京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は荒川(株)社長の荒川慶一さんが通う「京料理 およね」です。
■荒川 慶一(あらかわ けいいち)さん
荒川株式会社 代表取締役社長
1972年京都生まれ 東京育ち
荒川株式会社は1886年創業。全国の百貨店で、和装小物や和にまつわる様々なものを扱う「さんび」と、パジャマとリラクシングウェア「Amour」「arakawa1886」、ライセンスブランド「PAUL & JOE」「DAKS」LIBERTY PRINT」「mila schon」「Paul Stuart」「MOOMIN」などを展開する。
室町綾小路の京都本社の一階に、祖業の半衿専門店「荒川益次郎商店」と和小物の店「さんび堂」を運営している。
店選びの基準は、プライベートでも接待でも楽しい時間を過ごせる店。最後の晩餐は、あん肝と度数高めの日本酒。
細工も美しい八寸が人気。3代目主人が旬の素材で織りなす京料理を選り抜きの日本酒と
「小学校時代の同級生がやっているお店で、本格的な京料理をおまかせコースで出しています。季節の野菜をしっかり取り入れているところが気に入っています。接待や先輩経営者の方との食事などで利用することが多いですね」(荒川さん)
地下鉄四条駅から5分ほど。話題の飲食店などが集まる人気のエリア・綾小路通で昭和2年から営んでいるのが、「京料理 およね」だ。荒川さんの友人で3代目主人の中島弘道さんは、女将である母の悦子さんと主に二人で店を切り盛りしている。昔ながらの京料理に現代風の趣向も加えた季節の献立が常連客や観光客に好評で、女性の一人客の利用も多いという。
「本当にオーソドックスな京都の料理屋さんという感じ。接待でも相手の方と親密になりたい時に利用しています」(荒川さん)
京都らしい風情の落ち着いた店内は、1階に7席のカウンターと掘りごたつの部屋が一つ、2階はテーブルの個室3部屋がある。
中島さんの代になり、看板を掲げて一般のお客にも来てもらうようになったが、もともとは接待を専門とする店で、室町の呉服関係など地元企業や団体と契約して料理を提供していたそうだ。
「丸紅さんが京都にできた時、自社に来客用の食堂をつくるから、そこに入ってくれへんかと言われて専属で入るようになったんです。昼間はうちが食堂で料理を出して、夜は丸紅さんがここにお客さんを呼んで、接待されていました」と、中島さん。
荒川さんが地元の小学校に通っていたのもそんな時代だ。
「僕は中学から東京に行ったので、京都には小学校卒業までしかいなかったんです。小学校は1クラスしかなく6年間皆ずっと一緒で、仲が良かったですね」と荒川さん。中島さんとはよく互いの家に遊びに行ったという。「いろいろ遊びに連れて行ってもらったし、お母さんにもお世話になりました。僕は結構偏食だったんですが、おやつに出してもらって苦手なスイカが初めて食べられるようになったのをすごく覚えています」
中島さんも、「ガク(荒川さんのあだ名)の家の裏に空地ができたので、皆で放課後、秘密基地を作ったりして遊んでいましたね」と思い出を語る。
荒川さんがお客として初めて訪れたのは、京都に戻ってまもなくの25年ほど前。
「今の妻と一緒に行ったと思います。美味しかったんですが、まだ大学を卒業したてで、あれっ、こんな高級な店だったの?と驚きました(笑)」と、荒川さん。いつもはカウンターで、中島さんたちと他愛もない話をしながら食事を楽しむという。
「このへんをふらっと歩いていて出会って、『ああ、久しぶりやな』となって。それからちょくちょく来てくれるようになりました。カウンターでちょろっと食べて飲んで、『ほな』って言って帰る。そんな感じですね」(中島さん)
「京都の食材を丁寧に調理して食べさせてくれるので、皆さんに喜んでもらえます。彼は一見チャラい感じですが(笑)、料理に関してはすごく真面目です」(荒川さん)
中島さんは、京都で料理の修業を積んだのち、二十数年前に家業に入った。代々の味に中島さんの色が加わった料理は、繊細な細工野菜をはじめ美しい盛り付けにも定評がある。
「父がやっていたのは枯れた料理が多かったから、もう少し華やかにしたいなと。うちの店には庭がないので、料理で庭を表現できたらと思ってやっています」(中島さん)
昔から信頼関係のある錦市場の八百屋や魚屋から主に食材を仕入れ、その時々の美味しい旬の素材をコースに盛り込む。
ここには一品もあるが、荒川さんたち常連の大半はおまかせを頼むという。
中島さんの料理を象徴するのが、荒川さんお薦めの季節の味覚が詰まった八寸だ。
箱庭に見立てた華やかな八寸は、最初に必ず出される名物的な一品。写真は秋の一例。温泉卵の味噌漬けの柿仕立て、からすみ、鴨ロース、菊かぼちゃ...などなど、一つひとつ手間をかけて手作りされた料理は味わい深く、満足度が高い。
「この八寸を食べたくて来られる方も多いです」と、悦子さん。
「野菜の炊き合わせも好きですね。細工された野菜が美しいです」(荒川さん)
写真は10月~11月の「小かぶの旬菜鋳込み 菊花あん」。小かぶを箸で割ると、中から野菜や生麩が顔をのぞかせる。鮮やかな錦秋を思わせる一椀だ。
「京料理は野菜を使ってなんぼ」という中島さん。野菜の扱いには特に思い入れが強い。定番料理にも一工夫施し、ここならではの味に仕立てている。
希少なものにも出合える地酒は獺祭など定番3種に、旬の料理に合わせた5種が揃う。
「彼は利き酒師で日本酒に詳しいので、おまかせで出してもらいます」と、荒川さん。ここでは20年ほど前から料理に合わせて日本酒を提供している。
長く接待の店として多くの人をもてなしてきた同店。中島さんは、お客の顔を見て年齢や体調などを考慮し、素材の切り方を工夫したり、料理の内容や出し方を変えたりと、臨機応変に料理を提供しているという。
ただ、そうしたきめ細かな気配りも、TPOに合わせた雰囲気作りも、当たり前のことをしているだけと話す。
「彼もお母さんもこちらの都合もわかってくれているし、それに合わせた対応もしてくれる。それは簡単なようで簡単なことじゃないので、安心できますね」と、荒川さんも確かな信頼を語る。
「お客さんには、笑って楽しんで帰ってもらえたら」と、中島さん。さりげなく温かいサービス、明るく気取らない人柄もファンの心をつかんでいるようだ。
予算は食べて飲んで1万5千円~2万円程度。これからの季節は、甘鯛のみぞれ鍋やカニ料理がお薦めだ。
撮影 竹中稔彦 文 山本真由美
■京料理 およね
京都市下京区綾小路通り高倉西入る神明町230
075-351-2849
営業時間 18時~22時
定休日 日曜
http://oyone.com/