食知新ブログ
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BLOG村田吉弘の和食知新
2019.01.24
五感で愉しむ和食の真髄(2)
緑滴る東山麓の懐に抱かれるように建つ、料亭「菊乃井」。大正元年、創業以来、京都を代表する名料亭として、多くの人々に愛されてきたこの店の三代当主、村田吉弘さんは、「和食とは何か?」を常に問い続け、それを使命に様々な活動を続けている。現在はNPO法人日本料理アカデミー理事長に就任し、「日本料理を正しく世界に発信すること」を自らのライフワークとして掲げ、「和食」つまり、日本の伝統的な食文化のユネスコ無形文化遺産への登録に尽力した。その村田さんに「和食とは何か?」について語っていただくシリーズの今回は第三回、「五感で感じる和食(その2)」をテーマにお話をいただいた。イメージが宇宙的に広がっていく面白さこそが"ご馳走"前回は、料理を目にして、口にした時、イマジネーションによって、時空も空間も距離も超えてしまうことができるとうお話をしました。そのためには、相手の方の心情に沿うたことをいかにできるか?やと思うんですね。茶懐石では、「亭主がお客さんのために」が基本の姿勢となります。お客様に押し付けにならず、自分の世界観を映し出す茶席を創り上げて、提供するわけです。たとえば秋の一日、ある茶席に招かれたとしましょう。ほの暗い部屋で茶懐石が出てきてね、それでお薄の時間になって、窓も開けられて、暗い部屋から明るい部屋にぱっと変わる。床の間には美しい軸が掛けられて...。主菓子は薯蕷まんじゅうで、白の生地に朱色の流水紋がすっと一筋入っている。お菓子のお銘を伺ったら「竜田川」と言われるわけです。するとそこにまさに、竜田川に散り敷いた紅葉が現れてくる。表さん(表千家)やったら、茶碗が赤の楽茶碗だったりすると、もう、全山紅葉の山の中に居るような気持ちになるでしょう?「四畳半に宇宙を見る」ってよく言いますけど、茶懐石のあの料理の味がどうこうではなく、もちろん、美味しないとあかんですけど(笑)、もう、そういうレベルではなく、そのイマジネーション、空間が宇宙的に広がっていくことが、結局一番のご馳走やというのが、日本人の感性であり、文化なんやと思いますね。ワクワクと心弾む空間、料亭はリビングミュージアム僕は、つねづね、料亭っていうのは、「リビングミュージアム」やなと思っています。しつらいも器も料理もね、ミュージアムのように楽しんでいただきたいわけです。たとえば椀ひとつを取っても、表側に赤やら、黄色やらの紅葉を全面に蒔絵で描いたものは、もちろん、それはそれで豪華で綺麗だけれども、「すごい蒔絵やったな」で終わってしまうんです(笑)。そうではなく、外は漆黒やねんけども、静かに蓋を開けると、蓋裏に黄色から赤に色が移りゆくような紅葉が一枚、すうっと描かれている。ああ、洒落ているなあ、センスがいいなあとなるわけです。押し付けにならず、「ええもん見たなあ」とずっと余韻として心象に残っていく。それこそ、まさに「リビングミュージアム」ですよね。僕としては、いつもそういうことを念頭に置いてお客様のための準備をするわけです。今日はなんのお軸を掛けようとか、お花をどうしようとか、香を焚いて、しつらいを調えて、そして素材、献立、器、温度帯、お出しするタイミングまでね、一分の隙もないように、仕立てていくんです。次は、どんなテーマで、どんな作品を展示しようかと考える美術館の学芸員さんと少し似ているかもしれませんね(笑)空間の隅々まで味わう。それこそが「五感で感じる和食」第一回目の時に、「代々続く料亭には、それぞれの店の成り立ち、歴史というものがまずあって」、というお話をしました。それは料理だけでなく、店の空間にも色濃く現れています。うちはお武家に仕えていた歴史があるので、館の造りは全部、書院造りになっています。茶の湯とご縁の深い料亭は数奇屋建築を生かしていますし、他にも別荘風なところや御殿造りといったお店もあります。柱もね、うちみたいに書院造だとみんな角柱ですし、茶室を意識したお店だと丸い柱になりますね。襖の唐紙や引き手、欄間などにも創意工夫が凝らされていますから、いろいろ見ると楽しいですよ。和風建築や内装などの知識をほんの少し持たれて、料亭に来られると、楽しみが倍増します。料理の香りとテクスチャー、色彩、かたち、そして器、最後に空間があって、初めて「五感で感じる和食」が成り立つんやと思います。どうぞ、これからは、料理はもちろんですが、しつらい、空間もじっくりご覧になって、「ええもん食べたなあ、ええもん見たなあ」と、二重に満足されてお帰りください。それが、料亭にとっては一番嬉しいことなんです。■ 菊乃井 本店京都市東山区下河原町 鳥居前下る下河原町459 八坂通京都市営地下鉄東西線 東山駅(出入口1) 徒歩12分京阪本線 祇園四条駅(出入口6) 徒歩14分075-561-0015http://kikunoi.jp/kikunoiweb/Honten/index
村田 吉弘
株式会社菊の井 代表取締役
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BLOGクリエイティブ食事術
2019.01.21
「本Pのクリエイティブ食事術」 第3回
僕は、『あまからアベニュー』から『魔法のレストラン』『真実の料理人』まで、料理情報番組を30年近く制作してきましたので、必然的に、料理、料理店、料理人の皆さんと接する機会が多々あり、食べる側、グルメな人々とのネットワークも構築できてきました。食に関して、日々、あれこれと考えているわけですが、ひとつのシンプルな結論は、「食事の時間をより楽しく、面白くする工夫をする方が、人生はより楽しくなる」ということです。その方法を「クリエイティブ食事術」と名づけていて、この連載で具体的に紹介していきたいと思います。本Pクリエイティブ食事術その3【縁を感じた「新店」へはとにかく行ってみる】前回、"『三嶋亭』の当代(五代目)の三嶌太郎さんは、醤油ベースの割り下を改良し(どう改良されたのか聞いてみたいです)、さらには新店を2018年7月にオープン。それもステーキの店。これは行ってみるしかありません。八角形のすき焼き鍋に「?」を感じて、調べているうちに知った「新店」の存在。これは「縁」です。僕は、なんらかの縁があって自分のアクションで知ることができた「新店」には、できるだけ行くことにしています。逆に、新店オープンご招待パーティーや、マスコミレセプションにはできるだけ行かないことにしています。"と書きましたが、2018年の年末、『三嶋亭』の新店、『翁樹庵』に行ってまいりました。同行者はテレビ番組『京都知新』のナレーションをお願いしています俳優の升毅さんと、このWEBサイトで連載をお願いしています、京都グルメタクシーの岩間孝志さんです。『翁樹庵』は、炭焼きステーキがメインの京風フレンチスタイルのお店でした。食後、オーナーシェフである『三嶋亭』五代、三嶌太郎さんにいろいろお話を伺ったところ「ここは、実は170年近く前に建てられた自宅だったところなんです」太郎さんは、日本料理の修業をつんで、茶の湯や生け花の稽古も続けられているそうで、「住まなくなった自宅で、和の美学を宿しながら、なおかつ新しいことをしたいとずっと思ってまして」試行錯誤の末、『翁樹庵』を開店。『三嶋亭』の黒毛和牛肉の仕入れの強さを生かし、ステーキに向く塊肉を選びに選んで、熟成させ、紀州備長炭で焼くステーキをメインにコースを組まれました。大原や鷹峯など京都の野菜の産地に自ら出向いて、仕入れルートを新たに開発し、フレンチの技法も学んで取り入れられたのです。完全予約制で、コースは、22,572円(税サ込み)の1種類です。メインの長野県産黒毛和牛フィレステーキ。28日間熟成。表面はかりっと中はしっとり。塊のままです。オニオングラタンスープも出てきます。写真では撮れませんでしたが、中には銀杏も入っていました。甘鯛は、ウロコをかりかりに揚げる和食のスタイルで、京都大原産の野菜とともに。ソースのひき方や、盛りつけはフレンチ風京都峰山町産の古代米「天女米」を使った、蟹イクラ土鍋御飯。昼間、12月30日に放送した「京都知新スペシャル」のロケで、結構、試食シーンが多かった升毅さんも完食。升さん曰く「洋の香りが入りながら、和の落ち着きがあって、まさに京都知新な料理...」京都を知り尽くす「京都グルメタクシー」の岩間孝志さんも初めて店の存在を知られたそうで、「僕は、こちらの料理でしたら、いくらでも食べられます...笑。おいしいです」お二人とじっくり会話も楽しめる素敵な個室空間で、サービスも『三嶋亭』のエースの仲居さんがされるので快適でした。『翁樹庵』オーナーシェフ 三嶌太郎さん「ところで、ご主人、五代目をつがれて、『三嶋亭』の割り下を変えられたそうですが...どう変えられたのですか?」「はい、変えました...。もともと濃い口醤油と、みりんベースでしたが、あるものを加えました...」「それは?」「ここだけの話ですが〇〇です。天然の旨味をそれで加えました。〇〇については、すみません、企業秘密にさせてください」〇〇が何かを教えていただきましたが、なるほどと思う食材でした。企業秘密なので書くことができませんが。 『三嶋亭』に長年通っておられる方は、割り下の味が変わったことに気づかれないそうです。最近読んだ本に、「繁盛店がなぜ強いかわかりますか。自信作の一品を磨き込んで、絶えずその質を上げているからです。磨き込みとは「商品の再設計」です。食材から調理工程のすべてを洗い直すことです。そして、味は変えずに、質を上げる。その時にお客さまは「いつも変わらなくていいね」と言ってくれるのです。」~『外食業・究極の成功セオリー』(神山泉著 エフビー刊)という文章がありました。 まさに、その通りだったのです。「変わらないために変える」料理だけはなく、1200年以上続く京都文化の真髄に通じる、ある意味、戦略だと思います。 次回は、僕が100回以上通っている店をご紹介しながら、「この変わらないために変える」ということについて、もう少し深く考えてみたいと思います。わかりやすく言うなら、「トータルのブランド力やクオリティーを維持し、評価、評判、印象を変えないために、何かを変えていく」ということです。その「何か」にとても興味があるのです。本Pクリエイティブ食事術その4【惚れた店には徹底的に通って、定点観測をしてみる】月1回、10数年にわたって通い、定点観測しているからこそわかるその「何か」とは...?■ 「翁樹庵」〒604-8103 京都市中京区柳之馬場通三条上る油屋町87https://www.mishima-tei.co.jp/
本郷義浩
毎日放送制作局 チーフプロデューサー
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BLOG京都グルメタクシー
2019.01.21
おいしい京都案内 | 劇場型ランチ「東山 吉寿」
こんにちは。京都グルメタクシードライバーの岩間孝志です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。本日は第三回目になります。かつて私はフランス料理人でした。1991年に渡仏。現地リヨンの料理学校を経てレストラン研修もしましたので、ふだん食事をしているときも、料理だけでなく、サービスの仕方、その料理人の半生、人柄、厨房の様子などが気になってしかたありません。ついつい店の人と話しこんで、いろいろ質問してしまうのは、知りたいことが山ほどあるからです。個人のブログも毎日書かさず更新していますが、読者のみなさんから、岩間さんの文章は「料理人目線」と言われることが多々あります。良くも悪くもかつての料理人としての経験が、ものを書く上で私の礎となっていることは確かです。2018年も数多くの飲食店に伺いましたが、料理人としてのキャラクターが際立っていて、エンターテイメント志向といいましょうか、料理そのものや、コース設定にも大きく影響を与えているお店を今回はご紹介いたしたいと思います。グルメタクシーがおすすめする劇場型ランチのお店『東山 吉寿』『東山 吉寿』の鈴木吉寿さんと出会ったきっかけは、珍しいパターンだと思います。前回(第二回参照)でご紹介した美山荘に、数年前、送迎した台湾人のご家族が、私を気に入ってくださり、その後何度か来られた京都旅行で、指名でチャーターしていただくようになりました。その台湾人のご家族は、よく亀岡のホテルにお泊まりになっていて、当時そのホテルの料理長だった鈴木さんをご紹介いただいたのでした。台湾から会いに来る、食べに来る価値ある料理人が鈴木さんだったのです。そして2018年9月に『東山 吉寿』を開店、独立されました。独立を機にはじめて鈴木さんの料理をいただくことになりました。2018年9月に伺った時の6000円のランチメニューをこれからご紹介いたします。店内は個室とカウンターがあります。町家建築で内装は一から作り上げたもので、ホテルラウンジを思わせるシックで落ち着いた雰囲気です。マホガニー材のカウンターは人肌に馴染みそうで、あたたかいイメージをあたえてくれます。●先付 くみ上げ湯葉 岡山 渡り蟹 鼈甲(べっこう)餡 (醤油味)最初は優しい湯葉と餡かけからはじまります。この日は大型台風が去ったあとだったため、「ほっこり」をイメージした一品目ということでした。●点心 鱧寿司 熊本新銀杏 煎り百合根裏ごし 自家製唐墨を入れ込み揚げたもの丹波の黑枝豆 蕎麦揚げ 天火で焼いた鱚(塩水で30分 その後風干し 天火焼)金色の器に左右バランスを保てるように穂先と寿司の位置を設定。栗の台座で燻り百合根ときすからくる香ばしさは良質。そして鱧寿司の鱧と柔らかめの寿司飯が同じ食感で心地よく同調しています。ここまでは正統派の懐石料理の流れなのですが、劇場型というべき兆候がここから徐々に生じていきます。料理長、気がつけば周りが暗くなり、スポットを浴びて料理を開始。まな板だけがクローズアップするように光があたっています。お客様から見られること・・・・・特に手元を見られることは私も料理人だったころ経験ありますが、見られ続けるプレッシャーは大変なものです。自信がなければなしえないのがカウンター仕事ですね。そして、やはり滑舌よく、テンポ良く鈴木さんは話をなさいます。お客様の質問や意見を笑いに変えたり、時には冗談も。料理の説明は真剣、でもそれ以外はとっても気さくに応対してくださいます。しゃべりにおいての緩急の付け方がすごい。それでいて手は早い、極めてなめらかに包丁が動きます。うらやましい・・・いやぁ、本当に勉強になります。●吸い物(中秋の名月をイメージ) 玉子豆腐 げんぼく椎茸 柚子風味 礼文島の昆布 枕崎の本かれぶし使用通常でしたらやはり白身魚が入るようにも思うのですが、鈴木さんは「定番外しです」とおっしゃりながら提供。白身魚に見える?卵豆腐をいただきながら味わってみると、なるほどというおいしさがあります。すっきりした昆布の風味と澄み切った椀中を見るとうれしくなります。ちなみに「本かれ節」とは、生切 煮る いぶす(荒節) 整形 天日干し カビ漬け(枯れ節) 天日干しを3回以上繰り返す(6ヶ月程度)と本かれ節になるそうです。左はオーストラリア産南マグロ 右は甘鯛です。それをうす造りにしてお皿にならべます。ランチメニューで甘鯛がでるのはうれしいと思いながら、さらに眺めています・・・・・・・・あれ、炭火が出てきた・・・・・刺身としていただくのかとおもいきや、炭火で松茸をあぶるようにすすめられますが、どうなるのでしょうか?(笑)●焼き物+刺身 ミナミマグロ(オーストラリア) 甘鯛 煎り醤油(お酒と梅のたれ)つまりセルフで、炭火で焼いた松茸を甘鯛で巻いて食べるということです。正直この合わせ方で食べるのははじめてです。香りを松茸で、食感を甘鯛で。という相乗効果を狙っているのでしょう。梅風味の煎り醤油がさらにこの二つの食材のおいしさを引き立たせます。もう一つの食材、鮪は直火でさっと焼き目をつけていただきます。刺身としてでるのはポピュラーですが、こうやって自分で「焼き」を加える流れは非常に面白く、食べ手が調理に参加できるという付加価値に重きを置いておられるように思います。●麺類 二八蕎麦 トリュフソース 万願寺唐辛子二八蕎麦です・・・・・と。実はこの二八がポイントでした。ここの蕎麦は比率でいうとこうなります。 蕎麦:つなぎ(小麦)=2:8 はぁ?みたいになりました。つなぎが8割という蕎麦なのです。ほぼほぼうどんに蕎麦の風味を加えたようなもので、奇想天外な料理といえますね。万願寺唐辛子と合わせていただきましたが、のどごし良く上質な焼きビーフンにも思えた不思議な一品でした。「定番外し」で、意外性のある料理なのです。●焼き物 かます(酒風味) 焼きさつま芋 すだち チーズの燻製 鮑茸 しめじ 菊のお浸しかますの包丁目も見事です。点心の再来というぐらいの盛り合わせになっています。和え物の塩加減も理想的です。ひとつひとつ丁寧に作られていますが、感心したのは温度管理。どれも個々に真っ当な適温で提供されています。熱く、ほのかにあたたかく、冷たく・・・・・・・・。だからこそ旬を感じ得るわけです。チーズの種類は内緒だそうですが、燻製にしたもの。ウイスキーの樽の木を使っての燻製で、ほかとは違う薫香が特徴です。日本料理にチーズが出てくるわけですが、日本酒にもあうので違和感なく溶け込んでいます。この料理の中では大きなアクセントになっていますね。テイクアウトもできるそうです。松茸を山盛りに刻んでいく姿をみて次の料理を予感させる・・・・・・・●土鍋 賀茂ナス 鱧 松茸 壬生菜とどめとも言える終盤の一品です。男性でもこの量は満足されるのではないでしょうか。前に出た椀物よりは若干塩分低めです。旬の食材のうまみを感じさせるため、あえてそうされたのではないでしょうか。水炊きのような火入れですから、それぞれ好きな状態でいただけます。鍋料理みたい、そう感じる人もいるでしょうね。●ご飯 白ご飯 昨今炊き込みご飯、混ぜご飯が多い中、こちらでは白いご飯がでてきます。やはりコースの最後に出すなら白いご飯がいいと鈴木さん。どうして白ご飯なのかは後の展開でもおわかりいただけると思います。ご飯はつやつや、そして粒が立っているという表現が適当なおいしさです。そして、香の物、味噌汁?あたりが来るのかと思いきや・・・・・・じゃこ山椒 沢庵 香の物 蛸やわ煮 そしてなんと・・・・豚の角煮がでてきました。急におばんざいコーナーのような演出にかわりました。「お腹いっぱい食べてもらいたい」という鈴木さんの気持ちがこの最後のおもてなしに表現されています。正直私は見た目もそうですが、腹八分目より満腹感がほしいところ。男性は特にそう思っておられる方も多いかと思います。よくありますよね、お店をでてから「食べなおし」する男性を聞いたことがあります。料理の質もそうですが、量の満足感も正直ばかにできず、調節できるようなお店がやはり理想的だと思います。この風景、贅沢な気持ち、になれますよね♪もちろんご飯もおかわりできます。なんとなく第二ステージが始まったわくわく感もあります。●お菓子 抹茶ソース+バニラアイスとコーヒーソースは後から注がれます。濃厚な抹茶風味のソースにアイスクリームが徐々に溶け込んで行きます。甘さはさほど感じなく、まさしく「ぺろっと」いただきました。劇場型料理人と言う所以がおわかりいただけたでしょうか。鈴木さんの料理構成はエンターテイメント性に優れていて、おいしいだけでないということがおわかりいただけたと思います。楽しんでもらっての料理、そして喜んでもらえるのが励みになると。繁盛するためには、料理において「サプライズ」が、大切だと昨今よく言われますが、高級食材を重ねて使ったり、奇想天外な創作料理を出したりする以外にも、様々なやり方があると思います。 今回の料理で言えば、汁物では定番はずしをし、刺身では炙りを新たに加えて、八二蕎麦を出して、燻製チーズを添えて、おばんざい料理をご飯時に出す。しかし、日本料理の基礎はしっかり備わっていて、その領域の中で鈴木さんの個性をにじみ出す演出。それによってお客様との会話、お客様同士の会話を活発にして一体型の劇場を作り出すというわけです。私が訪問した後、日を変えて何組かご案内いたしました。そのお客様が車にお帰りになられたとき、伺ったのですが、料理の途中で突然「だし巻き卵、ほしい方おられますか!」と鈴木さんがカウンターの皆さんに聞かれたそうです。何人かが食べたいというと、すかさずだし巻きを巻き始めて、出来たてを提供されたそうです。カウンターは見知らぬグループ同士だったそうですが、一気に場が和んで、盛り上がったそうです。自分とお客さんつなげるだけではなく、お客さんとお客さんをつなげる演出も、劇場型の店にとっては大切なことなのだととても勉強になりました。 京都には様々な料理人がいて、きょう、いま、この瞬間もお客さんを楽しませてくれていることでしょう。そのやり方は様々だし、その多様性こそ京都の魅力だと思います。素敵な料理人がたくさんいる京都を、これからもどうぞよろしくお願いいたします!■ 「東山 吉寿」京都府京都市東山区妙法院前側町422 075-748-1216 完全予約制[昼]12:00一斉スタート [夜]18:00と19:00一斉スタート不定休
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOGフォーリンデブはっしー
2019.01.21
京都・肉にく洋食の王道!①
インスタグラムのフォロワー17万人以上を誇るグルメエンターテイナーはっしーさんが、京都の「肉」料理を中心にグルメリポート!今回は、洋食の名店として有名な『洋食おがた』さんに伺いました。Movie■ 洋食 おがた京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺町32-1075-223-2230公式Facebookはこちら
フォーリンデブはっしー
グルメエンターテイナー
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.01.15
『Premarché Gelateria』の「ジェラート」
推薦人:株式会社ワイングロッサリー代表取締役社長 吉田真記子さん 「このお店ができた時にヴィーガン対応のジェラートがありますか?と尋ねたら、お店の方がとても丁寧に対応してくださって、一つひとつ丁寧に説明してくださったんです。気持ちのいい対応にも驚きましたが、何よりもヴィーガンのジェラートの数の多さにびっくりしました。以来、大ファンでよく買いに行くんですよ」 そう話すのは、京都のワイン専門店、ワイングロッサリーの社長、吉田真記子さんだ。世界各地を訪れて、美味しいワインを探し求めつつ、美味しい食べ物に対しても情熱を持っている人。しかし、ここ数年は、「食べ物が体をつくる」という考えのもと、本当に体に優しいもの、良いものへの意識が高まってきたという。そんな吉田さんのアンテナにピタリとフィットしたのが、三条会商店街に昨年、オープンした「プレマルシェ・ジェラテリア」だ。シックな黒い看板をディスプレイした店内には、ガラスケースに並ぶカラフルなジェラートがよく映える。入って左側の壁には自然食品がずらりと並ぶ。 「私どもの代表である中川信男は、長年、自然食品の流通の仕事に携わってきました。誰もがもっと自然食品に身近に親しんでほしいと考えた時、老若男女に愛されるスイーツということでジェラートを思い立ったんです。数千年の歴史を持つと言われるジェラートの製造技術を守りつつ、より濃厚でなめらかで、香り高いジェラートを、合成フレーバーや乳化剤などを一切使わないレシピでつくるというとても高いハードルを設定しました。それを見事にクリアして、乳化剤や安定剤、そしてグルテンフリーのジェラートづくりに成功したのです」と店長の林 美緒 さんは言う。店内には常時約45種類ほどのジェラートが用意されていて、3つにカテゴライズされている。ミルクベースの伝統的なイタリアンスタイルのジェラート、ノンミルクのヴィーガン対応のジェラート、そして、ソルベ。ヴィーガン対応ジェラートもソルベも、乳製品不使用とは思えない濃厚さとなめらかな味わいに驚く。「とにかくその濃厚さとなめらかさは他では出会えない味わいなんです。いつもテイクアウトして自宅でいただくんですが、夫も、ねっとりとして美味しいとお気に入りなんですよ。甘すぎないから、男性にも好まれるんでしょうね」(吉田さん)また、ミネラルたっぷりのサンゴパウダーや、玄米、甘酒といったスーパーフードをレシピに加えたり、砂糖類も精製したものは使わず、無精製の甜菜や黒糖、穀物を発酵した糖を使うなど、健康への配慮も嬉しい。「アレルギーのある方、糖質を制限している方、ヴィーガンの方など、さまざまな制約がある人が、ここではみんなと一緒にジェラートを楽しんでいただけますよ」(林さん) 『世界でいちばん、誰もが子どものような笑顔になれる場所』というコンセプトどおり、店内は日本人だけでなく、外国人の家族づれなど、様々な国、様々な世代の人でいつも賑わっている。一時、乳製品を食べると体調が悪くなって、大好きなアイスクリームやジェラートを食べられなくて、辛い想いをしたことがあったという吉田さんも、この店のノンミルクのジェラートなら安心して食べることができたそうだ。「私のお気に入りは、ピスタチオ、モンブラン、チョコレートの3種。ジェラートって、お天気も気分もいい時に食べたいものだけど、ちょっと体調が悪いかな?というときも、ここのジェラートを食べると元気になれるんです。心にも体にも優しい、幸せを運んでくれるジェラートですね」(吉田さん)文 郡麻江 写真 津久井珠美■ Premarché Gelateria プレマルシェ・ジェラテリア京都市中京区三条通猪熊西入御供町308075-600-2846営業時間/12:00~18:00 定休日/水曜料金/ジェラート1フレーバー500円、2フレーバー600円、プレミアムフレーバー+100円
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BLOG料亭コンシェルジュ
2019.01.11
料亭で、結婚しようよ
人生の大きな節目を料亭ですごす。それはほかにはない格別な時間です――と言われても、いったいなぜなのか? 何ができるのか? 料亭とはなかなかわかりにくいもの。そんな料亭ビギナーを「美濃吉本店 竹茂楼」の若女将・佐竹恭子さんがエスコート、大切な日を彩ってくれる料亭の使い方を教えてくれます。第2回目は、プロポーズを経てから二人の愛が最高に盛り上がる、人生最大のイベントといえば......の【料亭で結婚式】編です。京都らしくて、特別感のある挙式はありますか?婚礼というお二人の素晴らしい門出に、料亭を選んでいただきありがとうございます。挙式から披露宴まで、従業員一丸となって料亭らしいお手伝いをさせていただければと思います。京都には著名な寺社仏閣がたくさんあり、そちらで挙式を希望される方も多いかと思います。竹茂楼も平安神宮とはお車で3分、吉田神社も10分ほどの距離にありますので、挙式を終えられたあと当店で披露宴を、という流れもスムーズです。人力車を手配し、沿道の方々からの祝福の中、お二人を会場までお送りすることもできます。人前式ですと、お薦めしたいのが「茶婚式」です。その名の通り、お茶を通してご両家の絆を深める儀式で、茶道の精神にのっとっています。① 「お水合わせの儀」。ご両家それぞれからお水をお持ちいただき、それをひとつの釜に入れます。② まじりあったお水を用いて濃茶を点てます。③ ひとつの茶器に入った濃茶を、新郎新婦、ご両親と飲んでいただきます。料亭では年間20~30件ほど茶会が開かれ、茶道とのつながりが大変深いものです。人との出会いは一生に一度と思い、相手に誠意を尽くす意味の「一期一会」。主人も賓客も互いに敬意を抱き、場の空気を清らかにするという意味の「和敬静寂」――茶の精神が宿る「茶婚式」はとても京都らしくあり、また料亭の凛とした和の空間がより印象深い時間を生み出すでしょう。せっかくの披露宴、とびきり華やかにしたいです!料亭といえば「芸舞妓」というイメージがあるように、披露宴にももちろん芸舞妓を呼ぶことができます。ぜひ「祝舞(しゅくまい)」をお楽しみください。もともと宴席での踊りは、能の世界から始まっております。宴の最初に舞うのが祝儀物といわれている演目であることから「祝舞」は生まれました。能においてはとても神聖視されている演目「翁(おきな)」のほか、脇能といって数曲それに準ずるものがあります。神様にまつわる演目......流派によりますが、たとえば「鶴亀」「寿」「白扇」なども祝儀の時にふさわしいものです。舞を通してハレの場所へ神様にお越しいただくということなのです。乾杯の前に「祝舞」を入れるのが伝統的な流れですが、今はご来賓者のご挨拶の時間もありますので、乾杯の直後に披露することが一般的になりました。2~3曲で15分ほどです。「祝舞」の後は芸舞妓がお席をまわります。芸妓1名、舞妓1名、地方(ぢかた)1名が最小構成になりますが、60名のご参列者に3名ですと、なかなかみなさまへサービスが行き届きません。その場合は5~6人がお薦めです。1名の芸舞妓に対して10名のお客様、という勘定がちょうどよいかと思います。私どもは京都の五花街(祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東)すべてとお付き合いがありますので、「いつもとは違う花街の雰囲気を楽しみたい」というご要望にもお応えできます。芸舞妓体験が初めてのお二人でも、ご不安は不要です。芸舞妓のみなさんは祝宴に慣れていらっしゃいますので立ち居振る舞いも完璧で、ご参列者のみなさまの心に残る温かなおもてなしをしてくださいます。「鏡抜き」での乾杯もたいへんおめでたく、振る舞い酒で会場がより一層盛り上がります。芸舞妓も鏡開きに参加できますので、ぜひご一緒に酒樽の鏡(ふた)をお抜きください。お写真がよりいっそう華やかになります。別注にはなりますが、お二人の似顔絵やお名前の入った枡をご用意できます。引き出物として参列者の皆様にお持ち帰りいただけるので、よい記念品になることでしょう。お客様からのご提案だったのですが、フラワーシャワーならぬ「折り鶴シャワー」もオリジナリティがある演出でした。お色直しで新郎新婦が再入場されるときに、ご参列者のみなさまがお二人に小さな鶴をお投げするのです。色とりどりの鶴が宙を舞う姿は可愛らしく、畳の上に広がる様子もとても美しいものでした。数え切れないほどの鶴は新郎新婦がご自身で折られ、私どももお手伝いさせていただきました。料亭の披露宴料理ってどんなもの?味のクオリティを求めて料亭での挙式を選んでくださるお客様がたいへん多いので、期待にお応えできるように、よりいっそう心をこめる部分がお料理です。鯛の背骨が日の出のように見えることから、そしておめでたいということで私どもは「日の出焼き」と申しまして、一匹まるごとの鯛を目の前でお取り分けさせていただきます。パフォーマンスがありますと、印象に残りますよね。そういう意味では、VOL.1【料亭でプロポーズ】編でもお薦めしました、お客様の目の前で肉をお出汁にくぐらせお出しする、しゃぶしゃぶも楽しんでいただけます。そしてお祝いですから煮物椀は白味噌仕立てで必ずお出しいたします。京都以外の方ですと白味噌に馴染みがございませんので、披露宴料理で初めて召し上がったという方も多いのですが、みなさまたいへん喜んでくださる人気のひと品です。ケーキカットはできますか?料亭でも、もちろんケーキをご用意いたします。料亭らしく抹茶味、和のデザインのケーキをご希望される方が多いですね。なかでも1803年創業の和菓子の老舗「鶴屋吉信」さんの「蓬莱(ほうらい)」は、たいへんご好評をいただいております。山を模したおまんじゅうを、ケーキカットのようにお二人で開いていただきます。すると中から五色の小さなおまんじゅうが現れるという、趣向を凝らしたものです。このウェディングおまんじゅうは、和装にぴったりな華やかさがあり、お座敷ですと風情もあります。新郎新婦のお友達のご発案でジャズやギターの演奏をされたり、餅つきのパフォーマンスをされたり、ということもありました。舞台がございますので、そちらをご活用いただき、オリジナリティあふれる結婚式を作り上げることができます。折々に思い出してはお二人の仲が深まる素晴らしい婚礼となりますよう、全力でお手伝いさせていただきます。文 竹中式子■ 美濃吉本店 竹茂楼京都市左京区粟田口鳥居町65昼11:30~14:00(最終入店) 夜17:00~22:00(19:30最終入店)土日祝11:30~22:00(19:30最終入店)定休日 不定休075-771-4185
佐竹恭子
「美濃吉本店 竹茂楼」の若女将
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BLOG京の会長&社長めし
2019.01.11
ロマンライフの社長が通う店 「Restaurant MOTOÏ(モトイ)」
■河内 誠(かわうち まこと)さん 株式会社ロマンライフ代表取締役社長 1958年京都府生まれ。父・河内誠一氏が1951年に開店した「純喫茶ロマン」を始まりに多角経営が進む。24歳のときロマンライフに入社。事業の方向転換を模索するなか、自身の発案で北山に洋菓子店「京都北山 マールブランシュ」をオープン。洋菓子の製造・販売、レストラン事業と展開していく。お濃茶ラングドシャ「茶の菓」は、京土産の定番として愛されている。京都屈指のグランメゾン。その秘密メニューは「焼きそば」「和食だけでなくフレンチやイタリアンでも京都にはカウンター仕様のお店が多く、私も愛用しています。そんななか、MOTOÏさんはグランメゾンとして異彩を放っている、稀有な存在です。 私は接待の時には、シーンに合わせて自分で店を選びます。お店の情報はリスト化して携帯電話に登録しているのですが、フレンチですと京都では4~5軒が定番。MOTOÏさんは夫婦同士の食事会にとてもふさわしいですね。おしゃれをして訪れた女性を、リッチな気分へ盛り上げてくれるので、男性として誇らしいです」 豪邸の風格ある門に掲げられた、MOTOÏののれん。石畳を抜け引き戸を開けると前庭を臨むウェイティングスペースが。凛とした空気を感じながら店内へ進むと、歴史を感じる梁がはりめぐらされ、2階まで抜けた高い天井のメインダイニングが現れる。 「築100年以上の呉服屋の邸宅を改装されたこちらは、とても広々としています。京都には町家を改装したお店が多いですが、このサイズ感はなかなかありません。隣のテーブルとの距離があるのでゆったりとでき、プライバシーが保たれるのがよいですね。一方で、ほかのお客様が楽しんでいらっしゃる空気は伝わってきます。それも心地が良いです」 「メインダイニング一番奥の窓際が、特に好きな席です。灯篭と見事な石のお庭が目の前に広がるからです。町家はもともと畳の部屋で構成されています。そこで改装されるときに、畳の上に座った視点の高さを保てるように床を低くされたとか。テーブル席からの庭のながめはとてもきれいです」 「基本はメインダイニングを利用していますが、大人数や大切な話がある時は、蔵を改装した個室を利用します。少々にぎやかになっても、母屋から離れているので誰にもご迷惑をおかけすることなく安心です(笑)」 そんな蔵では「裏メニュー」が、密やかに提供されている。オーナーシェフの前田元さんは、2012年に「Restaurant MOTOÏ」をオープン。フランスで研鑽を積んだのち、ホテルオークラ京都「ピトレスク」、大阪「HAJIME」を経ての独立だったのだが、実はフレンチの世界に入るまでに、10年間の中国料理の経験を持っているのだ。それを知った常連客から「中華も作ってよ」というリクエストの声が挙がったことから、個室である蔵限定で、フレンチのコースの合間に中国料理も挟むようになったのだ。 「予約する時に必ずリクエストしておくのが、焼きそばです。オイスターソースをベースに、焼いた細めの蒸し麺とその時々の食材が合わせられます(※写真は「海老の卵とネギの焼きそば 菊菜のあんかけ」)。コースのお肉の後に〆として出していただくと、ごま油の香ばしさが食欲を刺激して、するっと最後まで食べてしまいます。フレンチからのちょうどいい箸休めなんですよね。ほかには、フレンチ仕立ての根セロリのソースをかけたフカヒレや、北京ダックなどもあります。これらは蔵限定ですが、麻婆豆腐は、私やほかの経営者仲間の推薦で、メインダイニングでもいただける定番になりました。ムース状の豆腐に、カルダモンやコリアンダーの入った自家製ラー油を使用したフレンチ風味で、どこにもない味わいです」 ※当サイトをご覧になった方は、メインダイニングでも、プラス料金で焼きそばを召し上がることができます 「見た目が美しく、なおかつ美味しい。そういう料理は意外と少ないと思います。でも前田さんは両方とも兼ね備えていらっしゃいます」 「蝦夷鹿のロティ たっぷりのお野菜と共に」は、MOTOÏの定番といえる肉料理。冬はジビエ、春は仔羊など季節によって肉の種類は変わる。出色はつけあわせの野菜。冬は60種類も盛り込まれる日もあるが、とりたてて野菜の数はうたっていない。 「スタッフと一緒に大原の朝市へ行き、いちばん美味しい野菜を手にしたら、こんなに集まってしまっただけなんです。意識して種類を増やしているわけではありませんので、京都を映し出す皿として、自然に召し上がっていただれば嬉しいですね」(前田さん) 「前田さんは盛り付けにも味付けにも手を抜いていないことが、食べていてよくわかります。ムースやソースにもいつも驚きがあり、仕込みの手間を感じますね」 冬に提供される「こっぺ蟹のスープ」も、手の込んだ一品だ。じゃがいものムースの上に、蟹の腹と内子を合わせ、そこへ外子をのせて、一番上に脚を並べる。スープづくりの第一歩は、蟹の殻を昆布出汁とともにミキサーへ。次にハーブを加えて蒸す。蟹のたんぱく質が固まりクリアなスープになったらさらに漉し、煮詰め......気が遠くなるような工程を経て完成したスープを器へ注ぐ。蟹の実をほぐしながら口へ運ぶと、蟹を丸ごと食べているような濃厚な味わいが全身を包みこみ、うっとりと目を閉じ酔いしれてしまう。 「オープン当初から通っていますが、ここ4~5年の1月2日のディナーは、毎年こちらでが定番になりました。男性陣は昼にゴルフを楽しみ、夜に奥さんたちとMOTOÏさんで合流。2018年は5組の夫婦でお正月の特別メニューを堪能しました。西洋仕立ての白味噌のお雑煮、コンソメの大福茶、黒豆のピューレなど、お正月の空気感を演出してくれる遊び心のある料理が並びます。一般的な正月料理は野菜が少ないからと、意識して野菜を増やしてくださっているのもにくいですね」 昼コース7250円(税サ別)、夜コース13,500円。蔵限定昼コース15,500円、夜コース26,000円。コース内容は毎月変わる。 MOTOÏのテーマは「主客一体」。同じ空間に接待、ファミリー、芸舞妓と客層が混在していてもそれぞれに対応し、店と客ともにバランスの取れた楽しみを共有する空気づくりを目指している。 「接待でもお相手によってその内容は違いますよね。その部分までもくみ取ってくださっている気がします。グランメゾンですと、多少なりとも緊張感があるものです。ですがこちらではずっとリラックスして過ごせます。サービスも出しゃばりすぎず、良い意味でフレンドリー。帰り際には前田さんが笑顔で見送ってくれます」 前田さんもラブコールを送る。 「河内社長はお帰りになられるときに、いつも『ありがとう』と言ってくださいます。その『ありがとう』が本当に深く、優しさを感じるんです。河内社長の大らかで気遣いのあるお人柄に、お客様ですが惚れ惚れとしてしまいます。経営者として目標の方でもあります」 お店と相違相愛の関係を育むのも、経営者の手腕なのかもしれない。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■ Restaurant MOTOÏ京都市中京区富小路二条下ル俵屋町186075-231-0709昼12:00~13:00 夜18:00~20:00定休日 水曜、木曜https://kyoto-motoi.com/
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BLOG酒のふと道
2019.01.11
お品書きを眺めつつのひとり酒が楽しいカウンター酒
こんにちは。京都在住のでぶっちょフリーランスライター・泡☆盛子です。このコーナーでは京都の街で私が「もっと太ってもかまわないから食べたい! 行きたい!」と思う旨きもの・良きお店をご紹介します。今回は、ひとり酒を愛する私が(友達が少ないわけではない。......ないと思いたい)、ふらりと立ち寄るカウンター酒場をご案内させてください。アテやお酒が美味しいのはもちろん、この3軒のお品書きがまた呑兵衛心をくすぐるのです。駅前ビルの隠れ家で白板メニューに目移り阪急四条大宮駅前のビル3階にある『ふる里』は、友人に教えてもらって最近ちょこちょこ通うようになった居酒屋です。わかりやすい場所じゃないのに、いつもほぼ満席なのがすごい。カウンターに席をとってまずは生ビールを一杯。ちゃんとひと手間をかけた付き出しにニンマリしつつ眺めるは、「みっちり!」という言葉が似合う白板のメニュー。とある日のメニュー。どうです、ワクワクしませんか?鯛の昆布〆と熱燗で渋くいく?明日は取材もないしなんこつにんにく鉄板焼きでがっつりイクのもいいかな。いやいや、チーズコロッケとウインナ焼でヤングな呑みって手も......。なーんて脳内会議をする時間の幸せなこと!この日は結局ビフテキを自分に奢りました。鉄板でじうじういってる肉が全部私のもの! ひゃっはー!和風のソースが美味しくて残すのがしのびなく「ご飯の小をください」と頼み、ソースを絡めて余さず味わいました。よく漬かったどぼ漬けをのっけてね。ちょっとお行儀よくないけどご機嫌な〆なんですね。肉と米とでぶ。黄金トライアングルでございましょう。別の日に頼んだあら炊きも美味しかったなぁ。旨味を吸いまくったゴボウがおご馳走。『ふる里』さんはドリンクにも力を入れていて、フレッシュフルーツを驚くほどふんだんに使ったチューハイが名物です。例えば、今が旬のみかんチューハイなら1杯あたり何と4、5個分の果汁を注文ごとに絞ってくれるという豪気さ。あと、日本酒のオンザロックにライムをちゅっと絞った酒ライムなるものも私のお気に入りです。お造りにも揚げ物にも合うんですわ。いつかこちらも改めてご紹介したいものです。少数精鋭のメニューにそそられる町家カウンターオフィス街・烏丸で16時からフライング酒が楽しめる『にこみ 鈴や』。町家を改装した居心地のいい空間に、オープンな厨房を目の前にしたカウンターがゆるりと配されています。こちらの黒板メニューはすっきりシンプル。でもこの整った書体と相まってなんだかグッとくるんです。名物のもつ味噌煮込み。ホソやスジなどがぷるっぷるに煮込まれています。色は濃いけど、味は意外なほどすっきりとしていて後口は軽やか。甲類焼酎の『キンミヤ』を使ったほうじ茶ハイがよく合います。お代わりで頼んだ自家製ジンジャーシロップの生姜ハイもよかったなー。ほんでね、煮込みの鉢でドンッと存在感を示している玉子(別料金)がね、また旨いんですよ。茶色のグラデーションがたまんねぇぇぇ。雑に割ったひとかけをぽくっと頬張るもよし、黄身をほろほろにしてモツに絡めてやるもよし。うふふ、いいアテです。箸休めに、ポテサラ。サワラの塩麹焼き。炭火で焼いてあるのでふっくらジューシーです。割烹じゃなくて気軽な酒場でこういう魚メニューがあるの、嬉しくないですか?どーん!続いてお肉の炭火焼です。日によって和牛のハラミやミスジなど部位は変わります。カウンター前の焼き台でじっくりと焼いてくれるので「私のお肉♪ うまそうに焼けとる〜」なんてワクワクしながら待つのもお楽しみ。それから、こちらのお店はオーナーさんがアンティークショップも経営しているので器使いがとても素敵なんです。料理を映えさせつつ、よく見ると器にも味わいがあって見飽きません。ひとり酒の相手になってくれるのがありがたいことで。そうそう、この時は食べていませんが、名物のひとつ・まかないカレーもおすすめですよ。さらりとしたルゥだけを頼んで名残の一杯、ってのもアリ!カウンターの大鉢と定番黒板メニューにコーフン!西木屋町にある『きみや』は、10回行ってすんなり入れるのは2、3回(当社比)という激戦カウンター酒場。とにかくいつも満席! みんなひまなの?否、それだけ魅力的なお店なんです。カウンターには大鉢のお惣菜が10品ほど並びます。席に着くとお店の方がひと品ずつ説明して「あと、冷蔵庫にはポテサラと和え物もありますからね〜」なんて添えてくれるのが嬉しい。さらに、黒板にも定番メニューがずらり!きつねうどんや親子丼なんて酒場らしからぬメニューがあるのは、元々はうどん屋さんとしてスタートしたからなのだそう。厨房に立つオトコマエなお二人はカウンターのあちこちから飛んでくる注文にサクサクと応えつつ、常連も初めての客もそれぞれに居心地よく過ごせるように話をふったりしてくれる八面六臂の活躍ぶり。それを眺めながら呑むのもこのお店の醍醐味のひとつなのです。ひとりなら「少なめで」などのオーダーにも可能な限り応えてもらえます。初めて来た時に日替わりのステーキを頼み、『ふる里』同様にソースご飯を所望して受けいれてもらったでぶっちょな私め、「ここは甘えてもいいお店なんだ」と認識してしまいましてな......。そこからちょいちょいわがままをお願いしておりますのじゃ。名物のハンバーグは大鉢で並んでいるもの。目玉焼きやチーズをオプションでプラスすることができます。これはベーシックにチーズをのっけたパターン。日替わりでエビフライがあったのでミニオムレツと一緒に盛り合わせてもらった豪華洋食屋さんプレート。テンション上がるぅぅ!目玉焼きのせ+タコさんウインナ。辛いことがあった日も、酒場でこんな料理に甘やかしてもらったらすぐに立ち直れます。目玉焼きが大好きだけど自分で作るとなかなかうまくできない私は、すきあらば誰かが作ってくれる目玉焼きを食べたいと思っています。優しみの王国『きみや』ではそんな目玉ドリームが叶いがち。ミニカレーに目玉焼きのっけ。えへへ。嬉しいな。そんなこんなで美味しくて楽しくて長っ尻になってしまうんですよね〜。席が埋まり続けるわけですわ。ワインだってこんなになみなみだしね!***若い頃は、お酒は誰かと楽しむものだと思っていました。それがいつ頃からかひとりで吞むのが好きになり、タバコを吸わずとも、文庫本を持たずとも退屈を感じることなく酒場で過ごせるように。主に考えるのは「次に何を呑もうか、食べようか」という阿呆ないやしんぼの私にとって、魅力的なお品書きが常に目の端に入る酒場は夢の場所。今夜もきっと、口を半開きにしたでぶっちょがどこかのカウンターでグラス片手にお品書きを眺めていることでしょう。
泡☆盛子
沖縄出身・京都在住のフリーランスライター
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