こんにちは。京都グルメタクシードライバーの岩間孝志です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。本日は第三回目になります。かつて私はフランス料理人でした。1991年に渡仏。現地リヨンの料理学校を経てレストラン研修もしましたので、ふだん食事をしているときも、料理だけでなく、サービスの仕方、その料理人の半生、人柄、厨房の様子などが気になってしかたありません。ついつい店の人と話しこんで、いろいろ質問してしまうのは、知りたいことが山ほどあるからです。個人のブログも毎日書かさず更新していますが、読者のみなさんから、岩間さんの文章は「料理人目線」と言われることが多々あります。良くも悪くもかつての料理人としての経験が、ものを書く上で私の礎となっていることは確かです。
2018年も数多くの飲食店に伺いましたが、料理人としてのキャラクターが際立っていて、エンターテイメント志向といいましょうか、料理そのものや、コース設定にも大きく影響を与えているお店を今回はご紹介いたしたいと思います。
グルメタクシーがおすすめする劇場型ランチのお店『東山 吉寿』
『東山 吉寿』の鈴木吉寿さんと出会ったきっかけは、珍しいパターンだと思います。前回(第二回参照)でご紹介した美山荘に、数年前、送迎した台湾人のご家族が、私を気に入ってくださり、その後何度か来られた京都旅行で、指名でチャーターしていただくようになりました。その台湾人のご家族は、よく亀岡のホテルにお泊まりになっていて、当時そのホテルの料理長だった鈴木さんをご紹介いただいたのでした。台湾から会いに来る、食べに来る価値ある料理人が鈴木さんだったのです。そして2018年9月に『東山 吉寿』を開店、独立されました。独立を機にはじめて鈴木さんの料理をいただくことになりました。
2018年9月に伺った時の6000円のランチメニューをこれからご紹介いたします。店内は個室とカウンターがあります。町家建築で内装は一から作り上げたもので、ホテルラウンジを思わせるシックで落ち着いた雰囲気です。マホガニー材のカウンターは人肌に馴染みそうで、あたたかいイメージをあたえてくれます。
●先付 くみ上げ湯葉 岡山 渡り蟹 鼈甲(べっこう)餡 (醤油味)
最初は優しい湯葉と餡かけからはじまります。この日は大型台風が去ったあとだったため、「ほっこり」をイメージした一品目ということでした。
●点心 鱧寿司 熊本新銀杏 煎り百合根裏ごし 自家製唐墨を入れ込み揚げたもの
丹波の黑枝豆 蕎麦揚げ 天火で焼いた鱚(塩水で30分 その後風干し 天火焼)
金色の器に左右バランスを保てるように穂先と寿司の位置を設定。栗の台座で燻り百合根ときすからくる香ばしさは良質。そして鱧寿司の鱧と柔らかめの寿司飯が同じ食感で心地よく同調しています。
ここまでは正統派の懐石料理の流れなのですが、劇場型というべき兆候がここから徐々に生じていきます。料理長、気がつけば周りが暗くなり、スポットを浴びて料理を開始。まな板だけがクローズアップするように光があたっています。お客様から見られること・・・・・特に手元を見られることは私も料理人だったころ経験ありますが、見られ続けるプレッシャーは大変なものです。自信がなければなしえないのがカウンター仕事ですね。
そして、やはり滑舌よく、テンポ良く鈴木さんは話をなさいます。お客様の質問や意見を笑いに変えたり、時には冗談も。料理の説明は真剣、でもそれ以外はとっても気さくに応対してくださいます。しゃべりにおいての緩急の付け方がすごい。それでいて手は早い、極めてなめらかに包丁が動きます。うらやましい・・・いやぁ、本当に勉強になります。
●吸い物(中秋の名月をイメージ) 玉子豆腐 げんぼく椎茸 柚子風味 礼文島の昆布 枕崎の本かれぶし使用
通常でしたらやはり白身魚が入るようにも思うのですが、鈴木さんは「定番外しです」とおっしゃりながら提供。白身魚に見える?卵豆腐をいただきながら味わってみると、なるほどというおいしさがあります。すっきりした昆布の風味と澄み切った椀中を見るとうれしくなります。ちなみに「本かれ節」とは、生切 煮る いぶす(荒節) 整形 天日干し カビ漬け(枯れ節) 天日干しを3回以上繰り返す(6ヶ月程度)と本かれ節になるそうです。
左はオーストラリア産南マグロ 右は甘鯛です。それをうす造りにしてお皿にならべます。
ランチメニューで甘鯛がでるのはうれしいと思いながら、さらに眺めています・・・・・・・・
あれ、炭火が出てきた・・・・・刺身としていただくのかとおもいきや、炭火で松茸をあぶるようにすすめられますが、どうなるのでしょうか?(笑)
●焼き物+刺身 ミナミマグロ(オーストラリア) 甘鯛 煎り醤油(お酒と梅のたれ)
つまりセルフで、炭火で焼いた松茸を甘鯛で巻いて食べるということです。正直この合わせ方で食べるのははじめてです。香りを松茸で、食感を甘鯛で。という相乗効果を狙っているのでしょう。梅風味の煎り醤油がさらにこの二つの食材のおいしさを引き立たせます。
もう一つの食材、鮪は直火でさっと焼き目をつけていただきます。刺身としてでるのはポピュラーですが、こうやって自分で「焼き」を加える流れは非常に面白く、食べ手が調理に参加できるという付加価値に重きを置いておられるように思います。
●麺類 二八蕎麦 トリュフソース 万願寺唐辛子
二八蕎麦です・・・・・と。実はこの二八がポイントでした。ここの蕎麦は比率でいうとこうなります。
蕎麦:つなぎ(小麦)=2:8 はぁ?みたいになりました。つなぎが8割という蕎麦なのです。ほぼほぼうどんに蕎麦の風味を加えたようなもので、奇想天外な料理といえますね。万願寺唐辛子と合わせていただきましたが、のどごし良く上質な焼きビーフンにも思えた不思議な一品でした。「定番外し」で、意外性のある料理なのです。
●焼き物 かます(酒風味) 焼きさつま芋 すだち チーズの燻製 鮑茸 しめじ 菊のお浸し
かますの包丁目も見事です。点心の再来というぐらいの盛り合わせになっています。和え物の塩加減も理想的です。ひとつひとつ丁寧に作られていますが、感心したのは温度管理。どれも個々に真っ当な適温で提供されています。熱く、ほのかにあたたかく、冷たく・・・・・・・・。だからこそ旬を感じ得るわけです。
チーズの種類は内緒だそうですが、燻製にしたもの。ウイスキーの樽の木を使っての燻製で、ほかとは違う薫香が特徴です。日本料理にチーズが出てくるわけですが、日本酒にもあうので違和感なく溶け込んでいます。この料理の中では大きなアクセントになっていますね。テイクアウトもできるそうです。
松茸を山盛りに刻んでいく姿をみて次の料理を予感させる・・・・・・・
●土鍋 賀茂ナス 鱧 松茸 壬生菜
とどめとも言える終盤の一品です。男性でもこの量は満足されるのではないでしょうか。前に出た椀物よりは若干塩分低めです。旬の食材のうまみを感じさせるため、あえてそうされたのではないでしょうか。水炊きのような火入れですから、それぞれ好きな状態でいただけます。鍋料理みたい、そう感じる人もいるでしょうね。
●ご飯 白ご飯
昨今炊き込みご飯、混ぜご飯が多い中、こちらでは白いご飯がでてきます。やはりコースの最後に出すなら白いご飯がいいと鈴木さん。どうして白ご飯なのかは後の展開でもおわかりいただけると思います。ご飯はつやつや、そして粒が立っているという表現が適当なおいしさです。そして、香の物、味噌汁?あたりが来るのかと思いきや・・・・・・
じゃこ山椒 沢庵 香の物 蛸やわ煮 そしてなんと・・・・豚の角煮がでてきました。急におばんざいコーナーのような演出にかわりました。「お腹いっぱい食べてもらいたい」という鈴木さんの気持ちがこの最後のおもてなしに表現されています。正直私は見た目もそうですが、腹八分目より満腹感がほしいところ。男性は特にそう思っておられる方も多いかと思います。よくありますよね、お店をでてから「食べなおし」する男性を聞いたことがあります。料理の質もそうですが、量の満足感も正直ばかにできず、調節できるようなお店がやはり理想的だと思います。
この風景、贅沢な気持ち、になれますよね♪もちろんご飯もおかわりできます。なんとなく第二ステージが始まったわくわく感もあります。
●お菓子 抹茶ソース+バニラアイスとコーヒー
ソースは後から注がれます。濃厚な抹茶風味のソースにアイスクリームが徐々に溶け込んで行きます。甘さはさほど感じなく、まさしく「ぺろっと」いただきました。
劇場型料理人と言う所以がおわかりいただけたでしょうか。鈴木さんの料理構成はエンターテイメント性に優れていて、おいしいだけでないということがおわかりいただけたと思います。楽しんでもらっての料理、そして喜んでもらえるのが励みになると。繁盛するためには、料理において「サプライズ」が、大切だと昨今よく言われますが、高級食材を重ねて使ったり、奇想天外な創作料理を出したりする以外にも、様々なやり方があると思います。
今回の料理で言えば、汁物では定番はずしをし、刺身では炙りを新たに加えて、八二蕎麦を出して、燻製チーズを添えて、おばんざい料理をご飯時に出す。しかし、日本料理の基礎はしっかり備わっていて、その領域の中で鈴木さんの個性をにじみ出す演出。それによってお客様との会話、お客様同士の会話を活発にして一体型の劇場を作り出すというわけです。
私が訪問した後、日を変えて何組かご案内いたしました。そのお客様が車にお帰りになられたとき、伺ったのですが、料理の途中で突然「だし巻き卵、ほしい方おられますか!」と鈴木さんがカウンターの皆さんに聞かれたそうです。何人かが食べたいというと、すかさずだし巻きを巻き始めて、出来たてを提供されたそうです。カウンターは見知らぬグループ同士だったそうですが、一気に場が和んで、盛り上がったそうです。自分とお客さんつなげるだけではなく、お客さんとお客さんをつなげる演出も、劇場型の店にとっては大切なことなのだととても勉強になりました。
京都には様々な料理人がいて、きょう、いま、この瞬間もお客さんを楽しませてくれていることでしょう。そのやり方は様々だし、その多様性こそ京都の魅力だと思います。素敵な料理人がたくさんいる京都を、これからもどうぞよろしくお願いいたします!
■ 「東山 吉寿」
京都府京都市東山区妙法院前側町422
075-748-1216 完全予約制
[昼]12:00一斉スタート [夜]18:00と19:00一斉スタート
不定休