食知新ブログ
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.01.11
「韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN」―「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんが通う店
「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さん プロフィール25歳で料理人を志し、京都のスペイン料理の老舗「ラ・マーサ」で働きはじめる。4号店「フイゴ」の店長時代に研修で訪れたスペインでモダンスパニッシュと出合い、目指すべき方向性が定まる。その後、スペインにわたり修業を積み、帰国後の2014年に「フイゴ」の跡地に「acá 1°」をオープン。2017年にミシュランの一つ星を獲得、おまかせコースのみの予約の取れない一軒である。 おすすめコメント私は大半の時間を料理人として過ごしているので、食事に行っても勉強モードになっています。「この店のつくりは?」「素材の選び方は?」「料理人のポリシーは?」......などなど、いろいろなことが気になってしまうんです。ですから、まったくのプライベート気分でうかがう店というのは、実は少ないんです。 芝蘭さんは、私がオフモードでいられる貴重なお店です。韓国料理とはジャンルも違うので、料理人モードから思う存分解放されています。休日の朝に家族会議で「今日は芝蘭に行こう!」と決めて当日に予約を取ることが多いですね。7歳の息子も最近は「芝蘭に行きたい」と自らリクエストしてきます(笑)。そしてイベントに出店したあとのスタッフとの打ち上げでも重宝しています。紫野という、街中から離れている立地も、落ち着いていていいんですよ。 「韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN」「芝蘭は韓国の家庭料理と焼肉が中心のお店です。京都の街中にもたくさん焼肉屋がありますが、私にはどうも味が濃く重い。でもこちらは料理も肉も味付けのバランスがよく、食べ疲れることがありません。席に着いたらまずは一品料理を一気に注文します。テーブルの上が料理の皿でいっぱいになるのを見るのが嬉しいんですよね」では、東さんの心をワクワクさせる韓国家庭料理をご紹介しよう。東さんが必ず注文するのが「パジョン」(ミックス税別1200円)。一般的にはチヂミと呼ばれている。「パ」はねぎのこと。「ジョン」は漢字の「煎」で、焼くという意味。つまり、ねぎのおやきである。ミックスにはイカ、海老、ホタテが入り、冬には牡蠣が追加される。餅粉を入れて焼き上げ、表面はカリッ、中身はトロッとした生地が甘みのあるねぎにからまり、風味を引き立てる。海鮮も肉厚で、食べ応え満点だ。ピリ辛の自家製タレ、ヤンニョンジャンも食欲を誘う。「息子の大好物です」と言うのが「とうもろこしのジョン」(500円)。韓国・江原道の郷土料理で、最初はグランドメニューではなかったそうだ。周年記念のサービス品として3日間だけ出したところ好評を博し、今に至る。「とうもろこしがほんのり甘く、まったく辛くないので、好き嫌いがある子供でもパクパク食べます。米粉中心の生地はぽってりとしていて、同じ"ジョン"でもパジョンとは違う食感を楽しめます」「冬ならこれですよ!」と東さんに冬の到来を待ち遠しくさせているのが、10~3月限定の「牡蠣のキムチ」(700円)。百済時代に生まれたスタイルのキムチは、海辺発祥らしく海鮮が入っている。発酵させないので酸味はなく、辛みが立っているのが特徴だ。「牡蠣のキムチ」は新鮮な生牡蠣を用い、漬けたその日から食べることができる。 「牡蠣は大ぶりでふっくらとしています。それがキムチのタレと絡みあうと、ほかの牡蠣料理では味わえない独特の旨みが口の中で弾けます」 芝蘭の女将である石敬戌(セキ・ケイイ)さんの実家は、40年以上続く焼き肉屋だった。20代のころに韓国で料理を学び、帰国後の1992年に自ら芝蘭をオープンした。当時の京都では、まだ韓国家庭料理を出す店は少なかったという。 「日本では"韓国料理=辛い"というイメージがありますが、本来は塩分控えめで、素材の味をとても大切にしています。辛い料理と辛くない料理も、はっきりと分かれています。これは私自身、韓国で料理を学んで驚いたことです。私はその伝統的な味を大切に、今風にアレンジせずに提供することを心がけています」(石さん) 一品料理を楽しんでいると、いよいよ肉がやってくる。 「まずは『上タン塩焼き』(1200円)です。ちょっと厚めに切ってもらうようにお願いしています」 肉は京都牛のメスを基本としている。 「昔はA5、A4なんてランク付けもなく、輸入の牛肉もありませんでした。焼肉屋は肉屋からいかにしていい肉を回してもらうかに全力を尽くしたものです。今は精肉の環境も随分変わりました。ホルモンも人気がどんどん上がってますよね」(石さん) 右から時計回りに「ヤキセンマイ」(800円)、「アギ」(700円)、「ウルテ」(700円)。アギやウルテは、食肉業者が手作業で細かく切れ目を入れてくれる。機械で切るのが主流になっているが、手作業のほうが断然味が深く、やわらかい。 手前より「カルビ」(1200円)、「ロース」(1500円)。 「厚みもあって"肉を食べた!"という満足感があるのに、脂はまったくくどくなく品のある甘みを感じるんです。部位によってベースのタレに手を加え味を変えているので、飽きることがありません。さっぱりと食べ終えることができます」 そして〆にはかならず「ピビン冷麺」(1000円)。「ピビン」はまぜるという意味で、唐辛子のきいた甘辛タレを、そば粉とじゃがいものでんぷんのもちもち麺にしっかりとからめる冷麺だ。 「本場韓国よりもタレは少し辛めにしているそうですが、辛い物好きの私と妻は辛さ増しでさらに倍かけてもらいます(笑)。これで2時間ほどの食事が終わります。芝蘭さんでは本当にたくさん食べますよ。デザートに『シルトッ』という小豆をまぶしたお餅がサービスで出るので、子供は大喜びです。でも大人たちはお腹がいっぱいで、いつもありつけません(笑)」 2階までを使ったかなり広い店内のなかで、1階のテーブル席が東さんのお気に入りだ。 「お店の方のキビキビとした気持ちのいい動きを見ることもでき、活気を感じられるので好きですね」 2階には掘りごたつとテーブルの個室もある。大人数の宴会にも対応できる。 そもそも東さんが芝蘭へ通うようになったのは、石さんの甥である石晶文(セキ・チョンムン)さんと、かつてスペイン料理店で一緒に働いていたことがきっかけだ。 「晶文さんはグループ内の別店舗に4年いて、同じ店で働いたのは1年弱。まじめで、礼儀正しくて、とにかく頑張り屋でした。年齢は私より10歳ほど下ですが、ひじょうに頼りがいがありましたね。私が芝蘭に行くときは、彼はもしかして緊張しているかもしれません(笑)」 そんな東さんの言葉を聞いた晶文さんは、照れながら言う。 「東さんとは上司と部下の関係で、私にとっては雲の上の存在です。厳しさのなかに、"これをやる"という強い信念を持っていらっしゃると感じていました。一緒の厨房にいたころには、はっきり聞いたわけではありませんが、もうスペインへ修業に行かれることを考えていらっしゃったんだと思います。 私が芝蘭に勤め始めた5年前に、ふらりとご家族と一緒にいらっしゃいました。"東"のお名前で予約は入っていましたが、まさかあの東さんだとは夢にも思いません。お店で顔を合わせてやっと知ったんですから。そのときの驚きは並じゃありませんし、とっても緊張しました(笑)」(晶文さん) 叔母である石敬戌さんは、オープン以来ずっと一人で厨房に立ち、身内であろうと誰も調理に手を出すことを認めなかった。しかし20年近くたち「そろそろこの味を伝えたい......」と思い始めたころに、「ぜひやりたい!」と手を挙げたのが晶文さんだった。 「祖父母の焼肉屋、そして叔母の店と、小さいころからこの味で育ってきましたから。一番好きな味ですし、守っていきたいと思ったんです」(晶文さん) 東さんは芝蘭での初めての食事を終えた帰り際に「美味しかったわ。また来るな」と晶文さんに伝えたそうだ。そしてそれは社交辞令ではなく、以来ずっと通い続けている。 「月に1~2回は行っています。疲れているときは、肉を食べたいんですよね。芝蘭にはいつも疲れを癒してもらっています。家の台所、といってもいいほど私の生活に根付いているんです」 撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ 韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN京都市北区紫野下築山町54-3075-432-229817:00~23:00(L.O.22:30) 日曜・祝日17:00~22:30(L.O.22:00)定休日 月曜日※祝日の場合は営業http://www.chi-ran.co.jp/index.html
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.01.07
「聖護院かぶ」
冬の京野菜「聖護院かぶ」の収穫最盛期は11月~12月。冷え込めば冷え込むほどその実は甘味を増す。真っ白できめ細かな肌は美しく、やわらかで上品な味わい。「かぶら蒸し」や「ふろふき」など冬の京料理に欠かせない食材だ。家庭では、鯛のあらやブリとの煮物のほか、グラタンやポトフなど洋食にも使われる。が、私は凝った料理はできないから(笑)、サクサクと一口大に切って、オリーブオイルと塩だけで瑞々しい甘味を堪能する。 冬の漬物の代表格「千枚漬」もまた、京都人にとってはご馳走のひとつだ。酸味のあるものや甘めのものなど、店によって味は違うが、京都人にはそれぞれ贔屓の「千枚漬」があるそうだ。代々、ひとつの店のものを求める家もあれば、あれこれ試して好みの味にたどりついた人もいて、よほどでないと浮気をしないのが京都流。私もそれにならって自分の味を探し求めた。 私が、この味とたどり着いたのは、「村上重本店」のもの。だし店を営む友人から「私は村上重さんのが好きやけど、シノブちゃんの口に合うかなあ」といただいたのが最初。封を切ってだそうとすると、昆布のねばりで糸をひくほど。そのねっとり感にまずは驚かされた。食べてみると、緻密でキュッとしまった実のかんじや、ほどよい水分、昆布とかぶの旨味が合わさって、ほんとうに美味しい。以来、私も浮気はしないと心に誓い、「村上重さん贔屓」になった。店頭に並ぶ最初の頃から買い求め、冬の間に何度も楽しむ。できれば、1枚を一口でぱくりと食べたいところだが、もったいなくて二つに切ったり、三つに切ったりして食べている。 なぜ、これほど村上重の「千枚漬」は美味しいのか。どうしても知りたくなった。お店を訪ねると、漬物職人歴46年という岡本好弘さんが、その秘訣を話してくださった。お肌つやつやで、背筋もピンと伸びてお元気そのもの。78歳になった今も毎日工場で漬けていらっしゃる。 岡本さんは、毎朝4時に起きて市場へ向かい、自分の目で見て「聖護院かぶ」を仕入れるという。15~20cmの大きなものだけ、それも実質がしまってほどよい水分のあるものだけを購入するそうだ。「気に入ったものがないときは買いません。全国でつくられた聖護院かぶを食べたけど、今使こうてるのは亀岡産です。値段は気にしません。それよりでき具合が肝心なんです」 丁寧に洗って分厚く皮をむき上下を切り落としたら、使えるのは3分の1くらい。1.5㎜ほどにスライスして塩だけで下漬けして水分や雑味を抜いた後、北海道の昆布を加えて本漬けにする。村上重の「千枚漬」は、聖護院かぶ、塩、昆布で漬けられる極々シンプルなものなのだ。 「だから大切なのは素材なんです。名前はいえませんが塩も特別なもの、昆布は北海道産の稀少な根昆布のほか、切昆布、平昆布をたくさん入れます。うちの千枚漬は、材料の味そのものなんですね」 とはいえ、材料だけが良ければ美味しくなるというものでもない。岡本さんが先輩の仕事を見て覚え、体に叩き込んだ漬け具合が何より味を左右する。「1日下漬して水分を抜き、1週間かけて昆布の旨味をギュッと入れながら発酵させる。発酵とのバランスも大切。だから1週間は毎日様子を見ながら、ちょうどいい発酵加減の一歩手前になったら冷蔵庫に入れる。あとはじっくり発酵させていく。気温が高ければ早く発酵が進むから、冷蔵庫に早く入れる。その加減は46年、日々漬物と接してきたからわかるんでしょうね」と岡本さん。 若い人にもその勘どころは日々伝授するが、待っていてくださるお客様を裏切らないためにも、まだまだすべてを若い人には託せない。「もっと美味しい千枚漬」を目指したいと話す。 四つに折ったりくるっと巻いて盛り付けたときの美しさも「千枚漬」の魅力。京都ではお正月料理のひとつとして味わう家も多い。 酒のつまみにもいいが、私は熱々ご飯にのせてちょっと醤油をたらし、ご飯を巻き込んでパクッといく。なめらかで甘くて旨味たっぷり。いくらでもご飯が食べられる。■ 村上重本店京都市下京区西木屋町四条下る船頭町190075-351-1737営 9:00~19:00(土・日・祝日は~19:30)年中無休(元旦から3日を除く)
中井シノブ
ライター
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.01.07
「リストランテ ナカモト」―「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんが通う店
「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんプロフィール25歳で料理人を志し、京都のスペイン料理の老舗「ラ・マーサ」で働きはじめる。4号店「フイゴ」の店長時代に研修で訪れたスペインでモダンスパニッシュと出合い、目指すべき方向性が定まる。その後、スペインにわたり修業を積み、帰国後の2014年に「フイゴ」の跡地に「acá 1°」をオープン。2017年にミシュランの一つ星を獲得、おまかせコースのみの予約の取れない一軒である。おすすめコメントオーナーシェフの仲本章宏さんとは、まだ私が店を開く前の、料理人が集うバーベキューで出会いました。シエナ「バゴガ」、フィレンツェ「エノテカ ピンキオーリ」などイタリアで6年、その後はニューヨーク「レストラン・ファライ」で1年間と海外経験が豊富な仲本さんに、当時スペインでの修業を考えていた私の相談に乗ってもらい、親しくなっていったんです。 「リストランテ ナカモト」は、京都の中心地から離れた木津川市に2011年にオープン。こちらはご実家のあった場所だそうです。なぜ、不便ともいえるこの場所に? と尋ねると、仲本さんはおっしゃいました。 「イタリアでは星付きのレストランの多くは、田舎の交通の不便な場所にある。お客様はその店で食事をするために、わざわざ足を運ばれるんです。それこそトマトパスタひと皿のために30分車を飛ばしたり。自分のクオリティを試すためにも、生まれ育った木津以外で店を構えることは考えられませんでした」 そのように好きなことに邁進される仲本さんとお話ししていると、とても気持ちがいいんです。私も「好き」が要にあって、その延長線上にある人やコトを吸収して仕事をしていくタイプですから。料理人として、経営者として、「会いたい」気持ちがつのる――そんな仲本さんのお店は、私にとって刺激のある学びの場です。 リストランテ ナカモト 「この立地で、このクオリティの高さ! 木津でお店を持たれることに意味があることを強く感じます。私も今は京都の中心地で店をやっていますが、いつかは落ちついた場所で......という夢はあります。とはいえまだ勇気がないんですよね。でも仲本さんは30代後半という同世代で、あえて木津でやる、という意志を貫いている。その姿勢にあこがれます」 京都駅から30分に1本のJRに揺られて40分、ほぼ奈良ともいえる木津駅前には高い建物はなく人もまばらで、鄙びた光景が広がる。そこからとぼとぼと代わり映えのしない街並みの中を5分ほど、木津川市役所の目の前に「リストランテ ナカモト」はある。決してにぎわっているとは言えないこの地へ、多くの美食家たちがわざわざ足を運んでいる。すべてはこの店の美食を味わうためにだ。 東さんが熱弁するとおり、リストランテの扉を開けると、仲本章宏シェフの美学が随所にあふれる空間が広がっていた。 中庭を臨むテーブル8席に、4名までの個室がひとつ。天井が高いので、こぢんまりとした空間ながら開放感がある。 「私の店もカウンターとテーブルで16席と、規模が近いのでとても参考になります。特にテーブル席から見る厨房の高さが絶妙ですね」 シェフ目線で見ると、こちらの厨房はとても機能的で、かつ客のことも考え抜かれているそうだ。 「厨房の床を掃除したときに水が流れやすいように、ゆるやかに傾斜がついています。熱がこもらないようダクトも、そしてエアコンも風が直接お客様にあたらないように天井に組み込まれています。厨房の熱い空気が客席に流れないよう、エアカーテンでブロックされてもいます。だからすっきりと見えるんですよね。料理人にもお客様にも快適です」 なるほど、料理人の手元だけでなく厨房の細部まで見るのも、「リストランテ ナカモト」ならではの楽しみ方なのだ。 厨房の各所には、いつまでもシェフであろうとする仲本さんの想いがつまっているという。 「この店を作るときに私が一番重視したのは、いかに機能的な厨房であるか、ということです。厨房器具の足元に水が入り込む隙間を作らず、作業に負担がかからない程度でも床に傾斜がついていれば、掃除が非常に楽ですよね。ダクトをはめ込んだ天井のシステムはドイツ製ですが、取り外しが簡単で、こちらも洗浄しやすい。 掃除の時間が短縮できれば、その分料理に時間をかけることができます。それに本を読んだり、大好きなバスケの試合を観たり、人に会ったりとインプットの時間も増やせます。身体にも負担がかかりませんから、10年20年と元気に仕事ができるでしょう。設備への初期投資費用はかかっても、長い目で見ればとても有意義なことだと思うんです」(仲本さん) コースのみで、ランチは5940円(税サ込)、大和榛原牛使用の場合は7740円。ディナーは9980円、大和榛原牛使用の場合は1万2470円。東さんが特に魅了されたのがパスタだそう。 「コースには必ずパスタが2品出てきます。すべて生パスタで、生地は練り上げてから2日間寝かせる。そうするとプチッと弾けるような歯切れのいいパスタになるそうです」 「ダブルの意味を持つ『ドッピオ ラビオリ』(※ディナーコースのみ)は、仲本さんがエノテカ ピンキオーリでの修業時代、シェフから請われて考案したもの。中に牛ほほ肉の赤ワイン煮と、リコッタとマスカルポーネチーズの2種類のソースが双子のように入っています。とても軽やかで、するりと喉を通ってゆくんです。あまりのレベルの高さと美味しさに、思わず"大盛りで!"と言ってしまい、仲本さんに苦笑されました(笑)」 「サラダもとても手が込んでいるんですよ。お店ではサラダではなく『野菜のひと皿』と呼んでいらっしゃいます。使用する野菜は季節や日によって変わり、冬なら根菜が多いそうです。野菜のうまみを引き出す一番合った方法で、それぞれ焼いたり、揚げたり、茹でたり......20種類くらいあるのかな? とてもボリュームがあります」 「そして特筆すべきはドレッシング! ワインビネガーをベースとした、酸味のあるドレッシングをシート状にし、野菜の上にふわりと掛けます。冬は霜を連想させる季節感、夏はさわやかな清涼感があり、一年を通して魅了されますね」 「デザートの後に出されるプチフールもすべて手作り。5種類も出てきて、どれから食べようか目移りします(笑)。カヌレはカリッとした触感を楽しんでいただくため、焼き上がりから2~3時間以内にテーブルへ運べるよう計算しているそうです。ロリポップタイプのアイスも季節によって味わいが変化、冬は柑橘系で口の中がさっぱりします」 プチフールには、紅茶、ハーブティーなど12種類の茶葉から選んだお茶も一緒に。 「お店にはスタッフを連れてうかがいます。厨房のつくり方からも、お料理からも、どれほど強い想いをもってお店に取り組んでいらっしゃるかを学ぶことができますから。仲本さんは3カ月に1回、お店で料理人に向けての勉強会も開かれ、私もよく参加しています」 その勉強会では、たとえば大阪の3つ星レストラン「ハジメ」の米田肇シェフと、その弟子である「モトイ」の前田元シェフを招いて鼎談をしたり。日本人で唯一、イタリア・アルバでトリュフ騎士の称号を授かった富松恒臣さんによる、トリュフについての講義を開いたり。閉店後の夜11時に、京都・大阪・奈良・神戸から毎回25~30人ほどが木津へ集まり、明け方まで続くという。 「情報は隠しているより、シェアしたほうがより広がりをもって身に付きますよね。オーナーシェフや料理長になると、なかなか勉強する機会もありませんから、みなさんとても真剣に参加されます」(仲本さん) 「仲本さんはオープンマインドで、多角的に物事をとらえる目を持っているんです」と東さんは言う。料理人が魅了される料理人は日々進化することを止めず、木津という場所から美食家たちと料理人たちの心をざわつかせているのだ。 撮影 菊地佳那 文 竹中式子■ リストランテ ナカモト京都府木津川市木津南垣外122-10774-26-550昼12:00~15:00(L.O.13:00) 夜18:00~23:00(L.O.20:00)定休日 毎週水曜含む月6回https://www.ristorantenakamoto.jp/
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BLOG京の会長&社長めし
2019.01.07
ロマンライフの社長が通う店「ぎをん 竹茂(ちくも)」
■河内 誠(かわうち まこと)さん 株式会社ロマンライフ代表取締役社長 1958年京都府生まれ。父・河内誠一氏が1951年に開店した「純喫茶ロマン」を始まりに多角経営が進む。24歳のときロマンライフに入社。事業の方向転換を模索するなか、自身の発案で北山に洋菓子店「京都北山 マールブランシュ」をオープン。洋菓子の製造・販売、レストラン事業と展開していく。お濃茶ラングドシャ「茶の菓」は、京土産の定番として愛されている。注文票をつけるのも楽しい、美食家たち絶賛の「串鉄板焼き」「経営者仲間や百貨店のバイヤーの方は毎日の接待で、美食を知り尽くしています。そんな口が肥えた方をお連れすると、みなさん口をそろえて絶賛される――それが『ぎをん 竹茂』さんです」 観光客でにぎわう花見小路を東へ入ると、とたんに人混みが途切れる。その一角にのれんを掲げる竹茂は「串鉄板焼き・季節逸品料理」をうたっている。「串鉄板焼き」とは聞きなれない言葉だが、果たして......?「81歳になる初代の盛田育宏さんは、大阪ミナミで流行していた"くわ焼き"からヒントを得て、1975年に今の丸井の裏手でお店を始められました。くわ焼きとは、もともとは農作業の合間にくわの上で肉や野菜を焼いたことが始まりですが、盛田さんがご覧になったのは、鉄板で焼いた食材をくわでギュッと上から押すスタイル。それをアレンジされて、1.5㎏ある特注のステンレス製の重しで串にさした食材をプレスします。そうすることで、食材のうまみが全体にゆきわたります」大阪では練り物が主だったそうだが、竹茂では鶏ねぎ、ホソ、ホタテ、しゅうまい(!)、椎茸、ズッキーニ、ラザニア(!)――肉、野菜、魚介、そしてオリジナルの串を毎日40種類前後用意している。「盛田さんのご実家は染物屋で、呉服屋に奉公されていたとか。小さいころから美味しいものを召し上がってきたので、食材の目利きが素晴らしいんです。美食を知り尽くしている人こそ、このお店の価値がわかるというのは、そういう点にもあるんです」 盛田さんは「お客様に提供している肉、野菜、魚介などすべて、どこで、だれが作っているのか把握しています。八百屋や肉屋まかせにはしません。ちょっとでも味が落ちれば、すぐに文句を言っちゃう(笑)」と胸を張る。豊富な串の種類に目移りするが、河内さん必食のひとつが「牛肉(ランプ)」。 「使用するのはA5ランクの京都牛を中心とした黒毛和牛。自家製の熟成タレはニンニクと味噌が香ばしく、肉はするっ、ふわっと口の中でとろけます」「芸舞妓さんも大好きな、お店一番人気の『カナッペ』は、私も外せません。食パンの上に、エビと玉ねぎを中心とした8種類の素材をブレンドしたソースを塗り、オリーブオイルで表裏を焼き付けます。カリッとした食感が心地よく、ほんのり甘いソースが絶妙です」 「私の世代ですと『赤ウィンナー』も懐かしいですね。形がタコではなくカニです(笑)。このウィンナーも、ただものではありません。盛田さんが"これでなければ"と、石川県の天狗ハムからわざわざ取り寄せているポークウィンナーなんです。 『海老マヨ』の串とは珍しいですよね。オーストラリア産の天然の車海老を使用し、自家製のマヨネーズで仕上げています。濃厚な卵の味が海老の旨みと絡みあい、中華というよりフレンチのようにも感じます。『海老チリ』がある時もあるんですよ」 「薬味は唐辛子、山椒、七味が用意されていますが、極上の素材に、その味を最大限に引き出す自家製タレやソースなどで味付けされているので必要ないほどです。私もたまに山椒をつけるくらいです。もし薬味を使われる場合は、お皿に少し出して串につけてください。匙で上から振るとかかりすぎて、せっかくの串の味が損なわれてしまいます」「季節の逸品料理もいつも充実しています。盛田さんの選んだ素材ですから、魚料理も肉料理もどちらも頼みます。夏にはカツオのたたき、冬はてっさ......」 「肉料理なら『ミスジの炙り』。こちらも串と同じA5ランクの黒毛和牛で、肩の付け根である希少部位のミスジを炙り、自家製のニンニク醤油とポン酢を合わせたタレでいただきます」「私はいつも、注文を取る担当なんです。『牛肉食べたい人は?』『カナッペは?』『アスパラは?』と声をかけ、手の上がった人数分を注文票に書き入れていきます。どんどん正の字が増えていくのが嬉しくて、楽しくて(笑)」 河内さんが竹茂に通いだしたのは、25年近く前にさかのぼる。 「裏千家家元の千宗室さんに連れてきていただきました。こちらへは1996年に移転されたので、その前の祇園の別の場所にあった頃からのお付き合いです。盛田さん(写真中央)の素材への造詣の深さ、多様な串の魅力はもちろん、お客様の感じがとてもよいところにも魅力を感じます。飲んで乱れるようなことはなく、会話と料理を純粋に楽しんでいる方ばかりです。そしてリーズナブル。まさに京都の隠れ家です」 おまかせコースは串12種・小鉢5000円(税サ別)、串10種・小鉢・お造りか肉料理・ご飯もの7000~9000円。河内さんはいつもアラカルトで注文するが、「初来訪の方でしたら、まずはコースで自分の好きな串を見つけてください」と、2代目の盛田雅博さん(写真左)はお薦めする。 「どのコースでも、まず最初に牛肉、そしてキャベツ巻きをお出しします。『ひと串目から牛肉は重い』と思われるかもしれませんが、そのお気持ちを変える自信のある串です。キャベツもシンプルだからこそ、竹茂がどういう店なのかをわかっていただけると思います。そのあとはご注文されたお酒の種類や進み具合を拝見しながら、お客様に合わせた串をお出ししていきます」(雅博さん)初代の盛田育宏さんは厨房からは退き、毎日6時間かかる仕込みや調理は息子の雅博さんと20年来お二人を支える高橋享平さん(人物写真右)が切り盛りする。しかし、黒豆とちりめん山椒は、今でも盛田さん自らが作っている。 「丹波篠山の黒豆と、高知のちりめんを使っています。黒豆は寸胴で2日間じっくり炊くので、圧力鍋で炊いたものと違い柔らかすぎず、豆のほどよい食感が残っています。『黒豆を食べた』という充実感が圧倒的にあるでしょう。ちりめん山椒はご飯にのせると、何杯でも食べられるとみなさんおっしゃいます。この2品は、河内さんは必ずお土産にされます」(盛田さん)店内へは靴を脱いで上がるスタイル。部屋に入ればまず目に飛び込んでくるのは、カウンターのケースにずらりと並ぶネタの数々。「どれを食べようか」と心が躍る。 「友人と二人ならカウンター、家族や人数が多ければ小上がり、接待なら個室と使い分けできるのがありがたいです」「竹茂さんはヘビーローテーションで訪れる大切なお店です。年に8回ほどは行っています。家族や友人、接待でも気心の知れた方を『ちょっとご飯に行こか』とカジュアルに誘って、みんなが喜んでくれる。調理から離れたとはいえ、盛田さんはいつもカウンターの奥に座っていらっしゃるので、お話しできるのも嬉しいですね。こんな素敵なお店はなかなかありません」 撮影 菊地佳那 文 竹中式子■ ぎをん 竹茂京都市東山区祇園町南側八坂町570075-561-563017:30~22:00(最終入店21:00、L.O.21:30)定休日 日曜http://www.gion-chikumo.jp/
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BLOG小山薫堂が惚れた店
2018.12.19
洋食おがた
「隔週ペースで京都に来ておりますので、一度、飲みに行きませんか?」小山薫堂さんから、メールをもらったのは、2012年10月8日でした。薫堂さんが関係するプロジェクトの打ち合わせと御礼を兼ねて連れて行ってくださったお店について書かせていただきます。小山薫堂さんは、とにかく洋食ラブで、京都市内だけでも、前回ご紹介した『グリルフレンチ』を含めて、10軒近くよく行く洋食店があるそうです。ビフカツ、ミンチカツ、ハンバーグ...中でもナポリタンが特にお好きで、ナポリタン愛が伝わるVTRも作られています。そのVTRが見られるサイトのリンクを薫堂さんの許可をもらったので、貼り付けておきます。https://lifemagazine.yahoo.co.jp/articles/1868薫堂さんとは食縁があるようで、夕食の席で偶然、一緒になったことが4回もあります。『洋食おがた』では3年ほど前にお会いしました。それぞれ4人以上の集まりだったので、「ここよく来るんです」「緒方シェフが『セプト』におられたときから通っています」くらいしか話はできませんでしたが。『洋食おがた』は、尾崎牛と南の島豚の合い挽きを使ったハンバーグがスペシャリテですが、「カレーナポリタン薫堂風」というメニューがあります。2年ほど前、小山薫堂さんが、おそがけに来て「カレーもナポリタンも両方食べたいけど、そこまでお腹すいてなくて、合わせ技とかできないですか?わがままいいますが、たとえばナポリタンはケチャップ使わずに...」というリクエストで誕生。トマトケチャップはほんの隠し味程度に使ってナポリタンを仕上げ、食べるときに熱々のカレーをかけます。なるほど、カレーのコクとスパイシーな香りを優しいナポリタンが受けとめてくれます。新しい出会いです。「お客さんの少しわがままなリクエスト」から新メニューが生まれる。楽しい事件です。■ 洋食おがた京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺町32-1075-223-2230京都市役所前駅から460mFB公式アカウントはこちら
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BLOGクリエイティブ食事術
2018.12.10
「本Pのクリエイティブ食事術」 第2回
僕は、『あまからアベニュー』から『魔法のレストラン』『真実の料理人』まで、料理情報番組を30年近く制作してきましたので、必然的に、料理、料理店、料理人の皆さんと接する機会が多々あり、食べる側、グルメな人々とのネットワークも構築できてきました。食に関して、日々、あれこれと考えているわけですが、ひとつのシンプルな結論は、「食事の時間をより楽しく、面白くする工夫をする方が、人生はより楽しくなる」ということです。その方法を「クリエイティブ食事術」と名づけていて、この連載で具体的に紹介していきたいと思います。本Pクリエイティブ食事術その2【料理店や料理、料理法、道具などについて、「?」「どうして?」という疑問を持って、調べてみる】前回、疑問に思った「【三嶋亭】のすき焼き鍋はどうして、八角形をしているのか?」について調べてみました。結果、【三嶋亭】に関して、とても興味深い知見を得ることができました。初代・三嶌兼吉さんが【三嶋亭】を創業した明治6年当初は、すき焼きには丸鍋を使っていました。テーブル中央のドーナツ型の穴にいこった炭を入れて丸鍋を加熱。当時に近い道具を撮った写真が残っています。昭和2年、三代目(五代目・三嶌太郎さんの祖父)は、すき焼きの熱源を炭火から、「電熱」に切り替えました。当時、京都では「電気普及キャンペーン」が行なわれていて、三代目は「京都電燈」(関西電力の前身)、「京福電鉄」の社長さんらと懇意だったことから、電気の将来性を見越して、「すき焼きに電気を使ってみよう!」と決心されたそうです。以来今も、【三嶋亭】のすき焼きの熱源は電気です。ただ、この時のすき焼き鍋は、まだ丸鍋でした。【三嶋亭】の店主は代がかわるごとに、オリジナリティを出して、何か改革をしていきました。四代目(五代目・三嶌太郎さんの父)は、昭和26年に跡を継ぐと、丸鍋から八角形のすき焼き鍋に切り替えました。(※二代目については情報が少ないので、どのような手腕を発揮したのか不明とのこと)八角形にしたのは「末広がりで縁起が良く、商売繁盛につながる」との思いからだったそうで、それまで丸鍋を作ってもらっていた岩手県の南部鉄器メーカー『岩鋳』(明治35年創業)にオーダーしました。鍋を八角形にし、さらにはテーブルの形も八角形(現在は、石川県の輪島塗)に。4人で囲むと、まさに角がとれて話しやすいのです。客と客の間に仲居さんも入りやすく、鍋との距離も縮まり、すき焼きを作りやすい、サービスがしやすいというメリットも生まれたのではないでしょうか。当主が、代々改革を重ね、まさに「京都知新」的な継承と創造をくりかえされてきたからこそ、140年以上に渡って繁盛を続けてこられたのだと改めて感じ入りました。当代(五代目)の三嶌太郎さんは、醤油ベースの割り下を改良し(どう改良されたのか聞いてみたいです)、さらには新店を2018年7月にオープン。それもステーキの店。これは行ってみるしかありません。八角形のすき焼き鍋に「?」を感じて、調べているうちに知った「新店」の存在。これは「縁」です。僕は、なんらかの縁があって自分のアクションで知ることができた「新店」には、できるだけ行くことにしています。逆に、新店オープンご招待パーティーや、マスコミレセプションにはできるだけ行かないことにしています。本Pクリエイティブ食事術その3【縁を感じた「新店」へはとにかく行ってみる】今からお店の予約をとりますので、体験記は次回の連載に。果たして、割り下の改良点を教えていただけるでしょうか。新店はどんな店でしょうか。■ 「三嶋亭」三嶋亭 本店 〒604-8035 京都市中京区寺町三条下る三嶋亭 高島屋京都店 〒604-8035 京都市下京区四条通河原町西入ル真町52三嶋亭 大丸京都店 〒600-8520 京都市下京区四条通高倉西入ル立売西町79https://www.mishima-tei.co.jp/
本郷義浩
毎日放送制作局 チーフプロデューサー
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BLOG堀江貴文が惚れた店
2018.12.07
祇園一道
ホリエモンこと堀江貴文さんは、"次から次に自分が好きなことをハシゴしまくる"「多動力」の実践者ですが、和牛ディーラーである浜田寿人さんと『ニッポンの和牛を世界へ』というコンセプトの「WAGYUMAFIA」(和牛マフィア)というユニットを作っています。「WAGYUMAFIA」堀江貴文さんと浜田寿人さん僕は、2016年3月28日、京都の『空』(祇園にあるカウンター8席の週替わりでシェフが変わるプライベートレストラン。2018年12月中旬閉店予定)で、堀江さんと浜田さんらが作る創作和牛料理のフルコースをいただきました。堀江さんは、実は料理庖丁使いも得意で、余分な脂や筋を切り落として綺麗に捌いていく「肉磨き」の技術は今やプロ級です。豪快に焼き上げたステーキ和牛カルパッチョこの牛脂を使ったクロワッサンは、堀江さん作和牛を使った「限りなく吉野家の味に近い牛丼」「WAGYUMAFIA」は、世界のミシュラン星つきシェフとコラボディナーをしたり、和牛懐石の店やカツサンドの店をオープンしたり、活躍の場がかなり広がっていますが、この日の『空』での料理、プレゼンテーションが、「WAGYUMAFIA」のスタートアップとなったそうで、記念すべき日に立ち会えたのでした。そんな堀江さんと行ったのがインパクトのある「和牛」料理を出す創作鉄板料理の店、『祇園一道』です。関さんの作る鉄板焼き、鉄板料理は、見たことがないオリジナリティーにあふれています。関シェフの作り出す鉄板料理は変幻自在。多種多彩。たとえば、和牛のパテと醤油ベースのだしで煮たフォアグラ、ワサビをあわせたミニバーガー。ワサビと醤油、フォアグラが意外にもよくあいます。和牛フォアグラミニバーガーあるいは、近江牛ロースの薄切りをロールに巻いて、トマトと一緒に鉄板で焼いて、甘辛い醤油ベースのタレをかける「トマトロールすき焼き」。堀江さんも「これは、やばいですねー、トマトと肉は合いますね。おいしい」和牛料理のさらなる可能性を大いに感じる一夜となりました。近江牛のロースを巻いています鉄板でロールのまま焼きますロールにして焼くことで外はかりっと中はレアに仕上がります。■ 祇園一道京都府京都市東山区祇園町南側589 ぎをん松本ビル1階075-561-1949詳しくはこちら:https://teriyaki.me/curator/C28/A5163「TERIYAKI」 堀江貴文さんがプロデュースするグルメサイト
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BLOG京都グルメタクシー
2018.12.07
おいしい京都案内 | 摘草料理「美山荘」
こんにちは。京都グルメタクシードライバーの岩間孝志です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。さて、この季節になると山々の緑も黄色から紅色になり、四季の移り変わりをもっとも感じる時期でもありますね。京都市内中心部だけでなく美食の楽しみは山々の中にも存在します。その点タクシーはその距離感をなくす絶好の乗り物かもしれませんね。それでは、本日のグルメ観光は山奥の名店に向かって車を走らせることにいたします!「京都の山奥にある美食を求めて」をテーマに、グルメツアー出発です! その目的のお店に行くには1時間ほどかかります。出発点の京都駅から鴨川に沿っている川端通りを北上、窓越しに京都の風景が見えてまいります。川の対岸にある人気のカフェ、三十三間堂や清水寺に向うバスの列、鴨川の分岐点の出町柳、みたらし団子発祥の地と言われる下鴨神社、なからぎの道、優れたパンのお店がひしめく北区、植物園内のグルメなどをご紹介していると少し口がさびしくなってまいりますが・・・車内での「おいしいお話」はやはりお腹がすくわけでして、途中で栄養補給が必要になってまいりますので少し休憩場所をご案内(笑)鞍馬街道を北へ車を進ませると、二ノ瀬という場所に「白龍園」という庭園があります。一日100人限定(詳しくは公式サイト)の期間限定の特別拝観ができる空間です。趣き深い庭は、オーナーの青野さんが社員家族と地元の手伝い衆で作り上げられました。庭園散歩のあとは四季の景色を見ながら「河鹿荘」というお休み処でお抹茶やぜんざいもいただけます。美食と四季の風景が共に楽しめるスポットですね。 ※白龍園 公式サイト http://hakuryuen.com/さらに進むと鞍馬寺の門前に「多門堂(たもんどう)」があります。これから鞍馬寺へ向かう観光客や参拝者で混み合う食事もできる人気店で佃煮も売っています。そこでお客様におすすめするのが「名代牛若餅」「麦饅頭」「蓬(よもぎ)だんご」です。どのお菓子も個性的で上品な甘さ、そして柔らかさは理想的で鞍馬天狗もほしがる?!のではないかと思うぐらいです。地元の人も好んで買われるお店でもあるので観光シーズンでなくても、帰りに立ち寄ろうとしたら売り切れということもありますので念のため、往路、お早めに訪問されることおすすめいたします♪「小一時間」という表現がいいでしょうね。今回の目的地の「美山荘」はその京都の奥座敷にあります。1895年に京都・鞍馬の奥にある大悲山「峰定寺」の宿坊として建てられたのが最初で、自然に恵まれ山狭深く、しっとりと、とけ込むようにこの地に佇んでいます。1日わずか4組のみをおもてなし。摘み取った季節の草花や旬の野菜に魚を取り入れた料理を堪能できるお店です。 私と美山荘の出会いは平成五年に最初に勤めた法人タクシーの、新人社員の小型車勤務から中型車観光課勤務になったころでした。その年、先代の中東吉次氏が亡くなられ、直後に美山荘送迎をお店を担当していた先輩乗務員から任されたわけです。お店のことが詳しく書かれてあった「雪峰花譜(せっぽうかふ)」(初版一九九二年 柴田書店)を読みながら日々食通の方々をご案内し、ほぼ五年間春夏秋冬、大雪の季節もお世話になったこと、今でも鮮明におぼえております。ある意味その貴重な時期が「京都グルメタクシー」の礎になったのではと感じています。母屋は峰定寺の塔頭跡地に建てられ、数寄屋造りの巨匠中村外二の手によって改築されました。現在は廊下につづいて囲炉裏型カウンターもあり、宿泊されるかたに利用されています。そして向かいには川の棟があり、吉野窓のある部屋や月見台のある部屋も魅力的です。おいしいものに集中できる環境は風景もこうあるべきと語りかけてきます。耳をすませば川のせせらぎ、小鳥のさえずり、そして料理がはこばれてくるかすかな足音は期待感をさらに助長しますね。香ばしいあけび茶から美山荘の料理ははじまります。「銀杏みそ」は秋一番に出てくる定番ともいえる料理で客人を目覚めさせるのでしょう。いわなのお造り、揚げ蒸した新米を白みそ仕立てで提供。アクセントに水からしが添えてあります。 「むかごの葛よせ」はほんのり甘く、野性味溢れる存在。「八寸」は丹波の枝豆共和え、湯がいて焼いた落花生、小豆のかるかん、地鶏の味噌漬け卵、揚げとち餅、鮎の一夜干し、焼き栗、川海老とそれぞれ個性ある野山の産物がお皿に込められています。秋色、その秋色の味をビジュアルでも表現しているのが「焼き松茸」木曽産の香り濃く五感に響き渡る演出です。 「鯖寿司」を二切れ。そして生姜と大徳寺納豆のつけ汁を添えていただきます。「土瓶蒸し」は出汁と具材の風味がちょうど半分つづ味わえるような印象。調和し、ひきあったという表現をしたくなります。趣ある土瓶の中をのぞきながら冷めないうちに頂くことにします。「子持ち鮎の杉焼き」は川魚の塩気を大切に、ちょうど中まで火が到達するぐらいに焼きすぎず、柔らかさを保っています。 「きのこの炊きあわせ」は、まいたけ こむそう茸 しめじ しいたけ なめこ、おろして揚げた加賀蓮根 をすこし濃いめの出汁で炊いてあります。フランス料理なら「猟師風」と名乗るべき一皿。それぞれのきのこ類のうまみを見事に集結させた料理でした。ご飯ものは「ぐじの炊き込みご飯」です。ふっくら、そしてやさしく染み込んだ魚の風味。この時点で満腹になっていますが、それをこじ開けるように、本能によって(笑)二杯目も頂くことになります。塩梅よく、潤いも適度にありますから癖になる味なのです。 あけび、さるなし、季節の果物、山葡萄のゼリーを、デザートに。あけびはまさに近くの採れたてそのものの味。枝からまだ栄養をもらっているかのような瑞々しさでした。最後に抹茶をいただきコースは終了。時の経つのも忘れて、時には笑い、時には興味深く、料理とにらめっこする時間もありました。(※ご紹介した料理は10月中旬のものです。)距離感を大切にされる料理長現在の中東久人料理長は先代の息子さんで、実は私とほぼ同時期にフランスのレストランで研修をなさっています。 ヴィヴァロア、ルイXV、ミッシェル・ゲラールなどそうそうたるお店。特にミッシェル・ゲラールさんのお店は当時ヌーベルの発祥的なお店で今の低カロリーフレンチの代表格、料理ジャンルは違いますが美山荘の料理と通じるところはあるのではないかと思います。しかも、サービス人としての修行がメインとも聞いています。フランス料理の物事、考え方、器具、機械にもご興味もたれていたようです。その後さらに金沢の日本料理店で料理修行されて26歳で美山荘の4代目となられました。 「野草一味」は最初においてある手ぬぐいに書かれてあります。美山荘に送迎するとき大悲山の細道を通っていきますが、途中山の茂みや、草むらを歩いている中東さんを見かけることがあります。何かを見つけられたらまたその先に・・・・その日常の目線が料理素材の吟味につながり、良質の食材を提供できる格好の手段として日々探し求めておられます。幼いころから遊びの一部として季節を体感されていたことは、唯一無二の食材調達のスキルが備わっているのでしょうね。 私と同世代の中東さんですが、先代の流れを継承されて、今まで歩まれた食への探求の結果を踏まえ、日本料理を論理的に説明するための努力も日々されておられます。久人さんの独自の論法で、古きを継承し、新しきを取り入れることも引き続き期待したいと思っています。美山荘、もうお一人の尽力。女将の継承。存在感。大女将の中東和子さんがよくお店におられるころから送迎をさせてもらっていました。とにかく気配りの素晴らしい方で、運転手にも優しく声をかけてくださったりして、お会いすれば長い距離を運転した緊張感から解放させてくれるような存在でした。現在は息子さんの奥様である中東佐知子さんが接客を継がれています。 まだ現在の若女将の佐知子さんが美山荘にこられたころ私は鞄職人時代で、その後法人タクシーに戻りましたが、当時の若女将と今とではかなり女将のオーラが変わったように思いました。さらに落ち着かれ、この店にこの人あるべきという存在に、この日伺ったときにさらに思いました。大女将の和子さんの存在と徐々に重なり、美山荘の新たな時代を担っていかれるのでしょう。 できるかぎり座敷にこられてご挨拶をされますが、特に食後に登場されるときの会話は美山荘の常連さんも楽しみにされていて、色々なお話しをなさいますし、お客様もいろいろな質問をされますが、快く丁寧にお答えされます。その女将さんとの出会いも美山荘のひとつの魅力でもあるわけですね。私の部屋の担当の女性は8月に入られたばかりの新人さんでしたが、言われなければ気がつかなかったぐらい優れていました。わずか2か月で一級の接客を身につけたわけですから、育てるお力も若女将はお持ちだなあと思いました。「気遣いすれど、お構いなし」料理長、女将さん、スタッフの皆さん、すべてがお客様との距離を大切にされています。世界的にも注目されている美山荘ですが、平常心で変わりなく親しみをもって接客されます。私個人の意見ですが、日本料理の味を極めて、求めていくと、いつかこの美山荘にたどり着くような気がいたします。日本の大切な食文化の原点、そして一つの到達点がここにあると思います。是非皆様も美山荘のすべてをご堪能頂けたらと思います。 お客様!美山荘とのお別れの時がまいりました!車の姿が遠くに見えなくなるまで見送ってくださる女将さん、スタッフの皆さんに車内から手を振って・・・・いよいよ京都市内まで1時間かけてグルメタクシーで帰ります。なるべく美山荘のご馳走の余韻を残していただくため、揺らさず、飛ばさず、滑らかな運転で花背、鞍馬峠を快走いたします。眠気も一つのお客様にとっての「至福の時」なのです(笑)帰りも京都グルメタクシーはBGM、時には子守唄のように、京都の食をお伝えしながら帰るのでした。またのご乗車、お待ちしております!
岩間孝志
京都グルメタクシー
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