食知新ブログ
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BLOG酒のふと道
2019.05.28
お酒に合うサンドイッチがおいしい!京都のパン屋さん3軒(西エリア編)
今回は、何度チャレンジしても糖質制限に失敗する炭水化物吸収体な私めが愛するパン屋さんを集めてみました。実は京都は「パンの街」と称されることもあるほどパン屋さんの数が多く、食の都だけに全体的に味のレベルも高め。好きなお店はたくさんあるのですが、まずは意外に知られていない(かもしれない)京都市内西エリアの名店3軒をご紹介させてください。セレクトの基準は「お酒が呑みたくなるサンドイッチのあるお店」!家まで待ちきれないので、近くの公園などでお酒と一緒に楽しんじゃいます。丁寧さが伝わるひと口サンドが素敵な『mina_mina』(西大路七条)西大路七条から南へ下がった路地にある小さなお店。古民家をおしゃれに改装していて、パン売り場の奥にはカフェも併設されています。こちらは何年か前に雑誌『あまから手帖』のパン特集で知った1軒細長いケースに入ったひと口サンドイッチがとっても美味しくて感動しました。サーモンのサンドイッチ(手前)は、最初に食べたときよりもボリュームアップしているような気がします。やや厚めにカットしたスモークサーモンのねっとりとした旨み、レタスのみずみずしさ、チーズのほのかな塩気とコク、トマトの甘酸っぱさがなんともいいバランス。端っこまでしっかりと具が敷き詰められているのも嬉しい〜。このタイプのサンドイッチだと誰かとシェアしやすいのも便利ですね。まぁ、私は誰にもあげず独り占めするんですけどね。コンビニでカップ入りの氷と赤ワイン、炭酸水を買って赤ワインソーダを添えました。いひひ。はい、これも完全にアテ! チョリソー入りのパンです。チョリソーがわりとしっかり辛くてちょいと涙が出ました。そして粒マスタードもしっかりと効いたオトナ味。うん、赤ワインソーダにして正解でしたな。ころんとかわいいミニサイズのバーガー。むっちりむちむちなベーグル生地のバンズで、豆腐ステーキとアボカドをサンドしています。ヘルシーだから何個でも食べられそう!サンドイッチは売り場には並べず冷蔵庫でキープしておられるので、レジで声をかけて購入してください。午前中で売り切れることも多いため電話予約がベターです。■ mina_mina京都市下京区七条御所ノ内本町83-1 075-203-6323 10:00〜17:00日曜・祝日休店名を冠したサンドは必食!『B.L.T.』(西院)阪急西院駅からでぶっちょの足で徒歩12分ほど(普通の人ならもっと早いはず)。四条中学の北側にあり、木目調のドアが目印です。小ぶりなサイズのパンがリーズナブルに揃っているので、近くにある大学の生徒さんたちにも人気のお店です。サンドイッチ類が豊富なのがお気に入りポイントで、中でもはずせないのがこちら。B.L.T.サンド!ご存知、「ベーコン」「レタス」「トマト」から成るオーソドックスなサンドイッチです。黒胡椒で味を引き締めたベーコン、シャキッシャキのレタス、みずみずしいトマトと黄金トライアングルのような組み合わせ、好きだ〜。野菜メインなので前菜代わりに軽くたべられるもの嬉しいですよね(でぶの発想)。なのでお次はちょいと(?)ボリューミーに、スパイシーチキンサンド。クリスピーなフライドチキンと千切りキャベツがザクッとはさまれています。スパイシーさは控えめなれど、間違いなくビールに合う味!エビとアボカドサンド。プリッとしたエビカツにまろやか〜なアボカド。テッパンの組み合わせでしょう。右手にサンド、左手にビールでニヤニヤしているでぶっちょ、それが私です。デザートにおすすめなのがキャラメルナッツ。サクサクのパイ生地にクラッシュ&スライスアーモンドがたっぷりで、これはビールじゃなくてハイボールやワインを合わせたくなる味です。ちょっとそこのコンビニへ買い足しに行かなきゃ......。■B.L.T.京都市右京区西院小米町35-2075-312-34127:00〜18:00木曜休予約してでも食べたいカツサンド『KiKi ダウンステアーズベーカリー』今回の3軒の中で最も行きにくい場所にあるのがこちらのお店。最寄駅はJR花園駅なのですが、そこからゆるくも長い坂道を含め普通の人でも徒歩20分はかかりそうです。大通りにある看板を見つけたら、その先にある階段で地下に降りましょう。そこに入り口があります。まさに店名通り!(でも実は建物的にはここが1階という不思議な造りも見所です)実はこちら、開業当初は前にご紹介した『B.L.T.』さんのご近所にありました。はしごしてまとめて買えるのが嬉しかったなぁ。数年前に現在の場所へ移転されたのですが、わかりにくい立地にも関わらず変わらぬ人気ぶりです。シンプルシックなパン売り場は厨房のすぐ隣にあるため、店に入るとパンの焼ける香ばしい匂いに包まれます。幸せ......。私の一番のお目当ては、カツサンド!どどーん!自重で倒れてしまうくらいの重量感!持った瞬間、手にずしっと感触が残るほどなのです。ソースがしっかりと染みたサクサクのカツはスッと嚙み切れるほど柔らかく、パンとなじみがいい。たっぷりのコールスローがカツのヘヴィさを和らげてくれるような増長するような......。写真ではわかりにくいのですが、かなりの分厚さです。最大限に口を開けて迎えてあげてくださいね。ちなみにこの時は氷入りビールをお供にしておりました。そんなに大口を開けなくても大丈夫な方のサンド、クロワッサンサンド(ハム&オニオン)。KiKiさんはハード系のパンがお得意で、特にこのバターたっぷりのクロワッサン生地は一度食べると忘れられない風味のよさ。単独でも美味しいのにさらに飲兵衛好みの具をはさんでくれちゃったりして、んもう!そして同じ生地を使った珍名物にもご注目!その名もししゃもパン!あの居酒屋のアテでおなじみのししゃもが丸ごと1尾、クロワッサン生地にぐるぐると簀巻きにされています。「冗談かな?」と思いきや、これがちゃんと美味しいのだからびっくりしますよね。ししゃもの塩気と玉子のプチプチ感が、バター香る生地とよく合うんです!ぜひとも召し上がっていただきたい、唯一無二の味です。カツサンド、ししゃもパンともに大人気ゆえ売り切れが早いです。お出かけの際は事前に電話で予約されることをおすすめします。■KiKi ダウンステアーズベーカリー京都市右京区常盤御池町21-15075-275-48667:00〜18:00月曜休***私にとって、パンが朝食メニューよりも酒のアテとして大事な存在となり幾星霜。好きなお店に行くとついあれもこれもと買い込んでしまい、ちょっとした居酒屋で呑めるくらいの金額になるなんてことも。でもいいんです。大口を開けてサンドイッチを頬張り、むぐむぐと味わってビールをンググッと流し込む瞬間、間違いなく私は幸せなのですから。たとえ公園で通りすがりの人に「あー、そりゃ太るわな、そんだけ食べてたら」ってな目で見られてもいいんです。いいんですよ......。
泡☆盛子
沖縄出身・京都在住のフリーランスライター
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BLOG京都グルメタクシー
2019.05.23
おいしい京都案内 |イタリアン「ジェルモ―リオ」
今出川通りから川端通りを南へ、清水寺方面の五条通りを東へ進み、東山通りを南へ向かいます。カーブにさしかかった中程の信号を、山沿いに東へ行けば「泉涌寺」という真言宗泉涌寺派の総本山があります。皇室との関連が深く「御寺(みてら)」と呼ばれます。重要文化財の楊貴妃観音像は、その美しさにあやかろうと多くの女性が参拝されます。その山内に雲龍院という塔頭があります。南北朝時代の北朝第四代天皇、後光厳天皇の勅願で作られたお寺で、御本尊は本堂龍華殿に安置されている薬師三尊像、西国薬師霊場四十番札所としても知られています。寺院内には鎌倉時代につくられた「走る大黒天尊像」や、大石(内蔵助)良雄筆「龍淵」、そして「悟りの窓」「迷いの窓」など貴重な見所がたくさんあり、ベテラン観光タクシー運転手がおすすめする穴場的な古刹です。そんな素敵な場所で和のスイーツがいただけます。拝観料は400円ですが、別途500円で接待をお願いすると、「皇月(こうげつ)」という生菓子と抹茶を出してくださいます。緑映える庭園を眺めながらゆっくりした時間を過ごすのもいいものです。京都グルメタクシーは、こういった特別な場所でのグルメのコーディネートもご案内できます。夕暮れの雲龍院を後にして車は山を下ります。多くの塔頭が建ち並ぶ参道は、まるで「新緑のトンネル」のように青々として涼しげです。「心があらわれる」という表現がぴったりですね。 車は人々が集う今熊野商店街を通り北へ向かいます。長谷川等伯の襖絵が有名な智積院から西へ向かって三十三間堂や国立博物館を横目に東本願寺を目指します。東本願寺の南側、京都駅からもすぐのビルの2階にあるのが、昨年秋にオープンしたイタリアン「ジェルモ―リオ」です。入口には、さりげなくディスプレイが飾られているだけ。「いい店ほどわかりにくい」という言葉を思い出します。実はこのお店、私の好きな大宮高辻の「プッチーロ」のシェフからお聞きして伺ったのが最初。「プッチ―ロ」も「マンマのミートソース」がおすすめのお店。美味しいお店のシェフから聞いた情報には間違いがないですね♪エレベーターもあります。この入り口の左側にもテーブル席があります。奥に2テーブル(4名×2)あります。 カウンターもあります。内装もあたらしく清潔感もありますね。2月に頂いた「Dinner Course」 10,000 (18:00-23:00 L.O.21:30)をご紹介します。21:00以降で空席があればバーとして利用できるそうですよ。鉛筆書きのメニューにほっこり♪これオリーブオイルです。ビンごと置かれていてうれしい。シェフ、太っ腹です♪イタリアンにいくといつもジンジャーエールのビターをいただきます。●カリフラワーのクレマ重厚なクリーム状スープ オリーブオイル 生わさび ペコリーノのクルトン状のもの どろりとする特別な食感、いい意味での重たさ。味は軽ろやかで食感はまったり。繊細な感覚です。●フォアグラとビーツ中にフォアグラムースとビーツが混在しています。食べるとフォアグラの独特な味が広がる構造で、チョコレートに見えるところが面白い。シェフの経歴に有名パン店があり、フォカッチャにその経験がにじみ出ています。右手から●カンノーロ(シチリアの菓子:ちょっと塩系)リコッタチーズ●甘エビのタルタル 青リンゴ敷き2つの料理をあわせて頂く面白い構造。たしかカンノーロはゴッドファーザー(映画)が有名にさせたシチリア菓子。 塩気のあるお菓子と甘エビという不思議な組み合わせですが、違和感はありません。ほかにはない美味しさです。●イタリア パルマ産24ヶ月熟成生ハム スライス モッツァレラ 八丈島 ジャージー牛放牧 ●プンタレッレ(良質苦みあり) アンチョビ レモン 熟成状態が理想的。この塩気と旨味、それに青菜の苦みがちょうどいい。ワインもすすみます。●アニョロッテ ダル プリン豚肉と兔 ミンチ 薄いパスタ生地 バター 黒トリュフ濃厚なのに、あと味すっきり。バターとトリュフがぴったり合う。具材のわずかな短所をお互いがおぎない、臭み無く旨味が先行します。●山口のどぐろ チューチ下はチェーチ(ひよこ豆) 右手上:ニンニクとアーモンドのソースカーボロネル(黒キャベツ)ロースト皮目もしっかり焼かれていてアクセントになっています。潤いある白身、控えめな味わいのひよこ豆とも相性抜群です。●丹波鹿ロースト 赤ワインソース 紫人参のピューレ ヴィエトラ(ふだん草)野性味あふれるストレートな味。赤ワインソースがまとめ上げるひと皿です。濃厚ながら重いと思わせない美味しさがあふれています。●水牛+牛乳の白カビチーズ●セミハードタイプ ラスベガス●gelo(ゼーロ:イタリアのおかし)みかんゼリー ホワイトチョコ デンプンで固める マスカルポーネのムース みかんの皮みかんの香りとともに運ばれてくる一皿。「香る料理」と言っても過言ではありません。●いちごのタルトレット メリンガ カントゥッチ(ビスコッティー)タルトレットはフレッシュな苺の風味。伝統的なイタリア菓子もしっかり提供されます。chef 天谷彰吾さん経歴2003年 リストランテカノビアーノにて料理人開始 2006年~祇園tvbで副料理長 2012年~イタリアへ修行 All'enoteca (ピエモンテ、ミシュラン★) Enrico Bartolini (ミラノ、ミシュラン★) Cappun Magru (リグーリア、郷土料理) 個々に部門シェフとなる。 2016年日本へ帰国後、祇園やまぐち、245を経て独立「未知なるあわせ技」食後の余韻も心地よく満足感があります。全体的にまとまっていて、レアな食材が多いのですがそれがまたいい。食材の組み合わせにも新たな発見があります。シェフの天谷さんの料理は、多彩な経験と素敵な師匠に恵まれたからこそ。シェフの独特な世界観がお皿に表現されています。このお店の料理は「直向きな驚き」という言葉がぴったり当てはまります。シェフの人柄があふれる良質な料理。素直に評価したいお店です。マダムやスタッフがシェフをもりあげているのがわかる明るい厨房が、料理の味に反映されているのでしょう。 先日ランチにも伺ったのでご紹介させていただきますね。「Lunch Course」 4,000 (12:00-15:00 L.O.13:30)(金、土、日、祝日のみ)こちらは3月下旬の料理。 新ジャガイモとグリンピースのスープ真ん中 インサラダルッサ(イタリアピエモンテ)ポテトサラダ左上 紫カリフラワーのピクルス右上 トルタルスティカ(昔ながらのトルタ)リコッタチーズとほうれん草(詰め物)パイ生地包み焼き右下 パルマ産24ヶ月熟成生ハム 薄くスライス左下 太刀魚 ハーブで巻き込んだオーブンで火入れ スパゲッティーボンゴレ ホワイトアスパラ ロースト 燻製香り付け対馬産ひらめ ひよこ豆 スーラ(煮込み)豚肉(ももにく+豚足等)白インゲン ちりめんキャベツステュールーデル イタリアのアップルパイシュークリーム 洋梨でつくったカスタード ビスコッティーエスプレッソ昼と夜、どちらも捨てがたい魅力があります。いずれもコース内容、価格帯も同じなので、どちらがお得かというより、使い分けるべきでしょうね。 本日の京都グルメタクシーツアーはいかがだったでしょうか!イタリアンのお店は益々増え、そのレベルも上がる一方です。京都でイタリアン♪、是非皆さんもお試しくださいね!■泉涌寺雲龍院京都府京都市東山区泉涌寺山内町36午前9時〜午後5時(午後4時30分受付終了)1拝観料 お一人様400円 抹茶+お菓子 500円■Germoglio ジェルモーリオ京都府京都市下京区東境町172 ネオヒルズビル2F18:00~23:00 (LO21:30以降バータイム(空席の場合))12:00~15:00(LO13:30)金,土,日,祝日のみ営業定休日水曜日https://www.germogliokyoto.com/https://www.facebook.com/germogliokyoto/?modal=admin_todo_tourhttps://www.instagram.com/germoglio_kyoto/ 2018年11月22日OPEN
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.05.21
『ラ・ヴァチュール』の「タルトタタン」
祖母から孫娘へ。伝え、繋ぐ伝統お菓子推薦人:采野佳子(うねのよしこ)さん 「京都生まれ。服飾関係勤務を経て、うね乃三代目に嫁ぐ。優れたセンスと女性ならではの目線を生かした新商品開発やパッケージデザインなどを手がける。おだしのワークショップなどを開催し、日本の食の根幹、伝統の味を全国に広めている。平安神宮や美術館が点在する岡崎エリアの静かな一角に佇む「ラ・ヴァチュール」はどこか懐かしさが漂う、そしてパリの細い路地にありそうな心地よいカフェです。カフェの創立者は現在のオーナー、若林麻耶さんの祖母であり、"ユリおばあちゃん"の名で親しまれた故・松永ユリさん。ユリさんは当時では珍しく、日本女子美術学校で美術を学び、アートに造詣の深い女性でした。 職業婦人としても先鋭的で、最初に祇園で画廊をオープン。その後、ここ岡崎に移転する際に、カフェの前身であるフランス料理店を開業しました。 娘の友美さん(麻耶さんの母)から、パリで出会ったタルトタタンの話を聞き、1977年、自身もパリを訪れて初めてタルトタタンを口にしたところ、すっかり魅了され、帰国後、独自レシピでタルトタタンを作り始めました。 その後、レストランをカフェにリニューアルし、ご自慢のタルトタタンはその美味しさが口コミで広がり、遠くからもお客さんが訪ねるほど、ファンを獲得しました。どこかレトロでシックな店内。麻耶さんがリニューアルを手掛けたが、ユリさんが使っていたスピーカーや古い時代の椅子、テーブルなどがよく溶け合って心地いい空間が醸成されています。タルトタタンに使うのはリンゴ、バター、砂糖だけ。専用の鍋にリンゴを何層にも重ね、火入れしていくのですが、鍋の中は見えないので、あの濃い焦げ色をうまくつけて、キャラメリゼの香ばしさを引き出すのには、火入れ加減や時間など熟練の技が求められます。「祖母はタルトタタンの高さにもこだわったようで、現在も守っている4センチという高さが、もっとも美味しくいただける高さなんです」と麻耶さん。 麻耶さんは、父が建築家、母がジュエリーデザイナーという環境で育ちました。母の智美さんが創作活動で忙しかったため、学校から帰ると毎日、「ラ・ヴァチュール」で過ごしていました。ユリさんのお菓子づくりを小さい頃から手伝っていたので、タルトタタンの作り方も自然と身につけたそうです。 高校卒業後、美術大学に入学し、空間デザインを学んでいましたが、卒業と同時に「ラ・ヴァチュール」を引き継ぎました。「祖母が亡くなり、もしこの店もなくなってしまったら、祖母が創り、ずっと続けてきたことも失われてしまう...。それはとても惜しいことだと思って、ここを受け継いだんです」表面の艶やかな輝きとしっとりとした断面が美しいタルトタタン。なんとフランスの「タルトタタン愛好家協会」からも認められた正統派です。「本当に忙しくて、究極に疲れた時、脳も甘いものを欲するのでしょうか。そういうときにここに来てタルトタタンをいただくと、ほっと落ち着いてリフレッシュできるんです」と采野さん。いつもご主人と来て、奥のスペースの左側手前の席に座るのだそう。 麻耶さんが作る、ユリさん譲りのタルトタタンは、昔と変わらぬレシピを守っていて、どこまでも濃厚で香ばしく、しっとりした中にりんごの食感がほのかに感じられ、自然な酸味が生きていて、いつ食べても新鮮で古さなど感じさせません。采野さんが「しっかりと潔い甘さ」と評する甘みも、リンゴを長時間煮詰めることで生まれる甘さで、りんごの酸味と共に品のある甘酸っぱさを生み出し、ボリューミーに見えて、一人でもペロリと平らげてしまいます。采野さんは高校生時代、制服姿で友人とよくタルトタタンを食べにきていたそうですが、そんな時、ユリさんから「高校生は二人で一つで十分。半分ずつ食べなさい」と言われていたそう。「実際はタルトタタンをそんなに数多く焼けなから半分ずつにしなさいと言っていたようにも思います(笑)。でも、"コーヒーにはお砂糖を入れないほうがうちのお菓子に合う"とか、結構、口うるさい店主だったようですよ。大人がお茶とお菓子を楽しむお店ですので、TPOにもうるさくて、お客さんにお説教をすることもあったようです」と麻耶さんは可笑しそうに笑います。 采野さんも「でも、大人になって振り返ると、大切なことをたくさん教えていただいたように思います」と当時を懐かしみます。伝説の人、松永ユリさん。アーティストであり、全国に知られる老舗カフェをつくりあげた女性。ユリさんから受け継いだタルトタタンですが伝統のレシピを守りながらも、麻耶さんらしい新たなチャレンジをさまざまに始めています。 一つは青森のりんご農家さんとの取り組みです。「日本では、果物や野菜などの大きさや姿かたちを大切にするので、味やクオリティは全く同じでも色や形が悪いと加工用に回されてしまうことが多いそうなんです。そうではなくてタルトタタンやシードル用としての使い道を開拓してりんごをちゃんと生かして、価値づけることができないかなと思って...。農家さんを訪ねてそういう流れを作りはじめているんですよ」。 また、「ラ・ヴァチュール」のタルトタタンは、ふじとサンふじを使っていますが、麻耶さんは新しい品種でのタルトタタン作りにも挑戦しています。 たとえばメルシー。ふじよりもやや酸味のあるりんごで、麻耶さんは試作を重ねて、通常よりも薄く焼き上げてりんごの爽やかさを楽しむ味わいに仕上げました。メルシーのタルトタタンは期間限定で登場するそうです。©︎Tetsuya hayashigutiさらに今年、新たな方向性として、盆栽家の川崎仁美さんとのコラボレーションによる「盆栽とりんごの茶会」を開催。その空間デザインを手がけ、茶会に小さなタルトタタンを主菓子として供しました。「祖母も私もお菓子を作っているというより、作品をつくる気持ちでタルトタタンと向き合ってきたんだと思います。これからもタルトタタンの新たな表現法を探っていきたいですね」。麻耶さんが空間プロデュースを手掛けた「盆栽とりんごの茶会」。多くの人が訪れました。「『ラ・ヴァチュール』にいると、なんだか巣箱の中で安心してくつろいでいるような気分になります。レトロな家具や窓やタイルの床が温かな感じで、懐かしい場所に帰ってきたような気持ちになれますね」と采野さん。 新たな方向を模索しながらも、代々受け継がれる伝統の味わいはしっかりと息づいています。タルトタタンのほか、麻耶さんが新たに加えたチョコレートケーキのオペラも人気。こちらも深みとコクがあり、生地に使っている砕いたローストアーモンドが香ばしさと食感の楽しさを引き出しています。 京都の老舗コーヒー店のコーヒー豆ブレンドを使って淹れるコーヒーは、酸味が少なく、コクがあって、素晴らしい香りが漂います。 祖母から孫娘へ、時代を超えて伝え繋がっていく味わいに、芳醇なコーヒーを合わせて、ゆったりと午後のひと時を楽しんでみてはいかがでしょう。香ばしい生地とモカバタークリームが大人の味わい。淹れたてのコーヒーとともにどうぞ。ケーキセット1085円。■ラ・ヴァチュール (La Voiture)京都市左京区聖護院円頓美町47075-751-059111:00~18:00定休日/月曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.05.17
「ヒダマリーノ」―「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんが通う店
「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんプロフィール高校の調理科で学ぶかたわら、15歳から滋賀県彦根の割烹で日本料理の修業をはじめる。卒業後は「浜作」に4年弱勤め、北新地の割烹へ。25歳の時に系列店の料理長の打診があったが、「もっと料理を学びたい」と一念発起してイタリアンの世界へ。29歳でイタリアへ渡り2年、現地の味を学んだのち帰国。木屋町のイタリアン「Vineria t.v.b(ヴィネリア ティー・ヴイ・ビー)」でシェフを務めたのち、2013年に独立し、「カジュアルな雰囲気で、本格派のイタリアンを提供する店」をテーマとした造語「リストリア(リストランテ+トラットリア)」スタイルのラディーチェをオープンした。 フレンチの軽やかさを伝える、心強い同世代青々と茂った緑の奥に、ポッとあたたかな木の扉が浮かびあがる。京都の繁華街にありながら、森のレストランといった風情の「ヒダマリーノ」。"陽だまり"だと日本料理っぽいが、"~ノ"をつけることで洋のイメージを出したというヒダマリーノの天井にはぶどうのツルが這い、壁のタイルには幸福の四つ葉のクローバーがあしらわれている。店内もマイナスイオンが溢れる森のようだ。そしてその森のなかで、陽だまりのような笑顔のシェフが出迎えてくれた。「オーナーシェフの桝村浩史さんに出会うまでは、フレンチはフランス人に対する一方的なイメージで恐縮ですが、肩ひじ張ったちょっと気難しいものだと思っていました。でも桝村さんのつくるフレンチは、そのあたたかな性格がお皿にも現れていて、重すぎず、軽すぎず、ちょうどいい塩梅で、"こんなフレンチがあるんだ"と教えられました」パーティションで個室にもなるテーブル席を抜けると――。カウンター席が現れ、華麗な皿を生みだしていく桝村さんの様子が楽しめる。「桝村さんの仕事はとても丁寧です。そしてイタリアンにはない美しさがあります」という根本さんの言葉を聞いた桝村さんは、「お客様が料理をご覧になって"きれい!"と言ってくださると、"作っているのはこんな顔なんですけどね"というのが定番の持ちネタです(笑)」と笑う。根本さんのその言葉がよくわかる「うすいえんどう豆のムース」。ムースの上には蛤、ホタテ、北寄貝、アサリといった季節の貝のマリネが。そして貝の出汁の泡とジュレがふんわりとかかる。大人の深みと、少女の軽やかさを兼ね備えたかのような一皿。とうもろこしやブロッコリー、じゃがいもなど旬の素材を使ったムースは、毎月の定番で好評の前菜だ。日本料理からイタリアンへ転身した経歴を持つ根本さんは、「やっぱり、魚料理は気になるんですよね」と言う。「イタリアンではバターを使わないのですが、フレンチではバターが大切です。桝村さんも魚料理のソースにバターを使用されますが、やっぱりこれもほどよい軽さがあるんで驚きます。火入れも私好みです。そしてつけあわせにも、とても気が配られています」(根本さん)「金目鯛のソテー」は40度の低温で火を入れて、テーブルに出す直前にバターとオリーブオイルで表面をソテー。そうすることでバターの風味が香る、春にふさわしい魚料理だ。「つけあわせは、一つの食材に対してさまざまなアプローチをしてつくり上げています。今回は"キャベツ"です。① 新キャベツのペースト。自家製ベーコンに魚の出汁をブレゼして② 葉キャベツのフリット。青々とした葉キャベツは、フリットにすると青のりに似た風味に。あおさ海苔のソースと味わいがマッチし、パリパリとした食感も楽しめる③ 芽キャベツのロースト。春を代表するキャベツは、ローストすると甘みが増す3種類のキャベツを用いました」「トマトを直接パンに塗るのが面白いんですよ! 初めて見たときは、その食べ方にビックリしました」根本さんが目を丸くした「ヒダマリのバゲット」はコースの中ほどに挟まれる。「実はこれ、スペインの家庭料理"パンコントマテ"なんです。パリのレストランで出合い、さわやかにパンを食べることができると、取り入れました」バゲットに青森産のニンニクを、次に高知のピュアトマトを直接こすり塗る。分量はそれぞれお好みで。最後に青いトマトのような風味のシチリア産オリーブオイルと、糸島の「またいちの塩」をかけていただく。半信半疑なままこすりつけたが、思った以上にパンにニンニクとトマトの味がしっかりとつき、軽やかな味わいにいくつでも食べたくなる。「本来、パンコントマテは、すでにニンニクとトマトが塗られた状態でテーブルに運ばれます。でもお客様ご自身で塗ると楽しくありませんか? 美味しいパンを遊び心のある食べ方で召し上がっていただきたくて、このスタイルでお出ししています」(桝村さん)ワインや京銘茶とのペアリングにも定評のある桝村さんは、京都で修業を積み、大阪のワインダイニングを経て、生まれ故郷の京都へ戻った。そして、2014年にヒダマリーノをオープン。イタリアンのシェフとともに働いた大阪時代の10年の経験が、今の軽やかなフレンチへつながっているという。「従来のフレンチには"重い"というイメージがあるかもしれません。それがフレンチのよいところでもあるのですが。でも私は、食べ疲れないことに気をつけています。インパクトが"ある""ない"の紙一重のところで、"ある"になるようにもっていく、その匙加減が難しいところですね」(桝村さん)根本さんと桝村さんは同じ1977年生まれ。実は京都には、77年生まれの料理人がとても多いそうだ。鉄板焼き「祇園 一道」関孝明さん、ワインと和食「ツネオ」岸名裕彦さん、イタリアンレストラン「フィオリスカ」渡部孝一さん――40人近い同年代が、年に2回ほど集まって飲み会を開いていた時期があった。「桝村さんが大阪のお店に勤めていらっしゃった頃に、その77年会で出会って意気投合しました。桝村さんはイタリアンの手法についていろいろ質問されます。それがまた、私にとっても"フレンチだったらどうするんだろう?"と興味を引くいい内容で、刺激になるんです。ヒダマリーノもラディーチェも水曜定休なので、休日には一緒にいろいろなお店を巡っていますが、もっぱら料理の話ばかりしています(笑)」(根本さん)そうして語り合ったことが、料理に反映されることも多いと桝村さんは言う。「ほかのジャンルからも、できるだけ吸収していきたいですね。京都という場所で、味も見た目も楽しく、印象に残る料理をつくっていきたいんです」(桝村さん)励ましあい、高めあうことのできる桝村さんは、根本さんにとって大切な同世代なのだ。撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■ヒダマリーノ京都市下京区高倉通四条下る高材木町218 075-365-508512:00-15:00(L.O13:00)、18:00-23:00(L.O20:30) 定休日 水曜http://hidamarino.com/index.php
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BLOG京の会長&社長めし
2019.05.16
祇園辻利の代表取締役社長が通う店「天竺 広東倶楽部」
■三好正晃(みよしまさあき)さん 祇園辻利 代表取締役社長1860年、宇治で創業した辻利の流れをくむ「祇園辻利」。1978年には和風喫茶「茶寮都路里」を構え、宇治茶や、宇治茶を使った菓子を販売する。抹茶のパフェやアイスクリームは、女性からの人気も高い。1997年入社、2005年より現職。毎年、お茶の味を存分に感じることのできる新作スイーツを送りだしている。本格中華を良心的に提供する、その真心が嬉しい元ご近所さん扉を開けた途端、ビビッドな紅色が目に飛び込んでくる。ここは京都? もしや、知らぬ間に異国へ来ていた? 胸がざわつきながら店内を見渡すと、紅色を基本としながら、黒い柱や天井が落ち着きを与え、実はとてもバランスのとれたセンスのいい空間であることに気づく。ここ「天竺 広東倶楽部」と三好さんは、15年ほどの付き合いになる。「4年前に花見小路北側のこの場所へ移転されましたが、それまでは祇園南の細い路地を入ったところの、4階建てのビル全階すべて使った大きな店を構えていらっしゃいました。その2軒隣に、わが社があったんです。何やら中国料理屋さんができたようだけれど、どんなところだろう? と、ひとりあたりの予算をうかがったんです。すると『いくらでも結構ですよ』と言われて、『えー!? 本当に?』とますます興味が深まりました(笑)。いざいただいてみると本格的な広東料理で、お料理も80種類近くあり、そして安い! 大いに飲んで食べても、ひとり5000円を超えることはめったにありません。『いくらでも結構ですよ』とおっしゃる通り、予算をお伝えすればいかようにも対応してくださり、社員30~40人の集まる歓送迎会などで、とても重宝しました」移転後は席数も減らし規模を縮小したが、その味は相変わらず冴えわたっているという。「どの料理も外れなし!」という三好さんに、なかでも飛びきりの4品を挙げていただいた。まずは「海老のマヨソース」1300円(税別)。「私はマヨネーズが大好きなのですが、こちらのエビマヨは酢が強めでたまりません。のどにツンッと酸味が染みるのがいいんですよね。大ぶりの海老にサクッと歯ごたえのいい衣がたっぷりかかっていて、そこに酸味の効いたソースが絡む、そのバランスが絶妙です」「焼売(4個入り)」600円(税別)は、「とても大ぶり。自家製の豚肉の餡は箸を入れるとジュワッと肉汁があふれ出し、口の中でふわりとほぐれます。このままでも甘みがありますが、私はからし醤油でいただきます」。しめに欠かせないのが「海鮮あんかけやきそば」1200円(税別)だとか。軽く蒸した麺をカリカリになるまで炒めているので、食感が心地よい。とろりとしたあんは醤油ベースで、エビやイカなどの魚介と野菜の旨み、そして麺の甘みをひきたてる。常連にサービスされる杏仁豆腐の盛り付けは、女性オーナーの手による。春はイチゴ、夏は梨など季節によって変わるフルーツも、オーナー自ら買い出しに行っているそうだ。「オーナーはとにかく気さくな方です。彼女の作り出す雰囲気が心地よく、気分よく食事ができるんです。フロアのサービスやドリンクを作るのはオーナーと、右腕の番頭さんのおふたりだけなのに、その目はとてもきめ細やかにフロアの隅々まで行き届いています」とても気さくで陽気、そして繊細でシャイな一面も持つオーナー(なので、お名前を出すのも、お顔写真の撮影もNG)。木屋町で最初に店を持ったのは、なんと21歳の時だった。「短大をドロップアウトしたあと、さて何をしようかと考えて、ひらめきでお店を持とうと決めました。1983年ごろの京都では、大衆的な中華屋さんはありましたが、バーもあるおしゃれな中国料理屋はありませんでした。そこで"おしゃれ"であることをテーマに店づくりをしていったんです。求人雑誌で料理人やスタッフを募集すると、応募してくるのは私より年上の中国人シェフか、同じ年でも学生です。私の飲食経験は、バイトですらありません。小娘が知識のないまま飲食経営の世界に飛び込んだので、カルチャーショックの日々でした(笑)」(オーナー)オーナーが選んだ紅色の店内。そのバーカウンター内の棚に、バカラのグラスがキラキラときらめく。そして安めのお酒でも、そのバカラのグラスに注がれる。これも30年以上貫かれてきた美学なのだ。厨房は、上海の3つ星ホテルで腕を振るっていた走培(ゾウ・ペイ)さんが、ひとりで切り盛りしている。4階建てのビル時代から料理人の入れ替わりはあったが、走さんだけは変わらず、三好さんを笑顔にする天竺の味を生みだしているのだ。「走さんが中国から持って帰ってきた、まだ封を開けていない貴重な中国酒もありますよ」(オーナー)「私は京都の仲間10~15人で、"五花街の灯を絶やさぬように"と、毎月飲み会を開いています。その会でも天竺を利用しています。口の肥えた方ばかりですが、みなさんとたくさんお料理を注文して、飲んで、語らい、とても気持ちのいい時間をここですごしています。経営者仲間や企業の重役の方にも、必ずお薦めしています。というのは、そういう方々は大勢の若い部下を食事に連れていくことがあります。そういう時に、安くて味がよく雰囲気のいい天竺はピッタリなんです」(三好さん)撮影 津久井珠美 文 竹中式子■天竺 広東倶楽部京都市東山区祇園町北側266 井澤ビル4F075-541-673317:00〜24:00 (L.O.23:20)定休日 不定休http://www.tenjiku-kyoto.jp/
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.05.10
「京天神 野口」―「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんが通う店
「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんプロフィール高校の調理科で学ぶかたわら、15歳から滋賀県彦根の割烹で日本料理の修業をはじめる。卒業後は「浜作」に4年弱勤め、北新地の割烹へ。25歳の時に系列店の料理長の打診があったが、「もっと料理を学びたい」と一念発起してイタリアンの世界へ。29歳でイタリアへ渡り2年、現地の味を学んだのち帰国。木屋町のイタリアン「Vineria t.v.b(ヴィネリア ティー・ヴイ・ビー)」でシェフを務めたのち、2013年に独立し、「カジュアルな雰囲気で、本格派のイタリアンを提供する店」をテーマとした造語「リストリア(リストランテ+トラットリア)」スタイルのラディーチェをオープンした。 頼れる兄貴分の、真似できない魚料理。その妙技に目が釘付け 昼下がりには下校した小学生たちがにぎやかに公園ではしゃぐ姿を目にするが、夜になるとしんっと静まり返る住宅街。その一角にほんのり灯りをともす古民家を訪ねるのは、もはや至難だ。なぜならその古民家の主「京天神 野口」は、京都でも予約困難な和食店だからだ。 根本さんは店主の野口大介さんを兄貴分として慕っている。 「野口さんは1歳年上ということもありますが、後輩思いでとても気にかけてくださるんです。10年ほど前に勤めていた『Vineria t.v.b.』に野口さんがいらっしゃって以来のお付き合いになります。2011年に、先に野口さんが独立され、私が独立するときに相談にのっていただいたことは、今でも感謝しています」 そんな根本さんの言葉に、野口さんは照れに照れながら「兄貴分なんてとんでもない。私は独立して店を持ってから、料理がブレてしまったことがあります。それまでと違って経営と料理の両輪になるわけですから、迷いもいっぱいで不安だらけでした。私も先輩料理人にいいろいろアドバイスをいただいてここまできました。だから根本さんにも、少し先に経験した者として、体験したことや感じたことをお話しさせていただいただけです」と語る。 「季節を映しだす野口さんのお料理は、いつもはずれがなく、"こんな風にするの!?"と驚かされます。この前は5月にうかがったんですけど、今年も行けたらいいなぁ......」(根本さん)写真は、「桜鯛と竹の子と針うどのお椀」。春らしさがお椀のなかに詰まっている。 10年以上の日本料理の経験を持つ根本さんは、魚料理には自信があるが、野口さんにはかなわないという。 「カウンター越しにじっと手元を見たり、直接聞いてみるんですけど、大きく人と違うことはされていないんですよね。でも下処理が普通ではない。それはとてもささやかな部分ですが、それだけで圧倒的に魚が変わるんです」(根本さん) 野口さんにその手法についてたずねてみたが、「うーん、そんなに特別なことはしてないんですよ、本当に」と困り顔。 「意識していることといえば、素直に料理をすることでしょうか。もっと年を重ねて経験を積んだら、素材をいじりすぎない境地に達したいんです。でもまだ今は無理なので、"料理"をしたいんですよね。今日の魚料理は、『のどぐろと平戸の紫雲丹の酢の物』で、酢はジュレ仕立てにしています。のどぐろは焼き物やお椀が多いですが、酢の物にすることは少ないので挑戦してみました。雲丹と酢の物の関係も同じくです。何を食べたか感じていただきたいので、食材はたっぷりと使うようにしています(野口さん) 今、お店では7人ものお弟子さんが、野口さんの元できびきびと修業を積んでいる。 「こちらへは、いつもラディーチェのスタッフを連れていきます。お店の雰囲気、仕事の仕方、そこに宿る志を、ジャンルは違いますが学んでほしいからです。何年も通っていると、出会ったころは新人だったお弟子さんが、会うたびにしっかりと成長されていく姿を拝見するのも、個人的にうれしいんですよね」(根本さん) カウンターの奥には4人までの個室があり、細川護熙氏の書が掛けられている。 「器も素敵なんですよね」と根本さんは感嘆する。 「骨董だけだと重くなるので、現代作家のものや、今日の魚料理を盛りつけたアンティークのガラスなども取り入れています。そうして、コースのなかで器でも緩急をつけているんです。何事もバランスが大切で、器も含めて、店という箱と料理と自分たちがマッチしているかどうか、ですね」(野口さん) カウンター内の和ダンスには、いつもガラス細工を飾るそう。この日はラリックの花瓶が。そういった器の目利きは、最初の修業先であった和久傳で培われた。実はお二人は、10年前の出会いよりもさらに前から、少なからぬ縁があったそうだ。 「実は浜作を辞めるときに、和久傳からもお話があったんです。もし和久傳に行っていたら、野口さんの下で働いてたのかも......と思うと、より親近感がわきます(笑)」(根本さん) 「私が『Vineria t.v.b』を訪れたころは、シェフは根本さんひとり、ホールもひとりと、たったふたりでまわしていて、"すごいな!"と、とても驚きました。それでいて手際もいいし、味も決まっている。性格は情熱的で、でも話しやすい。そのうえ、和食の経験もお持ちで、さらに和久傳のエピソードでしょ? いっそう根本さんに興味を持ったんです」(野口さん) 根本さんは季節ごとに何回かうかがうのが理想的だというが......。 「なかなか予約が取れませんからね......。ラディーチェが休みの水曜を狙います! 初めて食べたときの"美味しい"という感動をずっと与え続けてくれる野口さんの料理は、私にとってかけがえのないものです」(根本さん) 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■京天神 野口京都市上京区天神道上ノ下立売上ル北町573-11 075-276-163017:30~21:00定休日 月曜
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BLOG京の会長&社長めし
2019.05.09
祇園辻利の代表取締役社長が通う店「有吉」
■三好正晃(みよしまさあき)さん 祇園辻利代表取締役社長1860年、宇治で創業した辻利の流れをくむ「祇園辻利」。1978年には和風喫茶「茶寮都路里」を構え、宇治茶や、宇治茶を使った菓子を販売する。抹茶のパフェやアイスクリームは、女性からの人気も高い。1997年入社、2005年より現職。毎年、お茶の味を存分に感じることのできる新作スイーツを送りだしている。愛すべき"お子ちゃまセット"を握ってくれるご主人と、ビッググラスで乾杯!「有吉さんで必ずいただくのが、人呼んで"お子ちゃまセット"(笑)。エビ、イカ、タコという、子供が好きそうなこのネタの組み合わせが大好きでして。こちらの海老は大ぶりで食べ応えがあります。シャリが少なめという、そのバランスもいいんですよね」 祇園北の細い路地に凛と構える「鮨・割烹 有吉」へ、三好さんは東京や大阪、九州など各地からのお客様をお連れするという。 「接待の日程が決まったら、すぐに連絡します。有吉さんはこちらのリクエストに寄り添い、お料理の焼き加減や、出してくださるタイミングも絶妙なんです」 「カウンターに座って、木札に書かれたメニューを見ながら、その日のいいものを相談します。最初に6~7品、焼き魚やお刺身をいただいてから、"お子ちゃまセット"です。お料理は分量がほどよいので、いろいろな種類をいただけます。奇をてらいすぎず、そのなかに意外性のあるアレンジがほどこされているお料理に、お連れした方みなさん喜んでくださいます」 きらきらと輝く「いくらの漬け」は、三好さんにとって不動のつまみだそう。 「いくらの生臭さはいっさいなく、旨みと甘みが抜群です。こちらでしか味わえない、洗練された、素晴らしいいくらです」 三好さんはご主人・有吉秀和さんの魚の目利きに全幅の信頼を置いている。 「飲食関連の会社の方でも、北海道出身の方でも、有吉さんのお料理とお鮨をとても気に入ってくさるので、私もとてもうれしいです」 有吉さんは鮨割烹の老舗「なか一」で修業を積んだのち、先斗町「こう一」を経て、2011年、祇園に「有吉」を開いた。三好さんと有吉さんは出会って10年ほどになるが、なか一の時代から有吉さんが作り続けていたものが、おふたりの縁をつないだ。それはなにかというと――。 「ある日、友人の誕生日を祇園でお祝いしたんです。何次会かでスナックに落ち着いたころには、バースデーケーキにも少々飽きていました。するとそこに現れたのは、ケーキのように華やかなお鮨だったんです。"バースデー鮨"とでもいいましょうか、その美しい姿に見惚れてしまいました。そのうえ、味もとてもいい。『この見事な鮨を作った人は、いったいどんな方だろう?』と興味を持ったのがきっかけです」(三好さん) 「祇園のおかあさん方のお誕生日に、ケーキ以外に何か洒落たものはできないか、と考えついたのが"鮨ケーキ"でした。手まり寿司を型どりして重ねたり、マグロで花を作ったり、そこへ主役の方のお好きなネタをのせるなど、見た目も味も楽しんでいただける鮨で、今でもお作りしています」(有吉さん) 「鮨ケーキでもわかるように、有吉さんのお料理はとても繊細です。でも、人柄は豪快なところもあって、お酒の飲み方がユニークなんですよ」と、その光景を思い出しながら、三好さんは楽しそうに話してくださった。 「私は夜8時半を過ぎると、お酒を解禁するんです。毎晩、2リットル入るこの大きなグラス(写真右)で、ハイボールを3杯はいただきます(笑)。もともとは、ガラス造形作家の狩野智宏さんに作っていただいた1リットルのグラス(写真中央)でいただいていたところ、しだいに大きなグラスで飲むスタイルが噂になって、今ではお客様は狩野さんのグラスで、私は2リットルのグラスで乾杯しています(笑)」(有吉さん) グラスも大きければ、ウィスキーもソーダも氷もビッグサイズだ。そんな有吉さんは、何よりも人とのつながりを大切に想っている。 「狩野さんに1リットルのグラスを作っていただけたのも、人間国宝の陶芸家・近藤悠三先生の次男・濶(ひろし)先生の陶芸教室に通っていたことからご縁ができて、濶先生のご子息である高弘さんがお願いしてくださったからです。私は近藤先生の器が好きで、この"お子ちゃまセット"のお皿は、濶さんの作品です。 お客様ともご縁、ご縁でつながっています。これはなか一の親方から学んだ姿勢です。"誠心誠意"が何よりも大切だと。 三好社長も、まさに誠心誠意の方で、寛大な心で私を受けとめてくださいます。それこそ私が飲んで少々羽目を外しても、いつも笑顔でいらっしゃって、本当にありがたいです」(有吉さん) "お子ちゃまセット"をいただいたあとの三好さんの〆は、わさび強めのかっぱ巻きだ。「わさびは解毒作用もあるので、強めが好きなんです」という三好さんは、温かくて、繊細で、わさびのようなパンチもある有吉さんだからこそ、魅了され続けているのだろう。 撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■鮨・割烹 有吉京都市東山区祇園町北側282-5075-541-563911:30~14:00、17:00~23:00定休日 日曜
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.05.02
「新茶」
新茶と言って誰もが思い浮かべるのが「夏も近づく八十八夜・・・」という歌。私もよく知らなかったのだが、この歌は京都の宇治田原町で歌われた「茶摘み歌」をもとにつくられたのだそうだ。 新茶の季節は地域やその年の気候などによっても違うが、基本は立春(2月4日頃)から数えて88日目頃と言われている。それでいうと、4月の末から5月の初旬くらいだろうか。 新茶は、その年最初に摘む茶葉のことで、冬の間にじっくりと養分を蓄えていることもあり、最も質が高いとされる。少しでも時季がずれると品質が落ちるから、茶農家の人たちはこの頃になると生育を見守り、「今だ!」という日に素早く一番茶を摘むのだ。 一番茶と呼ばれる新茶には、アテニンなどアミノ酸が多く含まれ、旨味が濃い。ほかにもポリフェノールやカテキン、ビタミンCなど美容と健康を保つ成分が含まれている。「飲まなきゃ損!」と私は思う。先日、なにげなくテレビを観ていたら、「なぜ宇治茶は上質さを保ってこられたか」という番組を放映していて、思わず身を乗り出した。宇治茶の美味しさは随分わかっているつもりでいたが、知らないこともたくさんあったから。 宇治が扇状地であること、水はけのいい土地で茶栽培に適していること、昔から時の朝廷や徳川家に愛され、覆下栽培など独特の栽培方法が庇護されてきたことなどなど...。 何より、「日本随一」という評価を守ってきた茶農家の努力と気概が、宇治茶の品質を継いできたのだと番組は締めくくっていた。 なんでもそうだが、美味しいものをつくるには、多大な経験と努力が要る。それを、さらりと続けておられることが尊い。宇治の抹茶を使ったスイーツの人気は、ますます高まっている。抹茶アイスや抹茶パフェだけでなく、次々と新手の和洋菓子が登場して、観光客を並ばせる。 東京の友人などから「お茶の甘味はどこで食べたらいい?」と聞かれることも多いから、そんなとき私は「中村藤吉本店」を薦める。「重要文化的景観」に登録された宇治の「本店」や「平等院店」は風情もあって気持ちいい。宇治まで行く時間のない人には、新幹線乗り場からも近い「京都駅店」を紹介する。 「中村藤吉本店」は、抹茶や緑茶を使った甘味メニューをいち早く販売した先駆者で、厳選したお茶を惜しみなくたっぷり使うから、どのメニューもお茶の香りや旨味で満ちている。 写真の「生茶ゼリイ」、は、瑞々しい緑茶の味わいを満喫できる大好きなメニュー。甘味や苦味、豊かな香りに加え、プルンとした口当たり、ひんやりツルンとしたのど越し。専門店ならではの知恵と経験で、年ごと、季節ごとに変わる緑茶の繊細な変化を見定め、レシピに反映しているという力作だ。初代の中村藤吉が茶商を開業したのは1854年のことだという。当代は6代目にあたる。 以前、7代目を継ぐ専務の中村省悟さんに、歴史ある家で生まれた苦労は?と聞いたことがあった。省悟さんは、それほどの苦労はないと言った。「なぜなら、僕の役目は、父から渡された家業というバトンを落とさないよう確実に受け取り、それを次の代に滞りなく手渡すという一つのことだから。ただ、そのためには現状に甘んじていてはいけないし、新しいことにも挑戦する」と。「宇治茶は本来美味しいものだから、その味と品質を大切にするだけ」とも話していた。家業に携わり始めてからは、新メニューの開発はもちろん、「京都駅店」、「平等院店」、「大阪店」、「香港店」、「銀座店」と店を広げてきた。だが本人は、自分はいたって慎重で、無理な拡大はしたくないと言う。堅実なんだか大胆なんだか...。 省悟さんの店や商品を真面目にまっすぐ見る姿勢が継がれていけば、中村藤吉のバトンはこの後も手渡され続けるだろう。 茶農家で大切に育てられた「宇治茶」は、彼らの手で確実に世界に広がっている。 ■中村藤吉本店 京都駅店京都市下京区烏丸通塩小路下ル東塩小路町ジェイアール京都伊勢丹 レストラン街[JR西口改札前イートパラダイス]3F075-352-1111(ジェイアール京都伊勢丹店 大代表)銘茶売場 11:00~21:15、カフェ11:00~22:00 (L.O.21:00)
中井シノブ
ライター
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