京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は京都青果合同株式会社 代表取締役社長の内田 隆さんが通うイタリアン「京都ネーゼ」です。

■内田隆(うちだ たかし)さん
京果グループ京都青果合同株式会社代表取締役社長 兼 グループCEO
『食の総合流通サービス企業』を目指し、「世界に誇れる豊かな『日本の食文化』を支え守る」ことを使命とした京果グループ。「京の台所」と呼ばれる京都中央卸売市場内に本社を構え、国内外の青果を豊富に取り扱っている。内田氏は京都大学農学部卒、カリフォルニア大デイビス校農業経済学部大学院修士課程修了。1985年、京都青果合同入社。取締役、副社長を経て2002年から現職
味も分量も会話も、自分らしくすごせる場所
「イタリアンが食べたいと思ったら、まずはオーナーシェフの森博史さんにLINEします。人気店なうえ、16席だけの店内なので、早め早めの予約が必須です」
三条木屋町を北へ3軒のビルの3階に、内田さんの胃袋を摑んでいる「京都ネーゼ」は店を構える。
エレベーターの扉が開くと、朗らかで温かな空気が包み込むようだ。
「6人くらいの気のおけない仲間との食事や、女性とのカジュアルなデートにもぴったり。アットホームで気軽に行けるのがいいんですよね。人数が多ければ窓際のテーブル席を。少なければカウンターで、できれば森さんの近くを希望します。L字型のカウンターは、キッチンに面した方にはもちろん森さんが、もう一方ではチャップリンやローマの休日などの映像がテレビ画面に流れています」
「フロアの真ん中には生ハムのスライス機が置いてあるのですが、これで客自身がスライスできるんですよ。それが面白くて、ついついたくさんカットしてしまいます(笑)。絶対に外せない私の定番です」
立派なパナマ産のプロシュートがスライス機に設置されている。
「このスライス機は店舗の場所を探している段階で、すでに購入したものです。もしこの場所と出合えなかったら、私の自宅用になっていました(笑)」(森さん)
「生ハム」750円(税込み)。オブラートのように薄くなるよう、スライス機は設定されている。薄いため空気を含み、口の中でふわりと溶けてゆく。幸せを運ぶ口あたりだ。
「ねこまんまの鰹節のように、ペペロンチーノにたっぷり載せてみるのもお薦めですよ。ボリュームが欲しい方は、何枚も重ねて召し上がってみてください」(森さん)
「私はお酒を飲むので、アラカルトが好きなんです。京都ネーゼではリーズナブルで美味しいワインを選んでもらいます。シャンパン→白→赤の順に。コクのあるワインが好きですね。2人でしたら、それに合わせてメニューを見ながら生ハム、前菜3皿、パスタ2皿を選んでいきます。ワインをたくさんいただくので、メインはあまり注文しません(笑)」
「バゲット・レーズンクルミパンとマスカルポーネ・蜂蜜添え」540円。京都・与謝郡「稲垣養蜂」の純粋はちみつは優しい甘みでマスカルポーネの軽やかさを引き立てる。内田さんがこの料理を推薦したことを知った森さんは「とても乙女っぽい料理なんですが......意外ですね(笑)」と驚いていた。
「京都ネーゼといえば、生クリームを使わないカルボナーラが有名で、もちろんそちらもいただきますが、私はトマトベースのパスタも好きなんです」
そんな内田さんが選んだのが「プッタネスカ(アンチョビ、ケイパー、オリーブ)」2000円だ。甘みの立つトマトと、酸味の立つトマトの両方と、淡路産の玉ねぎを混ぜ込んだベースのソースはとてもまろやかだ。イタリア産の2種類のオリーブは元々浸かっていた塩水を捨て、ボリビア産の岩塩で漬け直している。そのため塩っぽさが抑えられ、パスタを頬張るとオリーブのえぐみもなくシャクッとした食感が際立つ。
一般的にはソースに混ぜ込まれる唐辛子だが、あえて皿のふちに生唐辛子の塩漬けを添えている。この唐辛子はかなりの辛さだが、なんともクセになる。
「私は愛知県出身なのですが、お客様ご自身のお好みで唐辛子を加えることにより、名古屋名物ひつまぶしのように一皿のなかでどんどん味を変えていっていただければ、との発想です」(森さん)
このように調整ができる、という点も京都ネーゼの魅力の一つだ。
「パスタの量だってお腹に合わせて自由自在です。それこそ"ペンネ2本"でも受け入れてもらえるんですから、本当にありがたいですよね」
京都ネーゼとの出合いをうかがうと「京都とフィレンツェは姉妹都市で、2015年には提携50周年を迎えたんですよ」と、内田さんはおもむろに切り出した。
「提携40周年(2005年)の時に、イタリア・フィレンツェに本社を持つ世界最古の薬局で、今は天然素材を用いたオーデコロンやスキンケア用品、食品などをプロダクトする『サンタ・マリア・ノヴェッラ』のエウジェニオ・アルファンデリー社長と京都で出会いました。京都とフィレンツェの友好を深めようと、一気に意気投合。京都への出店も計画されていて、2007年に大丸百貨店のすぐそばにショップとリストランテをオープンされました。そのリストランテの初代シェフが森さんだったんです。それ以来のお付き合いになります。料理の腕前はもちろんですが、とても人当たりがよくて、お話ししていても楽しいんですよね」
2008年に独立した森さんは「京都ネーゼ(京都風)でありながら、イタリア産にもこだわりたい」をテーマに掲げ、腕を振るい続けてきた。
「内田社長は食事を通じて、ご自身の京都ライフを楽しんでいらっしゃるようです。お店では仕事の話はされません。イスラエル産のフルーツなど珍しい品種を会社で扱われたときも、それはひとつの情報として教えてくださるだけで、売り込むこともされません。時には差し入れとして、そうしたものを社長自ら箱を抱えて持ってきてくださることも。そのようにいつも低姿勢で思いやりに満ち、対等に接してくださるんです」(森さん)
料理もお店で過ごす時間も、自分に合わせることができ、自分らしくいられる――それこそが内田さんを魅了してやまない京都ネーゼなのだ。
※価格は取材当時のもの
撮影 鈴木誠一 文 竹中式子