随行員に伊勢の商人、伊藤五郎太夫(伊藤五郎大夫)というものがいました。「伊藤五郎太夫(いとうごろうだゆう)」は明国に渡り、焼物の魅力にとりつかれ、景徳鎮へ赴き磁器製造法について学んだそうです。そして2年後、日本に帰国して有田に入り作り上げたものが「祥瑞」である、と中国人は考えているらしいのです。それを裏付ける証拠が、「祥瑞」のいくつかのうつわの高台内に記されている「五良大甫呉祥瑞造(ごろうだゆうごしょんずいぞう)」の銘だと言われています。

 この銘が一体何を意味しているのかは、諸説あって未だに解明はされていませんが、「伊万里」は日本初の磁器であり、1616年から生産が始まったとされています。仮に、そこから100年もさかのぼった時代に「伊藤五郎太夫」が「祥瑞」という磁器の生産に伊万里の地で成功していたとすれば、その技術をその後の日本人はきれいさっぱり忘れてしまったことになります。中国人が思う日本人は、ずいぶんお気楽な民族のようですね。

古染付2より

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「直径50cmほどもある大皿で、複雑で美しい幾何学文様を一目見たときから惹かれました。この大皿なら赤い牛肉を盛りたいと閃いたんです。
 赤い肉の断面とクレソンの緑、辛子の黄色をアクセントにしました。ヒレカツをただ一列に並べるだけでなく、ひとつだけ外して青の上に盛る。そのポイントで料理とは違う、アート的な表現もしたかった。

 洋食おがたでは、ハンバーグやカレーは尾崎さんの牛肉ですが、ヒレカツは、京都丹波牧場の平井牛を使わせていただいています。平井牛はきめが細かく、口に入れた途端に溶け出します。天然の水や良質の草や穀物を食べ、ストレスフリーな状態で育てられているそうです。

 こちらも衣はごく薄く。噛むと同時に肉のうまみを感じられるよう、レアに仕上げています。何もつけなくても十分美味しい肉ですが、辛子を少しつけると風味が添えられ、また違った美味しさを味わえます」 緒方シェフ

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緒方博行(おがたひろゆき)

熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。

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■洋食おがた

京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺32-1
075-223-2230
11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O,)
休 火曜、月1回不定休