BLOG料理人がオフに通う店2019.04.10

「カンティーナ アルコ」―「一之船入」料理人 魏 禧之さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は中華店「一之船入」の料理人、魏 禧之さんが通う「カンティーナ アルコ」です。

「一之船入」魏 禧之さん

《プロフィール》
神奈川県横浜市に生まれ、11歳の頃から実家である横浜中華街の湖南料理店「明掦」で働きはじめる。18歳より全国の有名中華料理店で修業を積み、その後中国へわたり特級調理師の資格を取得。帰国後は横浜「萬珍楼」での修業を経て、1996年に京都に「創作中華 一之船入」を開く。風情ある元お茶屋の空間で、身体に優しい中華が味わえると、全国から多くの人々が訪れる。さらに、「魏飯夷堂 三条店」「魏飯夷堂 北新地」をオープン。2017年にはアジア中国料理トップ10シェフ殿堂入りを果たす。

料理人おすすめコメント

私の店が終わるのが22時。その後はたいてい妻と一緒に食事に行きます。ですので、遅くまで開いていることは、とても重要です。

「オフに通う店」についていろいろ考えたのですが、今回と次回は「女性料理人」が頑張っていらっしゃるお店をテーマに選んでみました。料理を作るにあたっては、優劣ではなく性差は少なからずあります。優しさや繊細さについて、男性料理人とはまた違った表現が店作りでも、皿の上でもなされています。

まず1軒目は、2014年にオープンした、マンマの味をふるまう清水美絵シェフの「カンティーナ アルコ」です。

カンティーナ アルコ

魏さんのみならず、料理人たちが夜な夜な集うイタリアンレストランがある。それが「カンティーナ アルコ」だ。

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「夜11時頃になると、自分の店の営業を終えた料理人たちが集まってきます。イタリアン、日本料理、フレンチなど彼らのジャンルはさまざまですが、私は先輩なのでワインをみんなにごちそうしなきゃなりません(笑)。お店にあるワインはすべてイタリア産。夜2時くらいまで呑んで、語って、朝の市場で"呑み過ぎちゃったね"と再会することもあります」

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カンティーナ アルコの営業時間はユニークで、昼は14時から17時、夜は18時から2430分ラストオーダーというスタイルだ。特にランチタイムが14時という遅いスタート時間なのは、オーナーシェフの清水美絵さんが修業したイタリアに由来する。

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「調理師学校を卒業した後、6年間、京都・一乗寺のアンティコで働いて、イタリアのナポリの近くに位置するソレントへ行きました。ソレントは海辺のリゾート地で、レストランはだいたい午後1時半くらいからお客様が増えはじめます。そして23時間かけてゆっくりランチをとられるんです。私の店でもソレントのように日常を忘れてのんびりとすごしていただきたくて、14時オープンにしました。ランチセットでも、ディナーと同じ素材で同じメニューをご用意しています」(清水さん)

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夜も2430分ラストオーダーなのだから、仕事を終えたシェフたちにとって使い勝手がとてもよいのだ。そしてその味にも魅力が詰まっているという。

「清水さんの料理はマンマの味、つまりイタリアのお袋の味なんです。イタリアで育ったわけじゃありませんが、なんだかとても懐かしい気持ちになります」(魏さん)

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魏さんが注文する定番メニューのひとつが「仔牛のカツレツ シチリア風」2300円(税別)だ。牛肉を薄くたたき伸ばした牛カツに、イタリアンパセリ・ミント・オレガノなどの香草をまぜたパン粉をまぶして、オリーブ油で揚げ焼きにするのがシチリア風だ。軽やかな口当たりで、レモンを絞るとさらに爽やかさを増す。見た目は大きいけれど、すいすいと食べられてしまう。

「"小さな肉をよくまぁこんなに大きくできるな"、なんて清水さんをいつもからかっています(笑)」(魏さん)

「そんな魏さんに対して"150グラムはある肉なんですよ!"と返すのがお約束です(笑)」(清水さん)

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「お店のシグネチャーといえば、『レモンのスパゲッティ アルコ風』1300円(税別)でしょう。国産のレモンのみを使用し、レモンピールのソースにはバターも入りコクのある酸味。そして混ぜ込んだレモンの皮のほのかな苦みがアクセントになっています。1.9ミリの太めでモチッとした乾麺によくからんでいます」(魏さん)

清水さんの修業地・ソレントはイタリアにおけるレモンの一大産地で、料理にもレモンをよく使う。レモンのスパゲッティもソレント名物のひとつなのだ。

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「ムール貝の白ワイン蒸し"インペパータ"」1300円(税別)。これも海辺の街であるソレント名物だ。インペパータとはこしょう風味という意味で、白ワインベースのソースにピリッとこしょうが効いている。大ぶりのムール貝は肉厚で、ふんわり柔らか。料理の種類が増えたこともあり、しばらくメニューから外していたが、魏さんからよくリクエストされるため復活を果たしたそう。

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「清水さんの料理はひとつひとつがとても丁寧に作られています。その丁寧さは、同世代のシェフのなかでも抜きん出ていると思います。時には、私も料理人として味つけに関して注意することもありますが、その話にきちんと耳を傾けてくれるのがうれしいですね。アシスタントも女性で、彼女もまた清水さん譲りで丁寧に料理と向き合っています」(魏さん)

アシスタントの梅原真美さん(写真右)は、食べ歩きのなかで出合った清水さんの「毎日食べたくなる、優しい味」に惚れ込み、1年前にカンティーナ アルコの門をたたいた。

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「私はマンマの味であることを大切にしています。マンマの料理って、一見適当に作っているようでも、野菜などの素材の旨みを見事に活かしているんです。そしてホッとする味わいです。きれいになりすぎず、洗練されすぎない料理を目指しています。イタリアへ行ったことのある方に"イタリアを思い出す"と言っていただきたいですね」(清水さん)

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今では2週間に1度、多いときは1週間に1度と足繁く通う魏さんだが、実はまだ半年ほどの付き合いだとか。京都のイタリアンの重鎮、リストランテ タントタントの河上昌実さんとともに訪れたのが最初だった。

「実は10年ほど前に、京都イタリア料理研究会のチャリティーイベントに参加されていた魏さんを、お手伝いさせていただきました。当時から魏さんは料理人として雲の上の存在でしたし、お仕事モードだったのでとても威厳と貫禄がありました。なので、半年ほど前に河上さんといらっしゃった魏さんを見て、とっても緊張したんです。ふだんの私は、そんなに動じない性格なんですけど......」(清水さん)

「あんなに緊張しているシェフを初めて見ました(笑)」と梅原さんも証言する。でも仕事終わりのリラックスモードの魏さんはとてもチャーミングで、若手の料理人とも気軽に交流し、カンティーナ アルコでの時間を楽しんでいるそうだ。カウンター越しに清水さんとの会話も弾む。魏さんにとってカンティーナ アルコは、若きマンマのいる実家のような店なのだ。

撮影 鈴木誠一  文 竹中式子

■カンティーナ アルコ

京都市中京区蛸薬師通麩屋町西入ル油屋町145 洋燈館 1F
075-708-6360
14:00~17:00(16:30L.O.)、18:00~24:30(L.O.)
定休日 水曜
https://www.cantinaarco.com/