BLOG美人&イケメンスイーツ2019.02.04

『嵯峨嘉(さがよし)』の「しそ餅"梅"」

推薦人:廣岡太郎さん(星のや京都 総支配人)

「京都に越してきてほどなく、嵯峨野に人気の和菓子店があると耳にしてうかがったのが嵯峨嘉さんです。そして嵯峨嘉さんが生みだした名物"しそ餅"と出合い、それ以来、虜(とりこ)になっています」

廣岡さんは2007年に星野リゾートに入社。星のや軽井沢や星野リゾートアルツ磐梯などを経て、2010年に京都へとやってきた。

生粋のホテルマンである廣岡さんは、ビジネスでもプライベートでも「食」がとても身近にある。宿で提供する食事への意識・気配りはもちろん、なんと家庭では毎日の家族の朝食づくりを担当しているとか。ごはんはガスで炊き、煮干し出汁のお味噌汁、焼き魚、卵焼き、自家製の糠漬けと丁寧に食事を用意する。お酒の〆にはパスタも外せない。アーリオオーリオ系から和風仕立て、時には2キロほども牛ひき肉を仕入れてラグーソースを煮込むことも。

これほど「食」に対する探究心と想いが強い廣岡さんの心を揺さぶったしそ餅に、がぜん興味がわいてくる。

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「赤紫蘇という京都らしさを感じさせる食材を用いて、小ぶりでコロリと可愛いらしく仕上げていらっしゃいます。お皿に移すと、紫蘇の香りがふわっと鼻を通り抜け、なんとも気持ちがよくて」

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「さっぱりとしたこしあんを柔らかな道明寺餅(関西風の、もち米の食感が残る桜餅)で包み、梅酢のきいた紫蘇の葉でくるんでいます。ひと口目は紫蘇の酸味と塩味が立ち、そこへこしあんの優しい甘みがからんでゆく。なんとも絶妙な組み合わせに酔いしれて、時には2つ食べることもあります。ほうじ茶や煎茶でいただくことが多いですね」

正式名は、しそ餅「梅」。1110円(税別)。

「一人でホッとひと息つきたいとき、家族団らん、会社の友人とお酒を楽しんだあとのデザートにと、あらゆる場面にしそ餅があります」

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「しそ餅の味ももちろんですが、地元の小さな和菓子屋さんでつくられ続けているという背景も素敵です。京都とは嵯峨嘉さんのように、地元のおまん屋さんが根強く残っている土地なんですね。そのことを、京都に住んで実感しました」

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嵯峨嘉は1970年創業。しそ餅が店を導いていったと、初代の奥さんである島田輝子さんは言う。

「夫である初代の嘉勝は富山県の生まれです。小さいころから甘いものが大好きで。近所の方のご親戚が京都で和菓子の卸を営んでいたご縁で、京都で和菓子づくりの修業をはじめました。修業を終えた後は店舗を持たず、自宅で大福やおはぎをつくってご近所にお売りするという形をしばらく続けていたんです。ある日夫がデパートを歩いていたときに、紫蘇で巻かれたお寿司を見かけたそうです。"これは和菓子にも応用できるのでは......?"とひらめいたのが、しそ餅の始まりです。これがご近所でも大変ご好評いただき、口コミで広がっていきました」(輝子さん)

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1973年に、丸太町通り沿いのこの場所に店舗を構えた。

「お店ができた後すぐに、近くに小学校が建ちまして。そちらの校長先生がしそ餅を気に入って、手土産としてご挨拶回りの折にいろいろなところへお持ちくださったんです。そうしてさらに多くの方に知っていただくことができました」(輝子さん)

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その校長が重宝したように、しそ餅は贈答用としても威力を発揮してくれる。廣岡さんにとっても、手土産のキラーカードになっているとか。

「京都市内でのご挨拶や商談にうかがうときに購入させていただいています。みなさまとても喜んでくださるんですよ」(廣岡さん)

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開店当初から贈答用として箱や上紙を用意されていたしそ餅。上紙のデザインに悩んでいた初代が「しそ餅なら紫蘇だろう」と、手の平以上のサイズの紫蘇を探し出し、そこへ墨を塗り、和紙に判をした。上紙に印刷されている紫蘇が原寸サイズだというから、相当の大きさだ。

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しそ餅以外に、「フルーツ大福」も味わい深いと廣岡さんは言う。

11月下旬~5月初旬はいちご大福、8月上旬~9月中旬はぶどう大福、9月~11月上旬は栗大福がお店に並びます。なかでも栗大福を毎年楽しみにしています。愛媛の栗を使って、ほくほくとした食感と甘さ控えめのあんの絶妙な組み合わせ。"栗大福"と書かれた小さな幟(のぼり)がショーケースのうえに置かれると、秋の到来を感じます」(廣岡さん)

写真はいちご大福。小180円、中220円、大260円。

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「ご縁があって、星のや京都でも嵯峨嘉さんに和菓子についてアドバイスをいただくようになりました。また四季折々のお菓子も納品していただいています。真摯にご商売に取り組まれている姿勢に、ビジネスパーソンとして敬意を抱いております」(廣岡さん)

納品は輝子さんがすべて行っている。

「星のやさんへ納品にうかがうために船着き場で、お菓子の箱を抱えて船を待っていたときのことです。到着した船から降りられた、ご宿泊を終えたお客様が私の持っている箱をご覧になられて、和菓子屋だと気づかれたんでしょうね。"お菓子屋さんですよね? 昨日いただいて、とっても美味しかったわ"とおっしゃってくださったんです。なんともうれしかったですね」(輝子さん)

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今は息子の嘉寛さん(写真中央)が2代目として嵯峨嘉の味を継承し、輝子さん(写真右)と妻の麻衣さん(写真左)が販売を担う。初代・嘉勝さんもしそ餅づくりを手伝うこともある。

「商品は新しくつくることより、育てて続けていくことのほうが難しいとつくづく思います。ブームの移り変わりの激しい昨今、ブームが去ればつくることを辞めてしまう商品もたいへん多いものです。でもしそ餅は50年近く残ることができました。初代が生みだしたしそ餅の持つ力を日々感じています」(嘉寛さん)

しそ餅の評判は今や地元の嵯峨野だけでなく、京都市内をも飛び出し日本中に広まった。太秦での撮影のたびに訪れる女優もいるとか。多くの人に愛されるしそ餅、そしておまん屋さんを家族が一丸となって守り続けている。嘉寛さんの小学3年生の息子さんは「僕が3代目になる!」とはりきっているそうだ。

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最後に廣岡さんに聞いてみよう。あなたにとってしそ餅とは......?

「私は仕事の合間に頭が疲れたら、スイーツを投入します。手で食べられるものが多いから和菓子派――ということもありますが、和菓子のほうが、甘いものを食べている罪悪感が少ない気がするからです(笑)。嵯峨嘉さんのあんこは甘すぎず、すっと口に溶けていき、とても軽やかで、よりいっそう罪悪感を打ち消してくれます。私の心を落ち着ける大事な栄養、それがしそ餅なんです」(廣岡さん)

撮影 エディオオムラ 文 竹中式子

■ 嵯峨嘉(さがよし)

京都市右京区嵯峨広沢御所の内町35-15
075-872-5218
定休日/水曜