BLOG料理人がオフに通う店2018.12.03

「広東旬菜 一僖(いっき)」―「京都吉兆」徳岡邦夫さんが通う店

「京都吉兆」徳岡邦夫さん

プロフィール
「吉兆」創業者・湯木貞一氏の孫にあたる。15歳から貞一翁のもとで料理の核心を学びはじめる。その後、高麗橋吉兆、東京吉兆での修業を経て、京都・嵐山本店へ。1995年以来、総料理長として現場を指揮。伝統を守りながらも時代に即した食へのアプローチに挑戦し続ける。2009年のミシュランガイド関西版の発行以来、嵐山本店は10年連続で三つ星を獲得。

おすすめコメント

祇園界隈からぶらりと歩いていける場所にあり、とても使い勝手がよいお店です。初めてうかがってから2カ月の間に3~4回立て続けに訪ね、今でも東京からいらっしゃったお客様をカジュアルにおもてなしする時、中華をいただくなら「一僖」さんと決めています。

店内もお値段もカジュアルですが、素材本来の味わいを引き出すご主人の腕前のなんと見事なこと。定番料理もありますが、素材ありきで毎日変わるメニューは、中華料理でありながら、まるで割烹のようでもあります。ご主人はかなりの目利きで、素材選びを教えてほしいとやってくる食品納品業者もいるとか。

お料理のほとんどは米油を使用されているので、優しい味わいで胃もたれしません。お年寄りでも2日連続で召し上がれるのではないでしょうか。この味にすっかり魅了され、周囲にも何度も語り、おすすめしています。私の熱弁に興味を持ち足を運ばれた方々は誰もが「大満足!」と言われるので、私も鼻が高いです。

広東旬菜 一僖

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「このソースが大好きでね、エビワンタンがない時でも、剣先イカなど旬の素材でアレンジしてもらうほどのお気に入りです」

徳岡さんが愛してやまないというソースを使用した一品が、「プリプリエビワンタン 香りねぎホンコンしょうゆソース」(税込1200円)。エビがゴロリと入った大ぶりのワンタンの上に、クールブイヨンで仕上げたあっさりソース、そしてたっぷりの白髪ねぎをのせ熱々のネギ油を回しかけると、ジュジュッと音を立てて何とも香ばしい薫りが鼻腔をくすぐる。

「ご主人がウェスティンホテル大阪時代に、香港人シェフから学んだという本場仕込みの味。あらゆる人におすすめしては、必ず気に入ってもらえるキラーメニューです」

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「もう一品、必ず頼むのが干し貝柱フカヒレスープ(2800円)です。2~3人でいただくのがちょうどいい。こちらの清湯スープはスッキリと喉を通り、清々しい気持ちになれます」

その秘密は、鶏ガラや豚骨は一切使わず、豚・鶏の「肉」をそのまま使用し、長く煮込まないから。濁ることなくうま味がたっぷりだ。気仙沼産フカヒレのスープには世界三大ハムとも称される金華ハムを足し、香ばしさとコクがしっかりと広がる。※写真は1人前に取り分けたもの

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「オープンして1年ほどたったある日、予約もなく突然、徳岡さんが店にいらっしゃったので『え!? あの京都吉兆の徳岡さんが!?』と、とても驚きました(笑)」(下村さん)

今でも徳岡さんが、シャイな様子で扉を開けて店に入ってきた瞬間をはっきりと覚えていると語る、オーナーシェフの下村一太さん。神戸のオリエンタルホテル、ウェスティンホテル大阪など関西圏のさまざまなホテルの中国料理店を経て、平成26年に「一僖」をオープンした。ホテル時代から広東料理一筋、そして今の料理は広東料理ベースの香港スタイルだという。

「香港スタイルは調味料に頼ることなく素材の持ち味を引き出し、そして香り豊かだと思います。和食に近い部分もあるかもしれませんね。実際、和食の料理人の方も味付けや香りに興味を持たれ、ご質問をいただくことも多いです」(下村さん)

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しかし、徳岡さんが下村さんと料理について語ることはないそうだ。

「料理人同士の関係ではなく、一人の客として私はこの店のファンなんです。カウンター席に座って、エビワンタンとフカヒレスープは必ず注文。青ネギ入り焼きシューマイもよく頼みます。点心もすべて手作りで、心に残る味わいなんですよね。そしてその日のおすすめがびっしりと書かれた黒板を眺めて、ご主人と相談しながら気になる素材の料理を追加する。コースもありますが、私は必ず単品での注文です」

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瓶入りの紹興酒は通常2回煮沸するところ、甕出しの「塔牌〈陳十年〉」(グラス650円、デカンタ3000円)は1回のみのため、香りがよく舌触りもビロードのようにまろやか。

「こちらを2杯、調子がよい時には3杯いただくと、お連れしたお客様との会話もますます弾みます(笑)」

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京都の風情漂う東山安井の交差点近くに店を構える。

「父の故郷である京都で店を持ちたいと夢見ていました。ここは祇園も近く、徳岡さんのような料理人の方や食通の方がとても多い場所なので、身が引き締まりますね(笑)」(下村さん)

※価格は取材当時のもの

撮影 津久井珠美  文 竹中式子

■ 広東旬菜 一僖

京都市東山区月見町17-5
075-744-1947
昼11:30~13:00(L.O.) 夜17:30~21:30(L.O.)
定休日 木曜全日、金曜昼、月1回の不定休