食知新ブログ
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.02.08
「くもこ」
冬に東京の友人を割烹へ連れて行き、「くもこ食べる?」と聞くと、ほとんどの友人が「くもこって何?」と聞き返す。「えっ!東京では食べへんの?」と私はあきれ顔になる。東京では、こんな美味しいものを食べないのだろうか!と当初は驚いていた。が、実際に料理が登場すると、「タラの白子のことか」と、逆に「なあんだ」という顔をされる。そりゃ「食べないわけはないなあ」と反省。 そう、東京ではタラの白子もフグの白子も白子と呼ぶ。今は、それを知っているから、最初から「くもこ食べる? あっ、タラの白子のこと」と説明を忘れない。 くもこは、冬に水揚げされる寒鱈(マダラ)の白子(精巣)で、一番おいしのは、1月から2月にかけてだといわれている。3月以降もないわけではないが、味が水っぽくなってくるそうだ。生をさっと湯にくぐらせポン酢で食べる「くもこポン酢」は、トロリとしたクリーミー感を、とことん味わえる一品。もみじおろしやあさつきを添えると、その風味が刺激になって、さらに日本酒(冬は熱燗かなあ)が進む。 味自体はクセがないから、焼いたり、天ぷらにしたり、鍋に入れたりと食べ方もいろいろ。昨年末、ビストロで「くもこのソテー」を見つけて注文した。ガーリックバターが効いた熱々をバゲットに乗せ口に運ぶと、サクッと香ばしいパンとトロリとしたくもこの食感や味が抜群に合って、その美味しさに「はあ~」とため息をもらしたほどだ。最近のヒットは、「麩屋町うね乃」のくもこのおでん。鍋にも入れるから「だしと合う」ことはわかっていたが、味わってみると、ここのおでんは「合う」どころではない。ちょっとあぶったくもこの香ばしい風味が、カツオと昆布のだしに溶けだして、優しいんだけれど深い。パラリと散らした海苔がまたアクセントになる。だしもゴクゴク飲み干して、「おかわり」と言いたくなった。「麩屋町うね乃」は、名前の通り麩屋町通にあるおでん店だ。ビル中にあって、事務所かと思うそっけない扉にネームプレートがかかっているだけだから、最初に訪ねたときは「ここであってるの?」と入るのを戸惑った。勇気をだして扉をあけると、ふんわりとだしの香りが漂う。土壁や木のカウンターが美しい店だった。 店中央の調理台に鍋が据えられ、定番の大根やたまご、きんちゃくなどが清い味わいのだしの中で、湯気をあげながらゆるゆると炊かれている。だが、メニューを見ると、季節のおでんには「カチョカバロ」や「ポテトサラダ」など変わり種もある。その理由は、料理長の山元さんが、元イタリアンのシェフという経歴の持ち主だから。具材によっては、だしにオリーブオイルやレモンピールを添えるなど新しい味を生み出している。 彼がイタリア料理店で腕を奮っていた頃から知っているから、「おでん店の料理長になる」と聞いたときは「挑戦だなあ」と思った。はたして、料理好きなうえに才能もある人で、試行錯誤をくりかえしながら和のだしを自分のものにした。 開業前に何度も何度も巻いて練習したという、ふっくら優しい味わいの「だし巻き」もおすすめの一品。注文してから巻いて、だしをかけてだしてくれる。 だしが際立って美味しいからか、ここのおでんは何を食べても素材の味がイキイキしている。「おだしの国」に生まれたことを、心からよかったと思わせてくれる。 寒い日は、おでんに熱燗!ちなみに、「くもこ」は季節メニューだから、予約の際に確認を忘れずに。■ 麩屋町うね乃京都市中京区麸屋町通押小路上ル尾張町225 第二ふや町ビル103075-213-8080営業時間 : 17:30~23:00(LO 22:00)定休日 : 毎週火曜日
中井シノブ
ライター
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BLOG村田吉弘の和食知新
2019.02.08
世界に拓く日本料理
緑滴る東山麓の懐に抱かれるように建つ、料亭「菊乃井」。大正元年、創業以来、京都を代表する名料亭として、多くの人々に愛されてきたこの店の三代当主、村田吉弘さんは、「和食とは何か?」を常に問い続け、それを使命に様々な活動を続けている。現在はNPO法人日本料理アカデミー理事長に就任し、「日本料理を正しく世界に発信すること」を自らのライフワークとして掲げ、「和食」つまり、日本の伝統的な食文化のユネスコ無形文化遺産への登録に尽力した。その村田さんに「和食とは何か?」について語っていただくシリーズの今回は第四回、「世界に拓く日本料理」をテーマにお話をいただいた。料理にも味にも、国境なき時代の到来。今、世界はものすごく近くなっていますよね。たとえてみれば、玉転がしの玉ぐらいの大きさやったものが、今はゴルフボールぐらい小さくなっていると思うんです。情報も流通も発達して、料理にも味にも国境というものがなくなりつつあると感じています。僕がずっと長く関わっている活動に、「日本料理アカデミー」があります。このアカデミーでは、日本食文化の継承を目指しつつ、日本人自身に日本の食文化を見直してもらい、さらには和食への正しい理解を世界の人に広めていきたいと、世界中のシェフとの交流をはじめ、いろいろな活動を展開しています。たとえば、世界に日本料理を正しく発信するための「日本料理大全」の編集と出版もその一つ。このシリーズは、世界のシェフに読んでもらうために日本語版、英語版、イタリア語版があり、現在、第4巻まで手がけています。今、世界の中にあって和食は大変、注目されています。まずヘルシーであること、季節感を豊かに取り入れ、器や盛り付けなど見た目の美しさと、味わい、美味しさが見事に融合していることなど、理由はたくさん挙げられますが、アカデミーが積み上げてきた地道な活動がその下支えになっていると自負しています。世界に広がる日本料理。今、我々は何ができるのか。和食が2013年に世界遺産に登録されてから、世界中の日本料理店はどんどん増え続けて、登録前に5万6000軒だったのが、今、日本以外で12万3000軒にものぼっています。ところが指導者も不足していますし、「こんなん和食ちがうわ」という店もたくさんあるようなんですね(笑)。「そういう店は続けてもらったらあかんのとちがうか?」という、もっともな意見もありますが、僕はまず、和食に興味を持って作ろうとしてくれる、その人たちの姿勢がありがたいし、そういう人たちはとても貴重な存在やと思うんです。そやから、今は、たとえば盆栽を育てるように細かい剪定を最初からあれこれ入れるより、まずは大木に育って欲しいと思っています。それぞれの土地での和食文化が大きく育って、それでもおかしいところがあれば、僕らが現地に出向いて、剪定をすればいいんやないかなと思っているんです。おおらかにすくすくと、世界中で日本料理の芽が育って欲しい。アカデミーでも、和食を海外に正しく伝える人材を育てたいと、外国人で和食を学びたい人を招いて、働きながら学べるシステムを構築しています。外国人の日本料理店での就労を、全国で唯一、京都市内に限った特例措置として実現したのは画期的なことやと思いますね。優秀な人材を一人でも多く育てて、和食のタネを世界中に蒔いて欲しいと思っています。アカデミーの基本方針は、「料理への思いには国境はない」ということ。僕も同じ考えです。和食も、国境を越えて、広く、新たな道を切り開く時代になったんやと思います。自分の生まれた国で和食をやってみたいという熱意のある人材を発掘し、世界のあちこちでおおらかに、のびやかに、和食の芽がすくすくと育って、大木になってほしいなあと思っています。ゆっくりとその成長を見守って、必要があれば、いつでも植木バサミを持って剪定にいきますよ(笑)今、世界に広がる和食とその未来を見据えた時、一体、何が大切になるのか。次回は「和食の未来を切り拓くもの」をテーマにお話したいと思います。文 郡麻江■ 菊乃井 本店京都市東山区下河原町 鳥居前下る下河原町459 八坂通京都市営地下鉄東西線 東山駅(出入口1) 徒歩12分京阪本線 祇園四条駅(出入口6) 徒歩14分075-561-0015http://kikunoi.jp/kikunoiweb/Honten/index
村田 吉弘
株式会社菊の井 代表取締役
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BLOG京の会長&社長めし
2019.02.08
山中商事の代表取締役が通う店 釜めし屋「月村」
■山中隆輝(やまなか たかてる)さん 山中商事代表取締役1964年、父と叔父により山中商事を設立。総合不動産会社として京都を中心に分譲地の開発・販売、収益不動産等の運営管理、不動産売買、不動産投資マネジメントなど多岐に渡る事業を展開。1979年に入社、1998年に現職に就く。仕事仲間に美食家が多く、その影響で食事に対して興味を持つように。近ごろは毎朝シャワーの前にストレッチを20分、晩御飯は21時までに済ませ、23時には就寝という規則正しい生活を心がけ、美食を健康的に楽しんでいる 昭和の映画人が愛した釜めし屋。昭和の風情を楽しみながら一献の幸福 四条河原町の細い路地に灯りをともすのは「月村」。一品料理と釜飯を目当てに多くの人がのれんをくぐってゆく。山中さんもそのひとりだ。 「日曜日は妻とデパートに行くこともあるのですが、そういう日の晩ご飯は月村さんです。夕方4時くらいにデパートに着いて、買い物が済むのが6時半頃。そこで月村さんに電話をして、混み具合をうかがいます。こちらは予約を受けていらっしゃいません。5時オープンですから、最初のお客さんがお帰りになる7時や7時半が狙い目です」 「もう7~8年前でしょうか。テレビで月村さんを知った先輩ご夫婦に、"山賊焼(さんぞくやき)"が美味しそうだったから一緒に食べに行こう、と誘われ妻と4人でうかがったのが最初です。一歩足を踏み入れたとたん、昔なつかしい昭和の風情が漂う店内にノックアウトされました」 昭和20(1945)年、戦後間もないころにこの地に料理屋を開いたのは、おかみさんである佐藤亜樹子さんのおばあさんだ。当時は「ひらいと」という店名だったとか。その後、常連だった俳優・月形龍之介との縁で「月村」に改名した。というのも、この店は当時の映画界と大変深いつながりがあったのだ。日本映画の父と呼ばれる牧野省三の次男、映画プロデューサーのマキノ光雄が贔屓にしたことから、連日連夜、撮影所での撮影を終えた役者やスタッフが集い、飲めや歌えや大いに盛り上がっていたという。昭和の大スター、萬屋錦之介、大川橋蔵、片岡千恵蔵らもしょっちゅう訪れていた。山中さんの好物のなかにも、そうしたスターたちの思い出が残っているものがある。 山中さんの先輩が興味を持った「山賊焼」2800円は、実は裏メニュー。骨付きの鶏もも肉をつきっきりでじっくり15分かけて素揚げにする手間のかかる料理のため、注文が飛び交う忙しい時は提供できないとか。こちらは萬屋錦之助の好物だった。 「鶏肉が大好きで、さまざまな鶏料理を食べ歩いている友人がいるのですが、彼は"月村の鶏の素揚げが一番旨い!"と大絶賛しています。皮はパリパリと香ばしく揚がり、身はふわりとやわらか。歯を入れると肉汁がジュワッとあふれ出します。塩とからしが添えられていますが、何もつけなくても鶏肉の旨みがしっかりと立っています。この友人とは"おまえ1本、俺1本"にして、けっしてシェアはしません。ひとり占めしたいので(笑)」 山中さんのレギュラーメニューの代表格は、大川橋蔵が愛した「昔ながらのしゅうまい」900円(税込)。大川は自身の新築祝いのパーティでこのしゅうまいの出前を頼み、参加者に振る舞ったという。大川以外にも当時からその味は大評判で、東映京都撮影所で開かれた映画館の館主をもてなすパーティに屋台で参加した月村は、2000人分のしゅうまいをつくったという逸話も残る。 「こちらのしゅうまいは、トロフワのやわらかいタイプです。口に入れるとすっと溶けるようで幸せな気持ちになれます」 千枚漬けの時期のみ楽しめる、冬の定番「聖護院大根煮」900円。さっぱりした甘みのある出汁が大きな聖護院大根にじっくり染み込んでいる。冬以外は長大根を使用。夏は冷やし大根として昆布を添えて出される。 「たこやわらか煮」1680円は、6~7時間炊いたタコをひと晩寝かせる。品切れになるとがっかりされてしまう、常連客に人気のひと品だ。 「お料理は全体的に甘みがあって、酒のあてにピッタリなものばかり。疲れているときには、料理の甘みはなんとも魅力的ですよね。今は身体のために焼酎の水割りやハイボールを飲むようにしているのですが、月村さんで友人が日本酒を頼んだら、少し分けてもらいます(笑)」 〆には、昭和25(1950)年ごろからおばあさんがつくりだした、看板にも掲げられている「釜めし」ミックス3300円を。注文が入ってから釜めし用コンロで炊きはじめ、炊き上がったら一度しゃもじでご飯を混ぜてふわりと空気を入れてから、再び蓋をしてテーブルに運ばれる。 「鶏と海老の入ったミックスを頼むことが多いです。冬はここに牡蠣が追加されます。やわらかめに炊きあがったご飯は、秘伝の出汁をたっぷりと吸っています。おこげも香ばしくていいんですよね」 釜めしというと鉄製の釜を使っている店が多いが、こちらの釜はなんと清水焼。そのためか保温性が高く、いつまでもご飯はあたたかい。今はひと釜をシェアする人も増えたが、以前はひとりひと釜を食べることが多かったそう。添えられた竹製の小さなしゃもじをスプーン代わりにしてご飯を口に運ぶのもなんとも味わい深い。 歴史を感じさせる、使い込まれた釜めしの蓋。比較的新しい左上のものと比べるとだいぶん薄くなり変形しているが、今でも現役で活躍している。あえてこの古い蓋で出してほしいとリクエストする常連客もいるとか。 「椅子やテーブルも昔ながらで、少し小さいんです。おっさん4人でうかがうとギューギューになりますが、字のごとく膝を突き合わせてお酒を酌み交わすのも楽しいんですよね。出張で京都へ来たと思しき一人客がカウンターに座って小料理をつまんでいる姿も、なんとも風情があります」 料理をつくるのはおかみさんのご主人・光三郎さん。若いころは、舞台に上がる芸舞妓に化粧を施す「顔師」だったそう。昭和44(1969)年、結婚を機に料理人に転身。以来50年、夫婦二人三脚で月村を切り盛りしてきた。 「日本映画全盛期の時代は、牧野さんに請われて店の奥と2階に座敷を設けていました。お客様は映画関係者のみ。板場さんも仲居さんもいる大所帯でした。ですが、しだいにテレビが一般的になり、映画人の方々も東京へ移ってゆくように。そこで主人に代替わりしたときに座敷をやめ、一般のお客様にもお越しいただけるようにしたんです」(亜樹子さん) 光三郎さんはおばあさんの味を継承しつつ、メニューに並ぶ多くの定番料理も生みだしていった。 「"まだお店がありましたか"と30年ぶりにお越しになれた方もいらっしゃいます。"変わらない味でうれしいな、懐かしいな"と喜んでくださって。でも実は、少しずつ今の方の口に合うように手を加えているんです」(光三郎さん) 懐かしさを保ちつつ、気づかれぬほどの繊細な采配で味を調整していくその腕前は、すべての料理に振るわれている。「なんでも自分でやりたいから」と、光三郎さんは厨房にひとりで立ち続けているのだ 「カウンター3席に、2人掛けテーブル1卓、4人掛け3卓の小さい店です。主人ひとりで料理をつくっていますので、予約をお受けする余裕がなくて申し訳ないです」(亜樹子さん) そういうわけで手間のかかる山賊焼が裏メニューなのもいたしかたない。 「でもなんとかよいタイミングを狙って、その名の由来のように1本丸ごと山賊のようにかじってみてほしいですね。私と鶏肉好きの友人が熱狂する意味がわかっていただけると思います(笑)」 月村には山中さんが、昭和ノスタルジーにひたれる空気に満ちているのだ。※価格は取材当時のもの撮影 津久井珠美一 文 竹中式子■月村京都市下京区西木屋町四条下ル船頭町198075-351-530617:00~21:00(L.O.20:30)定休日 月曜。火曜不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2019.02.07
山中商事の代表取締役が通う店「すし処 満(まん)」
■山中隆輝(やまなか たかてる)さん 山中商事代表取締役1964年、父と叔父により山中商事を設立。総合不動産会社として京都を中心に分譲地の開発・販売、収益不動産等の運営管理、不動産売買、不動産投資マネジメントなど多岐に渡る事業を展開。1979年に入社、1998年に現職に就く。仕事仲間に美食家が多く、その影響で食事に対して興味を持つように。近ごろは毎朝シャワーの前にストレッチを20分、晩御飯は21時までに済ませ、23時には就寝という規則正しい生活を心がけ、美食を健康的に楽しんでいる 「お寿司を食べたい!」と思いたったら、駆け込む先は「すし処 満」 「ご主人の梅原章さんが、私の同業者のお友達だった関係で訪れたのがきっかけです。通いだして7~8年になるでしょうか。当初は御所南夷川にお店がありました。昭和の風情がある、カウンターのみの居心地のいい店内で、お寿司もよい味で。でも何より心をつかまれたのは、梅原さんが私と同じ阪神タイガースファンだということです(笑)」 梅原さんは寿司ひと筋約40年。京都の老舗寿司店で修業を積んで2003年に独立したのち、2016年に現在の店舗を構える麩屋町へ移転した。 「私はたいてい、昼食を終えたあとの午後3時ごろに"今日の夕ご飯は、どこで何を食べようかな"と考え、自分で予約の電話をかけます。日々仕事の状況に変化が起こるビジネスマンにとって、その日その時のひらめきに対応してくれるお店はとても重要なんです。移転されてからの満さんは席数が増え、当日でも予約が取りやすいという点も非常に重宝しています」 カウンター7席に4~6名のテーブル席、そして8~14名対応の個室と、バリエーションが豊かだ。 「本来、寿司屋は当日に予約されていらっしゃる方が多いものでした。うちはそうした、昔ながらのスタイルの店なんですよ(笑)」と梅原さんはカラカラと笑う。 「我が家は毎年、姉一家と私の家族の10人ほどで新年会を開きます。2019年は1月3日にこちらの個室に集まりました。寿司屋で大人数で集まれるというのはうれしいですね」 山中さんは満には2カ月に1回の頻度で、寿司が食べたくなると家族や気心の知れた友人と訪れる。コースもあるが、店のお薦めはアラカルト。長く通っているので、山中さん流の食べ進め方も決まっている。 「最初はお造りの盛り合わせ、次に焼き物、揚げ物ときて、最後に寿司を5~6貫。料理はなるべく少なめにして、寿司に備えています(笑)。梅原さんは見た感じ無骨な方なのに、握られる寿司はとても繊細なんです――なんていったら怒られるかな!?」 山中さんの愛する、その美しい握りを見てみると......。 イカは3枚におろして糸づくりに。ゴマと塩をふりかけて。 中トロはケープタウンの南マグロを使用。ケープタウン!?と驚くが「お寿司にしたらナンバーワンなんですよ。大間産を買うこともありますが、私のモットーは"その日その時に一番いい素材を選ぶ。ブランド力より美味しいものを"です」と梅原さんはきっぱりと言う。業者任せずにせず、毎日市場へ足を運び、魚と向き合っている梅原さんの目利きには説得力がある。 赤貝は大分産か山口産のものが、コリコリとしながら歯切れのいい食感と甘みが豊かだそう。今日は大分産。 「うなぎはぜひお薦めしたいひと品です。見た目の意外性に驚きますが、こうしていただくうなぎは厚くて旨みが深いんです」 山中さん絶賛のうなぎは、熱された器に入り湯気を上げて現れた。コンロで十分に熱した器の底に焼いたうなぎを皮目を下にして置く。そのうえに酢飯をのせて甘だれをかけ、長芋、ワサビと重ねてゆく。 「あったかい寿司もいいかと思って(笑)。独立してからつくった定番です。ひつまぶしのようにまぜて食べてください」(梅原さん) これら創意工夫に富んだ寿司の前に「控えめにする」と山中さんが言う一品料理も、素材の持つ本質的な味を見事に引き出したものばかりだ。 「冬になったら白子鍋は絶対です!くずでとろみのついた、ふぐの煮凝りを溶かしたスープ。そのなかに焼いたふぐの白子とネギが入っています。プリッとした白子は、口に入れるとなんともまろやか。あっさりしているので、軽く食べられます。小鍋で2~3人前ですが、ひとり占めしてしまうことも。結局、控えめにはできませんね(笑)」 「冬になると、コレクター並みに白子を用意しています(笑)」と言う梅原さんの手には、艶やかに輝き、手の平からあふれんばかりの大きな白子が。これら以外にも冷蔵庫にはたっぷりの白子が出番を待っている。「白子鍋」は小鍋8000~1万円(時価)。 釣キンキの塩焼きも、山中さんの好物。 「北海道網走で第21万泰丸、第36照福丸、第56万泰丸、第58勝喜丸の4隻の船から水揚げされたものだけを"釣キンキ"と呼びます。本州でもメンメやアカジなどと呼ばれる高級魚ですが、なかでも釣キンキは別格といえるほど貴重なもの。皮目はパリッ、身はぷりぷりに焼き上げてお出ししています」(梅原さん) 梅原さんの技は、おせち料理にも冴えわたる。おせち料理2段に瓶入りの黒豆、なます、このわた付きは平均5~6万円。写真の2019年版は、瓶物も入れて36種類もの料理が詰められている。 「我が家のおせちはここ3~4年は満さんです。大みそかのお昼に引き取りにうかがうのが恒例になっています。毎年内容も少しずつ変化しているので飽きないんですよ。お料理同士が隙間なくぎっちり詰まっているので、傾けても崩れません(笑)」 「ひとつのお店のなじみになって何度も足を運ぶことが好きなのですが、通い続けるうえで、ご主人との関係を大切にしています。不器用で愚直な料理人の方は、人間味があってとても私好みです。梅原さんもそういうタイプなんですよね。そして奥様の眞智子さんとのチームワークも素敵です。元看護士だったそうで、気配りにあふれたサービスをしてくださいます」 カウンター席向かって右側の梅原さんの前が山中さんの定位置だ。 「山中さんとは阪神タイガースについてぼやくだけでなく、社会についての難しい話もしてるんですよ(笑)」(梅原さん) 重圧を背負い日々忙しくすごす山中さんを癒やす「すし処 満」。その関係は、満月のように円満な形をしているのだった。 撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■ すし処 満京都市中京区白壁町436麩屋町通三条下ル075-223-3351夜17:30~23:00 ※昼12:00~14:00は予約のみ受付。土日のみ朝定食8:00~9:30あり定休日 月曜日、第3火曜日
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BLOGフォーリンデブはっしー
2019.02.05
京都・肉にく洋食の王道!②
インスタグラムのフォロワー17万人以上を誇るグルメエンターテイナーはっしーさんが、京都の「肉」料理を中心にグルメリポート!今回、洋食の名店として有名な『洋食おがた』さんで特製ハンバーグを実食。ハンバーグ好きにはたまらない、ここだけの美味しさの秘密を動画でお届けします。Movie前回のグルメリポートはこちら■ 洋食 おがた京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺町32-1075-223-2230公式Facebookはこちら
フォーリンデブはっしー
グルメエンターテイナー
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.02.04
「CINQ pain(サンク パン)」―「リストランテ ナカモト」仲本章宏さんが通う店
「リストランテ ナカモト」仲本章宏さんプロフィールシエナ「バゴガ」、フィレンツェのミシュラン3つ星店「エノテカ ピンキオーリ」と6年間のイタリア修業を経てニューヨークへ。2011年に実家のある木津川に「リストランテ ナカモト」をオープン。決してよい立地とはいえない場所にありながら、多くの美食家が、遠路はるばる足を運ぶ。30~40代の料理人との交流も深く、年間6回ほど主催する勉強会には京都・大阪・奈良・神戸から20~30名が集まり、関西の食文化の幅を広げている。おすすめコメント 「リストランテ ナカモト」をオープンしたばかりのころ、宮本正幸シェフが食事に来てくださいました。その時は名乗られなかったのでわからなかったのですが、後日、パンがどっさり届いたんですよ。宮本さんとしては「料理のお礼と名刺代わりに」というお気持ちだったようです。箱を開けた瞬間から小麦の香りが広がって、「これは普通のパンじゃないぞ」と思いました。そして口に入れた瞬間、そのことをさらに確信しました。「いったい何者なんだ!?」と調べたところ、ただものではないパン職人であることがわかったんです。 関西の料理人の間では、「CINQのパンをレストランで出せばミシュランの星が取れる」と囁かれています(笑)。実際、フレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ(モトイ)」「レーヌデプレ」、イタリアンレストラン「リストランテ キメラ」、スペイン料理「aca 1°(アカ)」など、確かな味を提供するお店がCINQのパンを愛用されています。 私は自分でパンを焼いているのですが、宮本さん主催の勉強会でパンづくりを学んだのがきっかけです。でも宮本さんのような、パンへの愛情にあふれ、美学がこめられたものはなかなか焼き上げることはできません。CINQのパンをほおばりながら、宮本さんのパンへの想いに心を馳せるのが至福のひと時です。CINQ pain(サンク パン)名神高速道路の大山崎ジャンクション近くという、クルマでなければなかなか行きにくい場所にあるブーランジェリーに、8時のオープンからぞくぞくと人が集まる。 「休日に、クルマに乗って家族と遠足気分でうかがいます。午後に行くとほぼ売り切れ。ですので、午前中に行くことをおすすめします。それでもお昼近くにはパンの種類もわずかなので、そんなときには残っている全種類を買っています」 さて今日は、どのパンを手に入れることができるだろう......?「ハード系のパンって、硬すぎて噛み切れないものが多いですよね。ところがこちらは外はガリッ、そこから中へサクッと歯が入るんです。そしてとっても香ばしい! CINQでハード系パンへの概念が変わってしまいました。これはどれだけ学んでも、同じようには決してつくれません」 「パン・コムニコ」1/4サイズ525円(税込み)は、奈良のイタリアンレストラン「コムニコ」の「数日かけて、お客さんみんなで分かち合えるように、大きいパンがほしい」というリクエストから誕生した。イタリアンに合うように、見た目はハードだが歯切れがいいという、ハードとソフトの中間を目指したという。まるごと(1950円)だと直径30センチほどあるビッグサイズだ。 「家ではチーズをのせて焼いたり、ジャムをつけたり、サンドウィッチにするなどして楽しんでいます」「バターの香りが立ち昇るクロワッサン(216円)も、残っていたら大喜び。これもまた、とても歯切れがいいんです。こんなに香ばしく焼くことはできませんよ。クロワッサンひとつのなかに詰まった宮本さんの哲学を感じながらいただいています」 クロワッサンは職人によって、食感や味に大きな差の出るパンだと宮本さんは言う。 「パンは本来自ら熟成するものです。ところがクロワッサンの場合は生地に折り込むバターの状態を保ち生地の発酵を抑えるために、急速冷凍と冷蔵を繰り返して生地を折り込んでいきます。つまり、パンがやろうとしていること(熟成しようすること)を人間の手で止めているんです。パン自体に委ねるという、ほかのパンのつくり方とは真逆なんですよ」(宮本さん)京都のフレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ」でも提供されているプティ(バゲットの小さいサイズ)を使った「パテサンド」356円。パテ好きの宮本さんは、パテも自家製だ。粗目の肉で食感がありながら、口の中でほろっとほぐれる心地よさ。パンと混然一体となった豊かな風味は、酒のつまみにもピッタリだ。 オリーブオイルを練りこんだ「シャバタ」は、フレンチ、イタリアン、スパニッシュなどのレストランでもよく提供されている、どんな料理にも合いやすいソフトパン。これに生ハム、セミドライトマトをはさんだ「生ハムサンド」334円は、モチッとしたパン生地にセミドライトマトのふわりとした半生食感と、生ハムの塩気が絶妙なバランスで存在している。 「シャバタはフォカッチャに似ている食感で、オリーブオイルの風味が顔を出します。子供が大好きで、もりもり食べます(笑)」 最初に勤めた店を経て、ハード系パンと焼き菓子をきちんと学びたい――そう考えていたころに、大阪随一と称されるブーランジェリー「ル・シュクレクール」と出合い、味に惚れ込んだ宮本さん。弟子入りを願って1カ月間毎日、店に通い続けたという。その熱意が認められ、オーナーシェフの岩永歩さんからマンツーマンでの指導を受けることになった。 修業時代に師から言われ続けてきたのは「パンの声を聞く」ということ。よいパンをつくりたいのなら、パンと向き合い、パンに気を遣う。パンは環境によって様子は変わる。汗をかくことだってある。それに気づき、美味しくなる手助けをしてあげることが大切だと学んだという。 「自分本位ではなく生地に合わせているから、宮本さんのパンはいつ行っても満足できるんですよね」 3年の修業を経て2010年に独立し、対面販売のみの2畳ほどの小さな店舗を長岡京市に構える。だが駅から遠いのに駐車場はなく、手狭にもなっていった。そこで駐車場があること、そしてイートインもやりたいという願いをかなえるため、2016年に大山崎のこの場所に移転した。 「洛西出身なので土地勘のある長岡京や大山崎がよかったんです。パン職人は日々、工房にこもって作業しているので、街中でなく四季を感じられる場所で仕事がしたくて。ここは目の前に桜の木もあるので理想的です」(宮本さん) 今でも対面販売のスタイルだが、カウンターの前には購入したパンを飲み物とともに楽しめるイートインスペースが広がる。 「北欧っぽさも感じる、柔らかな日差しにほっこりする店内です。家具は京都のオーダー家具店『フィンガーマークス』製。宮本さんの主催されたBBQ会にフィンガーマークスさんも参加されていて、そのときにご縁をいただき『リストランテ ナカモト』でもテーブルと椅子をお願いしました。宮本さんは直接的に"この人は〇〇さん"と紹介することはないのですが、こうした会でさりげなく、人と人を引き合わせてくれるんです」 「こちらに移られてから、ビールやワイン、ジュースなども販売されるようになりました。どれも宮本さんが厳選されたことが伝わる品ぞろえです。ワインはすべて国産。宮本さん自らワイナリーに足を運んで選んでいらっしゃいます。国産だと土地の名前がすっと頭に入ってきて記憶しやすい。ナチュラルなものが多いことを知ってほしい。そして何より、自分自身の目で確かめたものを置きたい――そういう姿勢も宮本さんらしいな、と思います」 「宇和島みかんジュース」918円と「青森産りんごストレートジュース」237円。みかんジュースは、オープン祝いに旧知のシェフが贈ってくれて、その味に心打たれたそう。聞くと、そのシェフのお兄さんがつくっているものだった。イートインでもグラスで味わえる(345円)。 鹿児島県鹿屋市のふくどめ小牧場の肉加工品も販売している。父と兄が牧場で飼育した豚を、ドイツで7年間ハム・ソーセージ製造を学びマイスターの資格を持つ弟が加工するという、完全家内制だ。 「品数をたくさん置くのではなく、つくった人たちの想いが詰まっているものをおすすめしたいんです。こうしたものの販売を始めたのも、"CINQに来ればパンもあるし、食材も飲み物もある。食事が完結できる場所だな"と思っていただきたかったから。ご家族の食卓が豊かになるお手伝いをしたかったんです。仲本さんはご家族との時間をとても大切にされています。そんな方の休日の大切な家族団らんに、CINQを選んでくださるのがとてもうれしいです」(宮本さん) 「美味しくなりたい」というパンの願いがたわわに実ったCINQへ、次の休日もまた仲本さんはご家族とともにクルマを走らせるのだ。※価格は取材当時のもの撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ CINQ pain京都府乙訓郡大山崎町字下植野小字宮脇114-9075-874-41598:00~18:00(完売次第終了)定休日 月曜、火曜(月曜が祝日の場合、水曜休み)http://www.cinqpain.com/
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.02.04
『嵯峨嘉(さがよし)』の「しそ餅"梅"」
推薦人:廣岡太郎さん(星のや京都 総支配人) 「京都に越してきてほどなく、嵯峨野に人気の和菓子店があると耳にしてうかがったのが嵯峨嘉さんです。そして嵯峨嘉さんが生みだした名物"しそ餅"と出合い、それ以来、虜(とりこ)になっています」 廣岡さんは2007年に星野リゾートに入社。星のや軽井沢や星野リゾートアルツ磐梯などを経て、2010年に京都へとやってきた。生粋のホテルマンである廣岡さんは、ビジネスでもプライベートでも「食」がとても身近にある。宿で提供する食事への意識・気配りはもちろん、なんと家庭では毎日の家族の朝食づくりを担当しているとか。ごはんはガスで炊き、煮干し出汁のお味噌汁、焼き魚、卵焼き、自家製の糠漬けと丁寧に食事を用意する。お酒の〆にはパスタも外せない。アーリオオーリオ系から和風仕立て、時には2キロほども牛ひき肉を仕入れてラグーソースを煮込むことも。これほど「食」に対する探究心と想いが強い廣岡さんの心を揺さぶったしそ餅に、がぜん興味がわいてくる。 「赤紫蘇という京都らしさを感じさせる食材を用いて、小ぶりでコロリと可愛いらしく仕上げていらっしゃいます。お皿に移すと、紫蘇の香りがふわっと鼻を通り抜け、なんとも気持ちがよくて」 「さっぱりとしたこしあんを柔らかな道明寺餅(関西風の、もち米の食感が残る桜餅)で包み、梅酢のきいた紫蘇の葉でくるんでいます。ひと口目は紫蘇の酸味と塩味が立ち、そこへこしあんの優しい甘みがからんでゆく。なんとも絶妙な組み合わせに酔いしれて、時には2つ食べることもあります。ほうじ茶や煎茶でいただくことが多いですね」 正式名は、しそ餅「梅」。1個110円(税別)。 「一人でホッとひと息つきたいとき、家族団らん、会社の友人とお酒を楽しんだあとのデザートにと、あらゆる場面にしそ餅があります」 「しそ餅の味ももちろんですが、地元の小さな和菓子屋さんでつくられ続けているという背景も素敵です。京都とは嵯峨嘉さんのように、地元のおまん屋さんが根強く残っている土地なんですね。そのことを、京都に住んで実感しました」 嵯峨嘉は1970年創業。しそ餅が店を導いていったと、初代の奥さんである島田輝子さんは言う。 「夫である初代の嘉勝は富山県の生まれです。小さいころから甘いものが大好きで。近所の方のご親戚が京都で和菓子の卸を営んでいたご縁で、京都で和菓子づくりの修業をはじめました。修業を終えた後は店舗を持たず、自宅で大福やおはぎをつくってご近所にお売りするという形をしばらく続けていたんです。ある日夫がデパートを歩いていたときに、紫蘇で巻かれたお寿司を見かけたそうです。"これは和菓子にも応用できるのでは......?"とひらめいたのが、しそ餅の始まりです。これがご近所でも大変ご好評いただき、口コミで広がっていきました」(輝子さん) 1973年に、丸太町通り沿いのこの場所に店舗を構えた。 「お店ができた後すぐに、近くに小学校が建ちまして。そちらの校長先生がしそ餅を気に入って、手土産としてご挨拶回りの折にいろいろなところへお持ちくださったんです。そうしてさらに多くの方に知っていただくことができました」(輝子さん) その校長が重宝したように、しそ餅は贈答用としても威力を発揮してくれる。廣岡さんにとっても、手土産のキラーカードになっているとか。 「京都市内でのご挨拶や商談にうかがうときに購入させていただいています。みなさまとても喜んでくださるんですよ」(廣岡さん) 開店当初から贈答用として箱や上紙を用意されていたしそ餅。上紙のデザインに悩んでいた初代が「しそ餅なら紫蘇だろう」と、手の平以上のサイズの紫蘇を探し出し、そこへ墨を塗り、和紙に判をした。上紙に印刷されている紫蘇が原寸サイズだというから、相当の大きさだ。 しそ餅以外に、「フルーツ大福」も味わい深いと廣岡さんは言う。 「11月下旬~5月初旬はいちご大福、8月上旬~9月中旬はぶどう大福、9月~11月上旬は栗大福がお店に並びます。なかでも栗大福を毎年楽しみにしています。愛媛の栗を使って、ほくほくとした食感と甘さ控えめのあんの絶妙な組み合わせ。"栗大福"と書かれた小さな幟(のぼり)がショーケースのうえに置かれると、秋の到来を感じます」(廣岡さん) 写真はいちご大福。小180円、中220円、大260円。 「ご縁があって、星のや京都でも嵯峨嘉さんに和菓子についてアドバイスをいただくようになりました。また四季折々のお菓子も納品していただいています。真摯にご商売に取り組まれている姿勢に、ビジネスパーソンとして敬意を抱いております」(廣岡さん) 納品は輝子さんがすべて行っている。 「星のやさんへ納品にうかがうために船着き場で、お菓子の箱を抱えて船を待っていたときのことです。到着した船から降りられた、ご宿泊を終えたお客様が私の持っている箱をご覧になられて、和菓子屋だと気づかれたんでしょうね。"お菓子屋さんですよね? 昨日いただいて、とっても美味しかったわ"とおっしゃってくださったんです。なんともうれしかったですね」(輝子さん) 今は息子の嘉寛さん(写真中央)が2代目として嵯峨嘉の味を継承し、輝子さん(写真右)と妻の麻衣さん(写真左)が販売を担う。初代・嘉勝さんもしそ餅づくりを手伝うこともある。 「商品は新しくつくることより、育てて続けていくことのほうが難しいとつくづく思います。ブームの移り変わりの激しい昨今、ブームが去ればつくることを辞めてしまう商品もたいへん多いものです。でもしそ餅は50年近く残ることができました。初代が生みだしたしそ餅の持つ力を日々感じています」(嘉寛さん) しそ餅の評判は今や地元の嵯峨野だけでなく、京都市内をも飛び出し日本中に広まった。太秦での撮影のたびに訪れる女優もいるとか。多くの人に愛されるしそ餅、そしておまん屋さんを家族が一丸となって守り続けている。嘉寛さんの小学3年生の息子さんは「僕が3代目になる!」とはりきっているそうだ。 最後に廣岡さんに聞いてみよう。あなたにとってしそ餅とは......? 「私は仕事の合間に頭が疲れたら、スイーツを投入します。手で食べられるものが多いから和菓子派――ということもありますが、和菓子のほうが、甘いものを食べている罪悪感が少ない気がするからです(笑)。嵯峨嘉さんのあんこは甘すぎず、すっと口に溶けていき、とても軽やかで、よりいっそう罪悪感を打ち消してくれます。私の心を落ち着ける大事な栄養、それがしそ餅なんです」(廣岡さん) 撮影 エディオオムラ 文 竹中式子■ 嵯峨嘉(さがよし)京都市右京区嵯峨広沢御所の内町35-15075-872-5218定休日/水曜
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BLOG京都グルメタクシー
2019.02.04
おいしい京都案内 | 懐石料理「観山」
こんにちは。京都グルメタクシードライバーの岩間孝志です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。私の車は正統派クラウンセダンというハイヤー車です。4人までご乗車できます。乗り降りしやすい上に、セダンの中では窓が大きいので、京都の風景がしっかりご覧いただけますよ。皆さんおそろいですか!本日も京都駅から出発いたします!京都駅をでて烏丸通りを北上すると左手に東本願寺があります。その東側、東本願寺の飛地境内地にあるのが渉成園で、一般の方も参観できます。庭園内には、「渉成園十三景」と称される樹石と建物の風雅を堪能でき、京都観光の穴場的存在でもあります。少々歩きますので、「次に移動する前に、美味しい珈琲を!」とお客さまがリクエストされることもあります。そのときには渉成園の北側にある『Walden Woods Kyoto』をご紹介しております。1800年代に活躍したアメリカの思想家ヘンリー・D・ソローが大自然との共存の中に安らぎを求め暮らしたのがウォールデン湖畔。そのときの時給自足の生活を記録した『ウォールデン 森の生活』が代表著作で、店名の由来です。森の様な澄んだ空気感や思い思いに過ごせる空間をカフェとして実現したいという思いをこめてつけられたそうです。とにかく白くおおらかな場所。そしてテーブルをあえて置かない、お客さんが座っていくと自然に輪になるレイアウトが新鮮です。 クリエーティブディレクターの嶋村さん、飲食店プロデューサーの西村さん、そして元サンガFC・ユース代表(U-18)のマネージャーの梅田さんの3人がメインとなり、香り高い珈琲とチャイ、そして焼き菓子も提供されています。中央に置かれた焙煎機(1966年製)は蒸気機関車のようで、芸術的です。番組「京都知新」のコンセプトにもぴったりあいますでしょうか。古き良き時代のアイテムが新しいデザインの中でも、違和感なく活躍しています。新しい挑戦を続けている人たちや、訪れるゲストをじっとここで見守っているかのように見えますね。トレードマーク入り ビスケット バターの風味がしっかりしている、滋賀県のクッキー専門店『ノチェロ』さんのビスケット。こちらにはいろいろお菓子がありますが、複数の菓子職人さんから取り寄せているそうです。チャイも定評あります。スパイスの抽出がうまくいっている証拠が、作り出す工程で生まれる香りに表れています。スタッフの皆さんが世界をまわって探してきた、選りすぐりのスパイス。たとえばカルダモン、クローブ、シナモン、ジンジャー、ブラックペッパー、アッサムなどを注文が入ってから、わせて煮込むのですこし時間がかかりますが、待つだけのことはあります。この界隈には先日開拓した公園奥のチキンカレーが美味しい『そのうち cafe SNC』や、京都のみならず全国の銘酒を販売している『銘酒館タキモト』、おはぎとゆで小豆の裏メニュー的瓶詰め「あんてぃーく」の『今西軒』など、タレント揃い。道すがらご紹介しているのですが、お客様から「どこも寄りたくなるので言わないで!(笑)」と......そのぐらいこの界隈はグルメスポットが多いのでご紹介する私も時間の配分が難しくて...うれしい悲鳴をあげております♪車は今回の最終お送り地に進むため、烏丸通りから五条通を越えて高辻通りを右折、四条の手前の佛光寺に到着しました。京都府下京区にある真宗佛光寺派の総本山です。参拝者も多く繁華街の中にあるのにゆったり時間が過ごせる休憩スポットでもあります。見事な御朱印がいだだける場所としても有名です。その境内の中に『D&DEPARTMENT KYOTO』という「ロングライフデザイン」をテーマにした京都の工芸品や人気の生活道具を紹介している場所や、ランチも楽しめる『d京都食堂』があります。佛光寺は、お寺の新しいスタイルを予感させるスポットではないでしょうか。 さて今回の終着点はその佛光寺のちょうど真南の『観山』です。店主の八木一真さんは祇園の骨董店がご実家で、『京都吉兆』をはじめ、グランヴィアホテルの『吉兆』、『柊家旅館』でも修業された経験豊富な料理長で、すべてを委ねたい気持ちになる素敵な存在感をお持ちの方です。本日は秋に伺ったときの15000円のメニューをご紹介しましょう。先付 胡麻豆腐 焼松茸 車海老 しかく豆 雲丹 おいしいもの、この季節の味を織り交ぜてというつかみ。個々に主張する風味が見事です。秋鮭のいくら くるみしょうゆ 八木さんは「当店は飲み物としてお出ししています」と微笑みながら...たしかにゴクッと飲めます。この器や箸、匙の配置なのですが、しっくりくるといいますか、空白も理想的だと私は思います。造り 明石の天然鯛 松皮造り和歌山もんご烏賊 あぶり高知県もどり鰹 たたき 藁燻しさよりの酢のもの醤油と玉ねぎポン酢 かつお(お好みで) 西日本各地の産物。海を感じる抜群の鮮度。玉葱ぽん酢と一緒にいただきます。さよりの酢の物天然鯛鰹 ポーションごとの切り方、大きさが見事です。女性が一口でいただける大きさです。これまで出た器は江戸時代のものもあり、古染付、唐津、信楽、立杭焼、織部など、バリエーション豊かです。土瓶蒸し 松茸 はも 銀杏 車エビ 水菜 この土瓶は修業先から独立のお祝いに譲ってもらったものだそうです。私もフランスで修業したお店から器などを記念にもらいましたが、今もとっておきの食事会のときは飾ったり料理を盛ったりしていますが、器をゆずるというのは、人と人のつながりを感じられるいい話だと思います。だしは濃くもなく薄くもなくいい塩梅で、しかも食べ終わるまで同じ温度に感じたのは、土瓶の性能もさることながら、美味しいから早く食べてしまったからでしょうね。笑八寸~実りの秋をイメージした稲穂飾り~菊の葉のこづけ 秋刀魚のうま煮 すだちおろし 紫蘇の実ホタテの山椒煮 【琵琶型】柿なます焼鯖寿司海老のふたみ蒸し伏見の新小芋田楽かますの一夜干し すだち(お好み) 【東屋】 ちなみに大きな籠は花水木の枝で、八木さん自作の品。秋のイメージそのもので、風情をしっかり味わうことができますね。実は2018年の5月にも伺っていますのでそのときの八寸をご紹介いたします。(5月に伺った時の八寸 8000円のランチ)八寸 ~新緑の彩~淡路天然鯛 鰹たたき舟形の器 → いい蛸の梅煮ふきの葉の炊いたもの伏見のあかほうれんそう東屋の器→マスの香煎揚げ鯖のちまき寿司 季節感が緑色にでていますね。まさに新緑の彩。このときはランチの8000円のコースなので、今回のコースとは単価が異なりますが、それでもこのレベルはすごい。四季をしっかり表現されているので、季節を変えて食べ比べるのも面白いですね。鱧のやきしも 鮑 伏見の万願寺 赤と青 それぞれの火入れの状態が良く、彩りも食欲そそります。鱧は梅肉でいただくのですが...梅肉+わさび 鱧を梅肉だれで食べるのは定番ですが、梅肉にわさびを加えるというオリジナル。酸っぱさと辛さがマッチしていてよく考えられていると思いました。秋田 しらかみ桜牛(和牛) カツ伏見の赤水菜 大原べにくるり(赤大根)長野県 ヒラタケ黄身ソース 終盤にカツがでてきます。カリカリの衣に肉のうまみを十分含んだ和牛。京都の野菜を盛り合わせた一皿。たくさん食べる方にもこの展開はうれしいのではないでしょうか。 黄身ソースも非常においしかったです。食べ終わってみると、料理をつけて食べる、「玉葱ぽん酢」、「梅肉わさび」、「黄身ソース」がとても印象的でした。このあたりに、八木さんの独創性を強く感じます。久御山 秋茄子若狭ぐじ丹後の七夕豆松茸 菊花あん明治時代のお椀だそうです。非常に料理が映えますね。滑らかな口当たりですっと溶けて行きます。それぞれの具材も丁寧に火入れしてあります。揚げ物のあとのこの滑らかな料理は緩急がついてアクセントになります。鱧松茸御飯通称「はもまつ」ですね。蓋をあけたときに、湯気と香りが一斉に迫ってきます。〆の料理としてありがたい組み合わせです。ご飯、一粒一粒が感じられる食感。そして染みこんだ鱧と松の味と香り。食べた後も余韻が残ります。汁物 八丁味噌 果物 アーモンドブランマンジェ やさしく美味しく、どの野菜も喜んでいる 初訪問のブログには副題でそうかかせてもらいました。八木さんの料理で一皿目から感じたのは、京料理のど真ん中をまっすぐに走るような感覚。「どの野菜も喜んでいる」と感じるメニューづくり。とにかく、味がわかりやすく余分な枝葉がありません。雑味なしうま味あり。派手な演出に頼ることもなく黙々と作業をなさっています。 でも、お客の話はちゃんと聞いている。 調理法がわからないと同席者と話していると、カウンターの向こうからすっと教えてくださいます。聞き耳というより善意による応対。八木さんの温かいお人柄も御馳走です。これは5月の筍ご飯の時の八木さん。カウンターでお客さんとの楽しいひととき。 女将さんの存在、そして2つの方針。 女将さんのサポートも秀逸でお話しが面白く、要所要所で会話に参加してくださいます。料理、サービス、しつらえ。日本料理店ならではの総合力を感じることができます。 お店の3つの方針にもなるほどと思いました。 「一斉スタートはしない」 コース料理を出すのなら、一斉スタートの方が何かと利点がありそうですが、お客さまが来られる時間がばらばらだと、すべてにおいて高度の段取りが必要になります。あえて難しいことに挑戦したいという気持ちがおありのようでした。 「カウンター席のみにして、満席にしない」テーブル席がありません。カウンター席だけですがゆったりしています。一斉スタートをしないので、カバー仕切れないほどお客様を入れない。1人一人のお客さんとじっくり向き合う。お客さんの体調や考えていることまで知る。そこを大切になさっているのがはっきりわかりました。かといって気楽なんですよね。初対面でも大切に接客してもらえるという有難さ。しばらくすると、八木さんに会いたい...そんな気持ちがこみ上げてきます。 本日の京都グルメタクシーはいかがだったでしょうか!寺院、カフェ、雑貨店、そして日本料理店といろいろご案内いたしました。実のところ今回のコースは京都駅から歩いて行けるコースでもありまして、私の車は必要ないかも...笑。「グルメタクシー疑似体験」でウオーキングがてら立ち寄ってみてください。京都駅から四条河原町までの界隈、実はまだまだ「美味しい京都」がたくさんございます。皆さんも見つけてみてくださいね!それではまた次回!
岩間孝志
京都グルメタクシー
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