BLOG料理人がオフに通う店2021.11.10

「太郎屋」-「焼肉 文屋」岩村文植さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「焼肉 文屋」の岩村文植さんが通う「太郎屋」をご紹介します。

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「焼肉 文屋」岩村文植さん(右)

梅小路公園の七条通に面した「焼肉 文屋」は2009年11月オープン。実家の料理店の手伝ったことから料理の道を目指した主人の岩村さんは、有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えた時、まず自分が大好きな料理を提供したいということで、「焼肉店を開きました(笑)」。家族や友人同士、みんなでワイワイとリラックスして旨い肉を楽しんで欲しいと日々、仕入れから調理まで力を尽くしている。気取りがなくて、賑やかな店はいつも笑顔で溢れている。今は新展開として、得意の中華料理の新しいスタイルのレストランの開店を企画進行中だという。

「裏路地にあるいい店があると信頼できる知人から聞いて『太郎屋』さんに伺うようになりました。忙しく喧騒な日々から少し抜け出したい時や、日常とギャップを感じたい時に気のおけない友人と一緒に行きます。女将の人柄、優しさが醸し出される手料理と、落ち着いた空間ながらも、心地よい躍動感があって、ほっとするんです。程よい距離感のある接客も寛げますし、つい長居してしまいます」

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いかにも居心地の良さそうなカウンター席。お一人様客も多い。

 四条烏丸西入ル、さらに北側に上がったあたりに路地酒場が集まるエリアがある。最初の頃はポツンポツンと点在したいたが、いつのまにか飲食店が増えて、人気の食ゾーンに。その一角に、「太郎屋」と染め抜いた白い暖簾が掛かる。
 暖簾を守っているのは、店主の杉本雪枝さん、長女の悠子さん、次女の瑠衣子さん姉妹だ。母娘3人がてきぱきと切り盛りして、アットホームな店はいつも常連客を中心に賑わっている。

 「母がとても料理上手で、父がお酒好き。母の手料理で美味しいお酒は飲める理想の居酒屋をして欲しいと、父のたっての希望で30年前にこのお店を始めたんです。店名は父のニックネームからつけました」と姉妹は笑う。
 父の母、つまり雪枝さんのお姑さんが料理の名手で、雪枝さんはおばんざいをはじめ、京の家庭料理をしっかりと受け継いだという。

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次女の瑠衣子さん(左)、長女の悠子さん(右)の笑顔ともてなしにほっとする。

 リーズナブルな一品料理とお酒を気軽に楽しむ「サラリーマンの味方」というのが、創業以来のモットー。観光客の層も増えたが、その思いは今も変わらない。
 素材選びも主婦目線。その時々の旬でお安くて美味しいものをたっぶり仕入れて、炊く、焼く、蒸す、揚げるなどさまざまな味わいに仕上げる。

 「素材同士の出会いや組み合わせも大切。家庭料理がベースですが、そこはプラスα、うちの店らしさを一味添えるようにしています」
  一品料理は500円〜でとてもリーズナブル。定番メニューのほか、日替わり料理を加えると60〜70種ほどの料理が揃う。
 「らしさ」を大切にしているとのことだが、それをよく感じさせるのが、不動の人気を誇るのがポテトサラダだ。これは女将オリジナルの味わいで、何と玉ねぎを飴色に炒めることからはじめ、くったりと甘くなった飴色玉ねぎ、お芋さん、ハムを具材として合わせている。マヨネーズ2種を合わせるのも「太郎屋」らしさだろう。

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ポテトサラダ500円。まず頼みたい一品だ。

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こちらも定番のにしんなす。600円。なすは一度揚げておく。にしんは戻した出汁で炊き、なすも別で炊いておいて最後に合わせる。この一手間を惜しまない。

 女将ゆずりの料理センスは季節感にも現れる。秋らしい一品、小かぶとカシューナッツと柿の和えものはまさに、今が旬の食材をピタリと合わせている。鉄錆を思わせる色合いの器に、秋の夕日を思わせる華やかな橙色がよく映えて、見るだけでもお酒を欲する仕立てはさすがだ。
 「旬はすぐに過ぎてしまうので、短い間だからこそ、その季節を愛でながら味わっていただきたいと思います」

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小かぶとカシューナッツと柿の和えもの630円。色彩も素晴らしい。

 出張で京都に来る人など一人客も多く、お一人さま用の5種盛り900円〜を用意してくれているのも嬉しい。料理のセレクトは基本お任せだが、苦手や好みなどきいて、上手に組み合わせてくれる。女性ならではの心づくしのサービスは、ほんとうにお母さんのいる家に帰ってきたような寛ぎを感じる。 _MG_5473.jpg

日本酒1合900円〜(半合もある)。セレクトされた日本酒と季節の一品。仕事帰りに芯から癒されるひととき。

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日本酒は熱燗、冷酒、生のままなどお好みで。京都や灘をはじめ、全国の地酒をセレクト。

 あれこれ一品を頼んで、お酒をちびりちびり楽しんだり、ご飯ものまでしっかり食べるのもよし。4950円〜で、飲み放題付きのお任せコース料理も用意してくれる。仕事帰りの一杯や懐かしい友との語らい、家族で食事会など、カウンター、テーブル、座敷など人数やTPOに合わせて、太郎屋のひとときを自由に楽しんで欲しい。
 美しい器たちはほとんどが女将の雪枝さんの作品というから驚く。長年、作陶を続けてきたそうだが、今やプロ級の腕前といっていいだろう。女将手作りの器と京の家庭料理とお酒をゆったり楽しむとは、なんと贅沢なひとときだろう。 _MG_5381.jpg

庭を眺める座敷席もゆったりとした寛ぎを感じさせる。

 コロナ以前は大鉢料理をカウンターにずらりと並べて、お客が選べるようにしていたが、今は残念なことにそれはできない。世の中が落ち着けばそのスタイルを再開したいという。もちろん今も品数は変わらず、たっぷりの品書きから料理を選ぶことができる。
 そうは言っても、自慢のずらりと並んだ大鉢料理の向こうに、女将さんと姉妹の笑顔が見える...。そんな日が待ち遠しい。 _MG_5544.jpg

看板の文字に惹かれてふらり。暖簾をくぐればいつもの笑顔が迎えてくれる。

■「太郎屋」

京都市中京区新町通四条上ル東入ル観音堂町473
075-213-3987
営業時間 17:00〜23:00(LO 22:00)
※現在はコロナ禍にてディナーは休業中。
定休日 日曜・祝日(日曜は祝日の場合は営業、翌月曜休)
予約ベター
※営業については事前に必ず電話で問い合わせを。

撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江