BLOG京の会長&社長めし2018.12.03

キョーラクの社長が通う店 京料理「たん熊北店」

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■ 長瀬孝充(ながせ たかみつ)さん 

キョーラク株式会社代表取締役取締役社長
1957年京都府生まれ。三菱銀行を経て'85年に、プラスチック製品の製造・加工・販売企業である「キョーラク」に入社。代表取締役専務などを経て'98年から現職。さまざまな業種の方にお会いして、美味しいものを共有することを愛している。
美食を味わうためのカロリーコントロールとして、自宅のウォーキングマシーンで1万5000歩歩くのが日課。

最後の晩餐は、60年通う「たん熊北店」で

「最初にうかがったのは4歳のころでしょうか。私の両親は外食する店を決めており、たん熊北店さんはそのなかのひとつ。学生の身分では自分で気軽に行けるお店ではありませんから、両親によく連れてきてもらいました」

長瀬さんが60年近く通い続ける「たん熊北店」は昭和3年、"京料理の神様"といわれた栗栖熊三郎氏により創業。谷崎潤一郎、古井勇ら文化人たちにも愛された京料理の老舗で、2018年に90周年を迎えた。長瀬さんにとっては家族との歴史が詰まった大切な場所である。

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「今でも毎年元日に、母と妻、子供たちとうかがうのが恒例です。脚の悪い母のために、1階奥にある椅子席の個室を用意していただきます」

接待の時も座敷を利用するが、カウンター割烹のはしりともいわれるこちらでは、やはりカウンター席が一番だそう。

「気心の知れた友人となら、カウンターの一番奥が定位置です。目の前に料理長の栗栖正博さんが立たれて、腕を振るってくださいますからね。コースもありますが、私はいつも単品で注文。それぞれ好きな素材を好きな調理法で、お腹の分量に合わせて出していただけるので、みなさんに喜んでいただけます。

お客様と品書きを見ながらお料理を選ぶのも楽しみのひとつです。そのときは、それぞれの料理がかぶらないようにするのがコツ(笑)。お刺身なら一人は鯛、一人はウニ、一人は赤貝......それをみんなで分けながらいただくと、お互いの距離もグッと近くなるのです」

なんともほのぼのとした長瀬さんたちの様子が目に浮かんでくるようだ。どの料理も魅力的だが、なかでもとりわけ好物だというのが「すっぽんの一人鍋」(税サ別4000円)と「鴨ロース」(2500円)。

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「たん熊の代名詞でもある、すっぽんの一人鍋は、他店では見られないほどたっぷりの日本酒ですっぽんを煮込んでいます。アルコール分はちゃんと飛んでいるのですが、未成年の時はちょっとドキドキしながらいただいていました。成人してからは、カンカンに熱くした日本酒を別に注文し、自分で鍋に回しかけます。こうすると日本酒の香りがふわっと立ちのぼり、スープもよりコクが増します。これは酒好きの食べ方らしいですね(笑)」

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「鴨ロースを初めて食べたのが、こちらでした。ですので私にとっての、すべての鴨ロースの原点になっています。そのままでも鴨の煮汁による味がしっかりと肉に染みていて、マスタードをつけるだけで十分なのですが、私はウスターソースでいただきます。ソース派の父がこの食べ方をお願いしたのが始まりで、長瀬家に受け継がれているんです(笑)。そしてマヨラーの私のために、付け合わせのサラダにはマヨネーズを添えていただいています」

今ではさまざまな日本料理店でよく見かける鱧と松茸の鍋も、40年ほど前に長瀬さんからリクエストして作ってもらったことがあるそう。

「松茸のお鍋といいますと、当時はすき焼きが定番でした。ある日、松茸がたっぷり入った鱧しゃぶ鍋があるらしいと耳にし、どうしても食べたくなって。

どちらのお店が発祥かははっきりしていないそうですが、たん熊北店では、もともとはお見舞いの品として先代が考案されたようです。すっぽん鍋ですと好き嫌いがありますが、鱧だとポン酢でさっぱりといただけますから、どなたにも美味しく召し上がっていただけると。骨切りした鱧は時間が経っても美味しくいただけるそうです。お見舞いでいただいた方の口コミで、徐々に広まっていったようですね。

宴会の時に湯葉やたっぷりの青菜と一緒に大鍋でいただくのも楽しいですし、お吸い物の代わりに小鍋仕立てでいただくのもよいものです」

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たん熊北店の味をこよなく愛する長瀬さんは、折り詰めや仕出し弁当もよく利用する。※写真は仕出し用の松花堂弁当(税別5500円)

「都をどりの芸妓さんへの差し入れとして、折り詰めはとても人気があります。芸妓さんからわざわざ『たん熊北店さんのお弁当で』とご指名があるほどです。東京出張の際に、折り詰めを新幹線のなかでつまむの楽しいひと時。自宅に友人を招いたときにいただく仕出し弁当も最高ですね」

長瀬さんのお店と長く付き合っていくうえでのモットーは「ご主人とよく話し、お互いの人間性を理解しあえる関係を築く」こと。

「時には明太子や栗きんとん、冷麺など、受け取られてもご負担にならないものをお店にお送りします。携帯電話の番号を交換したり、LINEで繋がることは基本です。そして家族の写真入りの年賀状にメッセージを添えて、毎年必ずお送りします。年賀状をお送りしていると、10年たってもお店の方に覚えていていただけます」

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料理長の栗栖正博さんは、長瀬さんと同じ歳。栗栖さんは立命館大学、長瀬さんは同志社大学で青春時代を過ごしたこともあり、同世代としての親しみを感じているそうだ。それは栗栖さんも同じで、出会った頃から長瀬さんは印象深かったという。

「料理の修業を始めてからのお付き合いになりますが、偶然にも共通の友人がいたことがわかり、最初からお話が弾みました。そんな様子を見ていた2代目主人だった私の父親から、それ以降も長瀬さんのお相手を任されるように。当時は新米ですから、私にとって長瀬さんは、唯一お話しさせていただけるVIPだったんです。お仕事の話は無粋ですから、主に最近食べたお料理や、よかったお店について情報交換をしています」(栗栖さん)

「昨年、共に60歳を迎えましたので、栗栖さんご夫婦と一緒に還暦のお祝いをしました。栗栖さんは料理人としても素晴らしいですが、今や全国17店舗と大きく広がった、たん熊北店グループを引っ張る経営者としても立派です。伝統を重んじながら料理はぶれず、業績も拡大されている姿は、ビジネスマンとして見習わなければなりません」

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長瀬さんと栗栖さんの息子さんが小学校の同級生と、これもまた縁の深いお二人。両親、自分、子供たちへと3世代にわたって続いていく長瀬家と「たん熊北店」の付き合いは、やはり長瀬さんにとっても格別なものだ。
「たん熊北店さんの魅力は、変わらないことです。夏には鮎や鱧、秋は松茸、冬は蟹と、季節によって素材は変われども、品書きはほとんど変わりません。新しいお店がどんどんできて、目新しい料理も増えましたが、何年たっても美味しいものは美味しいんです。変わらない味が私にとって一番です。ですから『最後の晩餐はどこで?』と聞かれたら迷わず、『たん熊北店で』と答えます」

撮影 高見尊裕  文 竹中式子

■ たん熊北店

京都市中京区西木屋町四条上紙屋町355
075-221-6990
昼12:00〜15:00(13:30L.O.) 夜17:30〜22:00(19:30L.O.)
定休日 不定休。2018年12月は11日、17日、25日~31日。 2019年1月は8日、9日、16日、22日、30日。ホームページで要確認 https://www.tankumakita.jp/