食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2019.04.09
京都青果の社長が通う店 「京都ネーゼ」
■内田隆(うちだ たかし)さん 京果グループ京都青果合同株式会社代表取締役社長 兼 グループCEO『食の総合流通サービス企業』を目指し、「世界に誇れる豊かな『日本の食文化』を支え守る」ことを使命とした京果グループ。「京の台所」と呼ばれる京都中央卸売市場内に本社を構え、国内外の青果を豊富に取り扱っている。内田氏は京都大学農学部卒、カリフォルニア大デイビス校農業経済学部大学院修士課程修了。1985年、京都青果合同入社。取締役、副社長を経て2002年から現職味も分量も会話も、自分らしくすごせる場所 「イタリアンが食べたいと思ったら、まずはオーナーシェフの森博史さんにLINEします。人気店なうえ、16席だけの店内なので、早め早めの予約が必須です」 三条木屋町を北へ3軒のビルの3階に、内田さんの胃袋を摑んでいる「京都ネーゼ」は店を構える。 エレベーターの扉が開くと、朗らかで温かな空気が包み込むようだ。 「6人くらいの気のおけない仲間との食事や、女性とのカジュアルなデートにもぴったり。アットホームで気軽に行けるのがいいんですよね。人数が多ければ窓際のテーブル席を。少なければカウンターで、できれば森さんの近くを希望します。L字型のカウンターは、キッチンに面した方にはもちろん森さんが、もう一方ではチャップリンやローマの休日などの映像がテレビ画面に流れています」 「フロアの真ん中には生ハムのスライス機が置いてあるのですが、これで客自身がスライスできるんですよ。それが面白くて、ついついたくさんカットしてしまいます(笑)。絶対に外せない私の定番です」 立派なパナマ産のプロシュートがスライス機に設置されている。 「このスライス機は店舗の場所を探している段階で、すでに購入したものです。もしこの場所と出合えなかったら、私の自宅用になっていました(笑)」(森さん) 「生ハム」750円(税込み)。オブラートのように薄くなるよう、スライス機は設定されている。薄いため空気を含み、口の中でふわりと溶けてゆく。幸せを運ぶ口あたりだ。 「ねこまんまの鰹節のように、ペペロンチーノにたっぷり載せてみるのもお薦めですよ。ボリュームが欲しい方は、何枚も重ねて召し上がってみてください」(森さん) 「私はお酒を飲むので、アラカルトが好きなんです。京都ネーゼではリーズナブルで美味しいワインを選んでもらいます。シャンパン→白→赤の順に。コクのあるワインが好きですね。2人でしたら、それに合わせてメニューを見ながら生ハム、前菜3皿、パスタ2皿を選んでいきます。ワインをたくさんいただくので、メインはあまり注文しません(笑)」「バゲット・レーズンクルミパンとマスカルポーネ・蜂蜜添え」540円。京都・与謝郡「稲垣養蜂」の純粋はちみつは優しい甘みでマスカルポーネの軽やかさを引き立てる。内田さんがこの料理を推薦したことを知った森さんは「とても乙女っぽい料理なんですが......意外ですね(笑)」と驚いていた。 「京都ネーゼといえば、生クリームを使わないカルボナーラが有名で、もちろんそちらもいただきますが、私はトマトベースのパスタも好きなんです」 そんな内田さんが選んだのが「プッタネスカ(アンチョビ、ケイパー、オリーブ)」2000円だ。甘みの立つトマトと、酸味の立つトマトの両方と、淡路産の玉ねぎを混ぜ込んだベースのソースはとてもまろやかだ。イタリア産の2種類のオリーブは元々浸かっていた塩水を捨て、ボリビア産の岩塩で漬け直している。そのため塩っぽさが抑えられ、パスタを頬張るとオリーブのえぐみもなくシャクッとした食感が際立つ。 一般的にはソースに混ぜ込まれる唐辛子だが、あえて皿のふちに生唐辛子の塩漬けを添えている。この唐辛子はかなりの辛さだが、なんともクセになる。 「私は愛知県出身なのですが、お客様ご自身のお好みで唐辛子を加えることにより、名古屋名物ひつまぶしのように一皿のなかでどんどん味を変えていっていただければ、との発想です」(森さん) このように調整ができる、という点も京都ネーゼの魅力の一つだ。 「パスタの量だってお腹に合わせて自由自在です。それこそ"ペンネ2本"でも受け入れてもらえるんですから、本当にありがたいですよね」 京都ネーゼとの出合いをうかがうと「京都とフィレンツェは姉妹都市で、2015年には提携50周年を迎えたんですよ」と、内田さんはおもむろに切り出した。 「提携40周年(2005年)の時に、イタリア・フィレンツェに本社を持つ世界最古の薬局で、今は天然素材を用いたオーデコロンやスキンケア用品、食品などをプロダクトする『サンタ・マリア・ノヴェッラ』のエウジェニオ・アルファンデリー社長と京都で出会いました。京都とフィレンツェの友好を深めようと、一気に意気投合。京都への出店も計画されていて、2007年に大丸百貨店のすぐそばにショップとリストランテをオープンされました。そのリストランテの初代シェフが森さんだったんです。それ以来のお付き合いになります。料理の腕前はもちろんですが、とても人当たりがよくて、お話ししていても楽しいんですよね」 2008年に独立した森さんは「京都ネーゼ(京都風)でありながら、イタリア産にもこだわりたい」をテーマに掲げ、腕を振るい続けてきた。 「内田社長は食事を通じて、ご自身の京都ライフを楽しんでいらっしゃるようです。お店では仕事の話はされません。イスラエル産のフルーツなど珍しい品種を会社で扱われたときも、それはひとつの情報として教えてくださるだけで、売り込むこともされません。時には差し入れとして、そうしたものを社長自ら箱を抱えて持ってきてくださることも。そのようにいつも低姿勢で思いやりに満ち、対等に接してくださるんです」(森さん) 料理もお店で過ごす時間も、自分に合わせることができ、自分らしくいられる――それこそが内田さんを魅了してやまない京都ネーゼなのだ。 ※価格は取材当時のもの撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■京都ネーゼ京都市中京区三条通木屋町上る三軒目 三条木屋町ビルⅡ3階075-212-212918:00~L.O.23:00定休日 日曜、不定休
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BLOG酒のふと道
2019.04.04
カリッ&むちっどっちも大好き!京都 餃子の名店3軒
熟成豚肉を使った旨みたっぷりの餃子『マルシン飯店』今やものすごい行列店として知られる東山三条の大衆中華『マルシン飯店』。ほとんどの客が頼むという天津飯が名物なのですが、それに負けず劣らずの人気ぶりを誇るのが餃子。先代のご店主の頃からテッパンメニューではあったそうですが、若き2代目がさらに力を入れて「熟成豚肉ギョーザ」なるものを爆誕させました。食通な皆様ならご存知、熟成肉のパイオニアである精肉店『京都中勢以』の豚肉を使っているのがキモです。『京都中勢以』の熟成肉は牛肉のイメージが強いのですが、実は豚肉もかなりイケているのだそう。牛肉に比べて取り扱いも少ない分、レアなアイテムといえます。カリリッと香ばしい皮に包まれた餡は、豚肉の旨みと肉汁がじゅわ〜ん。シャクシャクっと小気味よい野菜の食感もすてきです。そこでいっときたいのはもちろんビール!こちらにはなんと餃子専用のビールがあるんです!その名も「GYO-SEN」(餃子専用ビール)。※数量限定ゆえ、売り切れていたらごめんなさい。とあるマイクロブリュワリーで特別注文した完全オリジナルのクラフトビールです。味わいは、ホワイトビール(ヒューガルデンのような)を思わせるフルーティで軽やかな感じ。とてもスッキリとしているので、コクのある餃子の後口をリセットするのにちょうどいい。わざわざ造ったたいそうなビールも、まったく気負わずいつもの食堂使用のグラスというかコップで出すところが好きっ。ちなみに、熟成豚肉ギョーザはほかに茹で(GYO-SENの後ろに写っているもの)・揚げ(マヨネーズで食べるとたまらん)もあり、どちらもそれぞれ美味しいのでぜひ全種制覇してみてください。もちろん普通の餃子も十分にイケてますよ〜。おまけで天津飯。とろっとろの玉子に頰が緩みます。ランチ・ディナータイムは数10mの列ができることもあるそうなのでお気をつけください。深夜だと比較的すんなり入れることが多いです。ちょいと呑んだ帰りにぜひ。こちら、朝6時まで営業しているのが心強い限り。■マルシン飯店京都市東山区東大路三条下ル南西海子町431-3075-561-482511:00〜翌5:45LO火曜休呑ませる気満々な包みたて棒餃子餃子と唐揚げ。でぶっちょのみならず全人類のハートを鷲掴みすること間違いなしの2大茶色くて旨いものを二枚看板とするのが『VULCAN(バルカン)』。河原町丸太町を北上した西側にあるいい感じの酒場です。ご店主が我が好物を「好きこそものの〜」で主力メニューにしたというだけあって、どちらもオリジナリティに満ちています。まずは餃子をご覧ください。でで〜ん! 棒っ!注文ごとに皮の真ん中に具をのせ、くるっと包んでいるのが特徴。パリパリの面が多くて嬉しいじゃありませんか。餡はセロリやキャベツなどの野菜がメイン。シャクシャクッと軽い口当たりなのでどんどん食べられます。こちらはラム肉の水餃子。とぅるっとした餃子の中には野趣を感じさせるラム肉の餡、上にのっているのはミント入りのサルサソースとヨーグルト。サルサのスパイシー感とミントの清涼感、そこにマイルドなヨーグルトが合わさってなんとも複雑妙味。パクチーモヒートと一緒にいただくと気分は海外!(大雑把)そしてこちらがもう1つの名物・唐揚げ。きゃ〜、おっ立ってるぅ〜。クリスピーな衣にはいろんなスパイスの風味が付いていて大人向きの味わい。これまた呑まざるを得ませんなぁ。シメにはこちらをぜひ。ナポリタンです。パスタではなく中華麺で作っているのがユニーク。しっかり味ゆえに、シメのつもりがまたもう1杯やりたくなっちゃいます。それもまたよしでしょ!■VULCAN京都市上京区出水町255-2075-231-100918:30〜翌1:00LO火曜休中国出身のご夫妻が手作りする水餃子『餃子王』は、中国・東北出身のご夫妻が仲良く厨房に立つ餃子専門店。平安神宮からもほど近い岡崎エリア、東大路通を丸太町通から少し南下した西側にあります。ご主人のお母さんが現地で営んでいた水餃子店の味をベースに、皮から手作りする本場の味を楽しませてくれるのです。見た目からもう美味しい。水餃子は日替わりで4種類ほど揃います。この日食べたのは、粗挽き肉の水餃子、エビの水餃子(写真上)。粗挽き肉はなんとお店で塊肉を切るところから始めているのだそう。めちゃくちゃジューシーです。厚めの皮をむちむちっと噛みしめるところに豚肉の旨みが加わって......ああ、共食い最高かよ。プリップリのエビが詰まったエビの水餃子もまた旨し!こちらは柚子の水餃子と、私が一番好きなラム肉とパクチーの水餃子。ラム肉とパクチーというクセもの同士がナイスマッチング! 呑むのを忘れてしばしハフハフあつあつタイムと相成りました。この店で餃子と同じくらい魅力的なのが仲睦まじいご夫妻のたたずまい。まだ日本語は習得中とのことでお話はあまりできませんが、「美味しいです」「アリガトゴザイマス〜」くらいの会話でも暖かなお人柄が伝わってくるのです。私もこんなカップルになりたいな〜(お相手鋭意募集中!)。■餃子王京都市左京区岡崎徳成町28-22 聖護院ビル1F050-3692-549912:00〜14:00(土曜のみ営業)、17:00〜21:30LO日・月曜休***餃子は白米の友と言う人もいはりますが、私にとっては断然お酒のアテ!野菜も肉も炭水化物も摂れて完全栄養食といいたいくらい優秀な食べ物。ゆえになんとなく、「食べても大丈夫」「健康にいい」「ダイエット食!?」というでぶの三段論法が発動しちゃったりして......。それにしても、こんなに大好きな餃子なのに自分で焼くことに関しては三国一ヘタな私。某人気店の餃子を自宅で焼いた時のもの。ちなみにお皿は王将のキャンペーンでゲットしました。これでまだマシな方というから我ながらひどいものです。もっともっと餃子を食べまくれば、少しは向上するかしら......。と、すきあらば食べるチャンスを増やそうとするでぶっちょでありました。
泡☆盛子
沖縄出身・京都在住のフリーランスライター
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.04.01
「京たけのこ」
京都には「であいもん」という言葉がある。同じ時季にでまわる食材、それも相性の良いものを合わせて料理にすること。相性がいいから、単独で食べるより味わいが際立つ。たとえば秋なら「茄子とにしん」、冬なら「ぶりと大根」などがそうで、春は「わかたけ」やわらかくて風味のある「京たけのこ」と渦潮でもまれて引き締まった「鳴門のわかめ」が出合う。3月から4月が旬のこの出合いは、私の中では最強だ!「京たけのこ」は、れっきとした京野菜である。品種は、日本で最もポピュラーな「孟宗竹」で、西京区や長岡京市、向日市などが産地。もう10年以上前だが、あるホテルのシェフに声をかけていただき西京区塚原のたけのこ農家さんにうかがったことがあった。「白子」と呼ばれる極上のたけのこを収穫させてもらったのだ。「白子」は、その名の通り色が白くきめ細やかでやわらかい。えぐみが少ないから生のままでも食べられる。独特の風味があるうえ、炊いたり焼いたりするとホクホクしてほんとうに美味しい!ただし、収穫するのはかなり難しいことを、私はその時身をもって知った。なぜなら「白子」は土の下にあって、その姿を見ることができないから。農家の方は、わずかな土のひび割れを見つけて、たけのこ用の鍬を土の中に入れ、グッ、グッと根を切るようにして掘り出す。見ていると簡単そうなのだが、実際にはそうはいかなくて...。たけのこを見つけるのに一苦労、上手く掘り出せなくてえらく汗をかいた。帰ってすぐに食べるなら、あく抜き(糠を加えて下茹)をする必要もないと教えていただいたので、帰るなり洗ってうすく切り、そのまま口にほうりこんだ。ふっとふくらむ豊かな香り、サクサクとした噛み心地も爽快。あの美味しさは、今も忘れられない。「若竹煮」のほか、「天ぷら」や「木の芽和え」など美味しい料理は数々ある。まるごとカンテキの上で焼いて、刷毛で醤油をさっとぬって食べるのもいい。とにかく、この時季の「京たけのこ」はまさにご馳走だから、寺町三条の「とり市(春はたけのこ、秋は松茸を専門に扱う青果店)」でたくさん買って東京の友人に送り、「京都のたけのこは美味しいでしょう~」と自慢している。和食以外のイタリアンやフレンチ店でも、春にはたけのこメニューが登場する。パスタやソテー、チーズ焼きなど...「おっ!こんなところにもたけのこがいる!」と驚かされることもしばしばだ。ふらりと飲みにでかけた寺町四条のビストロ「ekaki」でも、そんな料理に出合った。「たけのこと鰆、春きゃべつの蒸し焼き」一見、たけのこ感はないが、味わうとたけのこが存在していることをしっかり感じさせてくれる。さわらや春キャベツと重ねて焼いても、シャクッとした歯ごたえは損なわれず白ワインのソースをかけてなお、ふんわりと良い香りがたちあがる。しっとりした鰆、やわらかな春キャベツともよくあって、ふくよかな味わい。真似したいけど、こんな手の込んだ料理は、私にはきっと無理。「ekaki」との出合いは、この店がオープンした2015年。美味しいもの好きの蕎麦店の店主が、「もうekaki行きました?」と紹介してくれた。その足ですぐさま訪ねると、店の雰囲気はカジュアルなのに料理もワインも本格派。気さくでおちゃめなシェフとワイン担当の可愛い山ちゃん(女子)のコンビを一瞬で好きになった。以来、4年近く通っているが、いつ行っても目新しいメニューがあって味わったことのない食材の組み合わせを教えてくれる。ポテトサラダに鱈とミモレット、鱧とイチジク、紋甲イカと桃、焼きナスとあじなど・・・今はすっかり人気店だが、ふたりのスタンスは変わらない。「わかたけ」もいいが、今年は春感満載の「であいもん」「たけのこ&鰆と春キャベツ」を食べに行きたい!■ ekaki京都市下京区貞安前之町611-3075-708-367515:00~24:00不定休
中井シノブ
ライター
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.03.28
「リストリア ラディーチェ」―「Bini(ビーニ)」中本敬介さんが通う店
「Bini」中本敬介さん プロフィール 広島県出身。 広島、東京のイタリアン、フレンチレストランを経て26歳でイタリアへ渡る。4年半のイタリア修業後、スイスのサンクトガレン「Segreto」の開業に伴いシェフに就任。和食材を用いた「日本人らしいイタリアン」で注目を浴びる。8年の就任期間を経て帰国。京都大原の山田農園の卵に出合い、2010年に哲学の道近くに店を構える。2017年に丸太町の町家へ移転。スイス時代を共に過ごした妻の理恵子さんと二人三脚で自分の味を追求し続けている。 おすすめコメントイタリア修業という共通の経歴に興味を持っていただき、根本義彦シェフが私のお店に来てくださいました。まだ哲学の道近くの前の店でした。その日最後のお客様だったのでゆっくりお話しさせていただいたところ、イタリアで共通の知人がいることがわかり意気投合してからのお付き合いになります。 修業の地域は違いましたが、根本さんのお料理をいただくと、イタリアの風を感じて懐かしくなります。と同時に、和食の経験もあるので、驚きの技法がイタリアンに取り入れられていて料理人として刺激的でもあります。 リストリア ラディーチェ「ラディーチェでは肩ひじ張らずにすごせる空気が流れています。それでいて料理のレベルは非常に高い。このバランスが見事です」と言う中本さん。それを受けて妻の理恵子さんも「天井がとっても高くて開放感にあふれています。お昼は暖かな陽が差し込み、夜はしっとりと店内の明かりがともる。どちらもとても居心地がよくて。それにしても、この天井高はうらやましいです(笑)」と微笑む。 「リストリア」とは聞きなれない言葉だが、これは「リストランテ」と「トラットリア」を融合させた造語だ。「カジュアルな雰囲気で、本格派のイタリアンを提供する店を」というオーナーシェフの根本義彦さんの想いが込められている。 ボロボロだった民家を改装して2階分の天井高を取り、インテリアも店内もウッド調にまとめあげたラディーチェは、2013年に丸太町にオープンした。 「オープン時に植えられたオリーブの木が、うかがうたびに大きく育っています」(理恵子さん) 「根本さんは、もともと和食の料理人でした。15歳から会席料理を学び、高校卒業後は京都の『浜作』、北新地の割烹と10年以上に及ぶ経験をお持ちです。だからイタリアンのなかに和食の技法が取り入れられていて、とても勉強になります」(中本さん) 中本さんがより感銘を受けたのが魚料理だそう。 「ヨーロッパは肉食文化です。私もそこでの12年の修業を経て肉料理には自信があるのですが、魚料理には縁がなくて。日本に戻ってきてから魚料理ときちんと向き合いはじめました。和食には魚は欠かせません。根本さんの和食料理人の経験が活かされた魚料理は、いつかそのレベルに届きたいという私の目標です」(中本さん) 「甘鯛のアクアパッツァ」は、皮はパリッ、中はジューシーに焼き上げられている。中本さんはその火入れに魅了されたという。技法について根本さんに聞いてみると――。 「甘鯛は鱗(うろこ)を立てて皮だけを焼いています。これは和食の技法ですね。具だくさんのイメージがあるアクアパッツァなので、私の皿は一見すると意外に思われるかもしれません。でも、スープはアサリ、トマト、ブラックオリーブなど基本のアクアパッツァの素材をミキサーにかけた後こして、余すことなく楽しんでいただけるようにしているんです。技法は和食も取り入れますが、味はイタリアンであることを守っています」(根本さん) 「根本さんは魚ばかりでなく、肉料理も素晴らしいんですよ。肉料理については深く学んできたからこそ、そのすごさがわかると自負しています(笑)。生産者の元へ足を運び、密にお付き合いされている姿勢も尊敬しています」(中本さん) 魚に馴染みがなかった中本さんに対して、根本さんは肉に弱かったという。 「イタリアでの修業時代は海沿いの町にいたので魚料理が中心でした。ですので日本に戻ってから肉について勉強しなおしたんです。肉には個体差があるので、生産者と関係を紡いでいかないと、いい肉を手にすることはできません。肉が悪いのではなく、生産者との仲が良くないからいい肉に出合えないのだと私は思います」(根本さん) 「丹波牛のイチボの炭焼き 桜の香りをつけて」は、イチボが桜の木でほんのり燻製されている。肉はやわらかく、さっくりと噛み切れると同時にふわっと桜の香りが鼻へ抜けていく。 「トルテッリーニ イン ブロード」はイタリア・ボローニャで食べられている、豚肉を詰めたスープパスタ。本場ではもっと小さいそうだ。クリスマスの定番料理で、ラディーチェでも毎年12月に提供されている。 「根本さんのデザートは目の前で仕上がっていくのでとてもライブ感があり、わくわくします。『イチゴとシャンパーニュ』は、シャンパーニュのソルベにイチゴの酸味がさわやかに重なり、ふわりとした生クリームとチーズのムースが包み込みます。そして最後には、これまた自家製の小菓子がお茶と一緒に出されて、大満足のフィナーレを迎えることができるんです」(中本さん) 北新地での割烹で料理長の打診がきたとき、根本さんは弱冠25歳。「今の自分で大丈夫だろうか? もっと勉強がしたい」と、喜びよりも不安が募ったという。同じころ、休日にフレンチを学んでいたシェフから「きみは性格的に繊細なフレンチよりも、大らからなイタリアンタイプ」と言われたことが心に残った。そして「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合務シェフの著作を読んだことがとどめとなって「イタリアンをやろう!」と舵を大きく切った。それから2年間の準備期間を経て、ついに2006年にイタリアへ渡り、アドリア海近くのエミリア・ロマーニャの「リストランテ マニョーリア」で修業を積むことに。海外で料理修業をする日本人の多くは半年ほどで違う店へ移るが、根本さんは2年近くマニョーリアに腰を下ろし続けた。 「私は人と出会い、つながっていくことが大好きですし、大切に思っています。店との関係も同じです。2年近くマニョーリアにいたからこそ、料理だけでなくデザート部門まで経験することができました。そこでデザートを叩き込まれ、つくることも好きになったんです」(根本さん) ランチ5000円(税込)、ディナー1万2960円(税込)。「これでいいや」ではなく「もっと美味しくなるのでは!?」と常に考え根本さんは料理を組み立てていく。 「主人は独特の間でしゃべるのですが、根本さんはそこに絶妙な合いの手を入れてくださるんです(笑)。とても貴重な方です」(理恵子さん) そんな根本さんを、中本さんはとても大切に想っている。 「根本さんは通信制高校の部活動で製菓を教えていらっしゃいます。生産者にも会いに行かれるし、ご自身の料理の勉強もされている。いったいいつ寝てるの? と思うほど精力的に活動されています。そんな根本さんは朗らかでお話も楽しく、お客様みなさんから愛されています。私も店が近いので、わざわざラディーチェの前を通って"根本さんいるかな?"なんて覗いてみたり。ストーカーのようです(笑)。私は先に料理人の方と親しくなり、その人柄に惹かれてお店に通うようになります。料理はもちろんですが、"根本さんに会いたい"という気持ちも、ラディーチェへ足を運ぶ大きな理由なんです」(中本さん)※価格は取材当時のもの 撮影 エディオオムラ 文 竹中式子■リストリア ラディーチェ京都市中京区鏡屋町50075-256-5550夜18:00〜23:00 (L.O.21:30) 金・土・日・祝日昼11:30〜15:00(L.O.13:00)定休日 水曜、不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2019.03.27
ANAクラウンプラザホテル京都の社長が通う店 京イタリアン「イル ギオットーネ」
■中山永次郎(なかやま えいじろう)さん ANAクラウンプラザホテル京都代表取締役社長日本国内にある多数のホテルや、オフィスビル、リゾートゴルフ場などの幅広い施設を開業・再建に携わり「ホテル・旅館の再生請負人」として知られている。ANAクラウンプラザホテル京都はフランス料理「ローズルーム」、日本料理「雲海」、中華料理「花梨」、鉄板焼き「二条」ほか数多くの店があり、その味は観光客や京都人からも愛されている。今回の「京の会長&社長めし」では中山さん自ら筆をとり、愛するお店との思い出について書き上げてくださった。イル ギオットーネのこと ▲「イイダコと紅菜苔(こうさいたい)のスパゲティ ふきのとうの香りで」。紅菜苔は中国野菜。山菜のような味わいがふきのとうとともに春の味を描くホテルの宴会料理は、レストランと違い、100名とか200名、ときに600名を超える大勢のお客様に一斉に提供できる料理であることが大前提になります。 イル ギオットーネで美味しいパスタを喰べるたびに、なんとか、その美味しさの片鱗だけでもホテルの大宴会で提供できないものかと、あるとき笹島シェフに相談をしたことがあります。もちろん、イル ギオットーネと到底比べられるものはできませんが、それでも、なんとか満足できるレベルのものはできないものかと、試行錯誤していたところでした。 ▲「イタリア料理のイベント開催の折には、会場の手配など中山社長にご協力いただきました」と語る笹島保弘シェフ 笹島シェフの、あのチャーミングな笑顔がちょっと思案顔になり、いくつかの場面に応じて、それならこういう工夫もあるのでありませんか、という具合に実に適切なアドバイスをいくつもいただいたことがあります。けっして結論を決めつけるわけでない、一緒に考えてみましょうという姿勢に、さすが超一流のシェフとはこういうものかと、その神対応に感心した憶えがあります。 ▲魚介と京野菜による3種の前菜のなかの一皿、「サヨリとホワイトアスパラ ミモザ仕立て」 季節の野菜を変幻自在に企てする笹島シェフの料理の一皿一皿に、いつも眼から鱗が落ちるような驚きがあります。きっと、笹島シェフはこれが楽しみでシェフをやっているのだろうなとおもうのです。 ▲肉の旨みが染みわたる「和牛の炭火焼き」。写真は春バージョン。数種のキャベツ、キノコにトスカーナの白いんげんのピュレを添えて。ピュレの隠し味は白味噌だ 私のイル ギオットーネでの一番の楽しみは、やはりメインの肉料理です。和牛のローストにしろ、絶妙の火の入れ具合と、根セロリや赤カブ、パセリなど野菜の巧妙なピュレとのマリアージュは、本来のあるべき美食の喜びを実感させてくれます。口に入れるたびに、いつもの笹島シェフのあのチャーミングな笑顔が思い浮かびます。 ■店舗紹介 八坂の塔のたもとの一軒家に2002年にオープンしたイル ギオットーネは、今や説明不要の京都を代表するイタリアン料理店。京都の素材を活かした「京イタリアン」の先駆者として笹島さんは名をはせている。かつてプロダクトデザイナーを志していたこともある笹島さん自ら関わった内装や家具は、20年近くたっても古びることなくモダンだ。店内には温もりある空気が流れ、客を迎える。今回撮影したパスタや肉を盛りつけた食器はイル ギオットーネのオリジナル。「和食器はイタリアンでもしゃれていて、かつ使いやすいものを陶芸家とともに一から作ることができるのが魅力です」(笹島さん)。店で使用していた皿を気に入った中山さんが、ホテルのために取り寄せたこともあるそうだ。「京都の会長や社長は、料理人を育てようという心意気をお持ちです。中山社長はビジネスの会食でも、ご自身が心から楽しんでオーガナイズされていらっしゃいます。またキッチンスタジアムのある宴会場をホテルに作られたりと、食に対して全方位からの愛情が深い方です。私もご意見をいただくことがあり、とても助けていただいています」(笹島さん) 撮影 エディオオムラ 取材 竹中式子■イル ギオットーネ京都市東山区下河原通塔ノ前下ル八坂上町388-1 075-532-255012:00~14:00(最終入店)、18:00~20:00(最終入店)休み:火曜www.ilghiottone.com/
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BLOG村田吉弘の和食知新
2019.03.25
和食の未来を切り拓くもの
緑滴る東山麓の懐に抱かれるように建つ、料亭「菊乃井」。大正元年、創業以来、京都を代表する名料亭として、多くの人々に愛されてきたこの店の三代当主、村田吉弘さんは、「和食とは何か?」を常に問い続け、それを使命に様々な活動を続けている。現在はNPO法人日本料理アカデミー理事長に就任し、「日本料理を正しく世界に発信すること」を自らのライフワークとして掲げ、「和食」つまり、日本の伝統的な食文化のユネスコ無形文化遺産への登録に尽力した。その村田さんに「和食とは何か?」について語っていただくシリーズの今回は第五回、「和食の未来を切り拓くもの」をテーマにお話をいただいた。油がないからこそ、創意工夫を重ねる。たどり着いたのが、日本独特の「旨み」 前回、世界へ拓く日本料理というテーマでお話ししましたが、ではこれからの日本料理の未来はどうなっていくのか?というのはとても興味深いことやと思います。情報網や流通網の急激な発達で、ほんまに料理自体にも国境がなくなってきていると思います。でも、根本的に日本の料理と世界の料理では異なる点があるんです。世界中の民族、すべての人は、食事において糖質を摂りますよね。パンを食べたり、ナンを食べたり、豆を食べたりね。我々は米を食べますよね。でね、世界中の料理はすべからくバターとクリーム、植物油脂やごま油など、脂質を中心に料理を構成していくわけです。 でも、世界中でただ一カ国一民族だけが、旨みを中心に料理を構成しています。それが我々なんです。 日本の歴史では、300年にわたっての鎖国政策をしてきましたよね。鎖国してたから輸入の油は入ってきませんし、日本中どこを掘っても石油は出てきません。仏教国やからラードやヘットなんかの獣類の油を摂取することもできません。もちろん、牛乳を搾ってそれをバター作るなんていうのは論外ですよね(笑)。そうするとね、油は菜種油とごま油くらいしかないんです。でも菜種油もそんなにぎょうさん量が採れるわけではないから、貴重なわけです。菜種油を大さじ2杯の燈心に火をともすと、一晩明るいのに、食べてしもたら一瞬でなくなるわけです。そうするとね、特別な階級の人しか油を使った料理はでけへんのですね。特別な階級の人って誰?ていうと、大名、公家、商家の主人とかですよね。でも、油は非常に高価なものやったわけで、それは御所でも同じことです。海の遠い京都では、どうしても野菜料理が多くなるでしょう? お客さんに野菜をちゃんと美味しく料理したものをどうやってお出しするか。料理人も必死に考えたと思います。結局、北海道から松前船で運ばれてきた昆布とね、枕崎とか土佐から入ってきた鰹節。この二つの乾物食材を、湯の中に掘り込んで出汁を引いたというのが、日本の旨み文化の最初やと思います。日本にもし潤沢に油があったら、出汁文化は生まれなかったもしれないですね。油でしか出せないコクやまろやかさに変わるものとして、切磋琢磨する中で、旨みにたどりついたのでしょう。 受容体の発見で、旨み=UMAMIの概念が世界スタンダードに。 日本食を語る上で外せないのが「旨み」なんですが、世界中のシェフと交流をする中で、僕らは旨みを定義づけしたいとずっと思ってきたんです。そやけど根拠がないとなかなか受け入れられなかったんです。グルタミン酸やイノシン酸から旨味が生まれるという話をしても、それは概念にしか過ぎないと言われるわけです。ところが、2002年に、舌の甘みの受容体の横に、旨みの受容体が発見されたんです。これはえらいこっちゃっ!ということになって(笑)。ようやく旨みの存在が認められるようになったんです。油自体には旨みはないんです。油は1cc 9calで、要はカロリーが摂れるものって、生き物は美味しく感じるんですよ、生きていくためにね。フランス料理のジュでも、中華のスープでも油脂を使いますから、カロリーがあるんです。その点、日本の出汁はカロリーゼロなんです。たとえば懐石料理のコースやったら1000Kcal程度ですが、フランス料理のコースだと2500Kcalぐらいまでいってしまうことがあります。ラストにチーズとデザートを食べると3000Kcalになってしまいます。ハンバーガーやったら1個で800Kcalぐらい軽くいってしまうので、ハンバーガーを食べながらコーラを飲めば、懐石料理と一緒になってしまうでしょう? 油脂のカロリーというのはもの凄いなあと思います。 さらに美味しく進化して、カロリーは抑えたい。相反するニーズを解決するヒントは出汁と旨み 今、世界中のほとんどシェフは、美味しさを変えずに、自分の料理をより軽やかに、カロリーを低くしたいという志向を持っていて、この傾向はもう変わらないとおもうんです。こういう志向の中では日本料理は間違いなく、世界の料理になっていくと思いますよ。旨みの力によって美味しさを損なうことなく、カロリーを落とすことができる出汁文化によって花開いた旨みの世界は、健康志向ともリンクして、世界のスタンダードになっていく可能性がありますよね。和食の未来を切り拓くキーワードは、まさしく"旨み"=UMAMIやと思います。「旨みの国」に生まれて、料理の世界に生きる一人として、出汁と旨みはこれからますます武器になると思います。料理人を目指す若い人たちにも、小さな子の味覚を育てるお母さんたちにも、「旨みの国」に生まれたことを誇りに思って欲しいですね。テキスト: 郡 麻江■ 菊乃井 本店京都市東山区下河原町 鳥居前下る下河原町459 八坂通京都市営地下鉄東西線 東山駅(出入口1) 徒歩12分京阪本線 祇園四条駅(出入口6) 徒歩14分075-561-0015http://kikunoi.jp/kikunoiweb/Honten/index
村田 吉弘
株式会社菊の井 代表取締役
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.03.22
「実伶(みれい)」―「Bini(ビーニ)」料理人 中本敬介さんが通う店
「Bini」中本敬介さんプロフィール 広島県出身。 広島、東京のイタリアン、フレンチレストランを経て26歳でイタリアへ渡る。4年半のイタリア修業後、スイスのサンクトガレン「Segreto」の開業に伴いシェフに就任。和食材を用いた「日本人らしいイタリアン」で注目を浴びる。8年の就任期間を経て帰国。京都大原の山田農園の卵に出合い、2010年に哲学の道近くに店を構える。2017年に丸太町の町家へ移転。スイス時代を共に過ごした妻の理恵子さん(写真右)と二人三脚で自分の味を追求し続けている。 おすすめコメント丸太町に移転してすぐに、坊主頭の若者たちを連れたご一行がBiniにいらっしゃいました。そのスタイルから「これは料理人の集まりだな」とすぐにピンときました(笑)。実伶さんとBini共通のお客様が薦めてくださったそうです。その後、ご主人の中尾雄三さんは奥様とも来てくださるようになりました。 2017年にミシュラン一つ星をとられて以来お忙しそうで、また私の休みともなかなか合わず、2019年の年明けにやっとお店にうかがうことができました。 外食はいつも妻とですが、二人きりだとお互い仕事モードになってお店を見てしまいます。時には「こんな素敵な店があれば、うちの店には来ないよな」なんて悲観的になることも(笑)。なので、できるだけ妻とともにもう何人かとテーブルを囲むことにしています。そうすると仕事を忘れ、素直に食事を楽しめるんです。実伶さんにもその共通の常連さんとご一緒しました。 メニューを見たとたん、どれもこれも美味しそうで、メニュー選びにこんなに優柔不断になったことはありません。カウンターでは普段妻と二人だけで店に立っている私とは違うライブ感があり、とても興奮を呼ぶ食事会になりました。そしてその余韻はいつまでも残っています。 実伶「こんなに優柔不断になったことはない」と中本夫妻が嬉しい悲鳴を上げた、魅惑的なある日のメニュー。興奮冷めやらぬうちに、まずはその中身を見ていこう。 「最初の先付けの定番『白和え』で、お腹と心をわしづかみにされてしまいました!」と妻の理恵子さんは情熱的に語る。 「黒豆と車エビとのし梅を和えています。のし梅のさわやかな酸味と弾力ある食感が独特で、印象深い味わいです」(中本さん) この後からスタートする本番メニューの邪魔をしないものを、というご主人・中尾雄三さんの配慮のひと品だ。「すっぽんの持つイメージと違って優しく上品な口あたりの『丸鍋』。水とお酒で3時間煮込んだスープは、ショウガ入りで風味豊かです。葛でとろみをつけていつまでも温かく、すっぽんの旨みが染みわたっています。ネギもトロリと煮込まれています」(中本さん) このすっぽんスープを用いた「丸唐麺」も〆に人気だ。すっぽんの味に負けない強めの玉子麺のコシが効いていて、のど越しもよくスルスルと食べられるとか。 「〆のご飯は毛ガニにするか迷ったのですが、多数決で『穴子とごぼう』ご飯に決定しました」(理恵子さん) 土鍋の蓋を開けると対馬産の穴子の甘い香りが立ちのぼり、出汁を吸いこんだツヤツヤの米が光っている。 「穴子はイタリアンでも使う食材です。大きいほうがふっくらとしているんですよね。中尾さんは鱧のように骨切りをされているので穴子がやわらかくてご飯によくなじみます。ごぼうもとても細く薄いので、穴子とご飯が三位一体となって口の中に広がります」(中本さん) 「料理人の視点ではなく、純粋に食事を楽しむ」と言いながら、実は中本さん、しっかり見ていたことがある。「土鍋を火にかけるとき、最初は蓋をせず沸騰してから蓋をしていらっしゃったんですよね」。この言葉を聞いた中尾さんは「そんなところまでご覧になられていたんですね」と驚いていた。 この3品以外にも、「造里盛り合わせ」「唐すみ大根」「天然ぶりかま」「焼き蛤」「赤貝のぬた」など計8品を堪能したそう。 「でもまだ食べたいものがいっぱいあるんです。無限に食べられるお腹だったらいいのに」と理恵子さんは悔しそうに言った。 アラカルトだと2~3人で8~9品の注文が平均的で、予算は1万2000円~1万3000円。1万円(税別)、1万5000円(税別)のコースもあり、八寸などアラカルトにない料理が入っている。 個室もあるが、醍醐味はカウンター。料理のクオリティとともに中本夫妻の心を打ったのは、スタッフ間の連携だった。 「カウンター内のスタッフ同士の信頼感が強く、言葉を交わさずとも意図が伝わっています。満席ですし、オーダーが立て続けに入ると普通は慌ただしくなりますよね。確かにスタッフ間のテンポは速くなるんですが、お客様に対するテンポは速くなることなくゆったりと保たれています。だからあせらされることなくゆっくり食事を続けることができるんです」(中本さん) 弟子には「自分の考えでお客様に接するように」「言われなくても気づけるように」ということを中尾さんは日頃から伝えているという。 「間違ってもいいから、それを日々の経験に活かしてほしいですね。私が若い時は厨房は完全な縦社会でした。でも今はそれでは通用しない部分も増えました。昔は休憩もなくずっと板場に立ち続け、へとへとになって身体を壊して辞めざるを得ない人もいたものです。それを反面教師として、今はちゃんと休憩をはさんでみんながリラックスしながら仕込みができるように心がけています」(中尾さん) 「それから中尾さんの驚くべき点がもうひとつ。どんなに忙しくなっても、中尾さんの耳は客席に向いていて、こちらの些細な要望も聞き漏らすことはありませんでした」(中本さん) 長崎県出身の中尾さんは、福井県や石川県の旅館で和食の修業を積んだ。「ちゃんと和食の勉強をしたい」と思いたち、22歳のころ京都の炭屋旅館で働き始める。しかし旅館では客と顔を合わせることはほとんどない。「旅館の料理と割烹は、洋食とイタリアンのような違いを感じました。旅館料理は盛り付けに趣向を凝らします。いっぽう割烹はお客様の前で焼く、切る、和える、とダイレクトな料理です」。次第に割烹への想いがつのってゆき、ついに割烹の名店「祇園おかだ」へ。7年近く務めたのち、2016年に独立した。 「おかだではカウンター内ではなく調理場にいたので、独立したばかりのころはお客様との会話に慣れておらず不安でいっぱいでした。お客様の2~3時間の滞在のなかで適度な量は? 料理をお出しするテンポは? 味のお好みは? といったことを常に意識しています。そしてご常連の方は、その情報をずっと覚えておく。"見ていないようで、見ている"がモットーです」(中尾さん) 長崎出身の中尾さんは、店内の壁にレンガを用いたり、長崎で集めた骨董を飾っている。魚も長崎産をできるだけ選ぶようにしている。そして絵画好きでもあり、多くの絵画が壁にかけられている。店名の「実伶」はフランスの画家・ミレーから名付けたそうだ。 「実伶さんのアラカルトのリズム感がとてもよくて大いに食欲をかきたてられました。Biniは今はコースのみですが、アラカルトもいいな、日にちを決めてやってみようかな、と新たな刺激を受けた夜でした」(中本さん) 撮影 高見尊裕 文 竹中式子■実伶京都市中京区竹屋町143-2075-251-200717:00~22:00定休日 水曜
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BLOG京の会長&社長めし
2019.03.20
ANAクラウンプラザホテル京都の社長が通う店 鮨割烹「なか一」
■中山永次郎(なかやま えいじろう)さん ANAクラウンプラザホテル京都代表取締役社長日本国内にある多数のホテルや、オフィスビル、リゾートゴルフ場などの幅広い施設を開業・再建に携わり「ホテル・旅館の再生請負人」として知られている。ANAクラウンプラザホテル京都はフランス料理「ローズルーム」、日本料理「雲海」、中華料理「花梨」、鉄板焼き「二条」ほか数多くの店があり、その味は観光客や京都人からも愛されている。今回の「京の会長&社長めし」では中山さん自ら筆をとり、愛するお店との思い出について書き上げてくださった。鮨割烹「なか一」のこと 「なか一」との出会いをあらためて思い返してみると、まだ、私どものホテルが開業する前でしたから、もう三十年を超えることに気づき、しみじみと思い出がよみがえります。その歳月は、そのまま自分の人生の振り返りでもあります。 店のお向かいの「てる子」(※1)のてる子姉さんから、先代のご主人・須原陽一さんをご紹介いただきました。 てる子さんとご飯食べでご一緒することもあれば、「てる子」で夜食に出前をしてもらうことも度々でした。出前の場合は、必ずご主人が持参され、そのまま一緒にお酒を飲むという格好でした。▲出前ではトロ、鯛、イカ、ウニ、しまあじ、赤身、穴子の7種類の握りが縁高に収められ届けられる ご主人は、グラスを傾けながらお喋りしながら、ひととおり、客一人ひとりが、相好を崩して鮨を頬張る様子を見定めしてから、頃合いに「ご馳走さんでした」と店に戻ります。そんな具合でしたから、おまかせの「出前」で、弛みのない凛とした表情のある鮨がいただけるのは、なんとも至福の夜食でした。 ▲「アブラメの木の芽焼き」。つけ合わせはふきのとうの白和えで、春を感じさせるひと品 「なか一」での一番の楽しみは、カウンターで、季節の食材の割烹料理を小皿で二品三品いただくことです。そして、お好みの鮨のあとの〆の鯖寿司につきます。 ▲銘柄にこだわらず、その日に一番いい鯖を使う「鯖寿司」。お土産は4200円(税込)▲春の椀物である、「エンドウ豆のすり流し」。桜鯛と海老、ワラビに桜の花の塩漬けが添えられている はじめて「なか一」の鯖寿司を口にしたときの感動は、今でも鮮明に憶えています。たっぷりと脂の乗った鯖と新米の酢飯との塩梅がじつに素晴らしい。お昼なら、秀逸の吸い物一椀に鯖寿司があれば、とても幸せな気分になれます。以来、我が家へのお土産に鯖寿司は欠かせないものになっています。 ▲長年、父である先代とともにカウンターに立ってきた須原健太さん。2016年に2代目となる 当代のご主人・須原健太さんは、とても謙虚な職人肌の方で、そのお人柄は、「なか一」の繁盛ぶりからも充分に窺えます。 ※1お茶屋兼スナックの「てる子」。祇園で店を構えて50年近く。てる子さんは安藤忠雄氏や小澤征爾氏、歌舞伎役者など著名人からも愛されている名物女将だ。45周年の集いはANAクラウンプラザホテルで開催された。 ■店舗紹介2020年に創業50年を迎える鮨割烹の老舗である「なか一」。今でこそ握りの前に一品料理が供される寿司屋はあたりまえのようにあるが、なか一開店当初は全国的にも「鮨割烹」はなかったという。先代の須原陽一さんが、祇園の旦那衆を飽きさせないために作りだしたスタイルだ。 季節の食材を用いた小さな突き出しが3~4品、造り、吸い物、焼き物、酢の物か炊き合わせと続き、最後に寿司5~6貫というのがコースの流れ。昼8000円~2万5000円(税別)、夜1万~2万5000円。予算を伝えてのおまかせになる。中山さんは白ワインで楽しむことも多いそうだ。 先代は器を愛しており、棚には名品が揃う。前述写真の鯖寿司を盛った皿は魯山人作。カウンターに並ぶ猪口は、すべて奈良の陶芸家・辻村史朗氏のもの。先代の友人でもあった。※価格は取材当時のもの撮影 エディオオムラ 取材 竹中式子■なか一京都市東山区祇園町南側570-196075-531-277812:00~14:00、16:30~22:00無休
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