BLOG京の会長&社長めし2019.12.26

株式会社千總の社長が通う店「北白川中国料理 叡」

京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は㈱千總 社長の仲田保司さんが通う店、「北白川中国料理 叡(えい)」です。

仲田社長写真リサイズ.jpg

■仲田保司(なかたやすし)さん 

460余年の歴史を持つ京友禅の老舗、株式会社千總の代表取締役社長。 企業理念である「美・ひとすじ」のもとに、友禅染の着物をはじめとして染織品を手がける一方で、友禅の技術やデザインを和装以外の分野に応用するなど、日本文化の継承と共に、時代に合わせた改革を続けている。 京都の飲食店は、しつらえや雰囲気などに季節が感じられるところが気に入っている。最後の晩餐は夏の京料理。

大原野菜たっぷりのオリジナルメニューも好評。素材の味を生かしたあっさり中華

_EDY9880.JPG

路地裏には、隠れた名店が多い。そんなことを実感させるのが、北白川にある仲田社長おすすめの中国料理店「叡」だ。白川通から京都造形大学南側の細い坂道を上がっていくと、白壁の小さな店が見えてくる。

「知人に紹介されて行ったのが最初で、もう56年は通っていると思います。シェフは日本育ちの中国の方で、同い年ということですぐに親しくなりました。昼のランチが1000円ぐらいで、夜も6000円出せば十分おいしい料理が食べられます。最近は忙しくてあまり行けませんが、前は月12回行っていました」(仲田さん)

_EDY9894.JPG

店を一人で切り盛りする店主の陳武(たけし)さん。

「仲田社長は、夜、仕事終わりに会長さんや会社の皆さんと来られることが多いですね。歳が同じで、僕の高校時代の友人が以前千總さんで働いていたこともあり、親しくさせてもらっています」と、にこやかに話す。

陳さんの実家はかつて京風中華で人気を博した下鴨の「ぢんや」で、陳さんは神戸にある北京料理の老舗「神仙閣」で修業した後、実家の店の手伝いを経て2003年に自分の店をオープンした。十数席のこぢんまりとした店だが、著名人も数多く訪れる穴場な一軒になっている。

_EDY9777.JPG

「創作中華ともいえるオリジナリティ性が高い料理を出されていて、京野菜をふんだんに使っているところが特に気に入っています」(仲田さん)

「修業先の北京料理と父の京風中華のいいとこ取りをしている」という陳さんの料理は、だしの利いたあっさりした味わいが特徴だ。食材は、目利きの魚屋から仕入れる鮮魚、岡山の千屋牛、丹波地鶏など、吟味したものを使用。特に、大原でとれた新鮮な野菜を多くのメニューに使っており、女性やベジタリアンの外国人などに好評だという。

「野菜はなるべく使うようにしています。大原の野菜は味が濃くて、それを台無しにしてしまったら農家さんに申し訳ない。だから、素材の味を生かすために、だしをしっかりとって薄味にすることを心がけています」と、陳さん。

_EDY9770.JPG

メニューはコースとアラカルトがあり、海老チリソースや北京ダック、麻婆豆腐といった定番料理に、人気の「大原野菜のおこげ」など、大原野菜たっぷりの趣向を凝らした品が加わる。明石の蛸や若狭のイカなどの季節の魚介に野菜サラダを添えた前菜は、揚げる、炒めるなど好みの調理法を選んで楽しめるのが面白い。どの品も化学調味料を用いず、手間暇かけて作られている。

_EDY9782.JPG

京野菜が食べられることがお店選びのポイントの一つだという仲田さん。必ず食べるおすすめの一品が、裏メニューの「揚げワンタンと大原野菜のミルフィーユ仕立て」(一人前2個)。3枚の揚げワンタンで豚ミンチ、オニオンスライス、焼き豚などをはさみ、68種の野菜を彩りよくトッピングした陳さんのアイデアが光る一品だ。

「野菜は季節によって違うものが出てくるんですが、これがものすごくおいしいんですよ。だから、野菜が食べたくなるとお店に行きます」(仲田さん)

そのまま両手で持ってかぶりつくと、パリッとした食感のワンタンに、シャキシャキとした野菜、中に入った調合味噌や肉の甘味や旨味などが混然となり、重層的なおいしさに。残念ながら、時間がかかる料理のためメニューに出していないが、事前に予約すれば用意してもらえるという。

_EDY9845.JPG

また、「じっくり煮込んであって、とてもやわらかい。ご飯と一緒に食べると最高です」と、仲田さんが絶賛するのが、「ぢんや」で好評だった「豚の角煮」。

肉の脂が抜けるまで3日間かけて煮込んだ角煮は、とろけるようにやわらかく、豊かな肉の旨味が楽しめる。なかなかのボリュームだがしつこさがなく、一気に食べられる。

「こないだも92歳の女性が来られて、ペロッと全部召し上がられました。うちに来て胃がもたれたという人は、一人もいないですね」と、陳さん。

_EDY9742.JPG

仲田さんは、この店の魅力について、こうも語る。

「料理の出し方一つにしてもすごく丁寧。小さな店で厨房カウンターとテーブルの距離が近いのですが、それでも横着せずに料理をお盆にのせて持ってきてくれるし、忙しくてもお皿もすぐに替えてくれる。そういうことを丁寧にしているご主人の行動にはお人柄も出ていると思うし、それが料理のおいしさにもつながっていると思います」

その言葉に、陳さんは、

「当たり前のことを当たり前にしているだけなんですが、お客様にお金をいただいているのやから、やっぱりそこはちゃんとせなあかんと思っています。料理も、手を抜いてしまったら自分の料理じゃなくなると思うので、どんなに忙しくても手は抜かない。その分お客様に待っていただくことになるんですが、それよりまずい料理を出すほうが失礼なので、少し待っていただいてもおいしい料理を目指したいと思っています」と答える。

陳さんのそうした姿勢から感じられる心地よさも、常連たちに愛される所以なのだろう。

「ここはお客さんにご案内しても、全然恥ずかしくないお店です」という仲田さんの言葉に、この店への確かな信頼が窺える。

撮影 エディ・オオムラ  文 山本真由美

■北白川中国料理 叡

京都市左京区北白川上終町22-10
営業時間 11時30分~14時、17時30分~21時
定休日 木曜