BLOG料理人がオフに通う店2019.12.25

「青いけ」―「卯今」小林健一さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「卯今」の店主、小林健一さんが通うフレンチレストラン「青いけ」です。

「卯今」小林健一さん

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《プロフィール》

京都市出身。専門学校時代に知り合った松尾の人気居酒屋「龍馬」で、居酒屋の仕事に興味を持ち、2号店立ち上げを機に同グループに入社。2号店の閉店により本店に移り、店長に。桂駅東口店、西院店の店長を務めたあと、2010年に「卯今」をオープン。地元客から観光客、プロの料理人まで幅広い支持を集める。食べることが好きで、勉強も兼ねて食べ歩きに出かけることもしばしば。

旬の京野菜を中心に、素材の魅力を引き出した五感に響くフレンチを、極上の空間で

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地下鉄丸太町駅から竹屋町通を東へ進むと、左手に見えてくる町家の建物。割烹とも見紛うこの店が、小林さんが通うフランス料理店「青いけ」だ。オーナーシェフ・青池啓行さんが野菜をふんだんに使ったコースを提供し、女性を中心に高い支持を集める。2014年にオープンし、すでにミシュランの星も獲得している実力店だ。

45年前から通っていて、記念日などに夫婦で来ています。とにかくお店の造りがすごい。入口が和食屋さんのようで、中は立派な8席ぐらいのカウンターがあります。2階もあるのですが、僕はカウンターで楽しんでいます」(小林さん)

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町家をリノベーションした店舗は、数寄屋建築で名高い中村外二工務店・中村義明氏がプロデュースしたもの。店内は精巧な欅のパッチワークカウンター、デンマークの家具、名画などが配され、モダンで洗練された空間になっている。青池さんは、「インテリアからカトラリーまですべて"ほんまもん"を使いたいと思いました」と話す。

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シャガール、小野竹喬などの作品が飾られた贅沢な空間。

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モザイク模様が美しいエルコーレ・モレッティの皿やシャガールの絵皿など、見事な器もお楽しみ。

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青池さんは京都ホテル出身。ホテル時代、現「レストラン スポンタネ」の谷岡シェフの下でフランス料理を学んだ。

「シェフは野菜を中心に料理を考えられる方で、僕も大分影響を受けました。それに、僕は野菜農家の友人も多く、京都の野菜を中心に地産地消をしたかったので、野菜をベースにして、それに肉や魚などのタンパク質をつけていくというコース作りをしました」と青池さん。バターやクリームも極力控え、素材の味がわかる料理を目指したという。

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大原や鷹峯などでとれた野菜をはじめ、吟味した食材で手間暇かけて作られる月替わりのコースは、ランチ3800円~、ディナー6500円~。12月は聖護院蕪などの根菜に、蟹や雲子、ジビエなどが登場予定だ。

「大体お昼に行って、夜のメニューをお願いします。あっさりとしたフレンチで、全部の料理がおいしいです」(小林さん)

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小林さんとこの店との出合いは、もともと青池さんが「卯今」のお客だったことがきっかけだ。「最初は一人で来られてぱっと食べて帰る、という感じだったんですが、共通の常連さんがいることがわかり、話をするようになって。それから僕もお店に行かせてもらうようになりました」と、小林さん。青池さんも、

「小林くんは季節ごとに来てくれています。卯今さんは夜中にあんなおいしいものを出しているのがすごくいいなと思います。週1のペースで行って、彼やお客で来ている料理人さんと料理談義をしながら楽しんでいます」と話す。年齢も一歳違いで、互いのことを「信楽焼の狸」と茶化し合うほど気心の知れた仲だという。

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8品が付くディナーコースでは、約60種類もの野菜を使用。その中で小林さんがおすすめに挙げるのが、2日間かけて作るスペシャリテの「季節野菜のプレッセ」で、25種類の野菜が入っているという。

「見た目がすごくきれいで感動します。一個一個の野菜に仕込みがされていて、甘味、辛味、苦味などいろいろな味が楽しめる一皿です」(小林さん)

旬の野菜を押し固めたプレッセは美しい寄木細工のようで、食べるのが惜しくなるほど。各野菜の旨味が十分に引き出され、これ一つでかなり満足感が得られる。

「ナスを真空調理にしたり、大根を甘酢に漬けたり、シイタケを揚げ焼きしたりと、煮る、焼く、蒸す、揚げるという調理の工程がここに凝縮されています」と、青池さん。この大きなサイズはおいしい野菜の数が揃わないと作られないそうで、どうしても食べたい場合は1週間以上前に予約するのがおすすめだ。

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毎回テーマを決めて趣向が凝らされる季節のスープも、小林さんが楽しみにしている一つ。

「個人的に好きなのは、新じゃがの頃に出るジャガイモのスープ。ビジソワーズの下にメロンのジュレが入っていて、ビシソワーズだけでもおいしいんですが、ジュレと一緒に食べるとまた違う味が楽しめます」(小林さん)

写真は石焼き芋をイメージしたサツマイモのスープで、「石焼き芋を食べたときの香ばしい匂いなどを表現するのに、サツマイモを皮ごと使おうと考えました」と、青池さん。

里浦産サツマイモのポタージュに黒ゴマのピューレ、一保堂のほうじ茶で香りづけした寒天をトッピング。口の中で焼き芋のようなホクホク感や風味を楽しめる、存在感ある一品だ。

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「青池さんは、しめさばの作り方や鱧の処理の仕方など、料理についてよく聞いてこられますし、本当に勉強熱心やと思います」という小林さんの言葉に、

「おいしいものを作って出すのは料理人共通のことですが、プロセスや技法はジャンルによって違う。料理は一生勉強なので、疑問に思ったことや知らないことは全部聞き、取り入れられるところは取り入れています」と青池さん。

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気さくで、話好きの青池さん。小林さんのようにその人柄に惹かれて通う人も多い。

「レストランは、休息して走る"レスト(rest)・ラン(run)"。料理だけでなく、僕らとの会話やお客様同士の会話、皿や絵画、空間など、トータルで楽しく過ごしていただくところだと思うので、お金をいただく以上の価値があるかどうか常に考えながらやっています」

その心づくしの食事のひと時を満喫したい。

撮影 竹中稔彦  文 山本真由美

■青いけ

京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町631
12時~13時30分(LO)、18時~22時(LO20時30分)※要予約
休 月
http://aoike-kyoto.com/